北里大学

農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

10号

情報:農と環境と医療10号

2006/2/1
第3期科学技術基本政策の全容
来年度から5年間に及ぶ科学技術政策の指針となる「第3期科学技術基本政策」がまとまった。これは、内閣府の「総合科学技術会議」の作業部会が科学技術創造立国に向けた具体的な目標と、それを実現するための戦略を描いたものである。基本的には、第2期の計画「重点分野への選択的投資」路線を継承し、この3期では新たに「人材育成」を基本計画の柱に位置づけている。研究成果を社会に還元し、国民の科学への理解を深め、次代を担う人材を育成するという構想である。

これまで政府は、平成8年から12年の第1期、13年から17年の第2期の基本計画のもとに、合計39兆円を科学技術政策に投入してきた。第3期では、5年間に25兆円の投資目標額を設定している。以下に「第3期科学技術基本政策」の要点を記す。

1.基本理念

第3期の基本姿勢は、

1)社会・国家に支持され、成果を還元する科学技術、
2)人材育成と競争的環境の重視-モノから人へ、機関における個人の重視-、にある。

政策目標に、

1)人類の英知を生む、 2)国力の源泉を創る、 3)健康と安全を守る、の三つの理念をおき、以下に示すように、それぞれの理念にそれぞれ二つの目標とその具体的な項目、合計12が設定されている。

理念1:人類の英知を生む
目標1:飛躍の発見・発明-未来を切り拓く多様な知識の蓄積・創造-
(1)新しい原理・現象の発見・解明
(2)非連続な技術革新の源泉となる知識の創造
 目標2:科学技術の限界突破-人類の夢への挑戦と実現-
(3)世界最高水準のプロジェクトによる科学技術の索引
理念2:国力の源泉を創る
目標3:環境と経済の両立-環境と経済を両立し持続的な発展を実現-
(4)地球温暖化・エネルギー問題の克服
(5)環境と調和する循環型社会の実現
目標4:イノベーター日本
(6)世界を魅了するユビキタスネット社会の実現
(7)ものづくりナンバーワン国家の実現
(8)科学技術により世界を勝ち抜く産業競争力の強化
理念3:健康と安全を守る
目標5:生涯はつらつ生活-子供から高齢者まで健康な日本を実現-
(9)国民を悩ます病の克服
(10)誰もが元気に暮らせる社会の実現
目標6:安全が誇りとなる国
(11)国土と社会の安全確保
(12)暮らしの安全確保

2.科学技術の戦略的重点化

1)基礎研究の推進:
  • 多様性を確保しつつ、一定の資源を確保して着実に推進
  • 科研費等自由な発想に基づく研究は、政策課題対応型研究開発には含まれないことを明確化

2)政策課題対応型研究開発における重点化
  • 「重点推進4分野」に優先的に資源配分:ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテク・材料
  • 「推進4分野」に適切に資源配分:エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティア
  • 8分野で「分野別推進戦略」を策定し重要な研究開発課題を選定、各々の政策目標も明確化
  • 本計画期間中に重点投資する「戦略重点科学技術」を選定し、選択・集中
  • 戦略重点科学技術の中で、「国家基幹技術」を精選し、厳正な評価等を実施

3)研究開発の効果的な実施
  • 年間の政策サイクルを確立し、「生きた戦略」の実施:情勢変化を踏まえた適切な戦略・資源配分方針の見直し、関係府省・研究機関のネットワーク・連携基盤強化など

3.科学技術システム改革の推進

1)人材の育成、確保、活躍の促進
  • 個々の人材が活きる環境の形成:若手研究者の自立支援、教員の自校出身者比率の抑制、女性研究者採用の目標25%など
  • 大学の人材育成機能の強化、社会のニーズに応える人材の育成:産学協働の人材育成など
  • 次代の科学技術を担う人材の裾野の拡大

2)科学の発展と絶えざるイノベーションの創出
  • 競争的環境の醸成:競争的資金の拡充、すべての競争的資金において間接経費の30%措置
  • 大学の競争力の強化:世界トップクラスの研究拠点を30程度形成、地域の大学の活性化を通じた地域再生(「地域の知の拠点再生プログラム」)、私立大学の研究機能の強化など
  • イノベーションを生み出すシステムの強化:産業界の参画による先端的な融合領域研究拠点の形成など
  • 研究費の有効活用:競争的資金以外の研究費を含めた府省横断的なデータベースの整備・活用
  • 円滑な科学技術活動と成果還元に向けた制度・運用上の隘路の解消

3)科学技術振興のための基盤の研究
  • 優秀な人材の育成・活性化を支える研究教育基盤の構築:老朽化施設の再生を中心とした「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」の見直しなど
  • 先端大型共用研究施設の整備・共用の促進、「知的基盤整備計画」の見直しなど

4)国際活動の戦略的推進
  • アジア諸国との協力:アジア諸国とのハイレベルでの政策対話(アジア地域科学技術閣僚会議等)

4.社会・国民に指示される科学技術

1)科学技術が及ぼす倫理的・法的・社会的課題への責任ある取組
2)説明責任と情報発信の強化
3)科学技術に関する国民意識の醸成
4)国民の科学技術への主体的参加の促進

5.総合科学技術会議の役割

司令塔機能の強化/「知恵の場」/顔の見える存在
  • 政府研究開発の効果的・効率的推進:科学技術連携施策群の本格的推進、調査分析、 調整機能の強化
  • 基本計画や政策目標達成に向けた適切なフォローアップとその促進
研究室訪問 W:医療衛生学部 環境衛生学研究室
「農と環境と医療」を連携できる研究の素材や人を求めての探索が続いている。23回目の今回は、相模原にある北里大学医療衛生学部環境衛生学研究室を訪問した。

