43号
情報:農と環境と医療43号
2008/10/1
地球環境変化と研究の視点:IPCC/IGBP/IHDP/WCRP
地球環境変化に対する研究の視点は、さまざまである。なかでもゴア前副大統領と共に昨年ノーベル平和賞を受賞した「気候変動に関する政府間パネル:Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC」と、古くから行われている「地球圏‐生物圏国際共同研究計画(International Geosphere-Biosphere Programme:IGBP)は世間によく知られている。
しかし、IHDPとWCRPについてはあまり知られていない。そこで、前二者を簡単に、後二者を少し詳しく紹介し、地球環境変化に対する研究の視点を追ってみる。
気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)とは、国際的な専門家でつくる、地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理のための政府間機構である。学術的な機関であり、地球温暖化に関する最新の知見の評価を行い、対策技術や政策の実現性やその効果、それがない場合の被害想定結果などに関する科学的知見の評価を提供している。数年おきに発行される「評価報告書」(Assessment Report)は、地球温暖化に関する世界中の数千人の専門家の科学的知見を集約した報告書であり、国際政治および各国の政策に強い影響を与えつつある。最初の報告書「Climate Change」は1990年に出版されている。
続いて、地球圏‐生物圏国際共同研究計画(International Geosphere-Biosphere Programme: IGBP)であろう。1986年に設立されているから、四分の一世紀になろうとしている。
IGBPは、国際科学会議(ICSU)に属する学際的な国際研究計画である。1986年に設立された。気候変動に関する生物学的プロセスおよび化学的プロセスの相互作用に関する基礎的な知見を得ることに焦点をあてている。その目的は、地球全体のシステム、生命を育む環境、地球全体のシステムで生じている変化および人間活動による影響の現れ方を支配する物理学的、化学的および生物学的プロセスの相互作用を記述し、理解することである。 IGBPは地球変動に関する科学の遂行のために、国際的かつ学際的な枠組みを提供する。この枠組みは世界各国の研究計画に広く利用されている。IGBPには政策的・政治的要素はなく、政策活動に対して可能な限り最良の科学的情報を提供することを目指すものである。
地球環境変化の人間的側面国際計画(International Human Dimensions Programme on Global Environmental Change: IHDP)の設立と目的
IHDPは、地球環境変化に関する人間的な側面の促進、触媒、共同研究、能力開発およびネットワークに捧げられる国際的で学際的な科学プログラムである。それは、地球環境変化における社会科学的な観点を引き受け、科学と実践の領域を調和させる役割を果たす。
IHDPは、国際科学会議(ICSU)とユネスコの国際社会科学協議会(ISSC)によって1996年に設立され、2007年1月以来の国連大学(UNU)の主要なプログラムである。
様々な国の政府機関によって融資されるIHDPの研究プログラムは、様々な学問分野や異なる地域の評価の高い科学者によって構成される国際科学会議の委員によって誘導される。そのため、ここでは質の高い研究が育まれている。
地球環境変化の研究課題は、気候変動ダイナミクス、土地利用・土地被覆変化、社会制度と地球環境の相互作用、人間の安全、食料と水に係わる持続的生産と消費システム、都市化と全球の炭素循環などである。IHDPの研究プログラムは、国際的な研究パートナーシップである地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)、世界気候研究計画(WCRP)、および生物の多様性国際プログラム(DIVERSITAS)と関連しながら実行に移される。
重要な研究プロジェクトの一つに、土地利用・土地被覆変化研究がある。そのうち、わが国ではアジア太平洋地域における土地利用とその誘導因子に関する経緯データの整備と、それに基づいた土地利用変化の長期予測を目的とした研究などが行われている。わが国におけるIHSDPの窓口は、日本学術会議である。
