OPEN CAMPUS 2010
                                          2011 4月7日

「常在細菌叢と手洗い効果」模擬実習結果について

コメント担当:北里大学医療衛生学部

微生物学研究室 准教授  滝 龍雄

 3月12日に開催されました進学相談会における模擬実習にご参加頂き誠に有難うございます。実習項目「常在細菌と手洗い効果」の培養結果が出ましたのでご自分の写真をご覧頂き以下の点をご参考に判定して頂ければ幸いです。ご質問等御座いましたらば、メールにてお願い申し上げます。

培養に用いた培地は
SCD寒天培地です。SCDとは、Soybean Casein Digested の略で、大豆タンパクをカゼイン分解したものです。栄養分に富んでおり、様々な細菌や真菌の増殖可能な培地です。ここでは、通常の大気中で37℃及び室温で培養しましたので空気がない状態でしか増殖できない菌(偏性嫌気性菌;例:破傷風菌)は増殖できません。

以下に手洗い後に菌が減少した例(図1)、逆に増加した例(図2〜4)に関してコメントを述
べさせて頂きます。全般に手洗いの方法により手洗い後に細菌が増えてしまった場合があ
り今後は説明にも工夫を加えたく存じます。正しい手の洗い方は、参考文献として文末に挙げさせて頂きますのでご参照いただければ幸いです。

図1では、手洗い前には、赤いセラチア菌と思われる集落(一個の細菌が増殖して目に見えるようになった塊)や黄色い真菌の仲間の酵母菌と思われる集落が観察されますが、手洗いによりこれらの菌は、検出されなくなりました。このように、手洗いにより手の細菌が減少したものは、全体の四分の一でした。








図2では洗浄前にの手に、白い大きな集落を形成している真菌と小さな集落を形成しているバチラス(納豆などを作る細菌の仲間)、黄色い酵母様の集落が観察されます。
手洗い後には、表面の汚れが除去されていますが、表層の下にあったと考えられるバチラスがや黄色い酵母様の集落が観察されています。










図3では、手洗い前の黄色やピンクの集落は酵母やバチラスと思われる集落がありますが、手洗い後には図2と同様に黄色の酵母やバチラスの集落が観察され、集落の数も増加しています。











図4では手洗いにより検出される集落数は
明らかに減少しています。その中でも手洗い前に多く観察された小さな集落の細菌らしいものは手洗い後には殆ど見られませんが、消毒薬に抵抗性のある真菌や酵母は殆ど減っていません。用いた消毒薬で、薬用ハンドソープには塩化ベンザルコニウムの他、幾つかの界面活性剤が加えてあります。
ヒビテンはグルコン酸クロルヘキシジンの一般名で、塩化ベンザルコニウムとほぼ同等の消毒効果があると言われています。この2種類の消毒薬は万能ではなく、一般細菌には、比較的良く効きますが、芽胞を持つ細菌や真菌のなかでも糸状菌には効果はありません。一方のカンファ水は次亜塩素酸系の消毒薬で、上2つの消毒薬に比較すると、細菌や
真菌ばかりではなくウイルスにも有効な消毒薬です。

皆さんがどのような手洗い方法を選択されたかにより結果が異なります。
手洗い前と手洗い後の、検出された細菌や真菌の種類とそれぞれの数を見てください。一般に流水でも十分にもみ洗いをすると機械的に皮膚の表面の細菌数は減少します。ただ、通常は表面のタンパクや脂質の汚れにより隠されていた細菌や真菌が、手洗いにより表面の汚れが落ちてそれまで潜んでいた細菌や真菌が検出される可能性もあります。また、手洗い前よりも消毒薬による手洗い後でも細菌や真菌の数に変化がない場合もあります。消毒薬は万能ではありませんから、手にも当然用いた消毒薬に抵抗性のある微生物がいた可能性はあります。正しく、丁寧いに手指を洗浄すれば微生物は減少します。
病院の手術室では、ブラシを使って、手の表面が赤くなるまでゴシゴシ手洗いをするという場面をテレビなどで見たことがあるかもしれませんが、実際にはそれ位しなければ、微生物を十分に減少させることは困難です。今回培養できませんでしたが、手指の常在微生物には、アクネ菌(
Propionibacterium acnes、やBacteroides等の偏性嫌気性菌も存在します。多く検出出来るのは、生活する上で接触せざるを得ない環境中の微生物です。ブドウ球菌(Staphyloccocus)、レンサ球菌Streptococcus)、バチラス(Bacillus)、緑膿菌(Pseudomonas)、セラチアSerratia)等が代表的です。
図1では赤い集落と黄色い集落が観察されますが、セラチアという細菌は赤い色素や橙色の色素を産生しますし、酵母の場合にも黄色や青、黒などの様々な色のものがあります。また白くてべたっとクモの巣のように細い糸が広がった集落は真菌(カビ)の仲間の糸状菌です。
今回の特別の種類の培地を使用していませんので、実際どのような細菌や真菌が検出されたかはこれだけではわかりません。基本的には、ここで得られた細菌や真菌を純培養して、更に様々な生化学的、形態学的、血清学的方法を駆使してどのような微生物かを決めます。これを「同定する」といいます。
詳しく知りたい方は、大学で一緒に勉強しましょう。お待ちしています。


手洗いの参考URLは、東京都多摩小平保健所のHPを