環境衛生学研究室は、島村 匡教授、秋山 茂講師、吉野常夫講師、岩下正人助手で構成されている。研究分野のキーワードは環境動態、水圏、酸性雨、微量元素である。まさに今日的な環境問題を解決しようとする研究室である。研究分野の概要にも掲げられているように、人の健康との関わりが深い。研究分野の概要は次の通りである。

「われわれを取り巻く環境のうち、水環境は人の健康との関わりあいがとりわけ深い。環境問題を取り扱う上で、汚染物質などの動態が長期的にどのように変動しているかをとらえることが極めて重要である。また、河川、湖沼、内海への主要な汚染源となる生活排水、工場排水を如何に処理し、環境汚染を防ぐかは、緊急な課題としてある。この研究室では微量の重金属を中心に相模川水系の水質を10年間にわたってモニタリングしている。また水資源の源である降水中の微量元素の起原(天然起原であるのか、人為起原であるのか、人為的であればその種類は何か、など)を追究している。さらに家庭排水の効果的な処理法、処理過程における炭素の収支、および水として排出されない家庭からの廃棄物である生ゴミをリサイクルするための基礎研究を行っている。」

環境衛生学研究室の研究テーマは、次のように整理されている。

W-1.相模川水系の水質調査
相模川水系の上流から下流にかけ毎月1回採水し、水質モニタリングをする。特に微量元素を重点的にIPー質量分析法により分析する。これにより水質の長期的変動、地域的変動を見いだし、河川水中の重金属元素の動態を把握する。また将来の河川環境を予測する。

W-2.自動車排ガス中の微量成分の研究
自動車排ガス中の微量成分は大気中に排出され、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染などの原因となっているおそれがある。これらを系統的に分析し、降水中の微量成分との関わりを検討する。

W-3.有機性廃棄物処理過程における有害微生物の挙動に関する研究
有機性廃棄物、いわゆる生ゴミを堆肥化により再生利用する場合、食材に由来する食中毒菌などの有害微生物が混入しても安全な堆肥を生成するために、処理過程における微生物の挙動を明らかにし、安全性を確保する。

W-4.降水中の微量成分の起原
降水中には主要な陽イオン、陰イオンの他に微量の重金属が含まれている。これらの重金属類の発生源と、地下水、河川水などへの影響を考察する。

W-5.都市近郊降水中の微量成分の起原(東京海洋大学、環境科学技術研究所との共同研究)
都市および都市近郊降水中の微量成分を分析し、その起原および降水中に取り込まれるメカニズムを研究する。

W-6.生ゴミのコンポスト化における衛生微生物学的安全性評価に関する研究(独立行政法人国立環境研究所との共同研究)
家庭から排出される生ゴミをコンポストとして家庭菜園などで利用する際に、食材に由来する食中毒起因菌を排除するための効率的な温度、湿度などのコンポスト化条件を設定する。

W-7.食品工業における活性化二酸化塩素の利用に関する研究(大三工業(株)研究所との共同研究)
食品製造ラインにおける有芽胞細菌処理のための活性化二酸化塩素の応用に関する基礎的な作用条件を検討する。

W-8.再利用水・雨水利用水の消毒方法に関する研究
水有効利用の一環として、廃水を浄化して再利用したり雨水を集めて利用する方法が普及しているが、塩素消毒が必要であるにも拘わらず不十分な施設が多い。そこで、再利用水を目的として維持管理に手間がかからず効果的な消毒方法について検討する。

W-9.使用済み貸与福祉用具運搬車輌の二酸化塩素燻蒸に関する研究
福祉用具貸与事業者が使用する運搬車輌については、定期的な消毒が義務づけられてはいるものの、手軽に行える消毒方法がないことから、安定化二酸化塩素によるガス燻蒸の可能性を検討する。

W-10.水田土壌より溶出する微量元素
河川水中の微量元素の多くは、その濃度が季節変動する。その一つの原因として水田土壌からの溶出が考えられる。実際に溶出実験を行いこれを確かめる。

W-11.ディスポーザを用いた生ゴミの減量化・再資源化
生ゴミの処理方法の一つとして、ディスポーザシステムが普及している。このシステムを活用し、生ゴミを効率よく減量化・再資源化する方法について検討する。

W-12.流動担体を用いた廃水処理に関する研究
微生物が付着したプラスティック流動担体により、排水中の有機物、栄養塩類を効果的に処理する方法を検討する。

「農と環境と医療」を連携するための研究課題キーワードには、「窒素」、「有害物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育・啓蒙」、「インベントリー」、「農業・健康実践フィールド」、「病原微生物」、「環境微生物」、「環境保全」、「環境評価」、「食と健康」、「感染」、「ホルモン」、「光の波長」、「環境応答」、「放射線(アイソトープ)」、「免疫」、「神経」、「内分泌」、「生体機能」などがあった。今回の環境衛生学研究室の内容は、「重金属」、「環境微生物」、「環境保全」および「環境評価」に関連が深いと考える。

これらの研究課題キーワードについては、これまで各方面からご意見を頂いた。先回の訪問を最後に、新しくキーワードの整理すると記した。しかし、今回さらに訪問を追加したので、改めてキーワードを整理をしたく、しばらく時間を頂きたい。
子どもの喘息:花粉・ダニ・大気汚染・ストレスなど
喘息は、農や環境に大きく関わる花粉・ダニ・ペット・大気汚染原因物質・風邪ウイルス・ストレスなどが発作の主な誘因となっている。文部科学省がまとめた平成17年度学校保健統計調査によれば、喘息にかかっている子供の割合が過去の最高値を更新した。幼稚園から高校までの各段階で悪化しており、10年前に比べると倍増したことになる。

この調査は、9,165校の幼稚園から高校までの子供を対象に全国で行った健康診断の結果を抽出して行われたものである。調査結果によれば、喘息の子供の割合は幼稚園で1.6%、小学校で3.3%、中学校で2.7%、高校で1.7%であった。年齢別では、6才から14才まではそれぞれ2%を超えていた。6才が3.5%と最も高く、それ以降は年齢が進むにつれて低下する傾向が見られた。

