42号
情報:農と環境と医療42号
2008/9/1
第6回北里大学農医連携シンポジウムの開催−食の安全と予防医学 −
開催日時:平成20年10月24日(金)10:00~18:00
開催場所:北里大学相模原キャンパス
開催趣旨
病気の予防、健康の増進、安全な食品、環境を保全する農業、癒しの農などのために、すなわち21世紀に生きる人びとの健康と安全のために、農医連携の科学や教育の必要性は強調されてもされすぎることはないであろう。
今回は、生命科学を探求している北里大学の教授らによる農医連携シンポジウムを「食の安全と予防医学」と題して開催する。
食のグローバル化、大腸菌O157や異常プリオン蛋白質など新たな危害要因の出現、遺伝子組換え技術といった新技術開発など、食生活と予防医学を取り巻く状況が大きく変化し、食品の安全性や予防医学における科学情報が、われわれの日常生活に深く入り込む時代になって久しい。
このため、食卓では絶えず科学を意識せざるを得ない潮流が生まれてきた。ポリフェノールがもつ赤ワインの抗酸化作用が強調され、アルコール摂取量の増加という健康の問題は棚上げされる。焼き鳥ひとつ食べるのにも、鳥インフルエンザウイルスを意識する。
ひとつの食品をとって、その部分の効果や影響だけを強調し、総合化したらどうなるかという問題には触れない風潮も生まれた。知と知の分離である。
食品はもともと、炭水化物、脂肪、タンパク質、ミネラル、ビタミンなど数多くの成分が集まってできたものであるから、利点も欠点もある。われわれは昔から食品をおいしくバランスよく摂るため、味と保存方法に多くの関心を寄せてきた。食品は添加物がないと、腐敗し食中毒のリスクが上昇することも周知の事実であった。
ヒトは長い歴史の中で、さまざまな食品をバランスよく食する知恵を身につけてきた。科学技術に支えられる現代の食品と予防医学は、このヒトの歴史・習慣・常識を忘れ去らせようとしているのではないか。
最新の食品の安全と予防医学は、最新の科学技術を駆使して維持されている。このような食の安全と予防医学について農学と医学の立場から、両者がどのように連携できるかを考えるシンポジウムにしたい。
開催場所:北里大学相模原キャンパス
開催趣旨
病気の予防、健康の増進、安全な食品、環境を保全する農業、癒しの農などのために、すなわち21世紀に生きる人びとの健康と安全のために、農医連携の科学や教育の必要性は強調されてもされすぎることはないであろう。
今回は、生命科学を探求している北里大学の教授らによる農医連携シンポジウムを「食の安全と予防医学」と題して開催する。
食のグローバル化、大腸菌O157や異常プリオン蛋白質など新たな危害要因の出現、遺伝子組換え技術といった新技術開発など、食生活と予防医学を取り巻く状況が大きく変化し、食品の安全性や予防医学における科学情報が、われわれの日常生活に深く入り込む時代になって久しい。
このため、食卓では絶えず科学を意識せざるを得ない潮流が生まれてきた。ポリフェノールがもつ赤ワインの抗酸化作用が強調され、アルコール摂取量の増加という健康の問題は棚上げされる。焼き鳥ひとつ食べるのにも、鳥インフルエンザウイルスを意識する。
ひとつの食品をとって、その部分の効果や影響だけを強調し、総合化したらどうなるかという問題には触れない風潮も生まれた。知と知の分離である。
食品はもともと、炭水化物、脂肪、タンパク質、ミネラル、ビタミンなど数多くの成分が集まってできたものであるから、利点も欠点もある。われわれは昔から食品をおいしくバランスよく摂るため、味と保存方法に多くの関心を寄せてきた。食品は添加物がないと、腐敗し食中毒のリスクが上昇することも周知の事実であった。
ヒトは長い歴史の中で、さまざまな食品をバランスよく食する知恵を身につけてきた。科学技術に支えられる現代の食品と予防医学は、このヒトの歴史・習慣・常識を忘れ去らせようとしているのではないか。
最新の食品の安全と予防医学は、最新の科学技術を駆使して維持されている。このような食の安全と予防医学について農学と医学の立場から、両者がどのように連携できるかを考えるシンポジウムにしたい。
講演プログラム
10:00~10:05 | 開催にあたって | 北里大学学長 柴 忠義 |
10:05~10:20 | 食品安全委員会の現状 | 内閣府食品安全委員会委員長 見上 彪 |
10:20~10:40 | 北里大学の農医連携構想の現状 | 北里大学教授 陽 捷行 |
10:40~11:20 | 食生活の現状と課題-健康維持・おいしさ・安全性の連携- | 北里大学保健衛生専門学院講師 多賀 昌樹・旭 久美子・大村 正史 |
11:20~12:00 | 水産物の機能と安全性 | 北里大学名誉教授 神谷 久男 |
13:00~13:40 | 過酸化脂質と疾病 | 北里大学薬学部教授 中川 靖一 |
13:40~14:20 | サルモネラおよびカンピロバクター食虫毒-農の領域から- | 北里大学獣医学部教授 中村 政幸 |
14:20~15:00 | 海藻類多食者におけるヒ素による健康影響の問題点 | 北里大学医療衛生学部教授 山内 博 |
15:20~16:00 | 農医連携における遺伝子高次機能解析センターの役割 | 北里大学医学部教授 篠原 信賢 |
16:00~16:40 | 農医連携の架け橋としてのプロバイオティクスの可能性を探る | 北里大学獣医学部教授 向井 孝夫 |
16:40~17:20 | 機能性食品の可能性と限界 | 北里大学獣医学部教授 有原 圭三 |
17:20~18:00 | 総合討論 | 相澤 好治・陽 捷行 |
連絡先:〒228-8555 神奈川県相模原市北里1丁目15番1号 北里大学学長室
古矢鉄矢・田中悦子(noui@kitasato-u.ac.jp)
Tel:042-778-9765 Fax:042-778-9761
古矢鉄矢・田中悦子(noui@kitasato-u.ac.jp)
Tel:042-778-9765 Fax:042-778-9761
第21回「バイオサイエンスフォーラム」研究会:盛会に終わる
学校法人北里研究所・北里大学の第21回「バイオサイエンスフォーラム」研究会が、盛会のうちに終了した。第20回までは「遺伝子とその周辺」研究会であったが、このたび両法人統合の機会に名称も新たになった。
二日間にわたり62課題の講演が行われた。その内訳は、薬学部(17)、獣医学部(6)、医学部(14)、海洋生命科学部(4)、理学部(9)、医療衛生学部(5)、医療系研究科(4)、感染制御科学府(3)であった。学生、教職員を含めて約200名が参加した。
講演の分野は、タンパク、神経、抗生剤・細菌、転写因子、免疫、腫瘍、内分泌、ゲノム・免疫、ウイルスに分類された。タンパク、免疫、ウイルスの分野では、農と医の両方の研究者が参加していた。この分野では、将来、農医連携の共同研究が期待できる。
講演のうち、40課題が学部単独研究、8課題が二学部以上の共同研究、10課題が他の大学や機関との共同研究、4課題が外国との共同研究であった。さらに学部を超えた共同研究の進展が望まれる。今回は医学部で開催されたため、とくに医学部の発表が多かった。
北里大学では、"人間の生命と健康に関する分野"、"動植物と環境に関する分野"、そして"生命科学の基礎的研究を行う分野"において、それぞれ生命科学領域の教育・研究を実践している。対象とする生物は五界を網羅しており多様性に富む。これらに関わる教員・学生が一堂に会して研究発表を行い、相互理解を深めている。さらには、学部・研究所を越えた連携を強化し、本学における生命科学研究の発展を図ることもこの研究会の目的である。
