北里大学

北里大学農医連携教育研究センター

11号

情報:農と環境と医療11号

2006/3/1
第1回 北里大学農医連携シンポジウム−農・環境・医療の連携を求めて−(1)医学から農医連携を考える
平成18年3月10日に第1回北里大学農医連携シンポジウム‐農・環境・医療の連携を求めて‐が開催される。副題を「現代社会における食・環境・健康」に設定している。シンポジウムの趣旨と講演プログラムはすでに「情報:農と環境と医療9号」に掲載してある。今回から3回に亘って、講演のアブストラクトと総合討論の内容を順次紹介していく。第1回目は、北里大学医学部衛生学公衆衛生学の相澤好治教授の「医学から農医連携を考える」を紹介する。

はじめに

学生時代3年生から6年生まで医事振興会という無医地区活動を夏冬に行うクラブ活動に入っていた。夏季休暇を利用して、大学病院の先輩医師にお願いして健康診断を行い、冬季は医師と学生で全戸家庭訪問をして回った。3年生の活動の場は山形県新庄市の近くの大蔵村と鮭川村で、4,5,6年生には豪雪地帯の新潟県十日町市の近くの川西町であった。昭和43年から46年の間なので、日本はいざなぎ景気で農村の長男以外の若い人は都会をめざし、まだ残っている人も冬はほとんど出稼ぎに出ていた。工業化に日本の進路が進んでいた時代であり、農業の将来は魅力の乏しいものであった。政府の手厚い保護で、本来の食料生産産業としての近代化が遅れてしまい、わが国の食料自給率はエネルギーベースで40%となってしまった。本シンポジウムでは、その体験と社会医学を専門とする現時点の立場で、医学からみた農医連携について考察し、「食科学」の確立を提案したい。

1.農業人口

昭和50年の農業就業人口は総数の11%を占めていたが、日本の産業構造は激しく変化して、現在は、4%(382万人)に過ぎない。都市への人口集中傾向は鈍化したといわれているが、農村には高齢者が多く残り、老年人口(65歳以上人口の割合)は全国が17%に対して28.6%(2000年)となったことも一つの理由であろう。主として農業に従事している農業就業者の52.9%が65歳以上である。英仏両国では、それぞれ7.8%、3.9%であるからその高齢化は著しい。学生の頃、どうして農村から、空気も水も汚い都会に移動するのか、日本の農業の将来はどうなるかなど、大いに議論をしたが、農業も農村も悲観的な予測をせざるを得なかった。若い人が都会に集まるのは、近代的で豊かな生活に憧れるためと理解していたが、今考えると一種の生殖活動であるとも考えられる。若人はマッチする異性を求めるので、選択できる多くの若人が集まる都会に移動するのは自然な行動であろう。また若人は、将来性のある産業に就労するし、それによりまたその産業は発展する。

1999年の新基本法(食料・農村・農業基本法)では、従来行われてきた農家を保護する政策から、国民生活の観点に立って持続的な農業を確保する方向に転換した。農業を食料生産産業ととらえ、産業自体を振興することで食料を生産する人たちの生活を向上させようという政策である。1999年に純農家は324万戸で、主業農家は48万戸であったが、この政策転換により2010年には純農家が230-270万戸で効率的かつ安定的な農業経営をする農家が33-37万戸、法人・生産組織が3-4万できると予測されている。

2.「食育」の重要性

社会の活力の源泉は、言うまでもなく社会を構成する人々の活力である。そして、人々の活力を支えるものは心身の健康である。人々が生涯にわたってその心身の健康を保持増進していくためには、食事や運動、睡眠などにおける望ましい生活習慣の確立が不可欠であるが、中でも食習慣は、子どものころの習慣が成長してからの習慣に与える影響が殊更大きいものである。また、成長期である子どものころの望ましい食習慣は、心身の健全な成長に不可欠な要素でもある。子どものころから望ましい食習慣を身に付けることは、人々の心身の健康につながり、ひいては社会全体の活力を増進するための礎となる。近年、食生活を取り巻く社会環境の変化などに伴い、偏った栄養摂取などの食生活の乱れや、肥満傾向の増大、過度の痩身などが見られており、増大しつつある生活習慣病と食生活の関係も指摘されている。このように、望ましい食習慣の形成は、今や国民的課題となっているともいえる。このような背景の下で、平成17年6月17日に「食育基本法」が制定された。

教育の三本柱である「知育」、「徳育」、「体育」に加え、医療専門職教育では、「技育」も重要であるが、四本柱の基礎として「食育」が位置づけられなければならない。「食育」とは、さまざまな経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てることである。「食生活」には食の安全、食の栄養、食文化などが含まれる。

適切な栄養摂取は、生活習慣病の予防と治療において重要な位置を占めており、食品を製造する農業の国民生活に対する寄与は極めて大きい。スナック菓子やインスタント食品などの摂取が、高脂肪・高塩分摂取など偏った栄養摂取を生んでいると危惧されている。また食品は栄養学的価値もあるが、食文化として生活を豊かにする要因としても重要である。健康食、保存食、治療食の開発は重要であるが、科学的にこれらの安全性と効果の評価を行うことは同様に重要であり、特に効果判定は十分行われていない。「食育」の教育上の評価も科学的に行われるべきである(図1)。「食品」に限定せず、「食」全体を包括し、従来の食品科学を食科学として体系化することが必要と思われる。

(図1)食科学と健康

3.農医連携を図るために

都市と農山漁村の共生・対流を進め、「食」に関する消費者と生産者との信頼関係を構築することは、いわば消費者と生産者の「顔の見える関係」を構築することになる。消費者としては、食に関する理解と関心が増進され、顔の見える生産者が作った野菜等に対して安心感が深まるとともに、それらを無駄に消費することはできなくなり、食料資源の有効な利用の促進が期待できる。これらが、ひいては環境と調和のとれた農林漁業の活性化に資すると期待される。