農医連携の視点から喘息と花粉症のかかわりを見ると、筑波学園都市のプレスリリース(2005年10月31日)の「スギ花粉症緩和米によるアレルギー症状の緩和:マウスで科学的有効性を証明」は、独立行政法人農業生物資源研究所、国立大学法人東京大学医科学研究所および国立大学法人島根大学医学部の農学と医学が協力して達成した成果のひとつといえるであろう。

参考資料

産経新聞:2005年12月9日
教育問題:http://www.worldtimes.co.jp/wtop/education/news/main.html
Agromedicine を訪ねる:Journal of Agromedicine
「農医連携」という言葉は、生命科学全般を思考する北里大学で新しく使用しはじめたものだ。それに相当する英語に、例えばAgromedicine がある。1988年に設立された The North American Agromedicine Consortium (NAAC) は、Journal of Agromedecine という雑誌とニュースレターを刊行している。この雑誌の話題には、農業者の健康と安全、人獣共通伝染病と緊急病気、食料の安全性、衛生教育、公衆衛生などが含まれる。

また、1999年にNational Institute for Occupational Saftey and Health によって設立された The Southern Coastal Agromedicine Center(http://www.ncagromedicine.org/scac.htm)がある。これは、農林水産業者の安全や健康に主体がおかれた研究所だ。

さらに、The North Carolina Agromedicine Institute が1999年に設立されている。これは、ノースカロライナ州立大学、東カロライナ大学などと正式に提携している研究所だ(http://www.ecu.edu/cs-dhs/agromedicine/)。

このように、農医連携の潮流はアメリカの各地にみられる。ここでは、Journal of Agromedicine を訪ねて、この雑誌の農医連携の姿を追ってみる。この雑誌は、農業活動によってもたらされる生産者、消費者および農村環境の健全性に関わる問題に焦点を当てている。

この雑誌の目標は、グローバルな工業化されたモデルが遂げた急速な発展の衝撃を伝統的な地域産業に与えている各種事象を掲載し、社会における農水産業の不可欠な役割をわれわれに再認識させることにある。

この季刊誌は1994年に創刊され、2005年現在で10巻を数えている。以下、この雑誌の内容を知るため、第1巻と2巻の目次を紹介する。

第1巻1号
  • Onchocerciasis Control by Insecticides and Chemotherapy Stimulates Agricultural Development in Central West Africa
  • Health Costs and Benefits of Fungicide Use in Agriculture: A Literature Review
  • Allergy from Pyrethrin or Pyrethroid Insecticides
  • Multiples Chemical Sensitivities: A Presenting Complaint in Two Patients
  • Pediatric Exposure to Agricultrual Machinery: Implication for Primary Prevention
  • Agricultural Health and Safety: Opportunities for Nursing Research
  • Surveillance and the Georgia Healthy Farmers Project: Agricultural Occupational Health Nurses
  • Agromedicine: An Opportunity for Nursing
  • Nursing's Role in Agromedicine
  • Policy and Institutional Challenges for Agromedicine
  • 4-H Medical Professions Club: A Model to Encourage Youth in Rural Areas to Consider Career Opportunities in Medicine
  • BOOK REVIEW: William M. Simpson MD, Haworth Continuing Features Submission

第1巻2号
  • Why Don't Health and Agricultural Scientists Recognize Each Other
  • Human Health Risks Associated with Drug Residues in Animal-Derived Foods
  • Agrichemicals Complicating Emergency Helicopter Transport of a Farm Worker
  • Feasibility Study of Inspection of Farm Machinery Safety Features: State Veterinarians and Agricultural Medicine
  • Veterinary Contributions to Agromedicine
  • The Veterinary Diagnostic Laboratory: A Link Between Human and Animal Agricultural Medicine
  • AGROMEDICINE CURRICULA/PROGRAMS: A Curriculum in Agricultural Medicine for Medical Students
  • Alabama Agrimedicine Program: Rationale, Proposal, and Supportive Study
  • BOOK REVIEW: David Garr MD, Haworth Continuing Features Submission

第1巻3号
  • Is Family Practice Crucial to Agromedicine
  • Pesticides in Developing Countries: Poisons, Not "Medicine"
  • Risk Assessment for Infectious Foodborne Diseases: A Priority with Problems
  • Health Status of Pesticide Applicators with Attention to the Peripheral Nervous System
  • An Agricultural Safety and Health Information Needs Assessment for Rural Service Providers
  • Strategy to Overcome Urban Undertow, An Obstacle to Rural Health Development
  • Agromedicine: A Delphi Study of the Field-Present and Future
  • Agromedicine: What's in a Name?
  • AGROMEDICINE MEETING HIGHLIGHTS Symbol, Substance and Science: The Societal Issues of Food Biotechnology
  • Southern Agromedicine Consortium
  • BOOK REVIEWS: Ernest Hodgson PhD, William M. Simpson MD, Ziad R. Haydar MD, Haworth Continuing Features Submission

第1巻4号
  • Farm Trauma and the Family Physician-In-Training
  • Epidemiological Perspectives on Childhood Agricultural Injuries within the United States
  • Equipment Engineering Issues Associated with Childhood Agricultural Injuries
  • An Educator's Perspective on Childhood Agricultural Injury
  • Childhood Agricultural Injuries: Public Policy Process and Measures
  • FARMEDIC: A Systematic Approach to Train Rural EMS, Fire, and Rescue Personnel at the Grassroots Level
  • A Farm Safety Surcharge on Food: An Agricultural Safety Policy Proposal
  • BOOK REVIEW: Mildred M. Cody PhD RD CHE, Haworth Continuing Features Submission