本研究集会は全北里グループで展開されている研究の生命科学分野に焦点を定めて、研究内容や成果を発表し討論を行う。若い教員や大学院生の参加が多く、学術上の興味や問題点を共有し、技術的な問題も含めて互いに助け合い問題解決のヒントを得る場所としての特徴をもっている。農医連携の場の一つにもなる。
二日間にわたり62課題の講演が行われた。その内訳は、薬学部(17)、獣医学部(6)、医学部(14)、海洋生命科学部(4)、理学部(9)、医療衛生学部(5)、医療系研究科(4)、感染制御科学府(3)であった。学生、教職員を含めて約200名が参加した。
講演の分野は、タンパク、神経、抗生剤・細菌、転写因子、免疫、腫瘍、内分泌、ゲノム・免疫、ウイルスに分類された。タンパク、免疫、ウイルスの分野では、農と医の両方の研究者が参加していた。この分野では、将来、農医連携の共同研究が期待できる。
講演のうち、40課題が学部単独研究、8課題が二学部以上の共同研究、10課題が他の大学や機関との共同研究、4課題が外国との共同研究であった。さらに学部を超えた共同研究の進展が望まれる。今回は医学部で開催されたため、とくに医学部の発表が多かった。
北里大学では、"人間の生命と健康に関する分野"、"動植物と環境に関する分野"、そして"生命科学の基礎的研究を行う分野"において、それぞれ生命科学領域の教育・研究を実践している。対象とする生物は五界を網羅しており多様性に富む。これらに関わる教員・学生が一堂に会して研究発表を行い、相互理解を深めている。さらには、学部・研究所を越えた連携を強化し、本学における生命科学研究の発展を図ることもこの研究会の目的である。
本研究集会は全北里グループで展開されている研究の生命科学分野に焦点を定めて、研究内容や成果を発表し討論を行う。若い教員や大学院生の参加が多く、学術上の興味や問題点を共有し、技術的な問題も含めて互いに助け合い問題解決のヒントを得る場所としての特徴をもっている。農医連携の場の一つにもなる。
健康と地球環境の保全:5.人の健康と地球環境の未来
「健康と地球環境の保全」シリーズは、この項で最終回にする。これまで掲載した「環境を背景にした農と医の類似性」では、生命現象を扱っている農と医は同じような歴史をたどってきたこと、「土壌から考える環境と農」では、人間圏の誕生によって土壌と農の質が衰退し始めたこと、「環境から考える医」では、健康や医療が環境と密接に関係していること、「代替医療と代替農業の連携を求めて」では、農と医が連携している例をあげ、農と医の連携が必要不可欠であることを述べてきた。最後の第5回では、「人の健康と地球環境の未来」について考えてみる。これまでとは少し違って、話が少し抽象的になる。その点はご勘弁ねがいたい。
こころ豊かな健康:身体・精神・霊魂・社会
私たち人類の真の願いは、誰もがいつまでも「こころ豊かな健康」でありたいということにある。このことを否定する人は誰もいない。この世界に存在する科学や哲学や宗教は、いずれも「こころ豊かな健康」であるための真理を求めている。
では、現実の日々の生活の中で健康とは何であろうか。世界保健機関(WHO)の「健康」の定義は次のようなものである。「健康とは、完全に、身体、精神、および社会的によい(安寧な)状態であることを意味し、単に病気でないとか、虚弱でないということではない」。ここでの精神の訳は、英語のメンタル(mental:精神の、心的な、知的な)に相当する。
しかし、世界保健機関は1999年の総会で新たに健康の定義を以下のように提案している。それには、新たにスピリチュアル(spiritual:霊魂的な)と動的な(dynamic)が加わっている。
すなわち、「健康とは、完全に、身体、精神、霊魂および社会的によい(安寧な)動的な状態であることを意味し、単に病気でないとか、虚弱でないということではない」。この定義の決着はまだついていない。恐らく長い時間が必要だろう。
われわれが健康について問うとき、ほとんどが「身体」と「精神」で、後の「霊魂」と「社会」については、あまり思いが及ばない。そこで、後の二つについて考えてみる。
スピリチュアルとは
そもそも「スピリチュアル」とは単なる心ではなく、心と身体を結びつける人間の存在にとって中核となるものを意味し、わが国では古来「魂」とか「霊」とか「霊魂」とか「言霊」などと呼ばれてきたものである。これまで人びとが宗教として捉えた領域であろう。
この定義は、世界保健機関でそう簡単に決着がつかないであろう。ましてや、科学と宗教が別のものであると教育された人びとが多いわが国では、この問題の決着にさらなる時間が必要となるであろう。
西洋の自然科学がキリスト教を背景に生じたことは、誰でも知っている。宗教で説明できないことを科学に求めたからである。ということは、われわれが自然科学と呼ぶものから、宗教を抜くことはできないということでもある。
わが国では宗教と科学は背反するもの、あるいはまったく別のものだと思っている人が多いため、健康の定義のなかに霊魂という言葉があれば、すぐに科学的でない、宗教的だと思ってしまいがちである。
西洋における自然科学は、むしろ宗教のある面に対して説得を試みるために生じたと考える方が理解しやすい場合がある。その意味で、両者は背中合わせにもたれかかる関係にあるだろう。科学と宗教は切り離すことができない。
ノーベル賞を獲得したあの天才科学者アインシュタインは、神から離れた科学をやっていなかった。そして、科学と宗教に係わるさまざまな言葉を遺した。彼の言葉を想い起こせば、彼にとって科学と宗教は共存していることが分かる。
例えば、「わたしは神のパズルを解くのが好きだ」「最高精神が宇宙を生んだ」「精神が物質を生んだ」「宗教なき科学は完全ではない」「神が宇宙をつくったとき、たったひとつのやり方しかなかった。だからその方程式があるはずだ。神の方程式を手に入れたかった」などの言葉が残されている。
さらに、アインシュタインが死ぬ直前に語った言葉は、「これが最後です。これがゴールなのです。わたしは神のパズルをすべて解いたのです」「神はサイコロをふらない。この世は欺かれることを恐れている。わたしは神のパズルを解いてしまった」であった。彼の中では、科学と宗教が共に在った。
社会とは
われわれが健康を獲得するためには、さらに、生きている豊かな生活の場、すなわち豊かな時間と空間が必要である。それが世界保健機関の健康の定義にある「社会的」という言葉に表れている。いわゆる「環境」は、この中に含んで考えることが少ない。しかし、生活の場である環境が健全でなければ、われわれは健康を獲得することができまい。これは明らかなことである。不健康な環境の中で、人は健康であり続けることはできない。
では、現実の日々の生活の中で環境とは何であろうか。このことは、第3回の「環境から考える医」においても書いた。それは自然と人との関係にかかわるもので、環境が人を離れてそれ自体で善し悪しが問われているわけではない。両者の関係は、人が環境をどのように見るのか、環境に対してどのような態度をとるのか、そして環境を総体としてどのように価値づけるのかによって決まる。
すなわち、環境とは人と自然の間に成立するもので、人の見方や価値観が色濃く刻み込まれているものである。だから、人の文化を離れた環境というものは存在しない。となると、環境とは自然であると同時に文化であり、環境を改善するとは、とりもなおさずわれわれ自身を変えることにつながる。
健康について、われわれ自身を変えるとは何であろうか。環境が悪化している現象のなかで健康はどうあるべきかを考え、健康のためにその環境を変えていくのが、健康と環境の係わり方であろう。
