北里大学

北里大学農医連携教育研究センター

21号

情報:農と環境と医療21号

2006/12/1
第2回北里大学農医連携シンポジウムの映像音声と資料画像
平成18年10月13日に開催された第2回北里大学農医連携シンポジウムの映像音声と資料画像は、「農医連携シンポジウム」(https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/symposium/)で見ることができます。
第6回医薬品等ウイルス安全性シンポジウムの開催
日本医薬品等ウイルス安全性研究会主催、日本PDA製薬学会・北里大学協賛で、第6回医薬品等ウイルス安全性シンポジウムが以下の内容で開催される。

開催日時:2006年12月1日(金)
開催場所:北里大学薬学部コンベンションホール

09:30 受付開始
10:00 会長挨拶 山内一也(東京大学名誉教授)
10:10  総会 小長谷昌功(代表幹事)(司会:中山幹男、BMSA)

セッション1 ウイルスの不活化と除去I

座長 岡田義昭(国立感染症研究所)・内田恵理子(国立医薬品食品衛生研究所)

10:30 ウイルスのγ線による不活化:梶岡実雄・嶋崎典子(財・北里環境科学センター)・米山徹夫・岡田義昭(感\染研)・廣庭隆行(社・日本アイソトープ協会)・仁木 保(アルブラスト株)
11:05 国内でのウイルススパイクテストの実施状況:川俣 治(エスアールエル)
11:40 バイオ医薬品の製造に用いる動物由来原料の安全性確保について-"FCSと無血清培地など最新の細胞培養技術から-":渡辺敏夫ロジェン)

セッション2 ワクチンの安全性確保

座長 駒瀬勝啓(国立感染症研究所)・井土俊郎(財・日本生物科学研究所)

13:30 ワクチンに求められること:中山哲夫(北里大学)
14:05 動物用ワクチンのウイルス安全性確保:中村成幸(動物衛生研究所)

セッション3 トピックス

座長 小長谷昌功 (北里大学)

15:00 鳥インフルエンザ-"感染のしくみと対策-":堀本泰介(東京大学医科学研究所)

セッション4 法規制

座長 布施 晃(国立感染症研究所)・浜口 功(国立感染症研究所)

15:35 再生医療とウイルス安全性-"新指針について-":清水則夫(東京医科歯科大学)
16:10 バイオ医薬品/生物薬品のウイルス安全性に関する国際動向:内田恵理子、山口照英(国立医薬品食品衛生研究所)
16:45 閉会の挨拶:檀原宏文(北里大学薬学部微生物学)

問い合わせ:
川俣 治(エスアールエル)kawamata@srl.srl-inc.co.jp
駒瀬勝啓(国立感染症研究所)kkomase@nih.go.jp
第2回薬用植物セミナー「薬用植物による新たな都市農業の創出を目指して」の開催
「情報:農業と環境と医療 2号」で薬学部附属薬用植物園の紹介をした。そこでは、薬用植物園の概要と農医連携の役割について以下のように記述した。

「全地球的な環境破壊による植物資源の消失から貴重な遺伝子資源を守るために、ヒマラヤやアマゾン産などの薬用資源のフィールド調査および栽培条件を検討し、植物組織培養技術による植物遺伝子資源の保存育成法を確立している。各保存植物の評価は、植物形態学的、化学的、免疫薬理学的評価に加えて遺伝子解析法により行っている。」

また、薬用植物園を農医連携のプラットホームとして捉える考え方も次のように記述した。「この薬用植物園は次のような重要なプラットホーム的な役割がある。この役割は、農業と環境と医療を考える上でもっと深く検討する必要がある。1.市民のための医療関係団体との交流、2.薬草を含む「農業と市民農園」の創設、3.入院患者と薬草園の活用、4.薬草資源のインベントリー」

一方、「情報:農業と環境と医療 3号」では「新都市農業推進協定書の締結:北里学園と相模原市」と題して、北里学園理事長(柴 忠義)と相模原市長(小川勇夫)の間で、「新都市農業推進協定」が締結されたことを報告した。

また、「情報:農業と環境と医療 20号」では「北里大学と相模原市の連携による地域産業の活性化に関する協定書」と題した情報を流した。これは平成18年10月10日、北里大学と相模原市が、地域における産業の活性化を図るための協力について協定を締結した情報である。協定書の調印は、北里大学、柴 忠義学長と相模原市、小川勇夫市長の間で行われた。目的や協力事項については上記の情報を参照されたい。

これまでも、「新都市農業推進協定」に基づいて「北里サテライトガーデン見学会」や「第1回薬用セミナー:薬用植物と新たな農への取り組み」が開催されている(詳細、情報:農と環境と医療 7号、8号)。今回は、来る12月9日(土)に「第2回薬用植物セミナー:薬用植物による新たな都市農業の創出を目指して」が開催される。

このセミナーは、昨年6月に本学と相模原市が新たな都市農業の創出を目指して締結した「新都市農業推進協定」に基づき、市民に薬用植物を知ってもらうとともに、新たな農に対する関心を高め、健康・環境・新都市農業を視点とした新しい農業の振興を図るために開催するものである。その開催要領は以下の通りである。

日 時:平成18年12月9日(土)午後1:00~4:30
会 場:相模原市総合保健医療センター(ウェルネスさがみはら)7F 視聴覚室
対 象:一般市民 150名(申込順) 参加費無料
主 催:相模原市(経済部農林課)・北里大学(薬学部附属薬用植物園)

講演プログラム
「代替農業と土の話」 北里大学副学長 陽 捷行 1:10~2:00
「身近な薬用植物 北海道における大規模栽培生産への取組み」
(独)医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター北海道研究部 柴田敏郎
2:10~3:00
「薬用植物栽培・加工体験講座(1年目)の報告」
北里大学薬学部附属薬用植物園 渡邊高志
3:25~4:10
北里大学と十和田市との連携協力-地域振興のための協定を締結-
北里学園・北里大学と十和田市は平成18年10月31日、十和田市役所で地域社会の発展と人材育成に寄与することなどを目的とした「北里学園と十和田市との連携協力に関する協定書」に調印した。産業振興、教育・文化、スポーツ振興、人材育成、町づくりなどの5項目が両者の協力事項である。

