北里大学

農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

16号

情報:農と環境と医療16号

2006/8/1
第2回北里大学農医連携シンポジウムの開催代替医療と代替農業の連携を求めて−現代社会における食・環境・健康−
北里大学では農医連携の教育と研究を目指し、平成17年5月1日から「北里大学学長室通信 情報:農と環境と医療」を毎月刊行している。また平成18年3月10日には、「第1回北里大学農医連携シンポジウム‐農・環境・医療の連携を求めて‐」を開催し、「農医連携」にかかわる情報を全国に先駆けて発信している。

第1回のシンポジウムに関しては、「情報:農と環境と医療」の9、11、12および13号に詳しく紹介している。また当日の講演は、農医連携シンポジウムのページ(http://noui.kitasato-u.ac.jp/spread/symposium/)から、オン・デマンドで観ることができる。さらに、このシンポジウムの成果は、平成18年10月に養賢堂から刊行される予定である。

続いて、第2回農医連携シンポジウムを上記の表題のもとに開催する運びになった。開催日時、開催場所、開催趣旨および講演プログラムは以下の通りである。

開催日時:平成18年10月13日(金)13:00~17:30

開催場所:北里大学白金キャンパス 薬学部コンベンションホール

開催趣旨

21世紀の予防医学が掲げる課題には、リスク評価・管理・コミュニケーション、疾病の発生予防、健康の質の増進などがある。これらの医学分野における課題に対して、農学分野がどのように連携できるかという今日的な問題の解決にとりくむことは、社会の要請に応えるうえで極めて重要である。

20世紀の技術知が生んだ成果のなかには、われわれが生きていく21世紀の世界に、農医連携の科学や教育が不可欠であることを示唆するものがいくつかある。病気の予防、健康の増進、食品の安全、環境を保全する農業、癒しの農などは、その代表的な事象であろう。医食同源という言葉があるにもかかわらず、これまで農医連携の教育や科学はそれほど強調されなかった。

医と農はかつて同根であった。そして現在でも類似した道を歩いている。医学には代替医療がある。農学には代替農業がある。前者は、西洋医学を中心とした近代医学に対して、それを代替・補完する医療である。後者は、化学肥料や農薬を中心とした集約的農業生産に対して、これを代替・補完する農法である。いずれも生命科学としての特徴を共有している。また、21世紀に入り医学はヒトゲノムの、農学はイネゲノムの塩基配列を解読する全作業を完了している。

今回のシンポジウムの目標は、現代医学や現代農学のみでは治まりきれない問題を、伝統医学や代替医療あるいは代替農業の面から再び見直し、改めて農と医についての相互理解を深め、両者の具体的な課題について検討することにより、連携の糸口を見いだすことにある。また農医連携の実例の一つとして、すでに北里大学でおこなわれている「環境保全型畜産物の生産から病棟」までの流れを紹介する。

講演プログラム

挨拶 柴 忠義:北里大学長
  1. 代替医療と代替農業の連携を考える
    陽 捷行:北里大学教授
  2. 代替医療‐その目標と標榜名の落差について‐代替基礎医学講座教授
    山口宣夫:金沢医科大学大学院
  3. 代替農業‐その由来とねらい‐
    久馬一剛:京都大学名誉教授
  4. 代替医療のevidenceについての科学的解明
    山田陽城:北里大学附属北里生命科学研究所長
  5. 環境保全型農業について
    熊澤喜久雄: 東京大学名誉教授
  6. 環境保全型畜産物の生産から病棟まで
    萬田富治:北里大学獣医畜産学部教授
総合討論 座長:山田陽城・陽 捷行

連絡先:〒228-8555 相模原市北里1丁目15番1号 北里大学学長室
 古矢鉄矢・田中悦子(noui@kitasato-u.ac.jp
Tel:042-778-9765 Fax:042-778-9761
北里大学農医連携委員会の設置
北里大学が提案している「農医連携」の科学・教育・研究をさらに推進し、実効あるものにするため「北里大学農医連携委員会」が7月21日に設置された。提案された目的、業務、構成、任期などは以下の通りである。

目 的: 農医連携の主題となる食・環境・健康をめぐる現代的な課題の解決に向けた教育・研究等の取り組みを推進し、広く社会の要請に応える。

業 務: 次に掲げる事項について報告書をとりまとめ、学長に報告する。また、以下に定める実務については、学長の承認を得てこれを行う。

(1) 農医連携の科学に対する視座の策定
(2) 農医連携の展開方向及び役割分担の策定
(3) 前号による研究会、シンポジウム等の企画立案、実施
(4) 農医連携に関わる教育の企画立案
(5) 農医連携に関わる研究プロジェクトの企画立案、実施
(6) 農医連携に関わる研究・環境リスク評価の策定
(7) 農医連携の普及促進
(8) 農医連携教育研究機構(仮称)の組織化
(9) その他、農医連携に関わる重要事項

構 成: 委員7名以上

(1) 農医連携担当副学長
(2) 学事担当理事
(3) 薬学部から選出された者 1名
(4) 獣医畜産学部から選出された者 1名
(5) 医学部から選出された者 1名
(6) 水産学部から選出された者1名
(7) 医療衛生学部から選出された者 1名
(8) 学長が推薦する者 若干名

部 会: 教育、研究等の部会を置くことができる。

任 期: 委嘱された日より、平成21年6月30日まで。

事務局: 北里大学学長室

設置日: 平成18年7月21日

近日中に学長から委員の委嘱がある。それに伴って早速、第1回委員会が開催される予定である。学内の皆様のご支援、ご協力を切にお願いする。
平成18年版食料・農業・農村農業白書が刊行された
平成18年版食料・農業・農村白書が刊行された。農政改革について、国民の関心が高まるよう、新たな基本計画に基づく主要な施策と取り組んできた課題や状況が記述されている。白書の内容は大きく4点に絞られている。

4つのトピックスから始まる。まず、「食料・農業・農村基本計画に基づく農政改革の取り組みの加速化」と題して、平成17年3月に設置された「新たな食料・農業・農村基本計画」の基本的視点と施策の具体化が説明される。次に「WTO農業交渉への取組」についての経緯と今後の見通しが語られる。つづいて、新規需要の創出や農業・食品産業の強化を図るための「知的財産の活用等の推進と革新的技術の開発・普及」が説明される。最後の「少子高齢化・人口減少局面での食料・農業・農村の動向~団塊世代に着目~」では、定年退職を迎える団塊世代の経済社会に与える影響などに注目している。