健康の基本は、病気を未然に防ぐことでもある。そのためには、健全な環境のもとに生活し、健全な食物が生産され、安全な製造過程を経た食品を食し、健康を保ち病に陥らないことが必要である。健全な食物はどこから生まれるのであろうか。それは土壌以外にはない。今までも、今も、そしてこれからも。
そのことは、第2回の「土壌から考える環境と農」で詳しく書いてきた。そのなかでは、土壌を永続的に健全に保つことが、人の健康と地球環境の保全に不可欠であることを強調した。もちろん、健康を保つには健全な大気や水も不可欠である。しかし、健全な大気も水もその基は土壌である。このことも第2回で具体的に説明した。
カントの「真善美」
話は変わる。哲学者にして自然科学者であり、人間学にも長けたドイツのイマヌエル・カントは「真善美」を唱えた。
科学を真理だと思う理性について考察したのが、カントの「純粋理性批判」であろう。理性に裏付けられた科学技術の発達は、その恩恵に浴してわれわれに豊かな生活を保証した。これが「真」の意味であろう。
そのお陰で、われわれは豊富な食料と、様々な利便性と、多くの病気を克服し長寿を確保することができた。しかし、このような豊かさと富が蓄積されると、富者と貧者が生まれた。そうなると、否応なく道徳問題が生じる。
この豊かさを自由に大きくできるようにした構造が資本主義で、平等に分配するとしたのが社会主義であろう。いわゆる倫理問題に相当する。このことは、「善」が語られるカントの「実践理性批判」に述べられている。
資本主義と社会主義の対立は、自由競争で富の全体のパイを大きくすれば幸福になるという正義論と、富は計画して創り上げ、平等に分配されるべきだという正義論の対立でもある。まさに、倫理観の争いといえる。いずれの経済体制にしても、われわれは、有り余ると思っていた大自然の資源を無造作に活用して、豊かさを求めて邁進してきた。
しかし、われわれは今頃になって資源が有限であることにやっと気付いた。そして、資本主義体制も社会主義体制も、ともに地球環境の破壊を招くことを知った。どちらが「善」であるかというような悠長な議論をしている時間など、もはやない。
カントの最後の「判断力批判」は、「美」と崇高を扱っている。カントの三大批判に従えば、「真」と「善」、すなわち「科学の真理」と「主義の正義」を金科玉条として築いてきた20世紀の「真と善の文明」に続くのは、「美の文明」であろう。
そして、われらは・・・・
「人の健康」と「地球環境の保全」というわれらの目的は、あたかもカントの「美」の世界に向かっているようである。「地球環境の保全」という環境問題に対して、多くの国や組織や個人が、政治や経済や産業が、宗教や医学や教育や哲学が、そして芸術までが、なべて真摯に取り組み始めた。「人の健康」を最優先にし、環境と経済が調和できる「美」を求めて。
「「物質と空間」を対象とし、「観察と分析」を真理探求の方法とする科学と、「精神・意識と時間」を対象とし、「内省」を真理探求の方法とする哲学と、「精神・霊魂」と「時空」を対象とし、「直感」を真理探求の方法とする宗教が求める21世紀の世界は、生命の現象と生命の本質を基盤とした「美」で一致しているのである。
こころ豊かな健康:身体・精神・霊魂・社会
私たち人類の真の願いは、誰もがいつまでも「こころ豊かな健康」でありたいということにある。このことを否定する人は誰もいない。この世界に存在する科学や哲学や宗教は、いずれも「こころ豊かな健康」であるための真理を求めている。
では、現実の日々の生活の中で健康とは何であろうか。世界保健機関(WHO)の「健康」の定義は次のようなものである。「健康とは、完全に、身体、精神、および社会的によい(安寧な)状態であることを意味し、単に病気でないとか、虚弱でないということではない」。ここでの精神の訳は、英語のメンタル(mental:精神の、心的な、知的な)に相当する。
しかし、世界保健機関は1999年の総会で新たに健康の定義を以下のように提案している。それには、新たにスピリチュアル(spiritual:霊魂的な)と動的な(dynamic)が加わっている。
すなわち、「健康とは、完全に、身体、精神、霊魂および社会的によい(安寧な)動的な状態であることを意味し、単に病気でないとか、虚弱でないということではない」。この定義の決着はまだついていない。恐らく長い時間が必要だろう。
われわれが健康について問うとき、ほとんどが「身体」と「精神」で、後の「霊魂」と「社会」については、あまり思いが及ばない。そこで、後の二つについて考えてみる。
スピリチュアルとは
そもそも「スピリチュアル」とは単なる心ではなく、心と身体を結びつける人間の存在にとって中核となるものを意味し、わが国では古来「魂」とか「霊」とか「霊魂」とか「言霊」などと呼ばれてきたものである。これまで人びとが宗教として捉えた領域であろう。
この定義は、世界保健機関でそう簡単に決着がつかないであろう。ましてや、科学と宗教が別のものであると教育された人びとが多いわが国では、この問題の決着にさらなる時間が必要となるであろう。
西洋の自然科学がキリスト教を背景に生じたことは、誰でも知っている。宗教で説明できないことを科学に求めたからである。ということは、われわれが自然科学と呼ぶものから、宗教を抜くことはできないということでもある。
わが国では宗教と科学は背反するもの、あるいはまったく別のものだと思っている人が多いため、健康の定義のなかに霊魂という言葉があれば、すぐに科学的でない、宗教的だと思ってしまいがちである。
西洋における自然科学は、むしろ宗教のある面に対して説得を試みるために生じたと考える方が理解しやすい場合がある。その意味で、両者は背中合わせにもたれかかる関係にあるだろう。科学と宗教は切り離すことができない。
ノーベル賞を獲得したあの天才科学者アインシュタインは、神から離れた科学をやっていなかった。そして、科学と宗教に係わるさまざまな言葉を遺した。彼の言葉を想い起こせば、彼にとって科学と宗教は共存していることが分かる。
例えば、「わたしは神のパズルを解くのが好きだ」「最高精神が宇宙を生んだ」「精神が物質を生んだ」「宗教なき科学は完全ではない」「神が宇宙をつくったとき、たったひとつのやり方しかなかった。だからその方程式があるはずだ。神の方程式を手に入れたかった」などの言葉が残されている。
さらに、アインシュタインが死ぬ直前に語った言葉は、「これが最後です。これがゴールなのです。わたしは神のパズルをすべて解いたのです」「神はサイコロをふらない。この世は欺かれることを恐れている。わたしは神のパズルを解いてしまった」であった。彼の中では、科学と宗教が共に在った。
社会とは
われわれが健康を獲得するためには、さらに、生きている豊かな生活の場、すなわち豊かな時間と空間が必要である。それが世界保健機関の健康の定義にある「社会的」という言葉に表れている。いわゆる「環境」は、この中に含んで考えることが少ない。しかし、生活の場である環境が健全でなければ、われわれは健康を獲得することができまい。これは明らかなことである。不健康な環境の中で、人は健康であり続けることはできない。
では、現実の日々の生活の中で環境とは何であろうか。このことは、第3回の「環境から考える医」においても書いた。それは自然と人との関係にかかわるもので、環境が人を離れてそれ自体で善し悪しが問われているわけではない。両者の関係は、人が環境をどのように見るのか、環境に対してどのような態度をとるのか、そして環境を総体としてどのように価値づけるのかによって決まる。
すなわち、環境とは人と自然の間に成立するもので、人の見方や価値観が色濃く刻み込まれているものである。だから、人の文化を離れた環境というものは存在しない。となると、環境とは自然であると同時に文化であり、環境を改善するとは、とりもなおさずわれわれ自身を変えることにつながる。