教育分野では、北里大学公開講座特別講演を十和田市市民大学講座として共催する。町づくり分野では、各種地域づくり計画などへ北里大学教員を専門家として派遣する。これまでも、すでに今井敏行、萬田冨治、諏佐信行の各教授、杉浦俊弘助教授が参画している。産業分野では、耕畜連携による循環型農業の推進事業、十和田湖和牛およびガーリックポークのブランド化の確立などの連携事業が18年度に行われている。

今後は、大学内の産官学連携委員会と市は連携テーマを探り、必要に応じて生産者や関連団体との意見交換を行う予定である。農医連携に関わるテーマの発掘が期待される。
八雲牧場開設30周年記念式典が開催された
平成18年10月17日午後、北里大学獣医畜産学部附属FSC(Field Science Center)八雲牧場で開設30周年記念式典が、参加者66名のもとに開催された。伊藤 良・記念事業実行委員長の開会に始まり、高瀬勝晤・獣医畜産学部長、柴 忠義・学長、萬田富治・センター長の挨拶の後、川代義夫・八雲町長および嶋田 肇・北里大学同窓会会長(岡田寛紀代理)の来賓祝辞があった。式典の後、八雲牛を食しながらの宴が催された。宴には地元の方々をはじめ、八雲牧場のかつての牧場長ほか多くの職員が参加し、往時を偲ぶ姿がいたるところで見られた。

川代八雲町長の祝辞では、離農が始まった30年前にできた牧場によって、少しでも離農現象が和らげられたこと、この牧場が地域密着型であること、将来も協力して町の発展とともにありたい旨などの思いが語られた。地域密着型である証として、公開講座の参加、町民の訪場、消費者重視、指導的立場、育成牧場へのアドバイスなどがあげられた。

なお農医連携の視点からは、式典の「お礼のことば」の次の文章が印象的であった。「これからは上八雲の気候風土の中で育つ牧草に適した肉用牛の増殖・改良を行い、消費者が安心して食べられる牛肉を提供するという取り組みを更に強化し、北里大学が掲げる農医連携を具現化した畜産物を生産する牧場として、更に発展させるべく努力する所存です。関係各位のご助言、ご支援を引き続き承りますことをお願い申し上げます。」
第2回北里大学農医連携シンポジウムの内容(2)
第2回北里大学農医連携シンポジウムの開催主旨、講演プログラム、挨拶および演題「代替医療と代替農業の連携を考える」については、「情報20:農と環境と医療」で紹介した。今回は、演題「代替医療-その目標と標榜名の落差について-」と、「代替医療と東洋医学-"科学的解明によるevidenceを求めて-"」を紹介する。残りの演題と総合討論については、次号以降に順次紹介する。


代替医療-その目標と標榜名の落差について-

金沢医科大学大学院
 代替基礎医学講座教授
山口 宣夫

21世紀に残された難病である、癌、エイズ、アレルギー、自己免疫病などの多くが、西洋医学の一元的対応では完治せず、それ故、西洋医学以外の症状緩和医療や自覚症状の改善方法が模索されています。このような取り組みを総じて代替医療と呼んでいます。欧米や日本での定義は医科系教育機関で系統講義として実践される医学、医療以外の医療的行為を指しています。このような範疇に入るものは東洋医学を筆頭とする地域伝承医学(Regional Medicine)が全て入ってきます。また、 健康補助食品、温泉浴、アロマテラピー、その他意味不明の内容や、科学的には未検証の内容を除いて、43項目がGOLDBERG B. のバイブル本に記載されています。

代替医療(Alternative Medicine)または補完医療(Complementary Medicine)なる表現は西洋諸国から「東洋医学」等を評した言葉であります。西洋に始まる近代医学を"主"とし、それ以外を"従"とする、アングロサクソン重視の立場がここでも覗えます。代替医療が米国を中心に見直されている背景には、現代医学そのものの行き詰まり状況への反省、治療の限界という現実、これまでの近代西洋科学を基礎とした西洋医学の構築のあり方への疑問ともいうべき要因があります。また現代文明の過剰な発展に対する反作用として、自然回帰傾向が強まっていることもその背景にあると思います。米国の代替医療は玉石混淆です。なかには理解不能なものも含まれています。無批判に取り入れるべきではありません。またそれらと日本の伝統医学である和漢医薬学を同列に扱うことも抵抗があると思われます。

また伝統医学は単に近代医学を補完する治療手段を提供するだけでなく、伝統医学の考え方は近代医学の考え方を変革していく内容と理念に基づいているものもありましょう。言い換えれば、異文化の地にそれぞれ独立した医療体系が存在するわけで、それぞれ補い合ってこそ地球規模の医療理論と実践が可能となるわけです。

補完・代替医学が今後扱う範囲は広く、世界の伝統医学・民間療法はもちろん、保険適用外の新たな治療法をも含んでいます。具体的には、中国医学(中薬療法、鍼灸、指圧、気功)、インド医学、中近東医学、免疫療法、薬効食品・健康補助食品(抗アレルギー食品、免疫賦活食品、各種予防・補助食品など)、ハーブ療法、アロマセラピ一、ビタミン療法、微量元素、食事療法、精神・心理療法、温泉療法、酸素療法等々、全てが代替医学・医療に包含されます。確かに、これらの中には、非科学的であり西洋医学を実践する医師にとっては受け入れ難い内容のものもありますが、作用機構や有効性が科学的に証明されるものが急増しているのも事実であります。

目下、代替医療を正しく評価する方向の活動が欧米主導型で進められています。そのなかで、欧米諸国は代替医療の第一選択肢として東洋医学を上げています。このような背景の下、アジア主導型の国際医療雑誌eCAMが日本の研究者を中心に立ち上げられました。eCAMはこの目的にかなう医療医薬並びに伝承薬食製剤を広く世界各地に求め、西洋医学的に共通した判断基準を駆使して、評価、選択、広報することを目的としております。

また、世界各国に伝承される医学例えば、東洋医学、インド医学、中近東医学などはそれぞれの立場から、自国の医学の長所/正統性を主張しているわけです。これらを共通の尺度で比較できれば、相互の特徴を生かしたハイブリッド医学の展開が可能となりましょう。