「第1章:望ましい食生活の実現と食料の安定供給システムの確立」の主旨は、食の安全や国民の健康の増進、食料の安定供給のための生産から消費までの取組の重要性を明らかにすることにある。ここでは、食の安全及び消費者の信頼確保の取組、食育・地産地消の推進、食料産業の動向・食料自給率の向上、EPA/FTA交渉などについて、分かりやすい解説がある。

「第2章:地域農業の構造改革と国産の強みを活かした生産の展開」の主旨は、消費者ニーズにこたえ、やる気と能力のある担い手を育てる取組の重要性を明らかにすることにある。ここでは、認定農業者・集落営農等担い手の育成・確保、「品目横断的経営安定対策」の取組、国産の強みを活かした生産・農産物輸出の取組の推進、環境保全を重視した農業生産の推進、需要に即した生産の推進などについて、絵図入りの親切な解説がある。

「第3章:農村の地域資源の保全・活用と活力或農村の創造」の主旨は、農地・農業用水等の資源や環境の保全と質的向上、都市と農村の共生・対流を促進する取組の重要性を明らかにすることにある。ここでは、農村資源の現状と「農地・水・環境保全向上対策」、バイオマスの利活用、地域資源を活用した農村経済の活性化、都市と農村の共生・対流の促進などについて、事例を紹介しながらの解説がある。

この冊子の斬新な点は、これまでの白書には見られなかった環境を通した農と医療の連携にかかわる事象が取り上げられていることである。

例えば、第1章の「食生活の現状と食育の推進」の「食と健康・医療とのかかわり」では、食生活のあり方が健康の保持や今日的な医療との問題と結びつけられている。また第3章の「都市と農村の共生・対流の取組」では、千葉大学環境健康都市園芸フィールド科学センターの事例が取り上げられ、「園芸・植物」の効用を活かした環境健康社会の形成に着目した取組が紹介されている。さらに、保健機能食品としての「健康食品」の必要性、「食育」を目標とした教育、医療、保健、農業などの関係者の連携の強化の必要性が強調されている。白書に記載されているいずれの課題も、それらの問題を解決するためには農と医の連携が不可欠であろう。

話は白書から横道に逸れる。日本近代医学の父とも呼ばれる北里柴三郎は、明治11年4月「医道論」を草稿した。北里はその中で、予防医学とその普及の必要性を熱く説いている。漢文調で書かれた原文は格調高く、青年らしい悲憤慷慨と進取の気象に富む思いが読みとれる。北里柴三郎が25歳のときである。

この「医道論」の最初の部分に、医道についての信念が書かれている。「昔の人は、医は仁の術、また、大医は国を治すとは善いことをいう。医の真のあり方は、大衆に健康を保たせ安心して職に就かせて国を豊に強く発展させる事にある。人が養生法を知らないと身体を健康に保てず、健康でないと生活を満たせる訳がない・・・・・人民に健康法を説いて身体の大切さを知らせ、病を未然に防ぐのが医道の基本である。」

医学原論の大家である澤瀉久敬(おもだかひさゆき)は、彼の著書「医学概論とは」(1987)で概ね次のようなことを語っている。

医学とは何を研究するのか。生命の哲学ではない。医の倫理でもない(ただし、医学概論のひとつではある)。医道論だけでもない。医学は、物理的な生命現象だけでなく精神現象も考慮する。単に自然科学とだけ考えるのではなく、社会科学でもなければならない。病気を治す学であり術である。病気の治療と予防に関する学問であるだけでなく、健康に関する学問でもある。これは、単に健康維持の学問であるばかりでなく、すすんで健康を増進する学問でもなければならない。

澤瀉久敬と北里柴三郎の著書は、いずれも医学は病気の治療・予防、健康の維持・増進、精神の面を含めて解決にあたるべき学問だと指摘している。これを満足させるためには、人びとの生活の基である食(農)と環境を健全かつ安全に保つことがきわめて重要である。先人は、食と環境が健全でなければ健康はありえないことを指摘しているのである。

現在に目を転ずれば、われわれ社会が直面しているさまざまな事象、すなわち鳥インフルエンザ、ニュートリゲノミクス、動物媒介感染症、気候変動と健康影響、機能性食品、環境保全型農業、残留性有機汚染物質(POPs)、環境・植物・動物・人間と過剰窒素、コーデックス(Codex)、動物介在療法などは、いずれも農と環境と医に関わっている。

このことは、現代社会が直面しているさまざまな問題を解決するには、農と環境と医の連携が必要であるという人びとの認識や自覚、さらには連携を達成するための社会の構造やシステムが必要であることを意味する。白書に農医連携にかかわる項目が掲載されたのも時代の潮流なのである。
農・環・医にかかわる国内情報:8.ILSI Japan
国際生命科学協会(International Life Sciences Institute, ILSI)は、1978年にアメリカで設立された非営利団体である。これに対応して日本では、特定非営利活動法人日本国際生命科学協会(ILSI Japan)が1981年に設立されている。ここでは科学的な視点で、健康・栄養・安全・環境に関わる問題を解決し、正しい理解を目指すとともに、今後発生する恐れのある問題を事前に予測し、これに対応していくための活発な活動を行っている。

またILSIは、健康・栄養・安全・環境に関連する研究の実施・支援を行っている。その成果は学術シンポジウムや出版物を通じて、全世界に公表されている。また非政府機関(NGO)として、世界保健機構(WHO)や国連食料農業機関(FAO)とも密接な関係を保っている。

ILSI本部のもとに、日本をはじめとし15の地域支部と環境保健科学研究所(ILSI HESI)がある。本部には研究財団と健康推進協力センター(ILSI CHP)がある。研究財団には、ヒューマン・ニュートリション研究所(ILSI HNI)と、リスク・サイエンス研究所(ILSI RSI)が設置されている。

ILSIの会員数は400人に及び、世界規模で活動している。長期間を必要とする基礎的な研究課題は、主として研究財団の研究所および環境保健科学研究所が担当する。各研究所では、それぞれの分野における科学者の協力を得て、世界的視野に立った研究テーマを決め、優れた研究者に研究を委託している。また地域に特有な課題への対応は、世界に広がる地域支部が担当している。