健康について、われわれ自身を変えるとは何であろうか。環境が悪化している現象のなかで健康はどうあるべきかを考え、健康のためにその環境を変えていくのが、健康と環境の係わり方であろう。
健康の基本は、病気を未然に防ぐことでもある。そのためには、健全な環境のもとに生活し、健全な食物が生産され、安全な製造過程を経た食品を食し、健康を保ち病に陥らないことが必要である。健全な食物はどこから生まれるのであろうか。それは土壌以外にはない。今までも、今も、そしてこれからも。
そのことは、第2回の「土壌から考える環境と農」で詳しく書いてきた。そのなかでは、土壌を永続的に健全に保つことが、人の健康と地球環境の保全に不可欠であることを強調した。もちろん、健康を保つには健全な大気や水も不可欠である。しかし、健全な大気も水もその基は土壌である。このことも第2回で具体的に説明した。
カントの「真善美」
話は変わる。哲学者にして自然科学者であり、人間学にも長けたドイツのイマヌエル・カントは「真善美」を唱えた。
科学を真理だと思う理性について考察したのが、カントの「純粋理性批判」であろう。理性に裏付けられた科学技術の発達は、その恩恵に浴してわれわれに豊かな生活を保証した。これが「真」の意味であろう。
そのお陰で、われわれは豊富な食料と、様々な利便性と、多くの病気を克服し長寿を確保することができた。しかし、このような豊かさと富が蓄積されると、富者と貧者が生まれた。そうなると、否応なく道徳問題が生じる。
この豊かさを自由に大きくできるようにした構造が資本主義で、平等に分配するとしたのが社会主義であろう。いわゆる倫理問題に相当する。このことは、「善」が語られるカントの「実践理性批判」に述べられている。
資本主義と社会主義の対立は、自由競争で富の全体のパイを大きくすれば幸福になるという正義論と、富は計画して創り上げ、平等に分配されるべきだという正義論の対立でもある。まさに、倫理観の争いといえる。いずれの経済体制にしても、われわれは、有り余ると思っていた大自然の資源を無造作に活用して、豊かさを求めて邁進してきた。
しかし、われわれは今頃になって資源が有限であることにやっと気付いた。そして、資本主義体制も社会主義体制も、ともに地球環境の破壊を招くことを知った。どちらが「善」であるかというような悠長な議論をしている時間など、もはやない。
カントの最後の「判断力批判」は、「美」と崇高を扱っている。カントの三大批判に従えば、「真」と「善」、すなわち「科学の真理」と「主義の正義」を金科玉条として築いてきた20世紀の「真と善の文明」に続くのは、「美の文明」であろう。
そして、われらは・・・・
「人の健康」と「地球環境の保全」というわれらの目的は、あたかもカントの「美」の世界に向かっているようである。「地球環境の保全」という環境問題に対して、多くの国や組織や個人が、政治や経済や産業が、宗教や医学や教育や哲学が、そして芸術までが、なべて真摯に取り組み始めた。「人の健康」を最優先にし、環境と経済が調和できる「美」を求めて。
「「物質と空間」を対象とし、「観察と分析」を真理探求の方法とする科学と、「精神・意識と時間」を対象とし、「内省」を真理探求の方法とする哲学と、「精神・霊魂」と「時空」を対象とし、「直感」を真理探求の方法とする宗教が求める21世紀の世界は、生命の現象と生命の本質を基盤とした「美」で一致しているのである。
「農医連携論」の概略:4.東洋医学および代替医療からみた農医連携
本年度から開始した「農医連携論」の講義内容(情報:40号の1~3p参照)のうち、「1.農医連携入門、2.医学からみた農医連携、3.農学からみた農医連携」の概略は、情報:40号の3~11pに紹介した。今回は、「4.東洋医学および代替医療からみた農医連携」を講師のパワーポイントから紹介する。
◎ 健康と病気
◎ 健康と病気
◎ 相補代替医療とは?
Complementary and Alternative Medicine (CAM)
米国で1994年に栄養補助食品健康教育法(DSEAH)が制定された
→ハーブの有効性を食品領域でも積極的に活用する道を開いた。代替医療→補完医療(米国)
WHOの定義(国により自国の伝統医学以外の伝統医学の意味を含む)
◎ 代替医療:健康食品、ハーブ、サプリメント、柔道整復、指圧、マッサージ、カイロプラクティック、アロマテラピー、温泉
東洋医学(漢方、鍼灸):日本では正式な医療
◎ 世界の主な伝統医学
Complementary and Alternative Medicine (CAM)
米国で1994年に栄養補助食品健康教育法(DSEAH)が制定された
→ハーブの有効性を食品領域でも積極的に活用する道を開いた。代替医療→補完医療(米国)
- 伝統的療法、民間療法
- カイロプラクティック療法
- 心理療法
- 食餌療法
- 健康食品療法
- ハーブ療法
- 指圧、マッサージ
WHOの定義(国により自国の伝統医学以外の伝統医学の意味を含む)
◎ 代替医療:健康食品、ハーブ、サプリメント、柔道整復、指圧、マッサージ、カイロプラクティック、アロマテラピー、温泉
東洋医学(漢方、鍼灸):日本では正式な医療
- 漢方は医学部・薬学部におけるコアカリキュラムとして教育
- 獣医東洋医学
◎ 世界の主な伝統医学
国・地域 | 伝統医学の内容・名称 |
日 本 | 東洋医学(漢方,鍼灸),柔道整復,指圧 |
中国・台湾 | 中医学,鍼灸,チベット医学,モンゴル医学,太極拳,気功 |
韓 国 | 韓医学,四象医学 |
インドその他 | アーユルヴェーダ,ユナニ,ヨーガなど |
アラブ諸国 | ユナニなど |
ヨーロッパ諸国 | アロパシー,ホメオパシー,鍼灸,温泉療法,植物療法,アロマテラピー |
アフリカ諸国 | 薬草療法など |
米 国 | ネイティブ・アメリカン医学,カイロプラクティック,ナチュロパシー,リフレクソロジーなど |
◎ 農(植物・薬用植物)→医・健康(食品・機能性食品・新薬・生薬→漢方薬)
◎ 植物由来の食品と健康
食品:Food Science:食品への加工・調製方法(発酵や酵素の利用など)や品質管理、安全性、機能性
オランダ・ワーゲンニンゲン大学
オランダ唯一のFood Scienceの教育(Food Pharma)
機能性食品(日本の代替医療の中心):起源となる植物の品質が重要→農・食・健康
◎ 「周礼」:中国の周(前11~前8世紀)の王朝制度を記した古典
千金方:唐時代の医学書
"健康維持や病気の予防の元は食物にあり、病気を迅速に治療するのが薬である"
食と予防医学
◎ 機能性食品の役割
◎ 植物由来の食品と健康
食品:Food Science:食品への加工・調製方法(発酵や酵素の利用など)や品質管理、安全性、機能性
オランダ・ワーゲンニンゲン大学
オランダ唯一のFood Scienceの教育(Food Pharma)
機能性食品(日本の代替医療の中心):起源となる植物の品質が重要→農・食・健康
◎ 「周礼」:中国の周(前11~前8世紀)の王朝制度を記した古典
- 食医(食事療法医)
- 疾医(内科医)
- 瘍医(外科医)
- 獣医(軍馬・牛などを治療)
千金方:唐時代の医学書
"健康維持や病気の予防の元は食物にあり、病気を迅速に治療するのが薬である"
食と予防医学
◎ 機能性食品の役割
治療 | 病気 | 西洋薬(新薬) |
グレーゾーン | 漢方薬 | |
予防 | グレ−ゾーン | 機能性(健康)食品 |
健康 |
◎ 保健機能食品の位置づけ
◎ 植物由来の薬とは?