新国際誌eCAMは立ち上げの際、代替医療を評価する基準、共通の尺度の候補として免疫学的要素を提案して、世界的な同意が得られています。具体的には末梢の白血球、亜群である顆粒球、リンパ球の量的・質的な内容が評価基準となります。私どもの教室では、免疫学的要素を利用して温泉浴効果、鍼灸治療、音楽療法、運動療法、アロマセラピー効果を証明しています。これらの試みの中で、温泉浴効果は長期の湯治であれば勿論の事、一泊二日にわたる短期の温浴でも充分効果を発揮することを発表しています。

ところで、東洋医学のルーツを省みますと、日本、中国、韓国、台湾がその適格性を帯びてはいます。けれども、いずれの国も、東洋医学発祥の時点から欠落期があり、継続的に伝承できておりません。代替医療に対する世界的な高まりを受けてWHOは東洋医学、中でも、鍼灸医学に関して、技術レベルの模範方式を策定する宗主国を選ぼうとしています。この動きに対し、東アジア関連諸国は皆敏感に反応していて、自国の正当性、発展性をアピールしているのが現況であります。

西洋医学を明治時代にいち早く取り入れて、西洋医学の長所短所を把握しているわが国の医療は東アジアの中で最も進んでいます。それゆえ東洋医学の宗主国として、名乗り出るのはわが国が適当と考えます。

東洋医学、特に漢方医学は、かつて我が国の医学の本流であった時代がありました。明治政府が我が国の医療制度を国策として前面的に西洋医学に切り替えたため、その後の東洋医学は細々とした命脈を保って第2次大戦の終焉を迎えたという経緯があります。しかし、江戸期以降、西洋医学が徐々に導入され、やがて蘭方医学からドイツ医学を経て、約一世紀を経た今、北米医学が我が国の主流を占めて来ました。おかげで日本の医療は西洋医学の恩恵を受け入れることができ、この百年の間、平均寿命の飛躍的延長を見るに至りました。また、日本の基礎医学も世界の最先端を行く分野が数多く見受けられます。

西洋医学を明治時代にいち早く取り入れて、西洋医学の長所短所を把握しているわが国の医療は東アジアの中で最も進んでいます。例えば、鍼治療を例に挙げれば、東アジアの中でも最も、侵襲度が小さく且つ、使い捨て方式を採用することにより、感染浸襲の危険性が少ないといえましょう。欧米における鍼灸治療はアジア各国からの個人的導入に他ならない状況ですから、アジア宗主国の候補、日本がその主導権を握ることは、自然な成り行きと考えます。

しかし、鍼灸の臨床的研究論文数をMedlineで検索すると、欧米からの論文が圧倒的に多く、アジア宗主国の論文数は比較にならないくらい少ないのが実情です。論文の発表を怠っているのではなく、国際誌に載せる形式をとっていないのがその理由であります。このままの状況が続けば、アジア諸国は技術的に稚拙ながら欧文誌に掲載された治療指針に振り回されることになりましょう。このような流れが出来れば和漢薬の診療・研究活動に対しても同じような動きが出始めること必至と思われます。

東洋医学に関して、欧米の諸国はことさら主導権を握ろうとしているのではありません。日本の適格性を認める場合もあります。CAM領域では、世界の学者が日本主導に賛意を表したからこそ、国際誌"eCAM"の発刊を見たともいえましょう。欧米で根付いた経験の浅い東洋医学よりも、発祥の地の東洋で西洋医学のセンスで磨かれた代替医療を世界的スタンダードとすることが望まれています。今回のようなセミナーを通して、近隣諸国や世界に強くアピールして、日本が東洋医学の宗主国たる立場を確立する必要がありましょう。



代替医療と東洋医学-科学的解明によるevidenceを求めて-

北里大学附属北里生命科学研究所長
山田 陽城

代替医療(Complementary and alternative medicine)は今日、世界の主流となっている西洋医学に基づく医療に対し、これらを補完するもの、ないしはこれらと異なるアプローチによる医療として、欧米の視点から生まれた言葉である。欧米で定義されているところの代替医療には伝統医学療法、カイロプラクティック療法、心理療法やアロマテラピーなどのハーブ療法、健康食品療法など種々のものが含まれている。

これらに加え日本、中国、韓国、インドなどアジアで古来より伝統医学として用いられてきた伝統生薬療法や鍼灸療法など東洋医学による治療法もその一部として含まれている。日本の医療には伝統医学としての漢方や鍼灸があり、特に中国や韓国などとは異なり西洋医学をもって一元化されており、医師が漢方薬や鍼灸を用いることも法的に保護されている。そのため、日本の医療では同じ一人の医師が東西両医学を展開することが可能である。

その意味で漢方や鍼灸などの伝統医学は我が国からの視点では代替医療とはあえて呼ばないが、欧米からの視点ではこれらも代替医療におけるアプローチとして位置づけられている。しかしながら、結果的には欧米が日本ですでに展開されている統合医療への方向を追っているともいえる。

代替医療は医療の選択肢を広げるものであり、すでに伝統医学が古来より用いられてきた日本は、代替医療について常に情報を発信できる先導的な役割を国際的に果たしていくことが必要である。欧米における代替医療と同様、漢方や鍼灸などの東洋医学も国際化のためにはその臨床効果について科学的な実証をさらに進めエビデンスを加えていくことが必要である。

一方で、漢方医学にエビデンスを与えるための科学的実証の研究は、代替医療における生薬療法などにエビデンスを与える研究の方法論としても応用が可能である。漢方薬は複数の生薬が配合された多成分系の薬物であり、配合生薬間の相互作用により新薬とは異なる多彩な薬理作用を有しており、このような複雑系の薬物が免疫系や神経系、内分泌系などが絡んだ複雑な生体システムを調節しており、この複雑系への作用メカニズムを解明することが必要である。

漢方薬の研究には漢方医学に関するものと漢方薬学に関するものがある。科学技術の進歩の中で、ヒトの全ゲノムが解読され、ポストゲノムの時代となり、先端医療は個々の患者さんにあわせたテーラーメード医療へと進んでいる。漢方医学はもともと個の医療が重視されていたものであり、患者さんの体質や全身状態が把握され治療に用いる漢方薬が選択されている。その意味で先端医療もまた漢方化への道を歩んでいるともいえる。