特に人の保健・医療を推進する医療従事者は、健康教育の場で、身をもって「食育」を実践する立場にある。医療学は「食育」の効果を科学的に判定し、食育の手法を開発することが課せられている。農学と医療学の教育組織を有する本大学では、その特徴を生かして、推進するべきであろう。

学問はその進歩と共に分化の道を歩んだが、専門分化のため、現実的な課題を投げかけられた時、その分野だけで解決することが難しくなった。そのために専門分野の連携や共同研究が図られているが、連携には相当のエネルギーを必要とするため、目的が漠然としている場合は、効果的に機能することが少ない。農医連携の効果を上げるためには、下記のような具体的な目的を掲げて、連携を図ることが必要と思われる。また推進組織として、農医連携センターを学長の下に組織して、教育・研究面での活動を推進する必要があると思われる。

1)研究活動

(1)健康機能食品、保存食品などの開発と、その摂取の効果に対する科学的評価
(2)住民における食生活の実態調査と改善点の指摘:孤食、外食、中食、朝食欠食の保健上の問題評価
(3)メンタルヘルスと食生活の関連:食習慣の精神保健への影響を評価
(4)食生活改善のための具体策の提案のその評価分析:エネルギー・塩分・栄養素のメニュー表示
(5)食品による生活習慣病予防、治療法の開発

2)教育活動

(1)学生の体験的食育実践教育:環境整備、農・医学部間交流教育
(2)食育教育法の開発:メディア、カリキュラム作成、教育ソフトの開発
(3)農医連携による学生のメンタルヘルス対策:不適応学生への早期介入
(4)地域農業へのボランティア活動:相模原地区農業活動への参加
(5)農業生態学的思考法の習得:消費奨励型工業生態学的思考からの脱却

まとめ

上記の農医連携研究教育活動を行うためには、農学および医学だけでなく、食品科学、栄養学、農学、疫学などの専門家集団からなる「農医連携センター」(仮称)の設立が必要と思われる(図2)。また学生の体験的教育を行い、調査分析を行うフィールドの確保も重要であると思われる。

(図2)農医連携センター(案)

第1回 北里大学農医連携シンポジウム−農・環境・医療の連携を求めて−(2)東洋医学と園芸療法の融合
平成18年3月10日に第1回北里大学農医連携シンポジウム‐農・環境・医療の連携を求めて‐が開催される。副題を「現代社会における食・環境・健康」に設定している。シンポジウムの趣旨と講演プログラムはすでに「情報:農と環境と医療9号」に掲載してある。今回から講演のアブストラクトと総合討論の内容を順次紹介していく。第2回目は、千葉大学 環境健康フィールド科学センター千葉大学柏の葉診療所長の喜多敏明助教授の「東洋医学と園芸療法の融合」を紹介する。

1.はじめに

近年、健康という概念についてのパラダイムが大きくシフトしてきている。健康というものを病気に対立するものとして二元化する従来のパラダイムでは、現代社会が直面している医療問題を解決することが難しくなってきたことがその背景にある。予防医学(一次予防)を推進するためには、病気ではないが健康とも言えない状態(東洋医学では「未病」と呼ぶ)を認識できるパラダイムが必要であり、健康増進政策を推進するためにはAntnovskyが提唱した「健康生成論」のような新しいパラダイムが必要なのである。演者は、疾病発生過程だけでなく、健康生成過程にもアプローチできるところに東洋医学や園芸療法の特質があると考えている。

2.疾病発生過程を解明する西洋医学

近代西洋医学が準拠してきたのは要素還元論的・機械論的な「病因論」である。たとえば、2005年のノーベル医学生理学賞は、1983年にピロリ菌を発見したマーシャル博士とウォーレン博士に贈られた。ピロリ菌が胃炎や胃・十二指腸潰瘍の発生に深く関与していることを突き止めたことが評価されたのである。

最近では、再発を繰り返す胃・十二指腸潰瘍の治療に、ピロリ菌の除菌が一般に広く行われるようになっている。このように、西洋医学は疾病が発生するメカニズム(疾病発生過程)を病因と病理の単純線形的・決定論的な因果関係として解明し、新たな治療方法を開発することによって進歩してきた。この病因論の考え方がこれからも重要な役割を演じ続けることは言うまでもない。

3.健康生成過程を正常化する東洋医学

しかし、日本では40歳以上のピロリ菌感染者の割合が80%近いにもかかわらず、実際に胃潰瘍になる人は感染者の3~5%にすぎない。多くの感染者は胃潰瘍を発症せずに、ピロリ菌とうまく共生しながら健康な状態を維持できているのである。すなわち、人間が備えている健康を維持するためのメカニズム(健康生成過程)が正常に機能していれば、疾病が発生するのを予防し、発生した疾病を自然に治癒せしめることが可能だということになる。

東洋医学は疾病発生要因を除き去ると同時に、人間が本来もっている自然治癒力を賦活して、この健康生成過程を正常化することを治療の目的にしているのである。たとえば胃潰瘍の治療において、自然治癒力の低下を「虚証」と診断して人参湯(にんじんとう)を投与するケースや、疾病発生要因の増大を「実証」と診断して黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を投与するケースがある。

4.現代医療における東洋医学の役割

現代社会が直面している様々な医療問題の背景には、高齢者の急速な増加、心理的なストレスの増大、生活習慣病への疾病構造の変化などがある。健康生成過程に障害をきたす三大要因もまた加齢変化とストレスと生活習慣なのである。たとえば、高齢になると同時に複数の疾病に罹患していることが多いのは、加齢に伴って健康生成過程が障害されるためである。

ある74歳の男性は、糖尿病とその合併症で内科の治療、白内障による目のかすみで眼科の治療、骨粗鬆症による腰痛で整形外科の治療、前立腺肥大による頻尿で泌尿器科の治療をそれぞれ受けていたが、全身倦怠感の増悪を訴えていた。東洋医学の総合的・全人的診断によると、気という生命エネルギーが不足した気虚(腎虚)の病態であったため、八味地黄丸(はちみじおうがん)という漢方薬を処方したところ、諸症状が軽快し、西洋薬も減量できた。高齢者医療において、自然治癒力を賦活してQOL(生活の質)を向上させる東洋医学(漢方)の果たす役割は大きい。