第2巻1号
  • The Arthropod in Agromedicine
  • First Year Anniversary
  • Defining Farm Safety Research Priorities by a Cost-Risk Approach
  • Health Hazards among Veterinarians: A Survey and Review
  • Case Histories of Insect- or Arachnid-Caused Human Illness
  • Contributions of Medical Entomology to Agromedicine
  • Africanized Honey Bees and Agromedicine
  • Arthropod Research in the Southeastern U.S.
  • 2,4-D Cancer Link Called "Weak" by EPA Panel
  • BOOK REVIEWS: Robert B. Rhoades MD, B. Merle Shepard PhD, Rebecca G. Knapp PhD, Haworth Continuing Features Submission
  • AGROMEDICINE MEETING HIGHLIGHTS 43rd Annual Epidemic Intelligence Service (EIS) Conference, Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta, Georgia, April 18-22, 1994

第2巻2号
  • The Rodent in Agromedicine
  • Postulated Interaction Between Hydroxychloroquine and Cholinesterase Enzyme Activity: A Case Report
  • Pilot Study of Health Complaints Associated with Commercial Processing of Mushroom Compost in Southeastern Pennsylvania
  • Hazard Perceptions of California Farm Operators
  • A Survey of California Pest Control Advisors: Occupational Health and Safety Implications
  • SELECTED PRESENTATIONS FROM THE FALL MEETING OF THE SOUTHERN AGROMEDICINE CONSORTIUM:Food Safety in the United States and Abroad: An Agriculturist's Perspectives
  • Stress in Rural America
  • BOOK REVIEW: John R. Wheat MD MPH, Haworth Continuing Features Submission

第2巻3号
  • When the Media Seeks Out the Scientist: What to Do?
  • Using Ergonimics in the Prevention of Musculoskeletal Cumulative Trauma Injuries in Agriculture: Learning from the Mistakes of Others
  • A Rash and Chemical Burns in a Cowboy Exposed to Permethrin
  • Identifying Fatal Agricultural Occupational Injuries in Colorado, 1982-1989: A Comparison of Two Surveillance Systems
  • Shifting the Paradigm: Rethinking Our Approach to Agricultural Safety and Health Issues
  • Human and Ecosystem Health: The Environment-Agriculture Connection in Developing Countries

第2巻4号
  • 1994: A Vintage Year for Agromedicine Journals
  • Trends in Public Health-: Pests and Pesticide Use
  • Rodent-Borne Hemorrhagic Fever Viruses of Importance to Agricultural Workers
  • Science Communications: Panic Over Pathogens
  • The Poultry Scientist and Agromedicine
  • The Poultry Scientist and Agromedicine: Looking into the Third Millennium
  • Poultry Scientists and Agromedicine: Chicken Martophages-Practical Implications Towards Animal and Human Health
  • AGROMEDICINE MEETING HIGHLIGHTS Agromedicine Highlights of the 44th Annual Epidemic Intelligence Service Conference
  • Agromedicine Highlights: The South Carolina Dietetic Association and the South Carolina March of Dimes Cosponsored Meeting, "Nutrition is Prevention,"
  • Highlights of the Spring 1995 Agromedicine Consortium Meeting
  • BOOK REVIEWS: Stoney A. Abercrombie MD, Haworth Continuing Features Submission

なお、Journal of Agromedicine の第3巻から10巻については追って紹介する。
本の紹介 12:農業における環境教育、平成12年度環境保全型農業推進指導事業、全国農業協同組合連合会・全国農業協同組合中央会、家の光協会(2001)
「情報:農と環境と医療 8号」の「代替農業と環境保全型農業」で、わが国の環境保全型農業の現状を紹介した。そこで、わが国の農林水産省では環境保全型の農業体系が早くから導入されており、省内にすでに環境保全型農業対策室があること、そのホームページ(http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/)には、環境保全型農業についての定義や歴史的背景が記述されていることなどを紹介した。

一方、農林水産省は平成4年6月に 「新しい食料・農業・農村政策の方向」 を発表し、「国土・環境保全機能を維持増進し、生産性の向上を図りつつ環境への負荷の軽減に配慮した持続的な農業 (環境保全型農業) を確立・推進すること」 が必要であるとした。 その後、平成10年9月には「食料・農業・農村基本問題調査会」が答申された。さらに、それを受けて平成10年12月に発表された農政改革大綱においても 「持続性の高い農業生産方式の導入の促進」 がうたわれ、環境保全型農業に関して一層の推進が図られている。

このような背景にあって、全国環境保全型農業推進会議がすでに平成6年に設置されている。このため、全国農業協同組合中央会に事務局が設置され、日本生活協同組合連合会が事務局の運営に協力している。 「人と自然にやさしい農業」 をめざし、環境保全型農業推進憲章を制定した (平成9年2月28日)。 その趣旨は次のように述べられている。

農業は、元来物質循環を基本とし環境と最も調和した産業であり、また農業は環境と調和することなしにはその生産活動を長期的に持続させることはできない。

さらに、農業・農村は国土・環境保全といった多面的かつ公益的な機能を有しており、これらの機能は適切な農業生産活動を通じて維持・増進されている。このようなことから、今後の我が国の農業においては、「農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業(環境保全型農業)」を全国的に推進していく必要がある。

このため、農産物の生産、流通、消費等幅広い関係者の相互理解と協力のもとに、環境保全型農業を推進することを目的として、全国環境保全型農業推進会議(以下、「全国推進会議」という。)を設置する。

このような趣旨で活動している全国環境保全型農業推進会議事務局の全国農業協同組合連合会と全国農業協同組合中央会は、平成4年から農水省の補助を受けて、環境保全型農業の先進事例調査を実施している。そのたびに、報告書を公表してきた。「最新事例・環境保全型農業」、「環境保全型農業の流通と販売」、「環境保全型農業と地域活性化」、「実践事例に学ぶ:これからの環境保全型農業」、「環境保全型農業とJA」、「環境保全と農・林・漁・消の提携」、「環境保全型農業と自治体」、「農業における環境教育」、「環境保全型農業10年の取り組みとめざすもの」などがそれである。