漢方医学における東洋医学独特の病態把握の方法を現代医学の言葉に翻訳するための臨床研究が必要である。また、漢方薬学研究においては漢方薬の臨床効果についての作用メカニズムや薬効成分を科学的に解明することに加え、その研究法の開発も必要である。

基礎研究の成果の臨床へのフィードバックは新しい臨床応用への展開も期待できる。このような例としてアルツハイマー型認知障害に対して脳機能を改善する漢方薬も見つけられている。

また免疫系を調節することによりインフルエンザウイルス感染に有効性を示す漢方薬も見つけられている。漢方薬で用いられる素材としての植物などに由来する生薬は、高品質な素材の確保が再現性のある医療のために極めて重要であり、農学系分野と医療系分野の関係者の連携なしにはその実現は不可能である。

代替医療の対象として健康食品の市場が拡大され注目されているが、その作用についてのエビデンスは玉石混淆の状況である。誇大広告的な商品も多く、エビデンスを充実させ正しい情報を消費者に発信しなければならない。

人類は、食物の中から病気に対して効力のあるものを薬として選び出したと言われている。唐時代の医学書「千金方」では「健康維持や病気の予防の元は食物にあり、病気を迅速に治療するのが薬である」と記されている。また、中国の周(前11~前8世紀)の王朝の制度を記したとされる古典の「周礼」には、医師を専門領域に分けて四種の専門医を制定している。この中で食事療法医である食医は実際の医師より格が高くなっており、予防医学を重視する医食同源の考え方の基になっている。

漢方医学には「未病を治す」という考えがあるが、高齢化社会を迎えた今日、東洋医学や機能性食物を含む代替医療の予防医学への展開にも大きな期待が寄せられる。獣医学領域では、すでに獣医東洋医学として、経済動物やペット等、動物に対する漢方、鍼灸治療が行われている。農医連携はこのように食や動物、植物素材などとの関連の中ですでに始められている。
Agromedicine を訪ねる(7):Journal of Agromedicine
以下のことは、「情報:農と環境と医療 10号」ですでに書いた。「農医連携」という言葉は、生命科学全般を思考する北里大学で新しく使用しはじめたものだ。それに相当する英語に、例えばAgromedicine がある。1988年に設立された The North American Agromedicine Consortium (NAAC) は、Journal of Agromedecine という雑誌とニュースレターを刊行している。この雑誌の話題には、農業者の保健と安全性、人獣共通伝染病と緊急病気、食料の安全性、衛生教育、公衆衛生などが含まれる。

北里大学学長室では、季刊誌であるこの雑誌の購入を2006年の第11巻から始めた。10月30日にVolume 11, Number 1 2006 が配送されてきた。関心のある方は学長室に保管してあるので自由にご覧ください。なお、今回は先回に続いて、第7回目として、Journal of Agromedicine の第8巻と第9巻の目次を紹介する。

第8巻1号(2001)
  • Leaders in Agromedicine Speak: Are Institutions Listening?
  • Ergonomics in Agriculture: Commentary and Literature Review
  • Agromedicine and Emerging Infectious Diseases
  • Certified Safe Farm: Using Health Insurance Incentives to Promote Agricultural Safety and Health
    Keywords: Agriculture, health insurance, incentive, premium, coinsurance, deduc tible
  • Priority Risk Factors for Back Injury in Agricultural Field Work: Vineyard Ergonomics
    Keywords: Back injury, ergonomic risk factors, agricultural workers
  • Tractor-Drawn Mower Occupational Fatalities in Production Agriculture, 1992-1997
    Keywords: Production agriculture, tractor-drawn mowers, older workers, self-emp loyed
  • Analysis of Hospital Records on Farm Injuries Over Three Years in South Carolina
    Keywords: Agricultural injuries, injury surveillance, data acquisition
  • Medical Education for Agricultural Health and Safety
    Keywords: Agricultural health and safety, agricultural medicine, agromedicine,family medicine, occupational and environmental medicine

第8巻2号(2002)
  • Agromedicine and the Genome
  • Agromedicine Programming: Past, Present, and Future
  • Agromedicine Program Development: Alabama Experience
  • Congratulations to Paul A. James, MD, Iowa City, Iowa
  • In Memoriam: Kenneth R. Wilcox, MD, DrPH, 1930-2001
  • A Ten-Year Study of Tick Biting in Mississippi: Implications for Human Disease Transmission
    Keywords: Tick-borne disease, tick-biting, tick feeding, tick identification
  • Preventive Agricultural Medicine: A Student's Perspective of Farmers' Mental Health
    Keywords: Rural, mental health, farmer, stress
  • Lower Extremity Injuries Sustained While Farming
    Keywords: Lower extremity, injury, chronic illness
  • Synergistic Effects of Dust and Ammonia on the Occupational Health Effects of Poultry Production Workers
    Keywords: Dust, ammonia, synergy, health effects, poultry, working environment
  • Water Safety Among Latino Farmworkers in North Carolina
    Keywords: Water safety, drowning, farmworkers, immigrants, Latinos, agriculture,occupational injury prevention
  • Recommended Dietary Allowances? Then and Now: A Review
    Keywords: Dietary Reference Intakes, Recommended Dietary Allowances
  • Infectious Disease Occurrence in Forestry Workers: A Systematic Review
    Keywords: Infection, forestry, lyme disease, hantavirus, fungi, seroepidemiology
  • Policy and Organizational Issues in Agromedicine: A Survey of 2001 NAAC Meeting Attendees
    Keywords: Health policy, agromedicine development, NAAC, agromedicine issues, state agromedicine development