5.健康関連QOL尺度による検討

一般に、健康生成過程が正常に機能していれば健康度が高く、健康生成過程が障害されれば健康度は低くなるが、この健康度を客観的に評価するための科学的指標は存在しない。そこで、国際的に広く使用されている健康関連QOL尺度であるSF-36ⅴ2日本語版の要約得点、すなわち身体的健康度(Physical Component Summary:PCS)と精神的健康度(Mental Component Summary:MCS)を指標にして、千葉大学柏の葉診療所の受診者を対象に、東洋医学的病態の重症度が健康度に及ぼす影響ならびに漢方治療が健康度に与える効果について検討した。

その結果、東洋医学的な病態が軽度であればPCSとMCSの低下も軽度であり、東洋医学的な病態が高度になればPCSとMCSの低下も高度になることが示された。また、4~8週間という比較的短期間の漢方治療によってPCSとMCSの低下が有意に改善することも示された。東洋医学(漢方)は健康生成過程の障害によって低下した健康関連QOLを向上させるだけでなく、疾病発生リスクの増大といった問題に対しても、未病という考え方で対処しうる体系になっている。

6.園芸療法の多面的な効果

千葉大学環境健康フィールド科学センターでは、既述のような特質をもった東洋医学の実践を核にしながら、緑豊かな園芸フィールドを活用した様々な試みを推進しているが、その重点項目が園芸療法である。

園芸療法とは、園芸と人間(医療・福祉の対象者)との関わりに、療法としての手続き、すなわち被対象者の症状改善、機能回復、QOL向上を目指しての様々な手続きが加えられたところに成立するものであるが、その効果は多面的である。

たとえば、
  1. 植物を育て、生命の営みや、季節、自然のリズムに触れることで心を癒す効果、
  2. 育てる、収穫する、食べる、作る、飾るといった様々な楽しみによってもたらされる効果、
  3. 身体を動かし、指先を使うトレーニングによる効果、
  4. 植物と成長時間を共有し、仲間と語り合い、共感することによってもたらされる効果などがある。

このように園芸療法は植物と人間との関係において、東洋医学(漢方)とは異なる効果によって自然治癒力を賦活すると考えられる。したがって、両者を融合させることによる相乗効果が期待できるわけである。

7.園芸療法とコヒアレンス感

園芸療法には、健康生成過程において最も重要な役割を演じているとされるコヒアレンス感(sense of coherence : SOC)を強化する可能性があり、この点が東洋医学にはない優れた特質ではないかと考えている。Antnovsky によると、コヒアレンス感とは人生におけるストレスフルな出来事を理解可能で、処理可能なだけでなく、有意義な出来事として意味づけることのできる信頼感覚である。

園芸作業を通して自然の法則に従って植物が成長する姿を見たり、自分の力と仲間の協力で園芸作業がうまくできたり、世話をすれば、植物はそれに応えてくれるという実感を得たりすることで、信頼感覚を回復することができるのではないだろうか。実際に園芸療法に参加した人の様子を観察していると、ひとりで、あるいはみんなで、楽しみながら園芸作業をすることが理屈ぬきで健康増進に寄与するということが了解できるものである(ただし、そのことを客観的に実証し、そのメカニズムを科学的に解明するのは容易ではない)。

8.おわりに

千葉大学環境健康フィールド科学センターでは、東洋医学の実践を核にしながら園芸療法を始めとして、薬膳療法や環境健康教育といった園芸健康資源を活用した様々な試みを推進することにより、国民の健康増進に貢献しているところである。東洋医学と園芸療法を融合する試みはまだ緒についたところであるが、今回の講演がこれからの農医連携を考えるうえで少しでも参考になるところがあれば幸いである。
農・環・医にかかわる国内情報 7:早稲田大学 先端科学・健康医療融合研究機構:ASMeW
早稲田大学では、スーパーCOEとして「先端科学と健康医療の融合拠点の形成」が推し進められている。これは、先端科学と健康医療の融合を目指す医工連携プロジェクトである。生命医療工学(BME)とスーパーオープンラボ(Super Open Laboratory)という二つの組織が核になった機関だ。先端技術・健康医療融合機構(Consolidated Research Institute for Advanced Science and Medical Care, Waseda University)と称している。

大学内外の研究交流の窓口として機能する組織が、「BME(Biomedical Engineering:生命医療工学)インスティテュート」だ。この大学では予防医学、健康医学、さらに福祉までも含めた医療をサポートする様々な技術開発に向けた研究が行われている。これらの技術・研究を融合するため、また、これまでの研究単位や研究対象を学外の研究機関と連携・拡大するために、このBMEを活用する。まさに、新しい医工連携を構築しようとしている。

「先端科学技術を支える人材の不足」と「若手研究者のキャリアパスの不足」を解消するために構築された組織が、文理融合型の人材教育システム「スーパーオープンラボ」だ。科学技術の将来を担う人材を育成するOJT(On the Job Training)と、ORT(On the Reserach Training)の場として機能するのがSOLだ。

さらに若手研究者の中から、先端科学技術の特定分野に優れ、同時に周辺分野の素質も併せ持つ卓越した人材「スーパー・テクノロジー・オフィサー(STO)」の輩出を目指している。STOの候補者となる博士研究員(ポスドク)は、SOLにおいて研究に携わる一方で、技術経営や知的財産権の知識も身に付け、研究開発の推進能力や指導的能力を磨いていく。

先端科学・健康医療融合研究機構では、研究組織として、1)ナノ・IT医療、2)医療ロボティクス、3)医療計測、4)分子医療、5)機能再生医療、6)健康医療、7)生命倫理科学、8)MOT・知財の8つの領域を設定している。