本書の出版は今から4年前の2001年であるが、その前年の2000年には、循環型社会形成推進基本法が成立し、あわせて循環に関係する法律の制定や改正があった。農業の場面でも、農業基本法のもとで環境保全型農業をさらに推進するため、農業に関する環境三法(家畜排せつ物法・肥料取締法・持続農業法)が1999年に制定されていた。

環境問題の解決は、結局のところ教育の問題であると言われて久しい。この問題を積極的に取り上げたのがこの本である。「農業における環境教育」では、厳しい経営条件の中で、生産のみならず、消費流通、物質循環、自然保護などを考慮して、次世代の学童を含めた担い手づくりに意識的に取り組んでいる実態が浮き彫りにされている。この事例とその後の進展を眺めていると、環境保全型農業への進展が着実に進みつつあることが解る。「農業における環境教育」の原典ともなるこの本は一読に値する。詳しい内容は以下の通りである。

第1部 農業における環境教育

第1章 学校給食と養豚を結ぶリサイクルシステム
-山形県鶴岡市のエコピッグ・リサイクルシステム-
● 山形大学農学部教授 網島不二雄
1 はじめに
2 つるおかエコピッグ・リサイクルシステムの成立条件と環境教育・啓発の役割
3 環境教育・啓発の内容と特徴-つるおかエコピッグ授業から-
4 環境教育・啓発の重要性と課題
5 環境教育・啓発への提言
6 まとめ
第2章 地域統合産直と環境教育
-茨城県JAやさとの産直と環境保全型農業-
● JAやさと営農流通センター営農指導課長 柴山進
1 はじめに
2 地域の環境保全型農業の成立条件と環境教育・啓発の役割
3 環境教育・啓発の内容と特徴(具体的な取り組み)
4 環境教育・啓発の重要性と課題(農業の現場からの情報発信)
5 環境教育・啓発への提言
6 まとめ
第3章 「ホタルとびかう有機の里」宣言をどう浸透させたか
-新潟県越路町の環境保全型農業への取り組み-
● JA越後さんとう営農センター/越路雪ほたる塾長 半藤禅一
1 はじめに
2 越路町の環境保全型農業成立の条件と環境教育・啓発活動の役割
3 越路町の環境保全型農業の推進に向けた環境教育・啓発の内容
4 越路町の環境保全型農業の計画的推進と啓発活動の重要性
5 環境教育・啓発への提言 6 まとめに代えて
第4章 環境型社会をめざす「花のまち」の環境保全型農業
-鹿児島県和泊町(沖永良部島)の取り組み-
● 和泊町役場経済課長 大福 勇
1 はじめに
2 地域の概要
3 和泊町農業の概要
4 生産性追求から環境保全型農業へ
5 おわりに
第5章 環境保全型農業による農業・農村振興
-鳥取市「大和地区むらづくり会議」の取り組み-
● 鳥取大学農学部教授 小林 一
1 はじめに
2 「大和地区むらづくり会議」の組織化と環境保全型農業の推進
3 環境保全型農業の実態
4 むらづくり会議の実践から学ぶべき点
5 おわりに

第2部 第6回環境保全型農業推進コンクール受賞事例

 大賞8事例

● 北海道のクリーン野菜を全国に!:北海道南空知玉葱振興会(栗山町・長沼町・南幌町・由仁町)
● 地元の有機質資源を生かした「有機の里・常盤村」:青森県常盤村農業協同組合(常盤 村)
● 地域・消費者とともに歩む環境にやさしい農業への取り組み:群馬県くらぶち草の会(倉淵村)
● 中山間地から環境にやさしい農業を発信:石川県 得能順市氏(津幡町)
● 消費者ニーズに合った安全・新鮮な農産物生産:愛知県 池野雅道氏(小原村)
● おいしく、安全なミカンを消費者の家庭へ:和歌山県紀州大西園グループ(貴志川町)
● 柑橘専業から施設野菜を導入した複合経営へ:広島県かみじま施設野菜園芸組合(大崎町・木江町)
● 環境保全型茶業でクリーンな「かごしま茶」づくり:社団法人鹿児島県茶生産協会(鹿児島市)

その他の各賞

参考資料

平成5、6年度の事例総括表
第1~5回環境保全型農業推進コンクール受賞各賞
環境保全型農業推進コンクール実施要領
本の紹介 13:環境学原論−人類の生き方を問う−、脇山廣三監修・平塚 彰著、電気書院(2004)
「情報:農と環境と医療 6号」で「本の紹介 9:医学概論とは、澤瀉久敬(おもだかひさゆき)著、誠信書房(1987)」を掲載した。そこでは、「薬学・医学・看護学・医療衛生学関係の方々はすでに読まれ、いまや古典ともいえる本であろうが、農と環境の研究・教育に携わっておられる方々には、農・環境・医の連携を考えるうえで貴重かつ豊富な哲学が包含されているので、この本を敢えて紹介する」と、書いた。同じような考えで、「情報:農と環境と医療 9号」で「本の紹介 11:農学原論、祖田 修著、岩波書店(2000)」を掲載した。今回は「環境学原論」と題するこの本を紹介するが、筆者が知る限りこれと同じ題名の本はまだない。

なお、この本の紹介に先だち環境学原論を考えるうえで忘れてならない本を紹介する。「環境学の技法:石弘之編、東京大学出版会(2002)」と「水俣病の科学:西村 肇・岡本達明著、日本評論社(2001)」の2冊である。これらの本については、かつて筆者が所属していた農業環境技術研究所のホームページ(http://www.niaes.affrc.go.jp/)でも紹介したことがある。したがって、以下の内容はそれと一部重複する部分があるので、ここでお断りしておく。