新薬→ 純粋に精製した成分を直接、またはより有効な化合物に化学的な方法等により変換することで開発
例
アスピリン:ヤナギの成分を誘導体化(解熱鎮痛薬)
アルテミシニン:青蒿の成分(抗マラリア薬)
タキソール:イチイの成分の誘導体化(抗癌剤)
漢方薬・生薬→ 伝統的に認められた薬用植物の草根木皮のエキスを薬物として用いる
東洋医学に用いる→ 起源となる植物の品質が重要:医
◎ 薬用植物
長い間にわたって様々な経験を重ねて知り得た薬となる植物。薬となる植物を常に身近に植え、様々な病気に対応することは、その薬効が季節、地域の気象条件、生育環境などに左右されることから不可能。
→薬となる植物(薬用植物)を何らかの形で保存し、いざという時に備えることが必要
→生薬の始まり
生薬の由来
植物-植物(人参、甘草、柴胡)・菌類(茯苓、猪苓)
動物-阿膠、蝉退、牡蛎
鉱物-竜骨、石膏、芒硝
◎ 葛根湯
葛根(8.0 g) マメ科のクズの周皮を除いた根
麻黄(4.0 g) マオウ科のマオウの地上茎
大棗(4.0 g) クロウメモドキ科のナツメの果実
桂皮(3.0 g) クスノキ科のニッケイの樹皮
芍薬(3.0 g) ボタン科のシャクヤクの根
甘草(2.0 g) マメ科のカンゾウの根
生姜(0.5 g) ショウガ科のショウガの根
計 24.5 g
◎ 医療用漢方製剤
◎ 西洋薬と漢方薬の作用の比較
新薬→ 純粋に精製した成分を直接、またはより有効な化合物に化学的な方法等により変換することで開発
例
アスピリン:ヤナギの成分を誘導体化(解熱鎮痛薬)
アルテミシニン:青蒿の成分(抗マラリア薬)
タキソール:イチイの成分の誘導体化(抗癌剤)
漢方薬・生薬→ 伝統的に認められた薬用植物の草根木皮のエキスを薬物として用いる
東洋医学に用いる→ 起源となる植物の品質が重要:医
◎ 薬用植物
長い間にわたって様々な経験を重ねて知り得た薬となる植物。薬となる植物を常に身近に植え、様々な病気に対応することは、その薬効が季節、地域の気象条件、生育環境などに左右されることから不可能。
→薬となる植物(薬用植物)を何らかの形で保存し、いざという時に備えることが必要
→生薬の始まり
生薬の由来
植物-植物(人参、甘草、柴胡)・菌類(茯苓、猪苓)
動物-阿膠、蝉退、牡蛎
鉱物-竜骨、石膏、芒硝
◎ 葛根湯
葛根(8.0 g) マメ科のクズの周皮を除いた根
麻黄(4.0 g) マオウ科のマオウの地上茎
大棗(4.0 g) クロウメモドキ科のナツメの果実
桂皮(3.0 g) クスノキ科のニッケイの樹皮
芍薬(3.0 g) ボタン科のシャクヤクの根
甘草(2.0 g) マメ科のカンゾウの根
生姜(0.5 g) ショウガ科のショウガの根
計 24.5 g
◎ 医療用漢方製剤
- 煎じ薬をフリーズドライ加工して乳糖などの賦形剤を加え顆粒としたもの
(147種類のエキス処方:2003年現在) - 1976年より健康保険適用
- 煎じる手間がかからず携帯に便利
◎ 西洋薬と漢方薬の作用の比較
◎ 日本における漢方医学の歴史
中国伝統医学(6世紀)→日本に伝来 → 鎖国 → 漢方医学 → 明治維新後 →西洋医学
↑ ↓
オランダ医学 漢方医学・補完医療
日本の視点:漢方医学を含む東洋医学は代替医療ではなく正式な医療
◎ 漢方薬の対象となる疾患
◎ 病気(形質)の原因
環境要因
↓
遺伝要因 →→→→ 症状 → 病態 → 病態に対応した漢方薬
中国伝統医学(6世紀)→日本に伝来 → 鎖国 → 漢方医学 → 明治維新後 →西洋医学
↑ ↓
オランダ医学 漢方医学・補完医療
日本の視点:漢方医学を含む東洋医学は代替医療ではなく正式な医療
◎ 漢方薬の対象となる疾患
- 慢性疾患
- 体力低下の改善
- 高齢者の疾患(多臓器疾患、骨粗鬆症、老人性痴呆、前立腺肥大)
- アレルギー性疾患(喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎)
- 癌の補助療法
- 生活習慣病(高血圧、糖尿病、大腸菌)
- 感染症(ウイルス性疾患、細菌性疾患)
- 婦人科疾患(更年期障害、冷え性)
◎ 病気(形質)の原因
環境要因
↓
遺伝要因 →→→→ 症状 → 病態 → 病態に対応した漢方薬
◎ 東洋医学や代替医療にエビデンスを求めて
↓
研究の方法論 → 健康食品や代替医療のエビデンスの研究に応用可能
◎ 小青竜湯
- 日本・中国・台湾・韓国:漢方、鍼など東洋医学(伝統医学)の研究が活発に展開
- ヨーロッパ(ドイツ);植物薬の研究(基礎・臨床)
米国:NIH、National Center for Complementary and Alternative Medicine - 全米の主要大学医学部で大型研究費のもと代替医療の研究(神経、癌、免疫、生活習慣病など)
- 漢方の研究:漢方医学(臨床効果の客観的な実証)
↓
研究の方法論 → 健康食品や代替医療のエビデンスの研究に応用可能
◎ 小青竜湯
半夏 | Pinelliae Tuber | 6.0g |
麻黄 | Ephedrae Herba | 3.0g |
桂皮. | Cinnamomi Cortex | 3.0g |
芍薬 | Paeoniae Radix | 3.0g |
五味子 | Schisandrae Fructus | 3.0g |
細辛 | Asiasari Radix | 3.0g |
甘草 | Glycyrrhizae Radix | 2.0g |
乾姜 | Zingiberis Siccatum Rhizoma | 1.0g |
24.0g/日 |
適応:気管支炎・感冒・気管支喘息
鼻炎・アレルギー性鼻炎・喘息
↓
気道炎症の調節作用
◎ 小青竜湯の薬理作用(Nagai,Yamada et al.)
1.気道粘膜免疫系の調節作用
2.気道炎症の調節作用
◎ 小青竜湯による気道粘膜免疫系の調節
鼻炎・アレルギー性鼻炎・喘息
↓
気道炎症の調節作用
◎ 小青竜湯の薬理作用(Nagai,Yamada et al.)
1.気道粘膜免疫系の調節作用
- インフルエンザウイルスを感染したマウスのウイルス価を低下させ、鼻腔や肺などの粘膜局所で感染防御に重要なIgA抗体価を増加させた。
- 経鼻投与インフルエンザワクチンに対する粘膜アジュバント作用を有しており、小青竜湯の投与はワクチンの作用を増加させた。
2.気道炎症の調節作用
- 気道炎症(喘息)モデルマウスの気道過敏症を低下させた。
- 気道炎症モデルマウスのアレルギーで増加する肺中のIgE抗体価や好酸球数を減少させた。
◎ 小青竜湯による気道粘膜免疫系の調節
◎ Th1/Th2バランスに対する小青竜湯の影響
→アレルギー発症に関わるTh2優位からTh1優位へ改善する
◎ 十全大補湯
造血系に対する十全大補湯の作用
◎ 高齢化(老化)に伴う疾患:アルツハイマー型痴呆(認知型)・脳血栓性痴呆(認知症)
生活習慣病(糖尿病・高血圧・高脂血症・肥満・アルコール性肝疾患)
その他の疾患(アレルギー疾患・虚弱体質・更年期障害)
治療:現代医学(新薬)、東洋医学(漢方薬)
◎ 漢方薬の新しい臨床応用(加味温胆湯の脳機能改善作用)、臨床適応:不眠症、神経症
◎ 漢方薬の新しい薬理作用(Yake,Yamada et al.) 加味温胆湯(かみうんたんとう)のアルツハイマー型認知症の認知能力改善作用
◎ 老人性アルツハイマー型認知症患者のドネペジルと加味温胆湯での併用効果(Arai et al., 2007)
ドネペジル:商品名アリセプト、日本発のアルツハイマー型認知症に対する新薬
◎ 加味温胆湯は抗うつ様効果も有する。加味温胆湯は神経幹細胞の増殖とニューロン新生を促進する。(北里生命研、矢部,山田)
