北里大学

北里大学農医連携教育研究センター

センター長インタビュー

インタビュー
「農医連携」とは?

北里大学農医連携教育研究センター長 向井孝夫

北里大学農医連携教育研究センター長
向井 孝夫

-「農医連携」とは、どのようなものでしょうか。

「農」を「食・環境・多様な生命」、「医」を「人の健康の維持・増進」ととらえていただければ、農医連携の目指すところは「あらゆる生命との共存を図りながら、食・環境と人の健康の維持・増進とのつながりを考えるための連携」と理解していただけるのではないでしょうか。

「農」の役割は、自然との共存を図りながら生物資源を活用することによって食料、エネルギーを生産し、人類の生命の維持、生活の向上を図ることが挙げられます。一方、「医」の役割は、高度な倫理観と生命科学に関する知識および技術に基づいた確実な医療を介して人の健康に貢献することです。人の健康に寄与しているという点において、「農」と「医」は本来的には密接に結びついていると言えます。

しかし、学問としての「農学」と「医学」は、それぞれの立場で独自に発展し、人材養成など教育面では積極的な連携が重視されないまま今日に至っているのが現状です。食の安全性が失われ、健康被害が発生するといった問題や、人獣共通感染症の発生・拡大といった問題が生じている状況があります。また、近年ではストレスや運動不足、過剰な栄養などにより、病気になる一歩手前の状態、すなわち未病者数が増加しています。一方、世界に目を向けると8人に1人が飢餓状態に陥っている状況です。

このように個人の健康問題に加え、持続的に発展可能な人間社会を維持することが危惧されている状況に陥っている今こそ、「農医連携」により多様な問題の解決を図る必要があると考えています。

-北里大学における「農医連携」について、教えてください。

本学が農医連携の活動を展開して、10年目になります。農医連携教育を受講した学生が社会に何らかの形で貢献してくれることを期待しています。また、この間、シンポジウム開催や出版事業、ウェブサイトなどを通して「農医連携」を社会に情報を発信してきました。インターネットで農医連携関連のキーワードを検索してみたところ、本学の普及活動の成果かどうかは定かではありませんが、自治体、大学あるいは民間の団体などで農医連携の類似の事業を展開しているところが増えています。今後は、考えを共有できる方々と協力することで社会にさらに情報を発信していきたいですね。

-「農医連携」の教育・研究を通じて、社会に何をどのように還元することをめざしますか。

まずは人材養成、すなわち教育を重視したいと考えています。数年前、世界の人口が70億人を突破しました。50年前には30億人程度でしたから、この半世紀で倍以上に増えたわけです。さらに2050年には90億人を突破すると予想されています。人口90億人時代が到来したら何が起こるでしょうか。人口の70%は都市部に集中するという推測もありますが、そうなると、農業人口は確実に減少する一方で、「食の高級化」が進むことでしょう。食の高級化が進めば、食の生産のための無駄な土地利用、廃棄される食材が増える可能性もあり、飽食と飢餓人口の格差が拡大する可能性も考えられます。それ以外でも、世界規模での食料やエネルギー不足、環境問題あるいは感染症の拡大などさまざまな問題が起こることが危惧されています。2050年代というと、ちょうど今の学生たちが50-60代になろうとしているときです。すなわち、心身ともに健全で豊かに暮らしていくという個人での幸せを享受することや人類が持続的に生存できるかどうかという問題は、今の学生たちの年代が直面する問題といえるのです。ですから、特に20代以下の若者たちに農医連携教育や普及活動を通して、生命倫理観や環境・食と生命に係る問題発掘能力と解決力等の能力を身につけた人材の養成を図りたいと考えています。

社会に向けては正しい行動をサポートするための情報発信を行いたいと考えています。以前、食の偽装問題がマスメディアを賑わせました。この問題は、加工業者の倫理的問題が原因ではありますが、問題行動を起こすことで健康に被害を及ぼす可能性があるという強い認識(想像力)があれば、躊躇した可能性もあるのではないでしょうか。食の生産、加工・流通、消費に至る行動が、環境や健康に影響を及ぼす可能性があるということを専門家がそれぞれに携わる方々に情報発信する必要があると思います。

-研究面においてはいかがでしょうか。

心身の健康維持増進や未病の改善のために、本学の多様な知的財産を結集させたいと考えています。これまでの研究事業は、ホームページに詳細に記されておりますのでここでは省略しますが、今後新たに取り組むとすると「腸内細菌」をキーワードとした研究を取り上げたいと考えています。腸内には数百種類、重さにすると成人で1kgを超す細菌が棲息していますが、腸内に棲息している細菌の種類が腸の健康だけではなく、心身の健康に影響を及ぼしている可能性が示唆されています。一方で、腸内細菌の種類は、食や環境によって大きく変化する可能性が考えられています。「食・環境と人の健康の維持・増進とのつながり」を考える農医連携にとって、腸内細菌は重要課題の一つとして取り上げる価値は大きいものと考えています。

-最後に、メッセージをお願いします。

本学の農医連携の目指すことについて、説明させていただきましたが、農医連携のとらえ方は立場によって違いがあってもよいと思います。我々の農医連携の考えに対してご意見があればぜひお聞かせいただければと思います。