「環境学の技法」の表紙カバーの裏側に次のような文章が掲載されている。

「環境学」とは何だろうか? 環境学は何をめざすのだろうか? 私たちなりの「環境学」の輪郭を定める上で拠り所としたのは、自然環境の「ハード」面ではなく、それを認識し、そこに働きかける人間的な「ソフト」の面である。たとえば、自然環境をめぐって人は何を争い、なぜ協力するのか、そして調査をする人は「問題」にどうかかわるのか。自然科学的な知見さえ社会的な文脈の規定を免れるわけにはいかない。・・・・対象と距離をとり、種々の方法を場面に応じて組み合わせ、読み解いていくこと。問題解決の研究につきまとうこの難問に対処する技術は、しかし個人の裁量に依存する。この「裁量」の中身を分解し、「技法」として目に見える形で再構成してみようというのが、環境学の確立にむけて私たちがとった最初の一歩である。

「環境の技法」の「第1章:環境学は何をめざすのか」では、「環境問題の新たな枠組み」の中にその考え方がまとめられている。環境学の目的は、次の段階への移行過程の研究、教育にあること、環境研究のこの多層・循環性構造を、環境学の新たな枠組みとして想起することにあると解説する。

その段階とは、1)「環境状況」から「環境変化」を認知し、2)「環境変化」から「環境問題」を抽出し、3)「環境問題」から「問題解決」に取り組み、4)「問題解決」から「新たな環境状態」を想定することである。

また、「第1章:環境学は何をめざすのか」の「揺れ動く環境学」では、環境学を構築するにあたって再認識が必要であることが解説される。それは、環境に対する意識の歴史的な変化である。その時代を、1)自然の時代、2)公害の時代、3)環境の時代、4)エコロジーの時代、にわけ、その時々の環境に対する認識が整理される。ここに環境学の原点がある。

次は「水俣病の科学」である。この本には三つの特色がある。一つは、自然科学者と人文科学者が共同して出版した希有な作品であること。環境科学の解明は、まさにこの例が示すように異なる分野の人が協力してことに当たり、初めてなされるものであろう。二つめは、感動なくしては読めない書であること。かつて、ひとびとに感動を与えた環境にかかわる本に、レーチェル・カーソンの「沈黙の春」、シャロン・ローンの「オゾン・クライシス」、シーア・コルボーンらの「奪われし未来」などがある。「水俣病の科学」は、これらに勝るとも劣らない作品である。三つめは、魂を込めた研究の方法論が語られていることである。石牟田道子の「苦海浄土」と読み合わせると「知と情の分離」が解消されるであろう。若い研究者だけでなく、熟成した研究者にとっても必読の書である。以下に内容の一部を紹介する。

「水俣病の科学」は、次の文章から始まる。

「歳月はいつも重い意味を持ちます。水俣病事件の場合、最初の二年半、それから三年、さらに九年、そこからはるかな歳月を経ること三十二年、合わせて約半世紀の歳月が水俣病の因果関係解明の里程標を示しています。」

20世紀に起きた世界でも最大・最悪の公害といわれた水俣病は、長い年月を経過してやっと薄い幕が閉じられた。発見までの2年半、それから原因物質の発見まで3年、政府の公害認定までさらに9年、そこからはるかな歳月を経ること32年とは、1968年の政府の公害認定から2000年までの時間である。

1950年代から熊本の水俣湾周辺で、住民に手足の麻痺や言語障害など深刻な健康被害が出た。水俣市の新日本窒素(現チッソ)水俣工場から水俣湾に排出された「メチル水銀」がその原因であった。この悲劇はどうして起きたのか。膨大なデータと気の遠くなるような歳月を費やして、克明に事実を解明し、この公害をまとめたのが「水俣病の科学」である。著者は結語で述べる。「私たちもまた加害者ではなかったのか? そしてあなたも」と。

序章の最後の文章を引用する。

「私たちは「常識」から出発しながら事実を集め、発見を繰り返しながら一歩一歩 「科学」に近づいていきました。遅々たる歩みではありましたが、歳月は力です。ばらばらに見えた発見が急に一つにまとまって全体が浮かび上がるときが来ました。そして私たちはついに、メチル水銀の生成機構を解明するとともに、二つの謎を解き、チッソ水俣工場からのメチル水銀排出量を捜査以来の過去にさかのぼって正確に推定することに成功しました。その結果、これまで理解できなかった一つ一つの事実が、鉄のような必然性をもって展開していった惨劇の一コマ一コマであることがはっきりと見えるようになったのです。」

第1章は、水俣工場の当時の様子を関係者からの聞き取りを含めながら、水俣チッソのアセトアルデヒド工場の全容が語られる。アセトアルデヒドは、オクタノールをはじめとするブタノール、酢酸など塩ビ以外の重要な有機製品の原料である。合成繊維をはじめとする化学製品の原料として欠かせない。石灰岩と石炭から生成されたカーバイドからアセチレンが作られる。アセチレンからアセトアルデヒドが作られるが、その触媒として水銀が使われる。これらのことが、工場の図解、工場の技術者、戦後の技術革新、追求の道を閉ざしたチッソ、廃水処理の実体と変遷などの項目のもとに解説される。

第2章は、「水俣病の発生」から「海域へのメチル水銀排出量」を追跡する。水俣病の発生を食習慣から追跡し、その原因が「魚介類のメチル水銀濃度」であることを検証する。つづいて、海域の生態系汚染機構の解明を通して「海水中のメチル水銀濃度」を推定する。最後に、排水拡散理論から「海域へのメチル水銀排出量」を推定する。この因果関係を明らかにする手法と努力は圧巻である。

第2章の最後で著者は語る。

「私たちは、長い時間かけて集めた膨大な諸々のデータの持っている意味をできる だけ読み解き、水俣湾の生態系、海水中のメチル水銀の挙動、魚介類の汚染実態、排出されたメチル水銀量の推定、底泥の無機水銀のメチル化機構、水俣湾の底生魚と不知火海の魚の汚染機構などの基本問題を検討し、その成果を総合することにより、環境・生態系汚染の全体像と残された問題を明らかにした。