ILSI Japanの目的

ILSI Japanは最新の信頼ある科学に基づいて、日本人ならびに世界の人々の栄養と健康の増進、食の安全の確保、環境の改善に寄与することを目的としている。また、健康、栄養、食品安全、環境にかかわる科学的課題について、解明と普及啓発のための事業を行っている。

ILSI Japanの活動を次に示す。
(1)保健、医療または福祉の増進を図る活動 
(2)社会教育の推進を図る活動
(3)環境の保全を図る活動
(4)国際協力の活動
(5)子どもの健全育成を図る活動
(6)以上の活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言または援助の活動

ILSI Japanの事業は次のとおりである。
(1)調査研究の実施
(2)調査研究成果の発表
(3)科学情報の普及・啓発 
(4)国内外の関連機関との交流・連携
(5)出版物の発行

ILSI Japanの組織の一部

総会と理事会のもとに、ライフサイエンス研究委員会と食品機能性研究フォーラムがある。前者には、食品安全・栄養・健康表示・バイオテクノロジー・糖類・茶類・栄養強化の研究会がある。後者には、機能性食品ゲノミクスと機能性評価基準グループがある。

主な学術シンポジウム

● 国際会議
栄養とエイジング国際会議(1991年);栄養とエイジング国際会議(1995年)
栄養とエイジング国際会議(1999年);栄養とエイジング国際会議(2003年)
バイオテクノロジー国際セミナー(1988年);
バイオテクノロジー応用食品国際シンポジウム(1994年)
国際シンポジウム 糖質(Glycemic Carbohydrate)と健康(2001年)
油脂で創る健康(2003年);耐熱性好酸性菌国際シンポジウム(2003年)
ILSIニュートリゲノミクス国際会議(2005年)
油脂で創る健康―最新の油脂研究と栄養行政の新しい動き(2005年)など

● 国内シンポジウム
食生活の変化と情報(1990年);化学物質の安全評価(1996年);
砂糖をどう評価するか(1996年);水の安全性(1997年);
科学情報を消費者にどう伝えるか(1997年);食生活指針(1997年);
機能性食品(1998年);茶と健康の最先端(1998年);ヘルスクレイム(1998年)
FAO/WHOバイオテクノロジーと食品安全(2000年);茶と健康(2000年)
遺伝子組換え食品の安全性(2001年);身体活動の増進とヘルスプロモーション(2002年)
リスクアナリシス・ワークショップ(2002年);機能性食品開発 (2003年)など

● セミナーシリーズ
奈良毒性病理セミナー(1982年~1999年);おいしさの科学フォーラム(1996年~2000年);(社)日本栄養士会共催セミナー(1996年~):

なおこの項の情報については、北里大学医学部衛生学公衆衛生学の佐藤敏彦助教授から頂いた。記して謝意を表する。
スギ花粉症緩和米の研究開発
遺伝子組換えによる育種

農学を志した先達は、作物の生産性向上と品質向上を目途に品種改良を繰り返してきた。生産性向上には、収穫量を上げる、病気や害虫に抵抗性を付ける、短期間で収穫を上げる、寒さや暑さに強くする、乾燥に耐える、倒れにくくするなどの要因が含まれている。品質向上には、味を良くする、栄養価を上げる、有害成分を減らす、貯蔵性をよくするなどの要因が含まれる。

農学の中でもとくに育種学を志した先達は、この分野で輝かしい業績を挙げてきた。例えば、イネの祖先の野生種から様々なイネを開発し、今では超多収型の近代品種が数多く生まれている。何代もの品種改良を経た野生のキャベツは、今ではケール、芽キャベツ、ブロッコリー、コールラビー、キャベツ、カリフラワーに変身し、われわれの食卓を賑わしている。

このように育種学を学んだ先達は、人間が望む形質の遺伝子を数多く持つ植物の品種改良に汗を流してきた。

従来の育種は綿々と品種改良を続けてきた。が、近年新たに遺伝子組換えによる育種が登場した。従来の育種は、交配という手段によって望ましい遺伝子を集めてきた。新しい遺伝子組換えによる育種は、遺伝子組換え技術を使って望ましい遺伝子を追加しようとするものである。

上述した生産性向上と品質向上という目的は、従来型も組換え型も全く同じである。さらに、植物がもともと持っていた遺伝子とは異なる遺伝子をもつ植物を作るという行為も、まったく両者は同じなのである。

遺伝子組換え作物の栽培状況

新しい技術によって、遺伝子組換え作物(GMO: genetically modified organism)は世界の栽培状況を一変させた。今では、アメリカ、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、中国などで遺伝子組換え作物が栽培されている。全世界の作付け状況をみると、1996年は176万haにすぎなかった面積が、2000年に4,420万ha、2003年には6,770万haに拡大された。最も新しい統計の2005年には、9,000万haにまで面積が増大している。

国際アグリバイオ事業団(ISAAA:International Service for the Acquisition of Agri-biotech Applications)のホームページには、近年の主な栽培国の状況が掲載されている。そのデータから、遺伝子組み換え作物の国別の栽培状況を引用させてもらう。以下、国名:栽培面積(ha)・対前年比・栽培作物:世界栽培と国内比など、の順に記載する。

アメリカ:4,760万・+11%・大豆・トウモロコシ・ワタ・ナタネ:59%
アルゼンチン:1,620万・+17%・大豆・トウモロコシ・ワタ:20%、国内大豆ほぼ100%
カナダ:540万・+23%・ナタネ・トウモロコシ・大豆:6%
ブラジル:500万・+66%・大豆:6%
中国:370万・+32%・ワタ:5%、国内ワタ総栽培面積の66%

パラグアイ:120万・大豆:2%、国内大豆総栽培面積の60%
インド:50万・5倍・ワタ:上位8ヶ国中、対前年比最大の伸び
南アフリカ:50万・+25%・トウモロコシ・大豆:ワタ1%、国内ワタ総栽培面積の85%
ウルグアイ:30万・5倍・大豆・トウモロコシ:国内大豆総栽培面積のほぼ100%
オーストラリア:20万・2倍・ワタ:国内ワタ総栽培面積の80%
ルーマニア:10万・大豆

メキシコ:10万・ワタ・大豆
スペイン:10万・+80%・トウモロコシ
 フィリピン:10万・2.5倍・トウモロコシ
 コロンビア:<0.5万・ワタ
 ホンジュラス:<0.5万・トウモロコシ
 ドイツ:<0.5万・トウモロコシ