学外との連携を見ると、東京女子医科大学との連合大学院、静岡がんセンター・東京大学医科学研究所などの客員教員、ハーバードメディカルスクール、スタンフォード大学、韓国科学技術院、北京大学、テルアビブ大学などとの連携が図られている。
続・鳥インフルエンザ:ワクチン
この稿は、「情報:農と環境と医療 8号」の「鳥インフルエンザ」の続編で、北里生命科学研究所副所長でウイルス感染制御第1研究室長の中山哲夫教授にお願いし、寄稿していただいたものである。

はじめに

毎年、インフルエンザは流行を繰り返し、流行年度には、老齢者を中心に超過死亡が増加することから、2002年より一部個人負担で老人へのインフルエンザワクチンが勧奨接種のワクチンとして推奨されている。また、乳幼児の脳炎・脳症がインフルエンザに関連していることが明らかとなり、インフルエンザの重要性の認識が高まりつつある現状である。

ヒト型インフルエンザだけでなく、1997年に香港でH5N1トリ型インフルエンザに18人が感染し、6例が死亡したことは記憶にあたらしく、H5N1およびH7N7のトリ型インフルエンザがあらたに問題となった。アジア諸国においてH5N1は家禽に感染し重大な問題となっただけでなくヒトにも感染し、動物のウイルスが宿主を超えて人の社会にも拡大してきたのである。

更に近年では、東南アジアだけの問題と思われていたH5N1トリ型インフルエンザが、トルコから東ヨーロッパにまで拡大した。これまで、タイ、ベトナム、カンボジア、インドネシアを中心に170例以上が感染し、92例が死亡している(2006年2月19日現在)。新たに抗インフルエンザ薬として抗ノイラミニダーゼ剤のリレンザおよびタミフルが使用され、迅速診断キットの普及などと併せてインフルエンザを取り巻く環境は様変わりしてきた。

しかしながら、耐性ウイルス株の出現の危険性から抗インフルエンザ剤の乱用は控えるべきであり、ここでは、予防の観点からインフルエンザワクチンの有効性と問題点を考えてみたい。

1.抗原連続変異(drift)と不連続変異(shift)

インフルエンザウイルスは、N蛋白の抗原性の違いによってA, B, Cの3種類のウイルス亜型が存在する。C型が流行することはなく、現在流行している型は、A型のA/H1N1と A/H3N2および B型インフルエンザである。これらは、ヒトに感染を繰り返すことで遺伝子の変化を蓄積し、抗原の連続変異(antigenic drift)をおこし、同じ流行年でも大きく変異することもある。昨年度流行した株をもとにワクチン製造株とするが、ワクチン株の抗原性からずれてくる原因は抗原連続変異にあり、抗原連続変異はA型でもB型でも認められる(1,2)。

インフルエンザウイルスは8分節RNAウイルスであり、2種類のウイルスが細胞内重感染し各分節相互間で遺伝子を取り換え再結合が生じた結果、新型インフルエンザウイルスが誕生する。これはA型に起こり、抗原不連続変異(antigenic shift)と呼ばれ世界的大流行を来す原因となってきた。

A型インフルエンザはヒト以外にも豚、馬、鳥、アザラシと自然界の多くの動物に感染することができる。特に、豚はヒトのインフルエンザも鳥インフルエンザも両方のウイルスが感染することから、豚の中で遺伝子の再結合がおこると考えられてきた。

ウイルス粒子表面には、hemagglutinin (HA)とneuraminidase (NA)の2種類の糖蛋白があり、HAはウイルス粒子と細胞のシアル酸レセプターとの吸着・膜融合に、NAは感染性ウイルス粒子が出芽するときに働き、共に感染に重要な役割を担う蛋白である。現在まで、A型のなかでヒトに流行してきたのはHAにH1, H2, H3の3種類、NAにN1, N2の2種類が存在する。

トリ型インフルエンザには、HAがH1~H16までの16種類、NAはN1~N9までの9種類が存在する(1,2)。トリ型ウイルスは直接にヒトへは感染しないと考えられている。ブタにはヒト型とトリ型の両方が感染し、再結合が起こると新型ウイルスとして登場する。1918年にスペインかぜ(H1N1)、1957年にアジアかぜ(H2N2)、1968年に香港かぜ(H3N2)、1977年にソ連かぜ(H1N1)が出現した。香港かぜは、それまでヒトに流行していたアジアかぜ(H2N2)とトリ型のH3が遺伝子再結合したものと考えられている(1,2)。B型インフルエンザは、ヒト以外に宿主がないことから不連続変化はおこさず、世界的な大流行になることはない。

1977年のソ連型は、その流行規模から登場の初期に新型の可能性が疑われたが、抗原的には従来のH1N1とおなじ抗原性を示した。ヒト型以外のH7N1, H5N1および H9N2が、過去に何度かヒトに感染した報告がある(3,4,5)。とくに1997-1998年には、香港においてトリ型インフルエンザH5N1の出現が報道され注目された。感染が確認された18例中に6例の死亡例が報告され、世界中がその動向に注目した。

幸いにも、トリ型がヒトへ直接感染し、さらにヒトからヒトへ感染する可能性は極めて低いことが解り、感染源と考えられた鶏を一斉処分し、その後の新患者は報告されなかった(5)。しかし2004年になって高病原性トリ型インフルエンザが山口と京都の養鶏場に流行し、大量の鶏が死亡した。

わが国では幸いヒトへの感染事例はなかったが、ベトナム、ラオス、東南アジア全体に流行し、ヒトへの感染例も報告され、トルコ、ルーマニア、ヨーロッパにまで拡大している(3,6)。他にもオランダの養鶏場でH7N7の流行があり、養鶏場の従業員と家族を対象に調査が実施された。その結果、RT-PCRで89例がH7N7感染と証明され、78例は結膜炎、2例がインフルエンザ様、5例は両方の症状を呈していた。感染者の家族にも結膜炎症状が認められ、ヒト‐ヒト感染の可能性が示唆され、流行期間中に養鶏場を訪れた57歳の獣医師が急性呼吸不全で死亡している。この死亡例から分離されたウイルスは、polymerase B II遺伝子に変異が認められている(7)。