世界気候研究計画(World Climate Research Programme: WCRP)の設立と目的
国際地球観測年(IGY = International Geophysical Year:1957-58)の後、全球的な観測が継続的に行われるようになった。これに伴い全球的な気候の研究も活発に行われるようになる。
とくに、地球全体の二酸化炭素濃度(CO2)の上昇傾向が観測され、気候モデルによるCO2増加実験など気候に関するモデル研究も行われるようになる。その結果、地球温暖化の予測が立てられ、気候や気候変化に対して世界的な関心が高まってきた。
そのような状況の下に、第1回世界気候会議(FWCC = First World Climate Conference)が1979年に開催された。その会議で、世界気象機関(WMO = World Meteorological Organization)は、1) 人類の利益のために既存の気候データを応用すること、 2) 気候プロセスに関する理解を深めること、3) 自然および人為的要因による顕著な気候変化を調査すること、4) 人類の経済及び社会活動に顕著に与える影響に関して政府に警告すること、などを目的としたプログラム、すなわち世界気候計画(WCP = World Climate Programme)を発足させた。
世界気候研究計画(WCRP)は、WMOと国際学術連合会議(1998年に国際科学会議と改称:ICSU = International Council for Science;略称にはもとの名称 ~for Science UnionのUを残している)の協力により、WCPのサブプログラムとして、1) 気候がどこまで予測可能かを究明し、 2) 人間活動の気候へ影響の程度を評価するために必要な、物理的気候システムおよび気候プロセスの科学的理解を発展させることを目的として発足した。設立は1980年のことである。その後、1993年には国連教育科学文化機関(UNESCO)の政府間海洋学委員会(IOC = Intergovernmental Oceanographic Commission of UNESCO)も後援し、大気と海洋の相互作用を含めた物理的な気候システムや気候プロセスの研究が進められるようになった。
また、1992年の国連環境開発会議(UNCED = United Nations Conference on Environment and Development)において策定されたアジェンダ21の実行を支援する役目も担っている。
この研究計画は目覚しい進展をした。その成果は、研究者に地球温暖化への懸念を増大させ、気候変動研究に関する評価の必要性を認識させた。このことが、1989年の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC = Intergovernmental Panel on Climate Change)」の発足を可能とした。
それ以後、WCRPはIPCCの学術的な背景になっている。
WCRPは、最近「地球システムの調整された観測および予測(COPES = Coordinated Observation and Prediction of the Earth System)」と称する、2005年から2015年にわたる戦略的枠組みを立ち上げた。コア・プロジェクトやプロジェクト横断型活動を通して、WCRPは現在この新たな戦略を実践中である。
その目的は「社会に対して直接的に関与し、恩恵を与え、価値をもたらすような、ますます範囲が拡大しつつある実際的な応用に向けて、地球システムの変動性や変化の解析と予測を促進すること」にある。WCRPは、その活動に優先順位を付け、より多くの研究団体に、より多方面にわたる成果と便宜を提供することにより、公益性を最大限にする試みを行っている。
2005年から2015年にわたるCOPESの戦略は、気候システムの構造と変動性の明確化、および将来の気候予測のための基盤の創設にある。WCRPの調査プロジェクトには、全球エネルギー・水循環観測計画(GEWEX)、気候変動性・予測可能性研究計画(CLIVAR)、熱帯海洋・地球大気計画(TOGA)、成層圏プロセスとその気候における役割研究計画(SPARC)、気候と雪氷圏計画(CliC)、海洋表層-低大気圏研究(SOLAS)がある。
今ではわが国の各省庁でも地球環境研究計画がある。例えば、環境省では、全球システム変動、越境汚染:大気・陸域・海域・国際河川、広域的な生態系保全、持続的な社会・政策研究などの研究計画が推進されている。
参考資料