◎ 糖尿病の合併症:脳梗塞・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病腎症・下肢閉塞性動脈硬化症・糖尿病網膜症・皮膚の病気・感染症・糖尿病神経障害
予防医学の重要性:漢方医学は未病を治す。
◎ 獣医領域への応用
ペット動物(イヌ・ネコ):漢方薬治療(例:イヌの認知障害)
経済動物(牛):鍼(例:乳の出がよくなる)
競走馬:鍼・漢方治療
機能性食品・健康食品の利用も期待される。
◎ 水産領域への代替医療の利用
素材:海藻(フコイダン・硫酸化フコイダン)が抗腫瘍作用や抗凝固作用がある。
水産業への利用:パン酵母由来のβ-(1→3)グルカンは魚の生体防御(免疫調節)に効果的で、抗生物質無添加の養殖、養殖の歩留まりを大幅に改善する。
◎ 農医の世界
→アレルギー発症に関わるTh2優位からTh1優位へ改善する
◎ 十全大補湯
造血系に対する十全大補湯の作用
- 貧血症、抗癌剤、放射線治療の副作用(骨髄機能の抑制、白血球減少、血小板減少)軽減
- 骨髄移植の前にマウスへの経口投与で造血未分化幹細胞の数を反映するCFU-Sが有意に増加(Ohnishi et al., 1990)
- 十全大補湯は骨髄の幹細胞の増殖を促進(Hisha,Yamada et al., 1997)
◎ 高齢化(老化)に伴う疾患:アルツハイマー型痴呆(認知型)・脳血栓性痴呆(認知症)
生活習慣病(糖尿病・高血圧・高脂血症・肥満・アルコール性肝疾患)
その他の疾患(アレルギー疾患・虚弱体質・更年期障害)
治療:現代医学(新薬)、東洋医学(漢方薬)
◎ 漢方薬の新しい臨床応用(加味温胆湯の脳機能改善作用)、臨床適応:不眠症、神経症
◎ 漢方薬の新しい薬理作用(Yake,Yamada et al.) 加味温胆湯(かみうんたんとう)のアルツハイマー型認知症の認知能力改善作用
- 中隔野の神経細胞の認知能力と相関するアセチルコリンを合成する酵素活性を増加した(1995)。
- 老齢ラットや障害ラットの低下した記憶学習能力を改善(1997)。
- 老人性アルツハイマー型認知症患者の認知能力を改善(Arai et al.,2001)。
◎ 老人性アルツハイマー型認知症患者のドネペジルと加味温胆湯での併用効果(Arai et al., 2007)
ドネペジル:商品名アリセプト、日本発のアルツハイマー型認知症に対する新薬
◎ 加味温胆湯は抗うつ様効果も有する。加味温胆湯は神経幹細胞の増殖とニューロン新生を促進する。(北里生命研、矢部,山田)
◎ 糖尿病の合併症:脳梗塞・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病腎症・下肢閉塞性動脈硬化症・糖尿病網膜症・皮膚の病気・感染症・糖尿病神経障害
予防医学の重要性:漢方医学は未病を治す。
◎ 獣医領域への応用
ペット動物(イヌ・ネコ):漢方薬治療(例:イヌの認知障害)
経済動物(牛):鍼(例:乳の出がよくなる)
競走馬:鍼・漢方治療
機能性食品・健康食品の利用も期待される。
◎ 水産領域への代替医療の利用
素材:海藻(フコイダン・硫酸化フコイダン)が抗腫瘍作用や抗凝固作用がある。
水産業への利用:パン酵母由来のβ-(1→3)グルカンは魚の生体防御(免疫調節)に効果的で、抗生物質無添加の養殖、養殖の歩留まりを大幅に改善する。
◎ 農医の世界
本の紹介 37:「猛毒大国」中国を行く、鈴木譲仁著、新潮新書(2008)
中国製の餃子中毒事件により、意識不明の重体の女児らを含めて三家族10人の被害者が出てから半年が経過する。事件の真相はいまだ謎だ。科学は、いつでも共通な真相を究明できるはずだ。日本でも中国でもそれを科学というはずだ。しかし、中国と日本の科学の結果が大きく異なる。
宗教や主義は、万国共通ではない。科学は万国共通だ。それを科学という。中国の科学と日本の科学は、異なるのか?それでは科学とはいえまい。となれば、今回の餃子中毒事件は主義か宗教なのだろう。
思い出せば、中国食品の汚染問題は世界のメディアを賑わした。パナマの毒シロップ事件がことの始まりである。その後わが国のメディアも、中国製歯磨き、冷凍ウナギ、鉛入り土鍋、鉛玩具など、その常識外れの危険性を盛んに報道した。
その中でも「段ボール肉まん」は、「偽ディズニーランド」「偽キティちゃん」「偽・・・」と肩を並べるほどの食品がらみの失笑噴飯ものだった。
中国国内にいたっては、「白い春雨」「白馬小麦粉」「有毒氷砂糖」「人造卵」「人造葡萄」「人造クラゲ」「人造牛肉」「人造鶏肉」「五味醤油」「七色七味水晶もち」「果実味餅」「苛性ソーダ入りパン」「月餅」「元宵」などの食品が、魑魅魍魎よろしく蠢いている。
中国のテレビジョンでは、例えば元宵が販売されるシーズンになると「安全な元宵の見分け方」を頻繁に放映するという。なんと「有毒元宵」のチェックポイントの解説まであるという。1) 製品ラベルのチェック、2) 密封包装確認、3) 色・形・斑点・亀裂の確認、4) 湯の濁り・浮遊確認、口当たり、弾力性、甘み、脂みなど。
さて、本書の紹介に入る。著者は、中国問題を中心にアジアの政治・経済・社会問題など幅広いジャンルで取材活動を行っているジャーナリストだ。十年以上にわたって中国の食の現場に足を運び取材した生々しいデータをもとに書かれた、足の肉刺(まめ)と汗の結晶の産物だ。
この本は次の章からなる。第1章:春雨村の怪、第2章:魑魅魍魎の食品汚染、第3章:想像を絶する癌村の実態、第4章:本当に効くのか-漢方薬の裏側、第5章:中国を分断させる闇の力
第1章は、「白いすだれ」を探しに湖南省黄土鋪鎮大栄村を訪れる危険な取材の旅だ。「白いすだれ」とは、汚い瓶の水で洗ったとは思えないほど美しい光沢を放つ春雨なのだ。村で採れたサツマイモやトウモロコシで作る。白い春雨ができる理由はこうだ。
中国に「吊白塊(ディオパイクワイ)」と呼ばれる化学物質がある。化学名は Sodium formaldehyde sulfoxylate だ。日本では「ロンガリット」と呼ばれるフォルムアルデヒド系の工業用漂白剤だ。工業用クリーニング、木綿・毛織物の染色や漂泊に使用される化学物質で、日本では発癌性の高い化学物質として内装材や接着剤などでも使用が禁止されている。10g摂取するだけで死に至る。
この化学物質は常温や低温では安定しているが、温度が上がるとフォルムアルデヒドと二酸化硫黄に分解される。フォルムアルデヒドは発癌性物質なので、1988年から中国全土でも使用は禁止されている。
大栄村の春雨工場は、春雨を作るのにサツマイモデンプン以外に他の雑穀デンプンを混ぜるため、色が濃くなる。そこで吊白塊と別の着色料を加え、「白い春雨」に仕上げる。
ロンガリットの混入現場を押さえようと、著者のさまざまな危険な旅がつづく。結局、現場を押さえきれないが、何度摘発されても一考に改善されない春雨村の闇の構図を浮かび上がらせる。中国の地方都市や農村部には、中央政府の統制がゆきわたっていないのだ。地元の組織が手を組んで闇の商いをやっているのだ。
第2章は、食品汚染の事象を魑魅魍魎に例えて、化け物と怪物のような食品が中国国内を蠢いていることが具体的に紹介される。
第1章の大栄村の春雨事件は、やはり吊白塊を使用していることが判明した。大栄村の出身者2人から確証をとっている。大栄の春雨は何度も摘発・押収されているが、一向に改善されない。中国の食品汚染の闇は実に根深く、全土に広がっている。
ヨードを含まない「偽塩」「密造塩」が後を絶たない。悪質なのは、工業用塩を食用塩として販売する業者だ。重金属を含む工業用塩は、過度に摂取すると中毒症状を引き起こすという。
偽塩事件の他に「有毒氷砂糖」事件もある。悪質な砂糖を原料にし、それに亜ジチオン酸ナトリウムを使って漂白、透明感をだしての販売だ。
冷凍餃子や冷凍サバに含まれていた有機農薬「ジクロルボス」も、発癌性の劇薬として使用が禁止されているが、中国国内では頻繁に食品から基準以上の値が検出される。摘発される。摘発されても一向に改善される様子がないという。