第9巻1号(2003)
  • The Nature of Agromedical Discoveries
  • Chemophobia, Family Medicine, and the Doctor-Patient Relationship
  • Plant Chemicals: Poisons and Cures
  • Seasonality of Delusions of Parasitosis Keywords: Parasitosis, dermatology, seasonality, entomology, Mississippi, delusions of parasitosis
  • Estimated Risk of Death Among Employees in Agriculture and Agriculture-Related Industries in Georgia, 1985-1994 Keywords: Agriculture, farmer mortality, risk, Georgia
  • Contributing Factors to Engulfments in On-Farm Grain Storage Bins: 1980 Through 2001
    Keywords: Engulfment, suffocation, confined space, rescue, extrication, engulfment survival, grain hazard, flowing grain safety, grain bin, farm fatalities
  • The Antioxidants- Vitamin C, Vitamin E, Selenium, and Carotenoids
    Keywords: Dietary reference intakes, recommended dietary allowances, vitamin C,vitamin E, selenium, carotenoids
  • Tobacco Use Among Mexican Farmworkers Working in Tobacco: Implications for Agromedicine
    Keywords: Migrant farmworkers, tobacco use, cigarette smoking, tobacco agriculture, Hispanics
  • A Model for Safety and Health Promotion Among Danish Farmers
    Keywords: Farmers, accidents, intervention, safety promotion, occupational health

第9巻2号(2004)
  • Criteria for Selecting the Best Articles from the First Ten Years of the Journal of Agromedicine, 1993-2003
  • VOLUME 1, NUMBER 1, 3 - 46 VOLUME 1, NUMBER 2, 49 - 55
  • VOLUME 1, NUMBER 3, 57 -76VOLUME 1, NUMBER 4, 77 - 92
  • VOLUME 2, NUMBER 1, 93 - 106VOLUME 2, NUMBER 2, 107 - 127
  • VOLUME 2, NUMBER 3, 129 - 157 VOLUME 2, NUMBER 4, 147 - 157
  • VOLUME 3, NUMBER 1 : 159 - 177 VOLUME 3, NUMBER 2, 179 - 187
  • VOLUME 3, NUMBER 3, 189 - 203 VOLUME 3, NUMBER 4, 205 - 220
  • VOLUME 4, NUMBERS 1 AND 2, 221 - 238
  • VOLUME 4, NUMBERS 3 AND 4, 239 - 256
  • VOLUME 5, NUMBER 1, 257 - 264 VOLUME 5, NUMBER 2, 265 - 287
  • VOLUME 5, NUMBER 3, 289 - 305 VOLUME 5, NUMBER 4, 307 - 319
  • VOLUME 6, NUMBER 1, 321 - 325 VOLUME 6, NUMBER 2, 327 - 345
  • VOLUME 6, NUMBER 3, 347 - 373 VOLUME 6, NUMBER 4, 375 - 394
  • VOLUME 7, NUMBER 1, 395 - 403 VOLUME 7, NUMBER 2, 405 - 415
  • VOLUME 7, NUMBER 3, 417 - 424 VOLUME 7, NUMBER 4, 425 - 429
  • VOLUME 8, NUMBER 1, 431 - 448
  • VOLUME 9, NUMBER 1, 449 - 476
  • The Next Ten Years (2003-2013), 477 - 478
言葉の散策 11:「農」と「環境」と「医療」-漢字研究の泰斗、白川 静博士を悼む-
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る

漢字研究の泰斗、白川 静博士が逝った。心からの冥福を祈りたい。明治43(1910)年生まれ。享年96歳。白川氏の学問は、漢字というものの成り立ちを分析し、漢字が生まれた殷(商)という時代の精神を解明する研究であった。漢字の中には、神とか鬼とか霊とかいったものへの深い畏れの精神が宿っている、というのが白川氏の信念であった。「漢字は文化」、「国語力の根底は漢字にあり、漢字を復権しなければ、東洋は復権しない」が口癖だった。幼稚園から英語を学ばせましょうなどという今流の考え方とは、隔絶の感がある。軽佻浮薄でなく重厚である。

漢字は、王と神とをつなぐ欠くことのできない方法の一つとして生まれたと、白川氏は語る。ほとんどすべての漢字を、神の世界との関係で解釈する。白川氏は、生命力と自然への畏怖を漢字教育を通じて明らかにしてきた。

したがって、この情報の「言葉の散策」でも、生命に関わる「農」、「環境」および「医療」の漢字について「そもそもこの漢字の成り立ちは・・・」と、白川氏の解釈を拝借してきた。これらの言葉が生命力と自然への畏怖に満ちているからである。

いくつかの例を挙げる。「道」は「首」に「しんにゅう」で表現される。「しんにゅう」は道を表すが、古代中国では異族の国に行くときには、その異族の首を持っていくので、「道」という字ができたという。

神と人をつなぐ「」(さい)の例である。従来、「」は「口」と誤って主張されてきた。「」は祈りの文が収められている箱なのである。例えば「悦」。偏の兄は神への祈りの文である祝詞(のりと)をいれる器を頭上にのせて祈る人の形で、神に仕える祝(はふり)をいう。その祝の上に神気がかすかに降ることを八の形でしめしたのが、兌(だ:よろこぶ・かえる)である。神が反応して乗り移り、うっとりとした状態になっている祝の心を悦といい、「よろこぶ」の意味がある。

「古」は、十と口とを組み合わせた形。十は干(たて)を省略した形。口はで、神への祈りの文である祝詞をいれる器の形。この器の上に聖器としての干を置いてを守り、祈りの効果を長い間保たせることを「古」といい、「ふるくからのもの、ふるい、むかし、いにしえ」の意味となる。

「陽」の「こざとへん」は、神が天を陟り降りときに使う神の梯子の形。旁は台上に霊の力を持つ玉(日)を置き、その玉光が下方に放射する形。玉光には、人の精気を豊かにする魂振りの働きがあるものとされた。

これまで、「情報:農と環境と医療」の「言葉の散策」でお知らせした「農」と「環境」と「医療」にかかわる言葉を整理して以下にまとめてみた。なお、詳細は「言葉の散策 1(7号)、5(9号)および6(10号)を参照されたい。

「農」。金文の字形は田+辰(しん)。辰は蜃器(しんき)。古くは蜃(はまぐり)など貝の切片を耕作の器に用いた。耨(じょく)は草切ることをいう。説文に「(のう)は耕す人なり」とある。ト文の字形は林と辰とに従い、もと草莱(草はら)を辟(ひら)くことを示すものであろう。のち林の部分が艸になり、田になり、曲はさらにその形の誤ったものである。