主要な組み換え作物の栽培割合

先のISAAA報告書には、世界の4つの主要な遺伝子組換え作物の栽培面積の割合が示されている。遺伝子組換え大豆の総面積(5,440万ha)は、世界の大豆栽培総面積(9,100万ha)の60%、遺伝子組換えトウモロコシ(2,120ha)は、トウモロコシ栽培総面積(14,700ha)の14%、遺伝子組換えナタネ(460ha)は、ナタネの総栽培面積(2,600ha)の18%、遺伝子組換えワタ(980ha)は、ワタの総栽培面積(3,500ha)の28%を占めている。

組換え体作物の新しい活用場面

1996年に最初の遺伝子組換え作物が商業化され、2005年に世界の遺伝子組換え栽培面積は9,000万haに達したことは既に述べた。この面積は、日本の耕地面積の20倍の広さに相当する。いま世界で栽培されている遺伝子組み換え作物の大部分は、農作物の生産性向上を目指したものである。

ところが最近では、食品としての機能性を高めるために、また医薬品の生産のために、さらには汚染された環境を浄化するために新しい形の遺伝子組換え体植物の開発も進んでいる。いずれの組換え体植物も、これまでの育種の手法では育成することはできないものである。そのような組換え体植物のひとつに、(独)農業資源生物研究所で研究が進んでいる「スギ花粉症緩和米の開発研究」を紹介する。詳しくは、(独)農業資源生物研究所のホームページを参照されたい(http://www.nias.affrc.go.jp/

花粉症とは

わが国の人口の15%にあたる約1700万人が、花粉症に悩まされているといわれ、その数は年々増加の一途を辿っている。そのうえ、花粉に対する抗体をもつ花粉症予備軍と考えられる人の割合は、スギ花粉だけを取ってみても60%近くに達している。特に若い人に多いことが知られている。

花粉症とは、植物の花粉が鼻や目、のどの粘膜に接触することで引き起こされるアレルギー症状のことである。主な症状に、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどがある。春先に大量に飛散するスギの花粉が原因だとするものが多いが、ヒノキ、ブタクサ、マツ、イネなど他の植物の花粉によるアレルギーを持つ人もいる。

日本で花粉症といえば「スギ花粉」であるが、一般的にはアメリカではブタクサ、ヨーロッパではイネ系の花粉による花粉症が多い。イギリスなどのヨーロッパ各地では、170年ほど前からイネ科植物の花粉症が知られており枯草熱(hay fever)と呼ばれていた。アメリカでは、全人口の5~15パーセントがブタクサ花粉症に悩んでいる。日本で最初に報告されたのはブタクサ花粉症であった。1964年にスギ花粉症が発見され、1976年春の大発生以来、何度も繰り返し発生が続いている。

免疫反応

われわれの体には、免疫反応という防衛反応がある。免疫の役割は、体の中に入ってきた細菌やウイルスなどの異物を「自分とは違うもの」と見分けて排除すること、さらにその異物が次にやってきた時にすばやく対応できるよう、その異物を覚えておくことである。こうした異物を抗原(アレルゲン)といい、抗原と結びついて抗原を排除する物質を抗体と言う。

花粉が鼻に吸引されると、花粉は異物であるから上述した免疫のシステムが稼働する。血液中のリンパ球は、花粉を抗原としてそれにあった抗体を作る。この抗体は肥満細胞に付着して、次に同じ抗原が訪れた時には、いつでも働けるような状態にスタンバイされる。次に抗原が訪れると、抗原は肥満細胞の持っている抗体に付着して、肥満細胞からさまざまな炎症を起こす化学伝達物質を出させる。この化学伝達物質が鼻に働き、くしゃみ、鼻水、鼻づまり現象を起こし、花粉を鼻の外へ押し出そうとする。

こうした免疫反応は、身体にとって有害なものを排除するというのが本来の目的であるから、われわれの体にとってなくてはならない重要なものである。ところがこの反応が過剰になり、それほど害のない異物に大きく反応してしまうのが、花粉症などのアレルギー反応である。

花粉症の治療法

花粉症の治療には、予防的治療、対症療法および減感作療法とがある。予防的治療とは初期療法ともいわれ、花粉が飛散する季節の少し前から症状を抑える薬(抗アレルギー薬)を服用し始め、そのままシーズン中も継続する方法である。花粉が飛び、症状がひどくなってからでは、薬は効きづらい。しかし軽いうちに薬を使い始めると、花粉が多くなった時期でも症状を制御しやすく、その季節における症状を軽くすることができる。

対症療法とは花粉が飛散する季節に入り、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状がでたとき、その症状をやわらげる治療法である。花粉症は毎年ほぼ同じ時期に起きるから、早目に医者に掛かり初期療法を行えば症状を和らげることができる。広い意味での対症療法であるから完全な予防はできない。花粉症の期間中、薬を飲み続けなければならない。花粉が少ないからといって飲むのをやめたり飲み忘れたりすると、症状が悪化する。

花粉症自体を治す治療法に減感作療法がある。「減感作」とは、体の中にできた花粉に対する抗体を減らし、過剰なアレルギー反応がでないようにするという意味である。具体的には、原因となっている抗原(花粉)を少しずつ増やしながら注射していく治療法である。簡単に言えば、徐々に抗原に慣れさせ最終的にはアレルギーが起こりにくい体質に変えていこうとする療法である。

治療に2~3年間の期間が必要であるが、対症療法とは異なり、アレルギーを治すことが可能である。スギ花粉症の場合、患者に対する有効率は約60~70%といわれている。しかし、治療に長期間を要すること、注射量の加減の見極めが必要なこと、注射を受けるため通院が必要なこと、さらにまれに副作用があることから、必ずしも普及しているわけではない。

スギ花粉症緩和米の開発

上述した治療に比べ、もっと簡単で安全な花粉症治療の方法はないだろうか? こうした要望に応えるため、農業生物資源研究所は遺伝子組換え技術を利用したスギ花粉症緩和米の開発に取り組んだ。

この研究所の研究者が目指しているスギ花粉症治療法は、毎日の食事にスギ花粉症緩和米を使用することにある。食事による摂取は注射による接種に比べればはるかに簡単で、長期にわたって何度も通院する必要もない。薬と違って飲み忘れもないから、患者にとって負担の少ない治療法だと考えられる。