しかし、IHDPとWCRPについてはあまり知られていない。そこで、前二者を簡単に、後二者を少し詳しく紹介し、地球環境変化に対する研究の視点を追ってみる。
気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)とは、国際的な専門家でつくる、地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理のための政府間機構である。学術的な機関であり、地球温暖化に関する最新の知見の評価を行い、対策技術や政策の実現性やその効果、それがない場合の被害想定結果などに関する科学的知見の評価を提供している。数年おきに発行される「評価報告書」(Assessment Report)は、地球温暖化に関する世界中の数千人の専門家の科学的知見を集約した報告書であり、国際政治および各国の政策に強い影響を与えつつある。最初の報告書「Climate Change」は1990年に出版されている。
続いて、地球圏‐生物圏国際共同研究計画(International Geosphere-Biosphere Programme: IGBP)であろう。1986年に設立されているから、四分の一世紀になろうとしている。
IGBPは、国際科学会議(ICSU)に属する学際的な国際研究計画である。1986年に設立された。気候変動に関する生物学的プロセスおよび化学的プロセスの相互作用に関する基礎的な知見を得ることに焦点をあてている。その目的は、地球全体のシステム、生命を育む環境、地球全体のシステムで生じている変化および人間活動による影響の現れ方を支配する物理学的、化学的および生物学的プロセスの相互作用を記述し、理解することである。 IGBPは地球変動に関する科学の遂行のために、国際的かつ学際的な枠組みを提供する。この枠組みは世界各国の研究計画に広く利用されている。IGBPには政策的・政治的要素はなく、政策活動に対して可能な限り最良の科学的情報を提供することを目指すものである。
地球環境変化の人間的側面国際計画(International Human Dimensions Programme on Global Environmental Change: IHDP)の設立と目的
IHDPは、地球環境変化に関する人間的な側面の促進、触媒、共同研究、能力開発およびネットワークに捧げられる国際的で学際的な科学プログラムである。それは、地球環境変化における社会科学的な観点を引き受け、科学と実践の領域を調和させる役割を果たす。
IHDPは、国際科学会議(ICSU)とユネスコの国際社会科学協議会(ISSC)によって1996年に設立され、2007年1月以来の国連大学(UNU)の主要なプログラムである。
様々な国の政府機関によって融資されるIHDPの研究プログラムは、様々な学問分野や異なる地域の評価の高い科学者によって構成される国際科学会議の委員によって誘導される。そのため、ここでは質の高い研究が育まれている。
地球環境変化の研究課題は、気候変動ダイナミクス、土地利用・土地被覆変化、社会制度と地球環境の相互作用、人間の安全、食料と水に係わる持続的生産と消費システム、都市化と全球の炭素循環などである。IHDPの研究プログラムは、国際的な研究パートナーシップである地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)、世界気候研究計画(WCRP)、および生物の多様性国際プログラム(DIVERSITAS)と関連しながら実行に移される。
重要な研究プロジェクトの一つに、土地利用・土地被覆変化研究がある。そのうち、わが国ではアジア太平洋地域における土地利用とその誘導因子に関する経緯データの整備と、それに基づいた土地利用変化の長期予測を目的とした研究などが行われている。わが国におけるIHSDPの窓口は、日本学術会議である。
世界気候研究計画(World Climate Research Programme: WCRP)の設立と目的
国際地球観測年(IGY = International Geophysical Year:1957-58)の後、全球的な観測が継続的に行われるようになった。これに伴い全球的な気候の研究も活発に行われるようになる。
とくに、地球全体の二酸化炭素濃度(CO2)の上昇傾向が観測され、気候モデルによるCO2増加実験など気候に関するモデル研究も行われるようになる。その結果、地球温暖化の予測が立てられ、気候や気候変化に対して世界的な関心が高まってきた。