訓義は、1)たがやす、たづくり、たはたをたがやす、2)のうふ、たはたをつくる人、たに、3)つとめる、はげむ、いそしむ、4)あつい、てあつい、こまやか。
 古訓は、ナリハヒ。

「環境」の「環」は、「たまき」という和訓があり、玉(ぎょく)で作った円環形の装飾品のこと。若者がよく腕に着けているブレスレットもその一種だ。「環境」は、自分を取り巻く円環を想定して、その周辺や外側を指すと思えばよい。

『新唐書』王凝(おうぎょう)伝に、こんな記事が見える。王凝が長江下流地域の行政監督官となったとき、周囲には盗賊が出没して、治安が悪かった。その状況が、「時に江南の環境は盗区と為(な)る」と書かれている。この「環境」は、今の言葉でいえば、周辺である。

また、『元史』には、余闕(よけつ)という高官が、任地の周辺が賊軍に包囲されて身動きのとれない状態にあったことから「環境に堡寨(とりで)を築き」、防備を固めて治安を維持しながら、その内側で農耕に取り組む持久戦術を取ったことが記されている。この場合の「環境」も、周囲の地域一帯を指している。

この「環境」が、エンバイロンメントの訳語として採用された。中国語でも、日本語経由で、「環境」を同じ意味に用いている。ところで、「環境」の古い字義による用例は、辞書にはたいてい上記の二つが挙げられるが、それ以外の例となると、あれこれと探してみても、なかなか見つけられない。つまり、それほど使用頻度の多い語ではなかった。ヨーロッパ語のエンバイロンメントも近代に生まれた概念らしいが、その訳語に「環境」を当てた人の着眼はみごとだ。

中国での環境破壊の教訓としていえるのは、人が何かの行動を起こすとき、自分を中心にした円環をどこまで広げてものごとを考えられるかということだろう。「環」の内側に、自分の企業や地域や国を置くだけでなく、隣国や東アジア、さらには全世界にまでその輪を拡張できるかどうか。いわゆる環境問題の原点はそこに尽きる。

「医」。旧字は醫。noui_no21_kanji02+酉。noui_no21_kanji02は医(えい)をnoui_no21_kanji03(う)つ形。矢を呪器(じゅき)としてこれを毆ち病魔を祓う呪的行為を毆(殴)という。またそのかけ声をnoui_no21_kanji02という。酉は酒器。その呪儀に酒を用いる。古代の医は巫医(ふい)であった。ゆえに字はまたnoui_no21_kanji04に作る。

医(えい)と醫とはもと別の字。医はうつぼ(矢を入れる袋)。noui_no21_kanji02は秘匿(ひとく)のところに呪矢を収め、かけ声をかけて祓う呪術で、その声をいう。醫・noui_no21_kanji04はその声義を承(う)ける。

澄んでいる酒の意。ひいて、昔、清酒を薬の補助として使ったところから、病気を治す、また、病気を治す人、「くすし」の意に用いる。別体字(noui_no21_kanji04)は、巫女が祈祷(きとう)して病気を治す意。教育用漢字はもと別字だが、俗に醫の省略形として用いられていたものによる。

「医療」とは、医術を用いて病気を治すこと。治療。療治。出典は、中国の後漢の「韋彪伝」に、「骨立異常なり。医療すること数年、乃ち起つ。学を好み洽聞(こうぶん)、雅より儒宗と称せらる。」とある。また続日本記に、「勅曰、如聞、天下諸国疫病者衆、雖加医療猶末平復」とある。

参考資料

常用字解:白川 静、平凡社(2003) 
字通:白川 静、平凡社(1997)
大字源:角川書店(1993)
日本国語大辞典:小学館(1979)
字通:白川 静、平凡社(1997)
字統:白川 静、平凡社(1994)
大字源:角川書店(1993)
日本国語大辞典:小学館(1979)
興膳 宏:日経新聞、漢字コトバ散策、環境、2005年12月18日
資料の紹介 5:メリアル・マガジン・アヴァン、ベクター介在性疾患-動物とひとのつながりと感染症-、メリアル・ジャパン株式会社(2006)
雑誌「アヴァン」は「ベクター介在性疾患-"動物とひとのつながりと感染症-"」の特別号を発刊している。カラフルな色調と生物の写真が各所に散在し読みやすい雑誌である。写真と内容は以下の通りである。

日本大学の長谷川篤彦氏は、「感染症と獣医師の責務」と題して、感染症は過去の疾患ではなく、現在でも最も留意しなければならない疾患であるから、感染症の本質を熟知して、一般に周知徹底することが肝要であることを説く。

次いで、北里大学客員教授の養老孟司氏の「動物が人にもたらす恩恵とリスク」と題した講演内容が紹介される。そこでは、「脳化社会」における人と動物とのつき合いや、自然と現代社会の危うさなどが語られる。会場からの質問にも応える形の編集がなされている。また、北里大学の的場美芳子氏による「ひとと動物のかかわり研究会」の紹介が掲載されている。

日本獣医生命科学大学の今井荘一氏は、「ベクターとしての昆虫学」を解説する。犬や猫などの伴侶動物に寄生し、感染症を媒介する蚊、ヌカカ、ブユ、アブ、ハエ、シラミ、ノミ、マダニなどを概説する。

猫を介して感染する人と動物の共通感染症の一つである「猫ひっかき病:Cat-scratch disease」について、日本大学の丸山総一氏の解説がある。

「人と動物の共通感染症の現状と問題点-"認識していないことが感染症診断の落とし穴-"」と題した対談が、公立八女総合病院院長の吉田 博氏とみずほ台動物院院長の兼島 孝氏との間で行われる。

帯広畜産大学の猪熊 壽氏は、「マダニ媒介性疾患」について解説する。ここでは、マダニの特性、被害症状、自然界での生態、人と動物の共通感染症についての概要説明が掲載されている。