第3章は、「メチル水銀生成機構」から「海域へのメチル水銀排出量」を追う。ここでは、第2章の確信を基礎に、定量的手法を駆使してメチル水銀排出量を求め、それがいつどんな原因でどのように変わったか精密に明らかにする。「メチル水銀生成機構」を明らかにし、反応速度論から「反応器内メチル水銀生成量」を推定する。さらに、プロセス工学理論から「プロセスからのメチル水銀排出量」を明らかにし、廃水処理原理の活用により「海域へのメチル水銀排出量」を明らかにする。

生成機構の解明もまた圧巻である。著者は語る。

「新しい化学である有機金属化学に基づいてメチル水銀の生成機構を初めて本格的 に論じたのが本章です。古い化学と新しい化学の違いは、アセトアルデヒドの生成の過程、特にその中間体の構造にはっきりあらわれています。この違いを生んだ最大の原因は、原子と原子の結合に対する考え方の差です。古い化学では、金属は他の元素と同じように単に結合する手がある原子としてしかとらえていませんが、新しい化学ではある種の金属(遷移金属)は二重あるいは三重結合そのものに結合してその一本を切る働きがあると考えます。・・・・それは科学者、特に化学者の心理に原因があります。多くの化学者は、実験報告で確認されていること以外は考える対象にしません。・・・・・」。

最後に、海域へのメチル水銀排出量の経年変化と水俣病被害の進行状態との関係が明らかにされる。すなわち、「アセトアルデヒド生産量と周辺海域へのメチル水銀排出量推定」、「メチル水銀排出量と水俣周辺住民のへその緒の水銀濃度」、「メチル水銀排出量と胎児性水俣病患者発生数」および「メチル水銀排出量と非典型水俣病患者発生数」がそれである。

結語では、科学と技術の方法論に関する多くの提言がある。「新しい科学の見方」、「リスク基準」、「安全性の考え方」、「日本の科学のあり方」「科学のもつ一方向性と双方向性」、「世の中に役に立つこと」、「内分泌攪乱物質」、「日本の環境科学の成果の外国への発信」など。なお、著者はこれを英訳して世界に発信しようとしている。この努力に敬意を表したい。

さて、「環境学原論」を紹介する前に、これまで学長室通信で紹介してきた「医学原論」と「農学原論」を振り返ってみる。

澤瀉久敬(おもだかひさゆき)は「医学概論(原論)」を大まかに次のように語っている。(注:著者は、この本の最後に医学概論は医学原論とすべきだと述べている)

「医学概論の問題は、単に医学とは何であるかを研究するだけでは不十分で、医学はいかにあるべきかという問題にはいる。研究対象は無際限である。よりよい医学への道への自省と改革になる。だから医学概論がいる。」

また、祖田 修は「農学原論」を、1)農学史、2)農学の価値目標、3)農業・農村の本質と問題の解明、4)問題解決に向けた農学の方法と体系、に関する学であると考え、大まかにいえば、次の4点の問題を明らかにしようとする。まず、現代農業・農産の実態を明らかにし、現代農業が目指すべき理念ないし価値目標を明確にし、諸価値の調和的実現の場として、生活世界としての地域を重視し、新たな問題解決に至るための、農学の方法と体系を提示する。

続いて「環境学原論」である。序文は語る。

「環境や環境問題の再認識、いわゆる"モノの見方"において重要なことは、ごく普通の日本人の生活感覚(生活者の視点)をベースに、誰にでもわかるような内容を提供することであろう。そのためには、まず万人にわかるような"環境学"の"原論"ともいうべきものが必要である。」

続けて、序文は強調する。

「本書は、環境とそれに関するキーワードをとりあげ、それぞれの立場から、"価値"を基軸に"いのち"、"経済"そして"環境"を絡ませた視点(一端)を提供したものであるが、これらは必ずしも万全のアプローチであるとはいえず、今後さらに研究を深める必要がある。しかし、現在では環境学の"原論"として参考にすべき文献・資料等が少ないこともあり、ここに環境と環境問題の再認識の手引書として編纂されたものである。したがって、本書は環境に対するモノの見方ならびに将来を見通す視野の獲得に役立つばかりでなく、環境に対する問題点の発掘、研究推進の手掛かりを与え、また環境に対する問題の認識や現状把握の参考になるものと考える。」

このように、本書は環境問題の発掘、研究、解決などに「環境学」の原論ともいうべきものが必要と考えている。「医学原論」や「農学原論」と、事は同じなのである。しかし、この本が環境学原論をすべて満たしているとは考えていない。例えば、個々で取り上げられた課題を一層深化させることや、さらに新しい課題、例えば、「環境」と「生物」、「宗教」、「文学」、「保健」などがさらに必要であろう。その意味では、この本は「環境学原論」についての初の挑戦ともいえる。

各章の内容は以下の通りであるが、「農と環境と医療」の立場から、第11章の「環境と農業」および第19章の「環境と医学」について少し紹介してみる。

第11章は、環境負荷軽減に配慮した持続的な農業を目指す技術として、環境保全型農業が語られる。いわゆる代替農業である。代替農業がひとつの農作業体系を指すのではなく、合成した化学物質を一切使用しない有機的な体系から、特定の病害虫防除にあたって農薬や抗生物質を慎重に使用する体系まで、さまざまなな体系が含まれている。したがって、代替農業は生物学的とか、抵投入的とか、有機的とか、再生的あるいは持続的といった名を冠した農業ということになる。

そこで、「環境保全型農業」である。わが国の農林水産省ではこの種の農業体系が早くから導入されており、省内にすでに環境保全型農業対策室がある。そのホームページ(http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/)には、環境保全型農業について詳しい情報があるので、それを参考にすれば理解が早いであろう。

