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センター長コラム

第4回 認知症の原因疾患を診断する意義

特別養護老人ホーム、有料老人ホームに入居されている人に会うために、施設を訪問することがあります。こうした施設には入居されている人に関する情報が集められた、個人ごとのファイルがあります。施設の職員さんから入居されている人に関する相談を受ける時、この個人ファイルにある入居時の情報提供書を読むことになります。その情報提供書の診断名欄には様々な疾患が記載されています。認知症の原因疾患も記載されています。しかし認知症の原因疾患が記載されておらず、単に「認知症」としか記載されていないことが少なくありません。認知症の原因疾患は診断しなくても良いものなのでしょうか。

以前、他の診療科の先生から「結局、認知症は治らないのだから、回復する可能性のある疾患を除外したら、認知症の原因疾患を診断することに意味はあるのでしょうか」というご質問を頂いたことがあります。同じ質問を入所、通所施設の職員さんから頂いたこともあります。根本的な治癒の可能性が低かったとしたら、同じ認知症の状態なのだから、原因疾患を診断する努力は無意味なのでしょうか。

それは誤りだと思っています。なぜならば、原因疾患によって生じる症候に違いがあるからです。症候が異なれば、苦手なこと、困りごとも疾患によって違いがあります。保たれやすい機能も違いがあります。ですから、原因疾患が異なれば手助けする必要のあること、果たしやすくなる役割にも違いが生じることになります。つまり、援助の方法に違いが生じることになるのです。

以前、ある特別養護老人ホームに入居している「認知症」としか情報提供書に書かれていない人から、原因疾患をきちんと診断することの必要性を教えていただきました。情報提供書に「認知症」としか書かれていなかったために、その人は職員さんたちから「アルツハイマー型認知症」と認識されていました。そしてアルツハイマー型認知症の人と同様に、集団のレクリエーションに参加させられていました。しかしその人の症候は前頭側頭型認知症の特徴を示していました。前頭側頭型認知症のある人は、集団のレクリエーションが苦手になることが多いようです。苦手なレクリエーションに参加させられ、その人はいつも不機嫌そうで、時には怒り出してしまっていました。念の為、画像検査を受けていただいたところ、前頭葉と側頭葉に比較的限局した脳萎縮を認めました。職員さんたちと相談の上、集団のレクリエーションではなく、なるべく個別性のある対応をしていただいたところ、徐々に穏やかになり、それまで処方されていた向精神薬は不要になりました。

確かに認知症の原因疾患を診断するのは、それほど簡単なものではありませんし、場合によっては専門医のいる医療機関を受診して、いくつかの検査を受ける必要もあるかもしれません。それは面倒なことでしょうし、手間、時間、経済的なコストもかかります。しかし原因疾患が診断されることは、得意なこと、苦手なことが理解され、認知症があっても暮らしやすくなる一助になるはずです。これこそが認知症の原因疾患を診断することの意義と言えます。

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