遺伝子組換えといっても、米の中にスギ花粉を作り出すことはできない。そこで、研究者は花粉の抗原決定基(エピトープ)の部分に注目した。エピトープとは、花粉抗原蛋白質の一部分であって、T細胞というリンパ球によって抗原であることの認識に使われる部分のことを言う。スギ花粉症緩和米では、いくつか(7個)のエピトープを米の中で作らせ、減感作療法と同じように食事を通じて花粉が入ってきたとT細胞を錯覚させようとしたわけである。抗体はT細胞の指令によって産生されるので、T細胞の反応が弱まり、抗体の産生が阻止される結果アレルギー反応が抑えられる。

また、スギ花粉症緩和米はエピトープしか体に入らないから、花粉全部を使う減感作治療法に比べると、体への負担や副作用が少ない。したがって緩和米の活用は、効果の高い治療法と考えられる。なお、エピトープは、10個から20個ぐらいのアミノ酸がつながったものである。スギ花粉症緩和米とは、このエピトープを米の中で作らせるようとしたものである。

スギ花粉症緩和米の効果

農業生物研究所では、花粉症を抑えるのに十分だと考えられる量のエピトープを米粒の中にだけ作るイネの開発に成功した。マウスに食餌実験を行った結果、緩和米は通常米よりも花粉症を引き起こす抗体を70%減らす効果があった。こうしたことから、スギ花粉症緩和米はこれまでより簡便な花粉症治療法として役立つ可能性があると研究所の研究者たちは考えている。

なお、現在はこのスギ花粉症緩和米が食品として、あるいは作物として安全であるかの確認実験が続いている。毒性、発ガン性、他の作物への影響などの研究が、医学関係者との間で現在進行中である。

こうしたさまざまな研究が続けられ、すべての懸念や問題点が解決できたとき、初めてスギ花粉症緩和米は簡単で安全な花粉症治療法の1つとして、世に出ていくことであろう。ここにも、農と環境と医の連携が欠かせない潮流を見ることができる。

なお、この項については、(独)農業環境技術研究所の岡三徳コーディネータおよび(独)農学生物資源研究所の高岩文雄遺伝子組換え作物開発センター長にご意見をうかがった。記して謝意を表す。

参考資料
  1. 農業生物資源研究所ホームページ:http://www.nias.affrc.go.jp/gmo/simple.html
  2. ウィキぺディア:http://netjinsei.com/wikipedia/000034.html
  3. 農林水産省農林水産技術会議事務局技術安全課ホームページ:http://www.s.affrc.go.jp/docs/anzenka/index.htm
本の紹介 18:感染爆発−鳥インフルエンザの脅威−、マイク・デイヴィス著、柴田裕之・斉藤隆央訳、紀伊國屋書店(2006)
世界保健機関(WHO)に報告されたヒトの高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)感染確定症例数および死亡例数は、2003年から2006年7月20日現在まで、それぞれ合計230名と133名で、致死率は58%に達した。

一方WHOの報告によれば、この5月にインドネシアで家族・親類合計7人が鳥インフルエンザ(H5N1型)に感染し、そのうち6人が死亡した。この事例に各国の感染症専門家が「ヒトからヒト」への感染の可能性を懸念している。WHOの調査によれば、ヒトの間での世界大流行が心配されるようなウイルス変異は検出されていないという。

2003年から2006年7月20日までの鳥インフルエンザによる死亡者数を見てみよう。2003年:3人、2004年:32人、2005年41人である。2006年は5月24日ですでに124人に達している。2006年の詳細な死亡者数は、1月14日:78人、1月26日:87人、3月24日:104人、4月21日:113人、5月24日:124人、5月30日:128人、7月14日:132人。7月20日133人である。これは、まことに幾何級数的な増加である。これらの数値から、この先の数を予想するのは専門外の筆者でも難くない。この幾何級数的な増加に、多くの研究者が行く先の現象に多大な関心をもっている。

このような状況の中で出版されたのが、ここに紹介する本である。著者は、アメリカのカリフォルニア建築大学で都市論を教えている Mike Davids。 原題は「The Monster at our Door」で2005年に発刊されている。わが国で翻訳された「感染爆発‐鳥インフルエンザの脅威‐」は、2006年3月に出版された。

この本は、動物と人間の新型インフルエンザの発生や機構を時系列にそって、科学的に解説した分かりやすいものである。そのうえ、それぞれの国で発生した事件を物語風に解説するスタイルをとっているので、内容がさらに興味深く読める。さらに、26ページにわたる文献を含めた334点の原注と、新型インフルエンザ簡略年表が最後に付記されている。これらは、原文に戻って事実を確認したいとき、きわめて有益な資料となる。

もっとも衝撃的な内容は、鳥インフルエンザで想定される死者の数である。「最善のシナリオ」は死者5000万人、「最悪のシナリオ」は死者10億人という数字を想定している。現在は、新型インフルエンザ発生の嵐の前夜であることをこの本は強く警告している。内容をおおまかにまとめると、次のように整理される。

インフルエンザウイルスは、鳥や豚など動物の間を渡り歩きながら、様々に変異する。それらの動物と人間が接触することで、ウイルスが人へ伝播され、体内でさらに変異して、新種のヒト・インフルエンザウイルスが生まれる。

一般に、人間は新種のウイルスに対する免疫を持っていない。したがって、このウイルスの毒性が強ければ、さらに多くの犠牲者を生むことになる。ほかの多くの本でも紹介されているが、20世紀初めに流行したスペイン風邪とよばれるインフルエンザは、その典型である。世界で数千万人、日本でも数十万人が犠牲になった。

現在の状況は、スペイン・インフルエンザ当時より悪いと解説している。今では、あのころとは比較にならないほど動物同士の接触密度が高いからである。工場化された豚や牛の飼育では、複数のウイルスが同時に出会い、融合して変異するスピードが格段に早まる。

実は、新型ウイルスを生み出しやすい状況はわれわれが作りだしているのである。これに加えて、さらに悪い条件は物流のスピードである。航空機の利用によって、新型ウイルスが人を通じて世界中に広がるのに、ほんの数日もかからない。大都市の人口密度も拡散を促進している。日本の通勤ラッシュは世界でも最も有効な感染の場となるであろう、と著者は語っている。