第19章は、過去におこった水俣病、イタイイタイ病、四日市のスモッグなどに見られるように、人間システムが化学物質により破壊されてきた経験から、西洋科学技術文明全体に問題があると考え、発想の転換をする必要があると捉える。そこで、新たな環境学の創造が必要であるとし、そのために、人間システムとは何か、地球環境汚染の現状、過去の環境破壊の例、環境ホルモン、地球環境の破壊は文明的課題、漢方医学の考え方にみられる人と自然の調和、地球は生きている、などが解説される。

第1章 環境と「人間」-モノからコトへのパラダイムシステム-
第2章 環境と「創発」-環境問題解決へのパースペクティブ-
第3章 環境と「意味」-環境の意味論-
第4章 環境と「地球市民」-地球憲章の理念と実践-
第5章 環境と「政治」-環境問題に対する政治学的アプローチ-
第6章 環境と「経済」-経済の論理と環境の論理-
第7章 環境と「経営」-環境適応マネジメントシステム-
第8章 環境と「社会システム」-私たちの生活と環境とのかかわり-
第9章 環境と「教育」-持続可能な社会と環境教育-
第10章 環境と「デザイン」-表象芸術と生活環境空間-
第11章 環境と「農業」-環境保全型農業のシステム論的展開について-
第12章 環境と「水危機」-世界の水資源と日本-
第13章 環境と「モノづくり」-モノづくり・伝承・環境-
第14章 環境と「新素材」-環境技術と新材料-
第15章 環境と「河川」-環境に配慮した河川管理について-
第16章 環境と「植物」-植物の環境形成作用とその活用-
第17章 環境と「構造物」-環境に配慮した構造物への取り組み-
第18章 環境と「防災」-自然と人間の共生-
第19章 環境と「医学」-微生物から宇宙に広がる人間システム-
第20章 環境と「倫理」-人類の幸福と価値観の転換-

参考資料
  1. 環境学の技法:石弘之編、東京大学出版会(2002)
  2. 水俣病の科学:西村 肇・岡本達明著、日本評論社(2001)
  3. 農業環境技術研究所ホームページ:http://www.niaes.affrc.go.jp/
言葉の散策 6:環境
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る。

中国吉林省の化学工場で2005年11月13日に起こった爆発事故で、近くを流れる松花江に流れ込んだベンゼンやニトロベンゼンなどの有毒物質は、24日には黒竜江省ハルビン市の水源に到達した。さらに、12月22日にはロシア極東のアムール川流域で最大の都市ハバロフスクにまで到達した。ハバロフスク地方政府は、ニトロベンゼンによる汚染値はロシアが定める基準の範囲内としているが、市民の間では不安が広がっている。

中国広東省北部の韶関市を流れる北江には、イタイイタイ病の原因とされる猛毒のカドミウムを含んだ工場廃水が流入した。同省が流域都市の住民に北江の水の飲用禁止を通知するなど、深刻な汚染が発生している。

中国は長江の支流、南部の湖南省を流れる湘江に工場からカドミウムが流入し、流域住民にイタイイタイ病に似た症状が起きている。住民の具体的な健康被害が報じられるのは異例である。2006年1月13日の朝日新聞によれば、湘江の河川工事が原因で11月4日、沿岸にある精錬工場からカドミウムを含む排水が大量に流れ出た。流域の一部で基準の22~40倍のカドミウムが検出されたという。

地元の湘潭市当局によると、流域には体の痛みを訴える住民が現れており、全身56カ所を骨折し死亡した住民もいた。全身の骨がもろくなる骨軟化症や腎臓障害を引き起こすイタイイタイ病の症状とみられる。

経済発展の裏面で、こうした環境破壊が、漢字のお膝元中国で深刻な社会問題になっている。さて、そこで今回は「環境」という漢字の由来を興膳 宏氏の「漢字コトバ散策」から引用してみよう。

「環境」の「環」は、「たまき」という和訓があり、玉(ぎょく)で作った円環形の装飾品のこと。若者がよく腕に着けているブレスレットもその一種だ。「環境」は、自分を取り巻く円環を想定して、その周辺や外側を指すと思えばよい。

『新唐書』王凝(おうぎょう)伝に、こんな記事が見える。王凝が長江下流地域の行政監督官となったとき、周囲には盗賊が出没して、治安が悪かった。その状況が、「時に江南の環境は盗区と為(な)る」と書かれている。この「環境」は、今の言葉でいえば、周辺である。

また、『元史』には、余闕(よけつ)という高官が、任地の周辺が賊軍に包囲されて身動きのとれない状態にあったことから「環境に堡寨(とりで)を築き」、防備を固めて治安を維持しながら、その内側で農耕に取り組む持久戦術を取ったことが記されている。この場合の「環境」も、周囲の地域一帯を指している。

この「環境」が、エンバイロンメントの訳語として採用された。中国語でも、日本語経由で、「環境」を同じ意味に用いている。ところで、「環境」の古い字義による用例は、辞書にはたいてい上記の二つが挙げられるが、それ以外の例となると、あれこれと探してみても、なかなか見つけられない。つまり、それほど使用頻度の多い語ではなかった。ヨーロッパ語のエンバイロンメントも近代に生まれた概念らしいが、その訳語に「環境」を当てた人の着眼はみごとだ。

中国での環境破壊の教訓としていえるのは、人が何かの行動を起こすとき、自分を中心にした円環をどこまで広げてものごとを考えられるかということだろう。「環」の内側に、自分の企業や地域や国を置くだけでなく、隣国や東アジア、さらには全世界にまでその輪を拡張できるかどうか。いわゆる環境問題の原点はそこに尽きる。

参考資料

興膳 宏:日経新聞、漢字コトバ散策、環境、2005年12月18日
*本情報誌の無断転用はお断りします。
北里大学学長通信
情報:農と環境と医療10号
編集・発行 北里大学学長室
発行日 2006年2月1日