新しい医薬品を開発するためには現在、十年以上の時間と数百億円以上のお金が必要と言われています。でもAI（人工知能）やシミュレーションを利用して、医薬品を効率的に設計することができれば、この時間やお金を削減できます。新型コロナウイルスなどの未知の感染症に対しても、短期間で医薬品を作ることができるかもしれません。また、人間の遺伝子の状態や治療効果について、現在たくさんのデータが集まっています。これらを解析すれば、個々人に適した薬の開発にもつながると期待されており、がん治療の薬などに進化をもたらす可能性があります。データサイエンスは、私たちを病気から守り、豊かな未来を実現する力を持っているのです。

病院で診察を受けたことのある人なら、必ずあなたの「カルテ」があります。医学・医療の発展には、そのカルテを活用することが必要不可欠。診療結果の分析や、診療プロセスの最適化に関する研究がとても重要なのです。データサイエンスにできることのひとつは「未来の医療を創造する」こと。北里大学は、生命現象を解明するために、「生命科学の基礎研究分野」、「動植物の生命・環境分野」、「人間の生命・健康分野」の3分野から総合的にアプローチしてきました。カルテをはじめとする医療データを活用し、3分野の「知」のネットワークを強くしていけば、医学・医療を大きく発展させらる可能性を秘めています。

「スズメをめっきり見なくなった」「見たことない大きな黒い蝶を見るようになった」「生物多様性が急速に失われつつある」そんな話を最近耳にしました。地球上では人間を含め、生き物は互いに関係を持ち営みをつづけています。多種多様なありさまこそが生物多様性。冒頭の話はすべてその変化のひとつです。生き物がどこにどれだけいたのか。そんな記録（データ）は、これまでの、そしてこれからの生物多様性の変化を紐解いてくれます。今は人類が環境や生態系に多大な影響を与えていると言われる時代。人新世（Anthropocene）です。地球上の生き物たちと今よりもう少し仲良く。データサイエンスは先回りして未来の生物多様性を考えます。

昔に比べてテレビは薄く・軽く進化を遂げましたが、未来のテレビはどう進化していくのでしょう。超薄型で超軽量、電源不要で、自由に曲げたり伸ばしたり、どこにでも持ち運びできるようになっていくでしょうか。まるでSFの世界ですね。そのような新しいテレビを作るための材料は、データサイエンスで見つけ出すことができるかもしれません。これまで研究者の知識や経験をもとに行われてきた材料開発は、データを活用することで新たなステージへ。データサイエンスはものづくりを変え、人々の生活を飛躍的に便利にすることができる可能性に満ちあふれています。

テレビドラマ「ラジエーションハウス」の舞台になった病院の放射線科。そこに身を置く専門医や技師は、X線画像やCT画像から病気の診断を日々下しています。そんなプロフェッショナルの知見が必要とされる医療分野において、AI（人工知能）の活用が期待されています。これまでに蓄積された大量の医療画像データと専門知識をAIが学習。そうすることで、正確無比な診断を下せる「スーパーAI専門医」が誕生します。AIは人間が眠る深夜でも働きつづけることができ、疲れや忙しさで誤診や見逃しをすることもありません。日本全国、いつでもどこでもスーパーAI専門医は人々の身体を見守りつづける存在になれることでしょう。

皮膚に直接使う化粧品。だからこそ悩みは尽きません。夏場に外を歩くと紫外線で真っ赤になってしまった。お肌の張りとツヤがなくなってきて困る。アレルギーがあってお蕎麦が食べられないのだけど、この化粧品は大丈夫かな。なぜか人より蚊に食われる気がする。男性が化粧したらおかしいかな。顔立ちを際立たせたいのだけど。そもそも私とあなたは違うのだから、私のことを化粧品にももっと知ってもらいたい。そして私のためだけの化粧品が欲しい……。すべてに答えるのは難しいかもしれません。でもデータサイエンスなら、きっと答えに近づけるはず。生命科学系の総合大学・北里大学としての強みを活かして、身近な悩みを解決に導きましょう。

ペットを飼ったことがありますか？飼ったことがある人なら、一度は話してみたいと思ったはずです。ワンちゃんやネコちゃん、そしてすべてのペットは人間にとってかけがえのないパートナー。人間と会話することはできませんが、行動をデータ化して分析することで、より良いペットと人間の関係を築いていけることが将来期待されます。また、ペットも人間と同様、病気になります。現在、ヒトゲノムデータを利用した個別化医療の研究が盛んに行われていますが、これをペットにも応用。人間と同じように、ゲノムデータを利用した治療や病気の予防が可能になると考えられています。

「旅行に行きたい」と一口に言っても、いろいろな考えの人がいます。一人旅が好きな人。仲間と一緒に旅をするのが好きな人。人気の観光スポットを押さえたい人。知る人ぞ知るディープな穴場が好きな人。おいしいグルメを探し回っている人。ただただぼーっとしたい人……。データサイエンスを活用すれば、それぞれのニーズに合った旅行を、過去のデータの蓄積から生み出すことができます。いわゆるその人だけのオーダーメイドプランです。また、天気や観光地の混雑状況、道路の込み具合など、リアルタイムのデータを活用することでより効率的な旅行が実現可能に。ガイドブックには載っていない未来の旅行は、データサイエンスから生まれます。

ネットやアプリで服を買うと、購入履歴から自分好みの服がおすすめに上がってきたりしますよね。身体の情報を登録しておけば、自分に合うサイズを提案をしてくれるものもありますが、いざ届いて着てみると「ちょっと違った」ということもよくあると思います。この先、データサイエンスが進化すれば、膨大なデータをもとにしてより良いマッチングが実現するでしょう。それどころか、服を着ているだけで服の素材があなたの健康状態をスキャンして健康のためのアドバイスをしてくれる未来がくるかもしれません。夢のような素材は実はもう開発されています。あとはその素材からどんなデータを取り出して、どう活用するかを考えるのはデータサイエンテイストの役割です。