化学物質を使って卵そっくりに作りあげる人造卵があるという。人造葡萄、人造クラゲ、人造牛肉、人造鶏肉、五味醤油などの人造食品については、冒頭紹介したが、この章に詳しい。
著者もしばしば使っているが、これら偽造食品が横行している中国の現状をみると、四文字熟語が口を突いて出る。唖然愕然、笑止千万、青息吐息、言語道断、失笑噴飯、悪因悪果、海千山千、悪童無道・・・・・・・・
第3章では、想像を絶する3つの癌村の実態が紹介される。癌村が紹介される前に、有毒薬品の河川への垂れ流しによる、豚、鶏、アヒル、魚などの奇形発現が報告される。渤海と白洋淀が死の海へ近づいていることが、具体的なデータで示される。
また湖南省湘江流域では、カドミウム汚染と考えられるイタイイタイ病の症状が多くの住民に認められるという。その他、ヒ素やフッ素の影響と思われるさまざまな症状が紹介される。
中国の癌村は各省の至る所にあるらしい。その数は30から40地域以上存在するといわれている。著者はそのなかの、天津市劉快症村、河南省黄孟営村、安徽省林王村の3村に実際に足を運んで、その実態を事実に基づいて記録している。
その結果を、次のように結んでいる。「海外に向けた大幅な環境対策計画を壮大にぶち上げた胡錦涛政権。その対策費も年々増加されている。しかし、まさに被害に直面し苦しんでいる癌村や汚染地域に対して、何ら具体的、効果的な救済策や改善策を施そうとしない中国政府の"本音と実態"こそ、その汚染源が"国家体制"にあることを如実に示しているのではないだろうか」
第4章は、「本当に効くのか-漢方薬の裏側」と題して、さまざまな事例を紹介し、最後に強烈な主張をする。「漢方医学は、果たして人の命を預かる医学という名の学問に値するのだろうか。われわれは中国の漢方薬という"2000年の閉ざされた医学"に対し、その真贋を厳しく監視して行かなければならないのだ」と語る。
ここでは、項目を紹介するが、その前に、まず漢方薬の原料となる生薬などの80%近くは、中国から輸入されていることを肝に銘じておこう。
「マルチ商法まがいの蟻力神」「堪忍袋の緒が切れた被害者の声」「冬虫夏草が癌に効くという噂」「30年、漢方を研究した末の結論」「西洋薬との混合での危険性」「ドクダミ点滴を受け意識不明となった葵瑛ちゃん」「闇審査で粗製濫造される中国薬」「900年前の文献が審査基準」。
第5章では、中国食品問題が抱える病窟の複雑さが、項目を変え語られる。それは、知的財産権問題や環境問題と全く同じ病巣から生まれる暗部だろう。それらの項目は以下の通りだ。「発展途上国という戦略」「歪な断裂構造」「同族地主たちの復権」「明公村、千一族の骨肉の争い」「国家権力機構にも浸透する黒社会」「"低廉な労働力"としてだけの存在」「健全なジャーナリズムは存在しない」。
この本を読んで、当然なことを再確認した。「健全な環境なくして、農の営みも健康の維持もありえない」。結局、環境とはそこに住む民族の文化なのである。
宗教や主義は、万国共通ではない。科学は万国共通だ。それを科学という。中国の科学と日本の科学は、異なるのか?それでは科学とはいえまい。となれば、今回の餃子中毒事件は主義か宗教なのだろう。
思い出せば、中国食品の汚染問題は世界のメディアを賑わした。パナマの毒シロップ事件がことの始まりである。その後わが国のメディアも、中国製歯磨き、冷凍ウナギ、鉛入り土鍋、鉛玩具など、その常識外れの危険性を盛んに報道した。
その中でも「段ボール肉まん」は、「偽ディズニーランド」「偽キティちゃん」「偽・・・」と肩を並べるほどの食品がらみの失笑噴飯ものだった。
中国国内にいたっては、「白い春雨」「白馬小麦粉」「有毒氷砂糖」「人造卵」「人造葡萄」「人造クラゲ」「人造牛肉」「人造鶏肉」「五味醤油」「七色七味水晶もち」「果実味餅」「苛性ソーダ入りパン」「月餅」「元宵」などの食品が、魑魅魍魎よろしく蠢いている。
中国のテレビジョンでは、例えば元宵が販売されるシーズンになると「安全な元宵の見分け方」を頻繁に放映するという。なんと「有毒元宵」のチェックポイントの解説まであるという。1) 製品ラベルのチェック、2) 密封包装確認、3) 色・形・斑点・亀裂の確認、4) 湯の濁り・浮遊確認、口当たり、弾力性、甘み、脂みなど。
さて、本書の紹介に入る。著者は、中国問題を中心にアジアの政治・経済・社会問題など幅広いジャンルで取材活動を行っているジャーナリストだ。十年以上にわたって中国の食の現場に足を運び取材した生々しいデータをもとに書かれた、足の肉刺(まめ)と汗の結晶の産物だ。
この本は次の章からなる。第1章:春雨村の怪、第2章:魑魅魍魎の食品汚染、第3章:想像を絶する癌村の実態、第4章:本当に効くのか-漢方薬の裏側、第5章:中国を分断させる闇の力
第1章は、「白いすだれ」を探しに湖南省黄土鋪鎮大栄村を訪れる危険な取材の旅だ。「白いすだれ」とは、汚い瓶の水で洗ったとは思えないほど美しい光沢を放つ春雨なのだ。村で採れたサツマイモやトウモロコシで作る。白い春雨ができる理由はこうだ。
中国に「吊白塊(ディオパイクワイ)」と呼ばれる化学物質がある。化学名は Sodium formaldehyde sulfoxylate だ。日本では「ロンガリット」と呼ばれるフォルムアルデヒド系の工業用漂白剤だ。工業用クリーニング、木綿・毛織物の染色や漂泊に使用される化学物質で、日本では発癌性の高い化学物質として内装材や接着剤などでも使用が禁止されている。10g摂取するだけで死に至る。
この化学物質は常温や低温では安定しているが、温度が上がるとフォルムアルデヒドと二酸化硫黄に分解される。フォルムアルデヒドは発癌性物質なので、1988年から中国全土でも使用は禁止されている。
大栄村の春雨工場は、春雨を作るのにサツマイモデンプン以外に他の雑穀デンプンを混ぜるため、色が濃くなる。そこで吊白塊と別の着色料を加え、「白い春雨」に仕上げる。
ロンガリットの混入現場を押さえようと、著者のさまざまな危険な旅がつづく。結局、現場を押さえきれないが、何度摘発されても一考に改善されない春雨村の闇の構図を浮かび上がらせる。中国の地方都市や農村部には、中央政府の統制がゆきわたっていないのだ。地元の組織が手を組んで闇の商いをやっているのだ。
第2章は、食品汚染の事象を魑魅魍魎に例えて、化け物と怪物のような食品が中国国内を蠢いていることが具体的に紹介される。
第1章の大栄村の春雨事件は、やはり吊白塊を使用していることが判明した。大栄村の出身者2人から確証をとっている。大栄の春雨は何度も摘発・押収されているが、一向に改善されない。中国の食品汚染の闇は実に根深く、全土に広がっている。
ヨードを含まない「偽塩」「密造塩」が後を絶たない。悪質なのは、工業用塩を食用塩として販売する業者だ。重金属を含む工業用塩は、過度に摂取すると中毒症状を引き起こすという。
偽塩事件の他に「有毒氷砂糖」事件もある。悪質な砂糖を原料にし、それに亜ジチオン酸ナトリウムを使って漂白、透明感をだしての販売だ。
冷凍餃子や冷凍サバに含まれていた有機農薬「ジクロルボス」も、発癌性の劇薬として使用が禁止されているが、中国国内では頻繁に食品から基準以上の値が検出される。摘発される。摘発されても一向に改善される様子がないという。
化学物質を使って卵そっくりに作りあげる人造卵があるという。人造葡萄、人造クラゲ、人造牛肉、人造鶏肉、五味醤油などの人造食品については、冒頭紹介したが、この章に詳しい。
著者もしばしば使っているが、これら偽造食品が横行している中国の現状をみると、四文字熟語が口を突いて出る。唖然愕然、笑止千万、青息吐息、言語道断、失笑噴飯、悪因悪果、海千山千、悪童無道・・・・・・・・