われわれの側にも大きな問題が数多くある。経済優先の国策や大企業の姿勢も問題の一つである。国の情報操作、大企業による隠蔽工作、利益が少ないワクチンから手を引く製薬会社の姿勢など、感染を防止するどころか、逆にインフルエンザを広げる方向に働いた衝撃的な事実が数多く紹介される。

最後にこの本の特徴を強調したい。それは、通常の本ではきわめて指摘の少ない環境の問題である。鳥インフルエンザは、環境の問題を抜きにしては考えられない。ここでは、このことが問題として取り上げられているのである。熱帯林の伐採により、人間と野生動物の接触する機会が急増したこと、温暖化による洪水に伴い家禽の排泄物が押し流され感染が拡大したこと、土壌侵食が進んで、都市の住民と家畜がより密接に接触するようになったこと、などが紹介されている。農も医も単独では存在していない。常に、環境がその基にある。

いずれにしても、毒性の強いH5N1型というタイプの鳥インフルエンザが、現在、鳥の中で蔓延していることに間違いはない。これがヒト型に変異するのは時間の問題であり、その時間を短縮させ、危機を招いているのは、他ならぬわれわれ人間の仕業であることをこの本は明らかにしている。農と環境と医療の連携を考えるうえで、きわめて貴重な一冊である。

目次は以下の通りである。
  1. 進化の高速車線
  2. 貧困が拍車を掛ける
  3. 間違った教訓
  4. 香港の鳥
  5. ややこしい話
  6. パンデミックの不意打ち
  7. 魔の三角地帯
  8. 疫病と金儲け
  9. 絶望の淵
  10. 国土「非」安全保障
  11. 構造的矛盾
  12. タイタニック・パラダイム

なおインフルエンザについては、学長室通信「情報:農と環境と医療」でも注目し続けて、これまでも次の情報を提供している。参照されたい。● 鳥インフルエンザ(8号-2p)、 ● 続・鳥インフルエンザ:ワクチン(11号-7p)、 ● 2003年以降の鳥インフルエンザのヒトへの感染状況(11号-13p)、 ● ナイジェリアで鳥インフルエンザウイルスH5N1型が確認される(11号-13p)、 ●農・環境・医療の連携の必要性(13号-6p)、● 本の紹介 16:感染症は世界史を動かす(13号-12p)。
本の紹介 19:食品の裏側−みんな大好きな食品添加物−安部 司著、東洋経済新報社(2005)
表紙帯の大見出しに「知れば怖くて食べられない!」とあるこの本の副題が、「みんな大好きな食品添加物」とは?このことは、「第6章:未来をどう生きるか」で明らかにされる。表紙帯には、○廃棄寸前のクズ肉も30種類の「白い粉」でミートボールに甦る ○コーヒーフレッシュの中身は水と油と「添加物」だけ ○虫を潰して染めるハムや健康飲料、と強烈な文字が躍る。

裏表紙帯の「安さ、便利さの代わりに、私たちは何を失っているのか」という見出しは、哲学的思考が希薄になった現在のわれわれに何かを訴える。読み進むと分かるのだが、それらは食品添加物の真実と食品の裏側、食品添加物の光と影、つくる人・売る人・食べる人の絆、食の壊れによる生命への尊厳喪失、食を軽く見た文化の衰退などを意味する。この本は単なる「食品の裏側」の話ではなく、大げさに言えば、わが民族の行く末の物語でもある。

この本の目次は次の通りだ。
はじめに
序章:「食品添加物の神様」と言われるまで
第1章:食品添加物が大量に使われている加工食品
第2章:食卓の調味料が「ニセモノ」にすりかわっている?!
第3章:私たちに見えない、知りようのない食品添加物がこんなにある
第4章:今日あなたが口にした食品添加物
第5章:食品添加物で子供達の舌が壊れていく!
第6章:未来をどう生きるか
おわりに
加工食品のウソ・ごまかしを見抜く「安部式」添加物分類表

「はじめに」では、食品添加物の現場で働き、食品製造の「舞台裏」を眺めてきた筆者の「生き証人」としての告発がなされる。

最初は「白い粉」。数十個の「白い粉」だけで、トンコツスープが出来る話にまず驚かされる。著者は主張する。毎日、3回にわたって欠かさず自分の体の中に入れる「食品」にもかかわらず、それがどうやってつくられているのか、その「裏側」でどのような添加物がどれほど使われているのか、それについて私たちは何も知らない、どう食品がつくられているかも誰も知らない、と。

例えば、コーヒーに入れているミルクが、水とサラダ油と添加物だけでできていること、サボテンに寄生する虫をすりつぶして染めた「健康飲料」を飲んでいること、「体のため」と買って食べているパックサラダが、「殺菌剤」のプールで何度も何度も消毒されていること、ミートボールが、大量の添加物を使って再生された廃棄寸前のクズ肉だということなど。

しかし、食品添加物の危険性だけを騒いでも意味がないという。われわれは間違いなく添加物の「恩恵」も受けている。そのことは誰でも知っている。添加物は、われわれに「安さ」、「手軽さ」、「便利さ」を提供している。添加物があってこそわれわれは豊かな生活を送っているのだ。

者は「添加物の翻訳者」として、添加物の「光」と「影」を、食品添加物の「真実」を、食品の「裏側」をわかりやすく解説するという。

上の文章にも見られるように、この本の特徴として「カッコ書き」の言葉が多用される。それは、専門用語であったり、専門の裏用語であったり、これまでの定義とは異なるものであったり、筆者の思いを理解してほしいカッコ書きであったりする。このカッコ書きをよく考えて読まなければならないのがこの本の特徴だが、あとは簡易で極めて分かりやすいものだ。

参考までに、8ページの紙面を使っている「はじめに」に、上の文章のカッコ書き以外の例をあげる。それは、「調合」「スープ」「殺菌剤」「これは比較的安全」「これは危険」「毒性のレベル表」「害悪」「添加物=毒性」「事実」「食品」「添加物の情報公開」などだ。

序章は、大学で化学を学んだ筆者が食品添加物の仕事に従事したときから、食品添加物の会社を辞めるまでの話だ。日本一の添加物屋になることを夢に、朝4時から起きて現場で働く。食品添加物が誰でも喜ぶ魔法の粉だと信じて、さまざまな食品会社にさまざまな添加物の利用を教授・指導する。極めつきは、食品添加物で新しい食文化をつくるとの思いまで抱くのだ。