最後は岐阜大学の福士秀人氏による「Q熱」である。Q熱は、コクシエラ菌(Coxiella burnetii)の感染によっておこる人と動物の共通感染症で、1935年にオーストラリアのクインズランド地方に発生した原因不明の病気(Query fever)に由来し、欧米に広く分布している。わが国におけるQ熱の感染源や伝播経路ははっきりしていない。診断法についても過渡的な段階にあるという。
本の紹介 22:地球白書 2006-07、クリストファー・フレイヴァン編著、ワールドウオッチジャパン(2006)
ワールドウオッチ研究所は、中国とインドの人口増加と経済発展が地球環境に多大な影響を及ぼすことからここにに拠点をおかなければならないと考え、2004年に北京にある研究所のパートナーである地球環境研究所(Grobal Environmental Institute)と、この年から積極的な協力を推進している。最新の世界の動向や考えを、中国の政策決定者に提供し、重要な中国の動向を世界に発信するためである。その成果が表れてきて、この本でも中国のことに紙数が割かれている。

近年の中国とインドの経済成長は目を見張るものがある。そのうえ、両国における人口増加、石油資源の大量消費、経済発展にともなう大気汚染や水質の悪化などさまざまな影響が生じており、そのことが地球規模での問題にもなっている。この巨大な国家は2国で世界人口の約40%を占め、その数は3位以下の20か国の総人口に匹敵するほどである。このたび発行された「地球白書2006-07」では、「中国がインドとともに地球の未来を握る新超大国となりつつある」という認識のもとに、第一章でこの両国に焦点をあてる。

問題への焦点のあて方が特異的である。19世紀から20世紀にかけて「眠れる国」であった中国とインドを、世界経済よりもっと大きな世界の生物圏という空間でとらえ、地球規模の大国と表現している。中国では低コストに支えられる製造業が、インドではハイテク産業がそれぞれの国の成功の基盤である。そこに至るためには、両国とも数10年にわたり高度な教育投資を行い、そのうえ、毎年アメリカを凌ぐ科学者、技術者を輩出していると強調している。

しかし、両国とも自然資源が豊富でないため石油輸入への依存が高い。このことが世界的な石油高騰の原因にもなっており、今後のエネルギーシステムの構築に向けての課題を数多く生んでいる。

また所得の伸びは、中国およびインドの穀物消費量を増加させ、穀物在庫量を低下させている。地下水が枯渇しているため、生産量の拡大は期待できない。急激な都市化や工業の発展は、水や農耕地の確保を危うくしている。さらに、炭素排出量の増加、森林の消失、種の絶滅など地球規模での負荷が、本来生態系がもつ土壌侵食防止、気候安定、洪水抑止などの多面的な機能を蝕んでいると指摘している。

このような急激な中国とインドの台頭で、地球環境問題はさらに悪化の一途をたどる。これをどのように解決すべきか。これに対して本書は、中国、インドおよびアメリカの3大国が持続可能な世界経済の構築を目指し、大国間の新たな自滅競争を避け、力を合わせてよりよい未来を創造する必要があると説いている。さらに、脱化石燃料社会への取り組み、肉中心の食生活への過度な傾倒の回避、各国の異文化交流の促進などに努力することも重要であると説く。目次は以下の通りである。

第一章 中国・インド―地球の未来を握る新超大国
  • 世界にインパクトを与える両国の台頭 
  • エネルギーの未来を選択する 
  • 世界の穀物市場への影響力が増している 
  • 生態系の容量を超えつつある環境問題 
  • 判断を迫られる経済の新しい形 
  • 世界の検討課題を再考する

第二章は、BSEや鳥インフルエンザなど工場式畜産が起こす問題を指摘している。この工場式畜産とも呼ばれる家畜生産は世界中に広がっており、小規模農場や在来の家畜種を淘汰しながら、大企業への食肉生産の集約が進んでいることと、病気の関連が以下の目次の内容にそって解説される。

第二章 BSE・鳥インフルエンザ―工場式畜産の実態
  • 1世紀前の食肉『ジャングル』の再現
  • 食べる人たちが知らない、知ろうとしない解体工程
  • 大量のトウモロコシ、大豆、魚、水から大量の糞尿を
  • 蔓延する病気
  • 家畜への思いやりを深める

人間活動の影響で地球の水循環が危機的な状態にあると言われはじめて、かなりの時間が経った。海洋、氷河、湖沼、滞水層には膨大な量の水が存在しているものの、水循環で再生される淡水、しかも陸域への降水となると地球の水のわずか0.01%にも満たない。このような情報を元に、世界の河川の評価、安全な水の確保、節水の様子、湿地回復の取り組み、これからの水問題などが語られる。目次は今の通り。

第三章 川と湖―生態系を守ることが水を守る
  • 環境ダメージを評価する
  • 健康な流域が安全な飲み水を育む
  • フード・セキュリティーは生態系のセキュリティーにかかっている
  • リスクを減らし、自然の回復力を維持する
  • 21世紀の水政策を導入する

今やバイオエネルギーの活用は、わが国でも時代の先端と評されているが、第四章では、再生が可能な石油代替エネルギーとしてのバイオ燃料の必要性が、フォードの最高経営責任者の言葉を使って語られる。曰く、「将来の燃料は、道端に生えているあのハゼノキの実とか、リンゴ、雑草、おがくずなど、ほとんどあらゆるものから生産されるだろう。発酵可能なバイオマスは全ての燃料の減量になる」と。しかし、バイオ燃料に関しても解決されていない問題は多々ある。それは、農業との関わりや土壌流出などである。目次は以下の通りである。

第四章 バイオ燃料―再生可能な石油代替エネルギーを開発する
  • 蒸留工場からバイオ精製所へ
  • 環境リスクと環境効果
  • 燃料開発
  • バイオ燃料の将来

第五章では、ナノテクノロジーの夢の技術開発の在り方が語られる。社会の弊害に真の解決をもたらしうる産業技術は、約10年ごとに次々と誕生しているという。快適な生活を支える化学、安価なエネルギー、飢餓を軽減する遺伝子組換え作物、これに続く最新の産業技術がナノテクノロジー、すなわち原子および分子スケールで物質を操作する技術である。

ここでは、あらゆる分野に応用可能な基礎的技術であるナノテクノロジーには、膨大な資金投入が背景になって急成長しているが、これは夢の技術になるのか、負の側面は考察しなくていいのか、対策を迫られる課題はどうするか、などが以下の目次にそって解説される。