第3章では、想像を絶する3つの癌村の実態が紹介される。癌村が紹介される前に、有毒薬品の河川への垂れ流しによる、豚、鶏、アヒル、魚などの奇形発現が報告される。渤海と白洋淀が死の海へ近づいていることが、具体的なデータで示される。
また湖南省湘江流域では、カドミウム汚染と考えられるイタイイタイ病の症状が多くの住民に認められるという。その他、ヒ素やフッ素の影響と思われるさまざまな症状が紹介される。
中国の癌村は各省の至る所にあるらしい。その数は30から40地域以上存在するといわれている。著者はそのなかの、天津市劉快症村、河南省黄孟営村、安徽省林王村の3村に実際に足を運んで、その実態を事実に基づいて記録している。
その結果を、次のように結んでいる。「海外に向けた大幅な環境対策計画を壮大にぶち上げた胡錦涛政権。その対策費も年々増加されている。しかし、まさに被害に直面し苦しんでいる癌村や汚染地域に対して、何ら具体的、効果的な救済策や改善策を施そうとしない中国政府の"本音と実態"こそ、その汚染源が"国家体制"にあることを如実に示しているのではないだろうか」
第4章は、「本当に効くのか-漢方薬の裏側」と題して、さまざまな事例を紹介し、最後に強烈な主張をする。「漢方医学は、果たして人の命を預かる医学という名の学問に値するのだろうか。われわれは中国の漢方薬という"2000年の閉ざされた医学"に対し、その真贋を厳しく監視して行かなければならないのだ」と語る。
ここでは、項目を紹介するが、その前に、まず漢方薬の原料となる生薬などの80%近くは、中国から輸入されていることを肝に銘じておこう。
「マルチ商法まがいの蟻力神」「堪忍袋の緒が切れた被害者の声」「冬虫夏草が癌に効くという噂」「30年、漢方を研究した末の結論」「西洋薬との混合での危険性」「ドクダミ点滴を受け意識不明となった葵瑛ちゃん」「闇審査で粗製濫造される中国薬」「900年前の文献が審査基準」。
第5章では、中国食品問題が抱える病窟の複雑さが、項目を変え語られる。それは、知的財産権問題や環境問題と全く同じ病巣から生まれる暗部だろう。それらの項目は以下の通りだ。「発展途上国という戦略」「歪な断裂構造」「同族地主たちの復権」「明公村、千一族の骨肉の争い」「国家権力機構にも浸透する黒社会」「"低廉な労働力"としてだけの存在」「健全なジャーナリズムは存在しない」。
この本を読んで、当然なことを再確認した。「健全な環境なくして、農の営みも健康の維持もありえない」。結局、環境とはそこに住む民族の文化なのである。
言葉の散策 25:教・育・学・習
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る
「教養演習」で「農医連携」などという教科を講義している。そこでは、教育や学習を旨とする講義を行っている。しかし、筆者は教・育・学・習という漢字の成立とその語義について知るところが少ない。そこでこれらの漢字の散策を試みる。
教:旧字は「


「説文解字」の著者の許慎の教育理念は、教師は教えることに徹し、子弟は習うことに徹すべきと解いているようである。なるほど、教育には一定の強制が求められるのかも知れない。そこには、教育的規範が成立するであろう。
しかし学生に与えた宿題の回答をみていると、教えることは学ぶことだと痛切に感じる。すでに「書経」に「教ふるは学ぶことの半ばなり」といい、「礼記」に「教学相長ず」という。教育は、強制と模倣との対立的な関係に終始するものであってはならないのである。教師と学生との共生や共鳴のもとにのみ、教学の発展は可能となる。教育の理念は、昔から変わらないのだ。
育:「


学:旧字「學」の「冖(べき)」は、屋根。「爻(こう)」は交木。その左右より伸びるのは両手。両手で屋上に交木を組み立てるさまを描く。その交木は、日本でいう千木に当たる。出雲大社、住吉大社などの屋上に見られる建築様式をいう。そこに神が降り憑(よ)るものとされた。「學」の上部は、その学舎を象る。それはまた、神を祀る場所でもあった。
むしろ学舎は、学宮と呼ぶにふさわしい。学宮では、神のもとに厳粛をきわめる教育が展開されたことであろう。私語や爆睡をむさぼる現代の学生は、学舎で学んでいるとはいえない。それをほっておく人も、学舎で教育するにふさわしい教師とは言い難い。「學」は、いまや「学」に変じた。すでに千木の形を失った。それを支える両手すら失った。変わりに「ツ」と記す。ほとんど廃屋の姿を呈している。原型が失われるとき、その精神も失われることを歴史は教えている。そのような荒涼とした場で行われる教育は、すでに教育と呼ぶことが出来ない。いまだ學の字を使用している大学がある。希有な存在だ。
この項を書いているとき、大分県の教育界で汚職の摘発があった。教育が展開されている場で、それも最も責任の重いはずの校長や教育委員会の連中が、現金授受で逮捕されたのである。学舎どころの話ではない。
商売人が偽造を働くのと、政治家や官僚が汚職をするのは、古今東西よくみてきた。しかし、今では警察が盗みをはたらき、教育者が痴漢をなし、医者が人を殺し、親や子が金と痴情で殺し合う。われらは何を信じて生きたらいいのか。如何せん。嗚呼。日本は溶け始めた。
習:上部が「羽」、下部が「白(はく)」と記す字だが、正しくは「羽と「曰」を組み合わせた字。「羽」は旧字の「羽に改めて、はじめてその美しく羽毛のそろう翅(はね)の形を表すものとなる。「羽」はすでに飛翔のかなわぬ羽であろう。
「曰」は祈告の器が、わずかにひらかれるさまを示す。神の宣告、啓示をいう。「曰」を「いわく」とよむが、「のたまわく」とするのが、その原義を保つ用法としてよい。「習」は、その器上に「羽を置く形であるが、そうするのは、たんに陳列するためではない。
「羽」は、呪飾(霊力を高める呪的な方法)として用いる。祈告の器の上に、これを摺りつける。そのことによって、器中の霊力が高められる。その行為の反復は、いよいよその機能を発動するであろう。「摺」はその行為自体を示す字で、「習」はその行為の反復をいう。学習は、この意味において理解しうる。
孔子の論語に「学んで時に之を習う、亦説(よろこば)しからずや」がある。「説」は神につげ祈る、神意がとけるなどの意味があるから、「説しからずや」とは、狂ったように反復し、その不断の習いにもとづいて、一種のエクスタシーのような感懐になることなのかと邪推する。
筆者は復習するなどの勤勉さに欠けるので、「学んで時に之を習う、亦説(よろこば)しからずや」を、これまで学んだことが、あるとき活用できた。これはうれしいことである、などと解釈していたが、この解釈は少しく甘すぎたのかもしれない。反省しごく。
教・育・学・習という字を古きに遊んだ。そこで、次に現在の「教育」と「学習」の意味を「大辞林」を辿ってみる。
教育:他人に対して、意図的な働きかけを行うことによって、その人間を望ましい方向へ変化させること。広義には、人間形成に作用するすべての精神的影響をいう。その活動が行われる場により、家庭教育・学校教育・社会教育に大別される。
学習:1) 学びおさめること。勉強すること。2) 生後の反復した経験によって、個々の個体の行動に環境に対して適応した変化が現れる過程。ヒトでは社会的生活に関与するほとんどすべての行動がこれによって習得される。3) 過去の経験によって行動の仕方がある程度永続的に変容すること。新しい習慣が形成されること。4) 新しい知識の獲得、感情の深化、よき習慣の形成などの目標に向かって努力を伴って展開される意識的行動。
参考資料
白川 静:字通、平凡社(1996)
山本史也:漢字の仕組み、ナツメ社(2008)
スーパー大辞林:CD-ROM(1999)
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- 北里大学学長通信
情報:農と環境と医療42号 -
編集・発行 北里大学学長室
発行日 2008年9月1日