どこまで本当かは知らないが、著者はいつしか「歩く添加物辞典」、「食品添加物の神様」、「困ったときの安部頼み」などと呼ばれ、「添加物アドバイザー」としての名を高らしめる。食品添加物はまさに「魔法の粉」。食品添加物を使えば、すべて面倒な工程、技術など不用で、簡単に一定の品質のものができると、有頂天の極に達する。

ところが、紙の表には必ず裏があるように、食品添加物にも「光」の部分があるのに対して、必ず「影」があることに気づくときがくる。その日は、長女の3回目の誕生日にやってくる。お祝いのミートボールだ。本来なら産業廃棄物となるクズ肉を、添加物を大量に投入して「食品」に仕立て上げたもの、それが誕生祝いのミートボールだった。

「端肉」(牛の骨から削り取る肉とも言えない部分)に廃鶏(卵を産まなくなった鶏)のミンチ肉を加え、増量し、ソフト感を出すために「組織状大豆たんぱく」をくわえた「人造肉」。この「人造肉」が、ミートボールのベースで、これに、「ビーフエキス」、「化学調味料」、「ラード」、「加工でんぷん」、「粘着剤」、「乳化剤」、「着色料」、「保存料」、「pH調整剤」、「酸化防止剤」が加えられ本体が完成する。

これにソースとケチャップを絡ませて完了。ただし、このソースは氷酢酸をうすめ、カラメルで黒くし、「化学調味料」を加えて作る。ケチャップは、トマトペーストに「着色料」で色づけし、「酸味料」を加え、「粘菌多糖類」でとろみをつけ作りあげる。

自分の愛する子供に、このミートボールを食べさせるわけにはいかなかった。娘の誕生日に、自分も自分の家族も消費者であることに気づく。そのときから、彼の人生は変わった。自分の「生涯の仕事」は何かがおかしい。軍事産業と同じではないか。武器を売って懐を肥やす「死の商人」と同じではないかなどと思い煩い、過去の自分を恥じ、「目覚めて」、「添加物の翻訳者」たらんと努力を始めたのだ。

そのために、「食についての情報公開」が必要と説く。情報が公開されていれば、何を選ぶかは消費者の自由だからだ。このような過程を経てこの本はできあがる。

第1章は、題名どおり大量に食品添加物が使われている加工食品の現実だ。製造会社によって若干の違いはあるが、例えば「明太子」には、無添加の明太子に比べれば13種の添加物が含まれている。明太子に使われる化学調味料の量は、総重量の2~3%だ。ちなみに、海水の塩分は3.4%だ。

100kgの豚肉から120から130kgのハム、「プリンハム」が出来る。「雑巾ハム」とも「水増しハム」とも呼ばれる「プリンハム」には、加熱すると固まる「ゼリー」が注入される。この肉用ゼリーの原料は主に大豆や卵白だが、乳たんぱくや海草抽出物なども使われる。その他、低塩梅干し、高塩梅干し、漬け物などへの添加物が紹介される。無添加のたくあんに比べ、一般のたくあんには、11種の添加物が余分に含まれているという。

添加物の紹介をしながら、消費者に常に「素朴な疑問」をもつことを勧め、「添加物の複合摂取」の危険性を指摘する。

第2章の主張はこうだ。食卓への「しょうゆ風調味料」など「風」の登場が、日本の食文化を崩壊させる。このことを醤油、酒、塩、酢、砂糖などの例をあげて解説する。ここでは、醤油についてのみ紹介する。この「風」は、醤油を始め酒などなべて同じなのだ。

この項を書いている筆者は、日本の食文化の特徴のひとつが、醤油の発明にあると思っている。これによって、食材一つ一つを上手に調味する技術が生まれた。韓国の食文化のように混ぜて味を調味する文化ではない。わが国における醤油は、その意味できわめて大切な文化の源なのだ。

昔ながらの本物の醤油は「丸大豆しょうゆ」と呼ばれる。これに対して「しょうゆ風調味料」は「新式醸造しょうゆ」と称されて売られる。

本物の醤油の原料は、大豆と小麦、塩と麹だ。酵素が大豆や小麦のタンパク質をアミノ酸に、澱粉を糖分に変える。これが醤油のうまみの素だ。手間と時間がかかる。できあがるまでは一年以上の月日を費やす。

「しょうゆ風調味料」は、大豆などのタンパク質を塩酸で分解してできたアミノ酸をベースとして、これに「グルタミン酸ナトリウム」、「甘味料」、「酸味料」、「増粘多糖類」、「カラメル色素」、「保存料」を添加してつくったものだ。古来からわが国で造られてきた醤油ではないのだ。

食卓の調味料が、このように「ニセモノ」にすり替わっているのが現状なのだ。酒しかり。塩しかり。酢しかり。砂糖しかり。

第3章では、われわれに見えない、そのうえ知りようのない食品添加物のことが解説される。ミルクや生クリームが一滴も使われていないコーヒーフレッシュ。「一括表示」の裏に隠された添加物の数々。一括表示とは、いくつかの添加物を一括して表示することだ。「香料」や「乳化剤」など、同じ目的のために使われるのであれば、一括して表示していいと食品衛生法で定められているからだ。

例えば、食品の変質や変色を防ぐ「pH調整剤」には、4~5種類の添加物が含まれる。同じような表示に「香料」、「調味料(アミノ酸等)」、「イーストファイブ」など全部で14種類がある。その他、「表示免除」、「キャリーオーバー」、「加工助剤」などの添加物の表示が不要な食品があるのだ。

第4章では、独身サラリーマンN君と、主婦F子さんが今日一日摂取した添加物の種類と量が推定される。N君は軽く60種類を超える添加物を、F子さんは60~70種類の添加物を摂取しているのだ。

この数は、決してN君とF子さんだけが特別に添加物を多く摂取しているのではない。日本人の多くが、添加物を知らず知らずのうちに口に入れているのだ。

第5章には、著者が最も懸念する大きな課題が書かれている。たんぱく加水分解物が子どもの舌を崩壊させる、という問題だ。うまみのベースに塩、化学調味料、たんぱく加水分解物の3点セットがある。3点セットの味を覚えた子供は、さまざまな影響を被る。