第五章 ナノテクノロジー―夢の技術の開発は市民権を得てから
  • ナノテクノロジーとは
  • ナノ粒子の潜在的リスクは決して小さくない
  • 発展途上国への影響
  • ナノ・モノポリー
  • ナノバイオテクノロジーが生命の営みに新しい意味をもたらす
  • 議論と規制の必要性

第六章は、わが国が52年も前から苦しみ続けている水俣病の原因物質、水銀の問題である。いまや、水銀汚染は局地的な点的汚染ではなくなった。ここでは、地球規模の拡散を防ぐための提案がなされる。

水銀は暮らしのあらゆる場面に潜んでいるため、ヒトが水銀を摂取する量は年々増加する。漁業にも深刻な被害が生じている。水銀汚染は先進国から途上国へとシフトしている。これらの問題を以下の目次で詳細に解説する。この章は地球規模での水銀の実状を系統立てて理解するのに最適である。

水銀は数多くある元素の中で、農と医の連携が最も重要な元素の一つであろう。水銀は脳と神経系を損傷する強力な神経毒である。金属水銀などの無機水銀も健康被害をもたらすが、特に危険なのは魚に含まれるメチル水銀化合物である。これは、有機水銀化合物と呼ばれる。妊婦と乳幼児は、有機水銀化合物の被害を最も受けやすい。

子供の脳は生後数年で発達するが、水銀は健康な神経系に不可欠な脳の発達を妨げる。高濃度の暴露を受けると、精神遅滞、脳性小児麻痺、難聴、視野狭窄に至るおそれがある。幼児の体に入る水銀は、食べ物からであり、母親の食物を経由した母乳からである。

第六章 水銀―地球規模の拡散を防ぐための提案
  • 水銀の毒は世界を巡る
  • 世界の水銀使用量と放出状況
  • 世界の水銀市場
  • 需給削減で環境負荷を抑制する
  • 水銀対策における国際協調の現状

2005年の秋、わずか数週間のうちにアメリカ南部、中央アメリカ、パキスタンさらにはインドを天災が襲い、甚大な被害が生じた。ニューオリンズではハリケーンの避難場所のスタジアムに数千人の住民が取り残され不衛生な環境で生活した。グアテマラでは、地滑りで生き埋めになった生存者を捜すべく親類縁者が駆けつけた。地震で閉ざされたパキスタンの山岳地帯では、崩壊した町で生き残った人びとが食糧やテントを争って求めた。

これらの災害は、重要な生態系の衰退によって、暴風雨や洪水、地震の威力が著しく増幅しうることを教えている。環境変動にともなう災害は、食糧の枯渇、病気を発生、人の生死や健康に多大な影響を及ぼす。環境を抜きにした農も医も存在しないのである。第七章は、この災害を人道的かつ環境的平和構築に関係づける物語が解説される。

第七章 災害―不幸なインパクトを和平交渉の好機に変える
  • 「自然災害」と「非自然災害」の定義づけ
  • 災害と紛争のつながり
  • 暗雲と希望の光
  • アチェ:行き詰まりの打開
  • スリランカ:戦争でも平和でもない
  • 人道的、環境的和平構築

WTOが果たして持続可能な開発を実現できるのか、対峙する貿易と環境の衝突が避けれるのか、貿易は豊かさをもたらすのか、貿易と持続可能な開発は調和できるのか、貿易と開発に関する委員会は目的達成のために機能しているのか、などの問題点が論議される。第八章は題して、「貿易と持続可能な開発を調和させるための改革を」と手厳しい。

第八章 WTO―貿易と持続可能な開発を調和させるための改革を
  • 貿易と環境論争
  • 貿易と環境の衝突は避けられるのか
  • 未解決の懸念
  • WTOと環境の相互支持的作用
  • 貿易と持続可能な開発は調和できるか
  • WTOを超えて
  • WTO改革の必要性

中国の劇的な経済発展は、過去20年間の間に生態系の崩壊をもたらした。中国の環境劣化のコストは、国内総生産(GDP)のほぼ9%にのぼると推定されている。都市居住者は、石炭の燃焼と急増しつづける自動車の排気ガス汚染に悩まされている。都市の大気汚染が増加の一途を辿っている。河川、森林、草地、農地の乱開発と不適切な管理は、農村居住者の健康と生活基盤を脅かしている。カドミウムなどの重金属汚染で健康を害する人びとが増えている。さらに急速に減少するこの国の豊かな生物多様性は退化の一途を辿っている。

このような状況の下に、環境NGOの活動が活発化している。中国のNGOの活躍した「怒江ダム論争」はその象徴と言うことが出来る。以下のような目次で、環境市民社会が育成されつつあることが語られる。

第九章 中国―NGOを中心に環境市民社会を育成する
  • 環境NGOの政治的機会を開く
  • 中国特有の性格をもつ環境市民社会
  • 拡大するNGOの影響力
  • 官製NGO(GONGO)の創設
  • 環境NGOへの国際援助
  • 政治的機会への根深い制約
  • より強力なNGO部門構築の機会
  • 次のステップに向けて

最終章の十章では、地球上の生態系の劣化が進行しているため、この21世紀には持続可能な社会の構築が必要であることが強調される。そのためには、企業の主導的役割と責任がきわめて大きいと結論している。それを分かりやすくするため、何故企業に焦点を合わせるのか、インドと中国における企業責任、次世代の責任あるビジネスリーダーの育成と題するコラムが設定されている。

なお、章中のCSR(corporate social responsibility)は企業の社会的責任。NGO(nongovernmental organization)は非政府組織。政府間の協定によらずに創立された民間の国際協力機構。SIR(socially responsible investiment)は社会的責任投資。

第十章 CSR・NGO・SRI―環境の世紀にふさわしい企業を目指して
  • 企業責任の根拠
  • 先駆的企業の例
  • 責任ある企業活動への障害
  • ステークホルダーの役割
  • 競争の足場を公平にする
  • 企業の影響力の方向を修正する
*本情報誌の無断転用はお断りします。
北里大学学長通信
情報:農と環境と医療21号
編集・発行 北里大学学長室
発行日 2006年12月1日