2.インフルエンザのサーベイランスとワクチン株の選定

毎年インフルエンザは流行し、数年毎に大流行する。流行の主流はH3N2で、H1N1もしくはB型と混在流行を起こす。最近では、特に1997/98年に大規模な流行が起こった。抗原連続変異により生じたAシドニー(H3N2)が流行し、インフルエンザ様疾患の報告は全国で約120万人であったが、昨年の2004/05シーズンは過去10年のうちでは最も大規模な流行であった。

次年度のワクチン候補株を選定するときの参考材料として、世界の4カ所の研究所で毎年のインフルエンザウイルスを分離し、流行株の性状を解析している。2002/03シーズンはAH1/New Caledonia, AH3/Panamaおよび B/山東(Victoria型)が製造され、流行株はAH3および B共にワクチン類似株であった。2003/04のワクチン株には変更がなかった。

しかし2003/04シーズン流行株は、AH3/Wyomingおよび B/山形タイプが分離された。2004/05シーズンのワクチンは前年度流行タイプが製造された。2004/05シーズンは3種類のウイルスが混在流行し、AH1とBはワクチン類似の抗原性を持つウイルスであったが、AH3/CaliforniaおよびNew Yorkタイプでワクチン株のAH3/Wyomingとは抗原性がずれていた(8)。

2004/05シーズンでは、アメリカで分離されたインフルエンザウイルスの性状が報告されている。AH1が11株、AH3が709株およびBが355株、合計1075株が分離された。このうちAH1はワクチン株類似の抗原性で、AH3の553(78%)株がワクチン株と抗原性がずれていた。B型の355株中264(74.4%)株がワクチン類似の山形型であった。

2005/06シーズンのワクチン株は、前年度主流行株が使用されている。B型に関して分離株の中に抗原変異を認める株や、Victoria型も分離されているので注意が必要である。

3.インフルエンザワクチンの歴史

インフルエンザの罹患者は学童に多く、学童が家庭内にその流行をもたらすために、社会のインフルエンザをコントロールするには、学童のインフルエンザをコントロールすればよいと考え、1962年から学童を対象にインフルエンザワクチンを集団義務接種してきた。

しかしながら、ワクチンを接種してもインフルエンザに罹患し、社会全体のインフルエンザのコントロールはできなかった。ワクチンの副反応もあり、インフルエンザワクチンの評価は低下し、1987年からワクチン接種に際しては個人の意向を考慮するよう指導がおこなわれ、ワクチン接種率が低下してきた。

また、1994年の予防接種法改正により任意接種のワクチンとなり、更にその存続が危うくなった(9)。一方、欧米諸国においてインフルエンザによる死亡例は老人に多いことから、老人を対象にワクチン接種を推進し、とくにアメリカでは65歳以上の老人を対象に毎年インフルエンザワクチンを接種してきた(10)。

わが国では、今まで老人にインフルエンザワクチンを接種する発想がなかったが、老人の施設内流行に対処するために、インフルエンザワクチンが急遽脚光を浴びてきた。老年人口が増大の一途をたどり、医療費の増大から、ワクチンによる重症化予防効果と医療費削減を目的として、2002/03のシーズンから、インフルエンザワクチンが一部公費負担により老人に勧奨接種されるようになった。

4.インフルエンザの合併症

インフルエンザは通常1~4日の潜伏期間の後、突然の高熱、咽頭痛、全身倦怠、咳嗽で発症する。二峰性の発熱を認めたりするものの、1週間程度で軽快する。近年インフルエンザの経過中に急激に意識障害、痙攣で発症するインフルエンザ脳症が注目されている。インフルエンザは5歳未満が全体の80%を占め、発熱から急激に痙攣と意識障害が進行し、致命率は20%前後である。30%前後の罹患者は重篤な後遺症を残している(11,12)。

インフルエンザ脳症は炎症所見に乏しく、インフルエンザウイルス遺伝子がPCRで脳から検出される報告もあるものの、すべての症例に検出されるわけではない。ウイルスの直接侵襲ではなく、TNF-α、IL-6などのサイトカインの過剰反応によるのではないかと考えられている(13)。発症機作の解明は今後の課題である。

インフルエンザは、インフルエンザ脳症だけでなく多くの合併症を併発する。インフルエンザウイルス感染により気管支粘膜上皮細胞が脱落し、繊毛運動が低下することとウイルスが白血球膜のシアル酸に結合し、白血球機能の低下に伴う細菌の混合感染による肺炎の合併、とくに多剤耐性のMRSAのなかで毒素産生株の感染に注意しなければならない(14)。

他に、中耳炎、副鼻腔炎、クループ、呼吸器症状が多く、心筋炎、不整脈の循環器疾患、熱性けいれん、ギラン・バレー症候群、ライ症候群などの神経系疾患の他にも筋炎、ミオグロビン尿症(腎不全)を起こすことが知られている(1)。

5.リスク(危険性)とベネフィット(便益性)

毎年CDC(Centers for Disease Control:米国疾病管理センター)からインフルエンザワクチン接種を推奨する対象者を含め、その年のインフルエンザ対策の指針が報告され、2004/05シーズンのインフルエンザ対策が発表されている(8)。インフルエンザに感染することで合併症を起こす頻度の高いハイリスク群は65歳以上の老人、老人ホーム収容者、慢性疾患で入院している患者、気管支喘息を含めた慢性肺疾患、心血管系疾患、糖尿病、慢性腎疾患、免疫抑制剤などの使用による免疫不全者、アスピリン服用児、インフルエンザ流行時に妊娠後期をむかえる妊婦があげられている(8)。

そして、こうしたハイリスク群にウイルスを持ち込む可能性の高い医療スタッフにも、ワクチン接種が推奨(recommendation)されている。2003/04のシーズンから、インフルエンザの流行時期には乳幼児の入院が増加することから、6-23ヶ月の乳幼児とその家族にもワクチン接種が奨励(encouragement)された。2004/05からは乳幼児とその家族も勧奨の対象となっている。