著者は強調する。「味覚が壊れることも怖い、毒性の問題があることも怖い。しかし、それ以上に化学的につくられた食事によって食卓が壊れていく。それが一番怖い」と。

第6章には、未来に向けた著者の具体的な提案が書かれている。以下は、枚数の関係で簡単に表現する。関心のある方は、是非この本をお読み頂きたい。

食品添加物の複合摂取の問題が盲点だ。しかし、食品添加物のメリットを忘れちゃいけない。この便利な物とどう付き合うか考えよう。食品を選ぶ智慧をつけるため、中学の家庭科教育を促進し、常識を身につけさせよう。そのためには、食品添加物の表示と目的と物質名の関係を理解しよう。食品添加物とは、普通の家庭の台所にないものだ。およそ想像がつかないものだ。

食品添加物と上手に付き合うには、「裏」の表示をよく見て買い、加工度の低いものを選び、どんな添加物が入っているかを「知って」食べ、安いものに飛びつかないで、なぜきれい・なぜ安い・なぜしなびない・なぜ使い放題・「風」とはなに、などの「素朴な疑問」をもつことだ。また、台所にある調味料を減らし、これを自らつくることが添加物を少なくできる近道だ。

食の壊れは、食卓の壊れと不健康な舌を助長させる。調味料などの便利さは、食を簡単なことと思わせ、作物や動物への感謝の気持ちを失わせる。そのことは、命の大切さと尊厳さの不理解に繋がる。命を犠牲にして命をいただく感謝の心を失わせる。食べ物は、育てる人・運ぶ人・売る人があってはじめて食することができることを失念する。

食を軽く見ると、食物のありがたみが分からない。結局は、命のありがたみもわからない。人の命の重さも分からない。簡単に人を傷つける人になる可能性がある。そのために、いただきますという言葉を忘れず、親が料理する姿を子に見せよう。食の大切さをこつこつ10年かけて子供に教え込もう。手伝いと片づけが「食育」につながる。添加物をなるべく避け、手作りの食生活を心がけていけば、子供の舌は変わっていく。お父さんも家事を引き受けることが必要だ。

ものをつくる基準には「法の基準」だけでなく、「まごころ基準」が求められる。自分の年老いた両親に、子供のはじめての離乳食に、安心して食べさせることの出来る食品をつくれ、でないと日本の食文化は滅ぶと著者は語る。

最後にびっくりするデータが紹介される。財団法人福岡都市科学研究所が農業や食に関する安全性の意識と、実際に買い物をする行動とを調査した資料だ。自分が、積極型消費者、健康志向型消費者、無関心型消費者および分裂型消費者のどれに当てはまるかという調査だ。結果はそれぞれ、5.5%、16.6%、23.0%および52.4%だった。著者は言う。「つまり、半分以上の人が、食の安全に関して意識と行動が一致していない」、「いってしまえば、国民の75%が安全性に無関心だということです」、「それは逆の見方をすれば、4人に3人の消費者が農薬や添加物を支持しているということなのです」。あまりにも独断的な表現だが、これがこの本の副題になったのであろう。

いずれにしても、さまざまなことを考えさせる本である。
Agromedicine を訪ねる(4):Journal of Agromedicine
以下のことは、「情報:農と環境と医療 10号」ですでに書いた。「農医連携」という言葉は、生命科学全般を思考する北里大学で新しく使用しはじめたものだ。それに相当する英語に、例えばAgromedicine がある。1988年に設立された The North American Agromedicine Consortium (NAAC) は、Journal of Agromedecine という雑誌とニュースレターを刊行している。この雑誌の話題には、農業者の保健と安全性、人獣共通伝染病と緊急病気、食料の安全性、衛生教育、公衆衛生などが含まれる。

今回は第4回目として、Journal of Agromedicine の第4巻の3/4号の目次を紹介する。

第4巻3/4号(1997)
  • Rapporteur Report: Mental Health
  • Stress as a Risk Factor for Agricultural Injuries: Comparative Data from the Iowa Farm Family Health and Hazard Survey (1994) and the Iowa Farm and Rural Life Poll (1989)
  • Influences on Farm Safety Practices in Eastern Washington
  • Depression and Risk Factors Among Iowa Farmers
  • Safety Practices Among Limited Resource Farmers in North Carolina
  • Health and Safety Issues Relating to Maine's Fishing Industry
  • Rural Counties with Large Meatpacking Firms: Implications for Community Health
  • The Keokuk County Rural Health Study: Methodology and Demographics
  • Rapporteur Report: Injury Control
  • Agricultural Injuries and Illnesses in Texas: Using Bureau of Labor Statistics Pr ograms for Surveillance
  • Occupational Agricultural Injury Surveillance in California: Preliminary Results from the Nurses Using Rural Sentinel Events (NURSE) Project
  • Agricultural Injuries in Norway
  • Risk Factors for Injury in Rural Iowa: Preliminary Data from the Keokuk County Ru ral Health Study
  • Strength Test for Pre-ROPS Tractor Axle Housing
  • ROPS Design for Pre-ROPS Tractors
  • Non-Fatal Tractors Accidents and Their Prevention
  • Child Labor Issues in the International Settings
  • Family Farm Seminars
  • Brief Communication: A Pilot Case-Control Study of Injuries in Farm Children-Focu s on Supervision Issues
  • A Design for Tailgate Safety Training in Ohio
  • An Interdisciplinary Approach to Teaching Community Oriented Primary Care and Agr omedicine to Pre-Health Professions Students Planning Rural Practice
  • Logging-Type Fatalities in the U.S. Production Agriculture Industry, 1980-1992
  • Effect of Dynamics on the Stability Index of Tractors
  • Steps in Meeting the Needs of Kentucky's Migrant Farmworkers
  • Farm Response: An Accident Preparedness Course for Farm Families
  • Communicating Safe Sun Practices to Farm Youth: A Model and Field Test of a Propo sed Curriculum
  • Appendix I: List of Accepted Abstracts for the March 1996 Third Annual NIOSH Agri cultural Health and Safety Conference
  • Appendix II: List of Participants for the March 1996 Third Annual NIOSH Agricultu ral Health and Safety Conference
  • Appendix III: List of Participants for the March 27-29, 1996 International Worksh op on Agricultural Health and Safety
*本情報誌の無断転用はお断りします。
北里大学学長通信
情報:農と環境と医療16号
編集・発行 北里大学学長室
発行日 2006年8月1日