そのような状況の下に、第1回世界気候会議(FWCC = First World Climate Conference)が1979年に開催された。その会議で、世界気象機関(WMO = World Meteorological Organization)は、1) 人類の利益のために既存の気候データを応用すること、 2) 気候プロセスに関する理解を深めること、3) 自然および人為的要因による顕著な気候変化を調査すること、4) 人類の経済及び社会活動に顕著に与える影響に関して政府に警告すること、などを目的としたプログラム、すなわち世界気候計画(WCP = World Climate Programme)を発足させた。
世界気候研究計画(WCRP)は、WMOと国際学術連合会議(1998年に国際科学会議と改称:ICSU = International Council for Science;略称にはもとの名称 ~for Science UnionのUを残している)の協力により、WCPのサブプログラムとして、1) 気候がどこまで予測可能かを究明し、 2) 人間活動の気候へ影響の程度を評価するために必要な、物理的気候システムおよび気候プロセスの科学的理解を発展させることを目的として発足した。設立は1980年のことである。その後、1993年には国連教育科学文化機関(UNESCO)の政府間海洋学委員会(IOC = Intergovernmental Oceanographic Commission of UNESCO)も後援し、大気と海洋の相互作用を含めた物理的な気候システムや気候プロセスの研究が進められるようになった。
また、1992年の国連環境開発会議(UNCED = United Nations Conference on Environment and Development)において策定されたアジェンダ21の実行を支援する役目も担っている。
この研究計画は目覚しい進展をした。その成果は、研究者に地球温暖化への懸念を増大させ、気候変動研究に関する評価の必要性を認識させた。このことが、1989年の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC = Intergovernmental Panel on Climate Change)」の発足を可能とした。
それ以後、WCRPはIPCCの学術的な背景になっている。
WCRPは、最近「地球システムの調整された観測および予測(COPES = Coordinated Observation and Prediction of the Earth System)」と称する、2005年から2015年にわたる戦略的枠組みを立ち上げた。コア・プロジェクトやプロジェクト横断型活動を通して、WCRPは現在この新たな戦略を実践中である。
その目的は「社会に対して直接的に関与し、恩恵を与え、価値をもたらすような、ますます範囲が拡大しつつある実際的な応用に向けて、地球システムの変動性や変化の解析と予測を促進すること」にある。WCRPは、その活動に優先順位を付け、より多くの研究団体に、より多方面にわたる成果と便宜を提供することにより、公益性を最大限にする試みを行っている。
2005年から2015年にわたるCOPESの戦略は、気候システムの構造と変動性の明確化、および将来の気候予測のための基盤の創設にある。WCRPの調査プロジェクトには、全球エネルギー・水循環観測計画(GEWEX)、気候変動性・予測可能性研究計画(CLIVAR)、熱帯海洋・地球大気計画(TOGA)、成層圏プロセスとその気候における役割研究計画(SPARC)、気候と雪氷圏計画(CliC)、海洋表層-低大気圏研究(SOLAS)がある。
今ではわが国の各省庁でも地球環境研究計画がある。例えば、環境省では、全球システム変動、越境汚染:大気・陸域・海域・国際河川、広域的な生態系保全、持続的な社会・政策研究などの研究計画が推進されている。
参考資料
- 気候変動に関する政府間パネル(IPCC):http://www.ipcc.ch/
- 地球圏‐生物圏国際共同研究計画(IGBP):http://www.igbp.net/
- 地球環境変化の人間的側面研究計画:http://www.ihdp.org/
- 世界気候研究計画:http://www.wmo.int/pages/prog/wcp/index_en.html
地球温暖化と感染症:その1
はじめに