今までインフルエンザは、「かぜ症候群」と同じように考えられてきたが、その重要性は最近になってようやく認識されるようになった。残念ながら、わが国ではインフルエンザワクチンに限らず、potential risk and benefit(ワクチン接種を受けないで感染し合併症を起こし健康な生活を損なう危険性:リスクと、ワクチン接種により受ける便益性:ベネフィットと副反応)の考え方が定着していない。

このため、わが国ではどの合併症がどのくらいの頻度で起こり、入院がどのくらいの割合なのかというようなデータがない。インフルエンザに関連したアメリカの入院のデータによれば、人口10万あたり5-44歳が20-30例と最も低く、0-4歳の乳幼児と65歳以上の群で入院の頻度が高くなる。喘息等慢性呼吸疾患や心疾患の基礎疾患を持つハイリスク群では、入院の頻度は数倍から10倍高くなる(8)。

インフルエンザワクチンに含まれるAH1、AH3、BのHA抗原量は、2000/2001年から各株15μg/dose(ドース:ヒトや動植物に投与する薬物の量)に決定された。アメリカでは、健康成人で毎年1回接種することにより1週間後から抗体が上昇し、有効な抗体レベルは70%において翌年まで維持できることが報告されている(15)。成人および老人での抗体反応はほぼ良好なものであるが、乳幼児では抗体反応は弱く、またB型については総じて抗体反応は低いことが知られている。

インフルエンザワクチンの効果は有効性の評価をどこに設定するかで変わってくる。インフルエンザワクチンを接種してもインフルエンザに罹患し、ワクチンの効果に疑問が持たれた。肺炎を合併したり入院に至る重症化の予防、死亡を予防する意味では80%の有効率であるといわれている(8)。

文献的に報告されているインフルエンザワクチンの有効性に関する論文からレビューすると、インフルエンザ様疾患の予防については56%、肺炎の予防には53%、入院の予防には50%、死亡の予防には68%の有効性があるとまとめられている(16)。インフルエンザ様疾患、入院例のなかには総てがウイルス学的に検証されたものではなく、インフルエンザウイルス以外の原因のものも含まれ、ワクチン効果が希釈されて低い結果を示すようになる。

6.インフルエンザワクチンの製造と問題点

ワクチンの果たす役割は大きく、世界的流行の危機にはワクチンを外国からの輸入に頼ることができないので、いざというときに備えて国内需要分をまかなう必要がある。ワクチンは国民の健康を守るための武器である。加えて、日本国内を見据えるだけではなく日本のワクチンはアジアの人々を守る観点が必要である。

1950年からのわが国の人口動態とワクチン製造量を調べた。1950年には15歳以下の小児人口が3000万人を占めていたが、1998年になると老年人口が小児を上回り2000万人を超した。1960-70年代は学童に集団接種を行い、2500万ドースのワクチンが製造されていた。

ところが、インフルエンザワクチンの効果に対する疑問とワクチン全般に対する不信感から接種率が激減し、生産量も減少してきた。1994年の予防接種法の改正によりワクチンの接種が任意となった1995年には、各メーカーあわせても50万ドース以下の生産量であったが、重症化防止の観点からインフルエンザワクチンが再認識され着実に生産量は増加し、2005/06シーズンは各社の合計が2500万ドースになった。

ワクチン株は、昨年度の流行株および諸外国の流行状況からWHOにより毎年2月に選定される。日本では、国立感染症研究所により候補株のなかから増殖のよい株が4月頃に決定される。ワクチンは、発育鶏卵しょう尿膜腔にワクチン株を接種し増殖させ、ウイルス液を超遠心分離精製しエタノール処理により発熱などのワクチン接種後、副反応の原因となる宿主由来の脂質成分を分解し、HA抗原画分を採取し、ホルマリンで不活化して製造する。ワクチン製造には発育鶏卵が必要であり、現在の製造レベルで、おおむね3-4個の受精卵で1ドース製造できる。しかしながら、製造に適した受精卵を産むには280日齢ヒナでなければならない。

ワクチンは発育鶏卵から製造されることから、卵アレルギー患者でワクチンを安全に接種できるかどうかが議論の的となる。83名の卵アレルギー児と124名の対照群で、83例中4例はワクチン液で皮内反応が陽性となったが、ワクチンの1/10をまず接種し残りの量を30分後に接種し重症のアレルギー症状を起こすことなく安全にワクチンを接種できたと報告されている(17)。

インフルエンザワクチンの中に混入する卵白アルブミン測定量は0.5-3ng/mlであり、この量は理論的にはアレルギー反応を起こさない量である。発熱などの全身反応は極めて稀で、副反応として、数%に接種部位の発赤および腫脹が出現し、また違和感などの局所反応が10%前後みられる(18)。

われわれは北里研究所で製造されたワクチンの副反応調査を続けている。この結果、麻疹、風疹、ムンプスワクチン接種後のアレルギー反応は、ゼラチンアレルギーであり、DPTの中に微量に混在したゼラチンが感作の原因であったことが明らかとなった。このため、各社のDPTからゼラチンが除かれアレルギー反応の頻度は激減した(19,20)。

インフルエンザワクチンに関しては1999年から老人のワクチンとして見直され、接種対象者が増加し、今までワクチンをしたことがない医師が接種する機会が増えたことから副反応を起こす報告が増加したが、その後は安定してきた。インフルエンザワクチンは、100万~200万回の接種の機会に1例の頻度でアナフィラキシー反応(注1)があるとの報告があるが、卵アレルギーやゼラチンアレルギーでもなくその原因を特定できない。生ワクチン接種後にみられたゼラチンアレルギーの症状とは異なり、蕁麻疹などの発疹はなく、血圧低下の循環系ショックが認められる。

1976/77の流行年にアメリカで製造したブタ型A/New Jergyワクチンが接種された後、ギラン・バレー症候群の出現頻度がワクチン接種を受けていない群からの発症率を上回っていた。それ以降の調査では、ワクチン接種後のギラン・バレー症候群発症の相対リスク(relativerisk)は1.7で、100万人の中でワクチンを受けていない群からの発症より1例多く発症する程度と報告されている(21)。

