病態生化学研究室

TOPICS

研究室について

研究テーマ

生化学は生命現象を、生体を構成する分子の働きとして理解しようとする学問です。本学部では医療検査学科・保健衛生学科および臨床工学専攻・診療放射線技術科学専攻の2年次に、生体の基本的構成成分であるタンパク質、脂質、糖質および核酸の物性、生理機能や代謝機構などの講義や実習を行います。病態生化学研究室では、このような教育を担当するとともに、研究面では「バリアーとしての消化管粘液の機能解析」「がん治療」「糖代謝」「消化管神経」を対象に、幅広い手法を用いて解析を行い、難治性疾患の病態解明や治療に向けた基礎的検討を臨床各科と連携して展開しています。毎年多くの卒研生を各学科・専攻より受け入れ、チーム医療の次世代を担う人材育成に努めております。

バリアーとしての消化管粘液の機能解析

消化管粘液は、乾燥や温熱などの物理化学的な刺激から体を保護するだけでなく、病原体やウイルスなどの異物の侵入を防御することで、生体の恒常性を維持しています。その背景には、免疫システムが重要な役割を果たしていますが、一方、水際対策として第一線で異物排除を行っているのがムチンでと言われる物質です。我々は、構造特異的ムチンに対する抗体を独自に開発し、新たな視点での腸管防御機構を解明しようとしています。近年我々は、食物摂取を制限した動物モデルを用いてムチンと水チャネルの関連性に焦点を当てた研究を進めており、一過性ではない持続力のある止瀉薬(下痢止め)の開発を目指しています。
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メカニズムから迫る癌治療に対する包括的アプローチ

どんな健康な人でも毎日3,000個以上もの癌細胞が発生していると言われています。現在日本における癌治療は、手術療法・放射線療法・化学療法(抗癌剤)が標準治療ですが、その効果は各人各様であり、治療方法の多様性が求められています。本チームは、癌化学療法時の新たな副作用軽減法や末期癌である腹膜播種の発症メカニズムの解明などを手がけており、癌患者のQOLの向上から末期癌の抜本的治療法まで、癌治療に対して幅広く問題提起しています。

多因子疾患における疾患感受性遺伝子の機能解析

多因子疾患とは環境要因と遺伝的要因が組み合わさることで発症する疾患です。これらの発症に関わる遺伝子を疾患感受性遺伝子といい、この遺伝子の機能異常と環境要因への暴露が複合的に関与することで疾患の発症につながるものと考えられます。本研究チームでは、脳の中の黒質と呼ばれる場所に存在するドーパミン神経が脱落してしまうパーキンソン病や、小腸や大腸など腸管で炎症を繰り返す炎症性腸疾患の疾患感受性遺伝子の機能について研究しています。これらの疾患は、発症機序が不明であるため未だに根本的な治療薬がなく、難病に指定されています。さらに、近年、日本だけでなく世界的にも患者数が増加の一途を辿っているため、原因究明と根本的治療薬の開発は社会的な重要課題とされています。本研究チームでは、これら疾患の疾患感受性遺伝子から作られるタンパク質をターゲットにした生体内情報伝達経路の解明を目指して、環境要因への細胞応答における遺伝子発現やタンパク質のリン酸化を介する細胞内シグナル伝達について解析しています。

神経変性疾患における腸管神経系の病態変化

腸管は脳によって調節されている一方で、 蠕動運動や粘液分泌、栄養の吸収、免疫システムなどの高度な生命活動を自立して行うことができます。その中心となっているのが腸管神経系(ENS)です。腸管は”第二の脳” と呼ばれるほど多くの神経細胞とグリア細胞を有しており、これらの細胞が腸管の全長にわたって網目状に張り巡らされています。消化管の不調はこの神経系の疾患に起因するものも多いのですが、遠く離れた脳神経系の疾患の病態をも反映していることが近年明らかになってきました。
本研究チームではENSの細胞ネットワーク形態を詳細に解析することができる神経叢ホールマウント試料の作製を得意とし、遺伝子改変マウスや蛍光免疫染色法、ウエスタンブロット法などの分子生物学的手法を用いて解析を行っています。パーキンソン病やアルツハイマー病などの中枢神経変性疾患におけるENSの病態変化を解析し、その形成メカニズムを明らかにすることで、疾患の発症機序と早期診断の手がかりを探しています。
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メンバー

プロジェクト・研究業績

プロジェクト

研究業績

著書・論文

論文
Kubo M, Nagashima R, Kurihara M, Kawakami F, Maekawa T, Eshima K, Ohta E, Kato H, Obata F: Leucine-Rich Repeat Kinase 2 Controls Inflammatory Cytokines Production through NF-κB Phosphorylation and Antigen Presentation in Bone Marrow-Derived Dendritic Cells. ‎Int. J. Mol. Sci., 21(5), 1890, 2020.
Imai M, Kawakami F, Kubo M, Kanzaki M, Maruyama H, Kawashima R, Maekawa T, Kurosaki Y, Kojima F, Ichikawa T. LRRK2 Inhibition Ameliorates Dexamethasone-Induced Glucose Intolerance via Prevents Impairment in GLUT4 Membrane Translocation in Adipocytes. Biol. Pharm. Bull., 43(11): 1660-1668, 2020.
Kawashima R, Tamaki S, Kawakami F, Maekawa T, Ichikawa T. Histamine H2-Receptor Antagonists Improve Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug-Induced Intestinal Dysbiosis. ‎Int. J. Mol. Sci., 21: 8116, 2020.
Maekawa T, Tsushima H, Kawakami F, Kawashima R, Kodo M, Imai M, Ichikawa T: Leucine-Rich Repeat Kinase 2 Is Associated With Activation of the Paraventricular Nucleus of the Hypothalamus and Stress-Related Gastrointestinal Dysmotility. Front. Neurosci., 13:905, 2019.
Maekawa T, Shimayama H, Tsushima H, Kawakami F, Kawashima R, Kubo M, Ichikawa T. LRRK2: An Emerging New Molecule in the Enteric Neuronal System That Quantitatively Regulates Neuronal Peptides and IgA in the Gut. Digestive Disease and Sciences, 62(4):903-912, 2017.

学会発表

特許