「温暖化と感染症」に関しては、これまで「情報:農と環境と医療14号」の「気候変動と健康影響」でも書いてきた。最近では、気候変化が健康に及ぼす影響に関する研究が進み、地球温暖化が感染症などにも影響を及ぼすことが、さらに明らかになってきた。これを踏まえて、環境省に「地球温暖化の感染症に係る影響に関する懇談会」が平成17年12月に設置された。
懇談会の趣旨は、次の通りである。「近年、気候変化と健康に係るWHO報告書(2004年)、地球温暖化の影響と適応戦略に関する統合調査、地球環境研究総合推進費(温暖化の危険な水準及び温室効果ガス安定化レベル検討のための温暖化影響の総合的評価に関する研究)による研究において、温暖化によって影響を受ける感染症等(感染症媒介蚊の生息域拡大、気温上昇による細菌増殖の活発化など)が明らかになってきている。
これを踏まえ、感染症を媒介する動物の蔓延など、地球温暖化による生態系の変化等で引き起こされる人の健康への危機について、広く国民に知見を提供し、関心を高めることにより、健康影響を極力防ぐとともに、温暖化問題への取組を促進するため、地球温暖化の影響と適応戦略に関する統合調査(請負先:独立行政法人国立環境研究所)の一環として、「地球温暖化の感染症に係る影響に関する懇談会」を開催することとした。」(ホームページの原文のまま)
懇談会の委員は以下の通りである。
○ 伊藤孝子 全国養護教諭連絡協議会副会長
○ 岩本愛吉 東京大学医科学研究所附属病院病院長
○ 大日康史 国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官
○ 兜 真徳 国立環境研究所首席研究官
○ 倉根一郎 国立感染症研究所ウイルス第一部部長
○ 川瀬 充 (社)愛知県ペストコントロール協会副会長
○ 小林睦生 国立感染症研究所昆虫医科学部部長
○ 原沢英夫 国立環境研究所社会環境システム領域長
○ 武藤敦彦 (財)日本環境衛生センター東日本支局環境生物部次長
○ 渡邉治雄 国立感染症研究所副所長
この懇談会は、その検討結果を平成19年3月に小冊子にして発表した。詳細は環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/pamph_infection/full.pdf)で見ることができるが、ここにその概要を紹介する。
地球温暖化とは
地球に降り注ぐ太陽からの熱は、地球の表面を暖める。暖められた地表からは、その熱の一部が地球を覆う大気に放射される。この大気には、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)などの気体(ガス)が含まれており、これらのガスには地表からの放射熱を吸収し、再び地表に戻す(再放射)働きがある。このようなガスを、「温室効果ガス」と呼ぶ。この再放射のお陰で、地球表面の平均気温は約15℃に保たれ、地球は人間をはじめ、さまざまな生物が生きる場として存在している。温室効果ガスによる再放射がなければ、地表からの放射熱はすべて宇宙に逃げ出してしまう。つまり、温室効果はわれわれが地球上で生きていくために不可欠な現象なのである。
問題は温室効果ガスの量である。1750 年頃から始まった産業革命により、われわれは石油や石炭などの化石燃料をエネルギーとして活用することで、大量の二酸化炭素を大気に排出しはじめた。人間圏が成立する前は、自然の物質循環に即して、CO2は植物に利用されたり海洋や河川に吸収され、地球全体でバランスがとれていた。しかし、近年の急激な化石燃料の使用により過剰になったCO2を植物や海洋が吸収しきれなくなり、大気中のCO2濃度が上昇し続けてきた。
その結果、温室効果がますます増強され地球上の表面温度が上昇してきたのである。20 世紀の100 年間で、地球の平均気温は0.6℃上昇した。数字だけみれば、ごくわずかな変化に思えるかもしれないが、この値は地球全体の平均値であって、赤道に比べ南極や北極域はもっと高い値を示しているのである。
1990年代の10年間は、過去1,000年で最も温暖な10年となった。1998 年には観測史上最高気温を、また2005 年には史上2番目、2002 年には3番目、2003 年には4番目の高温を記録した。この気温の変化によって、地球上ではさまざまな影響が生じている。このことについては、この「情報:農と環境と医療」でも機会あるたびに紹介してきた。
感染症とは?
微生物が体内に侵入し感染することによって起こる病気の総称と定義される。ウイルスや細菌などの病原体が、野生動物や家畜などの自然宿主から、蚊やダニなどの媒介動物を介して、飲料水や食物を介して、あるいは人から人に直接侵入するために起こる病気である。
どんなときに感染症にかかるのか?