北里研究所で1994-2004年に製造したすべてのワクチンの市販後の調査によれば、接種後に報告された重篤な副反応例の頻度は、約6700万接種機会のうち脳症、ADEM(acute disseminated encephalomyelitis:急性散在性脳脊髄炎)(注2)、GBS(ギラン・バレー症候群: Guillan-Barre syndrome)(注3)などの重篤な副反応の頻度は、0.2/100万接種機会以下であり、500万接種機会に1例以下の頻度であることがわかった。これらの重篤な副反応が、ワクチン接種と因果関係にあるかどうかは確定していないが、麻疹ウイルス野生株、エンテロウイルスの感染が証明された例もあり、その他の紛れ込みの可能性も高い。

抗ノイラミニダーゼ剤の抗ウイルス薬が開発され、予防薬としての使用が認可されている。しかし、抗ウイルス剤の乱用は耐性ウイルスの出現に拍車をかける可能性があるので、抗ウイルス剤はあくまでも治療薬とし、予防はワクチンで行うべきである。現在、H5N1の全粒子不活化のパンデミック用のワクチンの治験が始まりつつある。

注1)アナフィラキシー反応:ある抗原が体内に取り込まれ、記憶されることによって生じる急激な拒絶反応。アレルギー反応の中で急速で激しい症状を呈するものをいう。

注2)ADEM:ウイルス感染などの際に稀に発生する脱髄と炎症を伴う中枢神経の病気。ワクチンとの関連も指摘されているが、ステロイド剤などの治療により完全に回復する例が多く、予後は比較的良好とされている。

注3)GBS:末梢の運動神経に障害がおこり、急に手足のしびれや筋力が低下して手足が動かなくなる(四肢の運動麻痺)などの症状を呈する病気。多くの場合、発病の1~2週前に、先行してかぜの症状や下痢などの症状を伴う。

引用文献
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2003年以降の鳥インフルエンザのヒトへの感染状況
WHOによると、鳥インフルエンザ(H5N1型)のヒトへの感染は、東南アジアを中心に広がり続けている。2006年2月19日現在、7か国170人以上の感染者が確認されている。うち死者は92人に達した。国別に死者の数を整理した。

ベトナム(42)、インドネシア(19)、タイ(14)、中国(8)、カンボジア(4)、トルコ(4)およびイラク(1)である。
ナイジェリアで鳥インフルエンザウイルスH5N1型が確認される 
アフリカのナイジェリアで、新型インフルエンザへの変異が懸念されている強毒性の鳥インフルエンザウイルスH5N1型が確認された。世界保健機関(WHO)などが危機感を募らせている。アジアに端を発したインフルエンザが、その後、中東、ロシア、欧州に波及したことは、すでに「情報:農・環境・医療8号」で報告した。ついに、被害拡大が懸念されるアフリカ大陸に到達した。

WHO事務局長の李鍾郁は、2月9日に「すべての国に危険があり、すべての国が対策を講じる必要がある。ナイジェリアだけでなく近隣諸国への感染拡大が懸念される」と強い警告を発した。これは、ナイジェリアで既に感染が拡大しているためである。

AFP通信によると、8日に感染が確認された同国北部カドゥナ州ジャジ村の養鶏場に続き、ほかの2州3か所の養鶏場でも感染が見つかった。いまのところアフリカではヒトへの感染は確認されていないが、カドゥナ州の養鶏場の近くに住む4ヶ月の乳児と4歳の男児にせきや高熱などの症状が現れている。

WHOが懸念するのは、住民が家禽類と接触する頻度の高い小規模農家への感染拡大である。小規模農家では、鳥から人へのウイルス感染の危険性が高い。人への感染が仮に発生した場合、医療・衛生体制が脆弱(ぜいじゃく)なこの国では、早期診断が困難である。ナイジェリアはアフリカ一の人口を抱え、WHOのポリオ撲滅プロジェクトの展開でも際立った遅れをみせているので、この国での拡大は心配されている。

昨年前半、相次いで東南アジア諸国を襲った鳥インフルエンザは、夏にはロシア、カザフスタンへ広がり、秋にはトルコやルーマニアでも確認されている。イラク、北キプロスへも波及し、今回のナイジェリアへと、渡り鳥の越冬ルートに沿うように拡大している。

今後、次に示す世界中の渡り鳥の飛行ルート(黒海地中海ルート、東大西洋ルート、東アフリカ西アフリカルート、中央アジアルート、東アジアオーストラリアルート、太平洋アメリカルート、ミシシッピーアメリカルートおよび大西洋アメリカルート)と、鳥インフルエンザとの関連を追跡する研究が重要になるであろう。

参考資料

1) 読売新聞:2006年2月11日
2) 産経新聞:2002年2月14日
Agromedicine を訪ねる(2):Journal of Agromedicine
以下のことは、「情報:農と環境と医療10号」ですでに書いた。「農医連携」という言葉は、生命科学全般を思考する北里大学で新しく使用しはじめたものだ。それに相当する英語に、例えばAgromedicine がある。1988年に設立された The North American Agromedicine Consortium (NAAC) は、Journal of Agromedecine という雑誌とニュースレターを刊行している。この雑誌の話題には、農業者の保健と安全性、人獣共通伝染病と緊急病気、食料の安全性、衛生教育、公衆衛生などが含まれる。

今回は第2回目として、Journal of Agromedicine の第3巻の目次を紹介する。

第3巻1号(1996)

● Farming: Occupation or Non-Specific Risk Factor?
● Barriers to Skin Cancer Screening Follow-Up in Farmers
● Use of a Priority Rating Process to Sort Meatborne Zoonotic Agents in Beef
● The Effect of the Type of Respondent on Risk Estimates of Pesticide Exposure in a Non-Hodgkin's Lymphoma Case-Control Study
● Travel and the Emergence of Infectious Diseases
● AGROMEDICINE MEETING HIGHLIGHTS
Highlights of the 11th British Pest Control Association Conference, Hammersmith,London, U.K. June 18-21, 1995
● Agromedicinal Highlights of the Children and Adolescent Rural Injury Control Conference, Madison, Wisconsin, age Range: 73 - 76
● Agromedical Highlights of the Institute of Food Technologists 1995 Annual Meeting
● Agromedicinal Highlights of the Risk Assessment Issues for Sensitive Human Populations Conference
● BOOK REVIEW Saeed U. Rehman MD, Haworth Continuing Features Submission

