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センター長コラム

第5回 認知症とスティグマ

スティグマという言葉をご存知でしょうか。スティグマとは、他者や社会集団によって個人に押し付けられたネガティブなレッテルを意味します。元来、奴隷や犯罪者を示す刺青などの肉体的刻印を意味する言葉だったようです。

現在、スティグマがこうした意味を持つようになったのは、社会学者のErving Goffmanによる著書「スティグマの社会学」に由来するとされています。Goffmanはスティグマを負わされた人たちへの蔑視が社会において広まることが、差別を生み、社会的な不利益を与えると指摘しました。

認知症のある人が安心して暮らすことができる、安心して認知症になれる街づくりのためには、認知症に関わるスティグマについて考えること、アンチスティグマ活動を考えることが大切です。

例えば、もの忘れが増えてきた人自身に認知症に関わるスティグマがあるとどうなるでしょうか。「認知症になったら何も思い出せなくなる」「認知症になったら何も考えられなくなる」というスティグマがあると、認知症への過度な恐れを生み出し、医療機関を受診することや支援につながることを遅れさせることになります。その結果、回復可能性の高い疾患の診断や治療が遅れてしまいかねません。

医師に認知症に関わるスティグマがあるとどうなるでしょうか。医師に「説明してもわからないだろう」「説明しても仕方がない」という態度が生まれ、認知症のある人の自尊心を傷つけてしまいかねません。

入所施設の看護師や介護士に認知症に関わるスティグマがあるとどうなるでしょうか。「何を言ってもわからないだろう」「行動障害には薬を使うしかない」という認識や態度が生まれ、行動・心理症状を悪化させ、薬物療法ばかりの対応が生まれてしまいかねません。

デイサービスの介護士に認知症に関わるスティグマがあるとどうなるでしょうか。「どうせ何もできないから簡単なレクリエーションをするしかない」という認識が生まれ、子ども向けのレクリエーションを一方的に提供し、通っている人が何をしたいのか、どのように過ごしたいのかを尋ねる配慮がなくなってしまいそうです。

このように、認知症に関わるスティグマが解消されないと、様々な悪影響が生まれ、安心して認知症になれる街づくりは遠のいてしまいます。ですからこの目標を達成するためには、アンチスティグマのための活動が大切になります。2012年、国際アルツハイマー病協会はOvercoming the Stigma of Dementiaと題して、認知症に関わる偏見を克服するために①一般市民への啓発・教育 ②認知症の人たちが抱える孤独感を軽減する ③認知症の人たちへ声をかける ④認知症の人たちとその介護者・家族の権利を認識する ⑤認知症の人たちを地域社会に包含する ⑥介護者に対する支援と教育を行う ⑦在宅や施設における介護の質を改善する ⑧一般医に対する認知症研修を改善する ⑨政府に対して国家的なアルツハイマー病対応計画の創設を要請する ⑩偏見にどう対応するかの研究を増やす、以上の10か条を提案しました。2019年6月18日に国の認知症施策推進関係閣僚会議が公開した認知症施策推進大綱でもアンチスティグマの活動を自治体、地域で推進することが求められています。自治体や地域でもアンチスティグマ活動は大切ですが、一人一人ができるアンチスティグマ活動もあるような気がしています。そこで次回はアンチスティグマのために私たち一人一人が今からできることについて述べたいと思います。

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