第3巻2号(1996)

● Five Basic Concerns for a State-Based Agromedicine Program
● Trying to Get Smart: Progress in Safety Assessment
● Atrazine and/or Triazine Herbicides Exposure and Cancer: An Epidemiologic Review
● The Global Effects of Volcanic Eruptions on Human Health and Agriculture
● Reactivity to Imported Fire Ant While Body Extract in Allergic Patients with No History of Insect Sting Allergy
● Familial Clusters of Green Tobacco Sickness
● AGROMEDICINE MEETING HIGHLIGHTS
Highlights from the Multiple Chemical Sensitivity: Issues for Science and Society,State-of-the-Science Symposium, Baltimore, MD, October 30-November 1, 1995
● Highlights from the First Pennsylvania Meeting of the Agromedicine Consortium,The Pennsylvania State University, State College, PA, October 19-20, 1995
● AGROMEDICINE MEETING HIGHLIGHTS
Highlights from the Georgia Agricultural Safety and Health Summit Meeting, Georgia Farm Bureau, Macon, GA, September 1, 1995

第3巻3号(1996)

● Environmental Estrogens as a Cause for Breast Cancer: Theory or Fact?
● Psychological Barriers to Agricultural Reform in Russia Limit Access to Adequate and Diverse Nutritional Resources
● Anhydrous Ammonia Injuries
● Fraudulent Pesticide Injury: Value of the Work Site Visit
A Preliminary Analysis of Health Information Obtained from Agriculture Producers at Commodity Meetings
● A Survey of Respiratory Symptoms in a Farming Population in Northeastern Colorado
● Mapping the Future of Farm Animals
● BOOK REVIEWS:Ricky Langley MD, MPH, Scott Hartshorn MD, Haworth Continuing Features Submission

第3巻4号(1996)

● The Latest Antidote for Writer's Block: Artificial Intelligence?
● Contract Blindness in the Developing World: Is There a Solution
● A Survey of Personal and Occupational Health and Safety Training for US and Canad ian Veterinary Schools
● A Case Study of Brown Recluse Spider Bite: Role of the Community Pharmacist in Achieving a Successful Outcome
● Ticks Removed from Dogs and Animal Care Personnel in Orangeburg County, South Carolina
● The California Pesticide Program: Comments from the Front Lines
● AGROMEDICINE MEETING HIGHLIGHTS
Agromedical Points from the 1996 Epidemic Intelligence Service Annual Meeting, At lanta, GA, April 22-26, 1996
本の紹介 14:昭和農業技術史への証言 第四集▼西尾敏彦編、昭和農業技術研究会、農文協、人間選書 262 (2005)
現代農業技術が成立していく過程を、人物中心に描いてきた「証言」の第四集が発刊された。編者は、昭和31年に農林省に入省し、四国農業試験場、九州農業試験場、熱帯農業研究センターなどで水稲・テンサイなどの研究に従事した経験があり、その後、農林水産技術会議事務局で振興課長、首席研究管理官、局長など研究管理を歴任した経験もある幅の広い元研究者である。

第一集は、稲作に関する多収技術や直播栽培などの研究者5人が、先駆者の研究の足跡を証言したものであった。第二集では、バイオ研究の土台を築いた5人の研究者が、バイオ野菜「ハクラン」を創出するまでの苦闘が語られた。第三集は、農業に「節」を見出し、新たな農業の躍進に貢献した5人の研究者の物語であったる。

今回の第四集は畜産、動物衛生、昆虫および植物ホルモン分野の5人の証言である。第1話は正田陽一氏による「"新牛乳"論争をめぐって」である。ここでは、優れた研究の典型を観ることができる。第2話は、山田豊一氏の「黎明期の草地研究」である。ここでは、第1話の背景にあった戦後の飼料作物・草地研究の道のりを伝えている。第3話は、熊谷哲夫氏の「豚コレラのワクチン開発とその撲滅」である。ここでは、人と生物と物流の地球規模化に伴う動物防疫の基本論理の形成過程がわかる。次の第4話は、小林勝利氏の「前胸腺刺激ホルモン生物検定系の開発から50年」である。ここでは、科学の展開なるものが、いかに「来し方行く末」をよく見据えなければなし得ないかを教えてくれる。最後の第5話は、「一植物生理学者の米欧研究遍歴」である。ここでは、仮説と検証の醍醐味が味わえる。

なお、各話の後にある質疑・討論コーナーでは、かつての共同研究者や競争相手が参加して、今だからは話せるといった内輪話に花が咲いている。編者のお得意な手法で、これによって研究の話が生き物のように躍動し始める。

ところで、生物と地球は相互に強く影響を与えて進化してきた。これを「共進化」と呼んでいる。46億年の地球の歴史は、表層の地球環境変化と生命史の事件が密接に関連することを教えている。編者の西尾敏彦氏は、この現象を農業にも見いだしたうえに、第一集から第四集に亘って人の問題に焦点を当てている。

農業の歴史をたどってみると、時代の流れにかかわらずその節目節目で技術がいかに大きな役割を果たしてきたかがわかる。時代と技術は共進化しているのである。だが、その技術を創ったのは人である。それにもかかわらず、その技術を創った人は意外に知られていない。編者が書きたかったのは、実は技術よりも技術を創った人たちの「顔」と「想い」であっただろう。編者の人柄が思われる。

昭和農業技術研究会が続き、終われば平成農業研究会へと引き継がれ、第五、第六集が製本化されることを切に願う。
*本情報誌の無断転用はお断りします。
北里大学学長通信
情報:農と環境と医療11号
編集・発行 北里大学学長室
発行日 2006年3月1日