感染症を引き起こす病原体には、ウイルス、細菌、原虫、寄生虫、真菌(カビ)など、さまざまなものがある。一般的には次のような条件があると、感染症にかかりやすくなる。
地球温暖化(とくに気温や降雨量の変化)との関連が示唆されている感染症として、リフトバレー熱、マラリア、デング熱、コレラ、セントルイス脳炎、ハンタウイルス肺症候群がある。これらは、WHOが1998 年のエルニーニョ現象による地域気象の変動によって発生が増加したとする感染症である。このうち、マラリアなどでは降雨の変化の影響が大きい。また、とくにバングラデシュで発生したコレラは、海面温度や海面上昇により影響を受けるプランクトンの分布変動が影響していると考えられている。
これらのうち、蚊に媒介される感染症のマラリア、デング熱、ウエストナイル熱、日本脳炎などが、温暖化とともに増加すると予測している報告がある。しかし媒介動物の分布は、気温とともに降雨や地表水の状態にも大きく依存しているので、気温上昇のみでは説明しきれない。このことから、温暖化と感染症の将来予測は不確実な面があることも事実である。
世界保健機関(WHO)のリスク評価結果では、国際的には栄養不良、下痢、マラリア、洪水の順に死亡リスクが小さくなる傾向が示されている。これらについて、具体的な適応策を考えるためには、気温以外の他の気象条件や、媒介動物の生態の変化、脆弱性の高い集団の変化、衛生環境の整備、治療や予防のための技術や必要な資源の変化などによる間接的な影響も同時に考慮することが重要となる。
近年話題になっている感染症の例:ウエストナイル熱・脳炎
ウエストナイルウイルスは、北米、アフリカ、欧州から中央アジアに広く分布している。自然界では鳥と蚊の間でウイルスが維持されているが、人に感染することもある。人が感染すると、高熱や脳炎などを引き起こす。流行地域の拡大には、感染した鳥が広域に飛行することが関係していると考えられている。過去数年で、ニューヨークを起点として全米に急速に拡大しており、毎年数千人の患者と約100人の死亡者が発生している。また、シベリアなどの寒冷地域でも発生している。
温帯地域では、ウエストナイルウイルスによる患者が発生するのは、夏から秋にかけてである。温暖化によって、ウイルスを媒介する蚊の発生時期や地域が変化すると、この感染症にかかるおそれのある地域や時期も、広がったり増えたりすることがあるかもしれない。このように、動物が媒介する感染症では、媒介動物や自然宿主の生態と、気温上昇によるその変動が、流行拡大に大きく関連する可能性がある。
「温暖化と感染症」に関しては、これまで「情報:農と環境と医療14号」の「気候変動と健康影響」でも書いてきた。最近では、気候変化が健康に及ぼす影響に関する研究が進み、地球温暖化が感染症などにも影響を及ぼすことが、さらに明らかになってきた。これを踏まえて、環境省に「地球温暖化の感染症に係る影響に関する懇談会」が平成17年12月に設置された。
懇談会の趣旨は、次の通りである。「近年、気候変化と健康に係るWHO報告書(2004年)、地球温暖化の影響と適応戦略に関する統合調査、地球環境研究総合推進費(温暖化の危険な水準及び温室効果ガス安定化レベル検討のための温暖化影響の総合的評価に関する研究)による研究において、温暖化によって影響を受ける感染症等(感染症媒介蚊の生息域拡大、気温上昇による細菌増殖の活発化など)が明らかになってきている。
これを踏まえ、感染症を媒介する動物の蔓延など、地球温暖化による生態系の変化等で引き起こされる人の健康への危機について、広く国民に知見を提供し、関心を高めることにより、健康影響を極力防ぐとともに、温暖化問題への取組を促進するため、地球温暖化の影響と適応戦略に関する統合調査(請負先:独立行政法人国立環境研究所)の一環として、「地球温暖化の感染症に係る影響に関する懇談会」を開催することとした。」(ホームページの原文のまま)
懇談会の委員は以下の通りである。
○ 伊藤孝子 全国養護教諭連絡協議会副会長
○ 岩本愛吉 東京大学医科学研究所附属病院病院長
○ 大日康史 国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官
○ 兜 真徳 国立環境研究所首席研究官
○ 倉根一郎 国立感染症研究所ウイルス第一部部長
○ 川瀬 充 (社)愛知県ペストコントロール協会副会長
○ 小林睦生 国立感染症研究所昆虫医科学部部長
○ 原沢英夫 国立環境研究所社会環境システム領域長
○ 武藤敦彦 (財)日本環境衛生センター東日本支局環境生物部次長
○ 渡邉治雄 国立感染症研究所副所長
この懇談会は、その検討結果を平成19年3月に小冊子にして発表した。詳細は環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/pamph_infection/full.pdf)で見ることができるが、ここにその概要を紹介する。
地球温暖化とは
地球に降り注ぐ太陽からの熱は、地球の表面を暖める。暖められた地表からは、その熱の一部が地球を覆う大気に放射される。この大気には、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)などの気体(ガス)が含まれており、これらのガスには地表からの放射熱を吸収し、再び地表に戻す(再放射)働きがある。このようなガスを、「温室効果ガス」と呼ぶ。この再放射のお陰で、地球表面の平均気温は約15℃に保たれ、地球は人間をはじめ、さまざまな生物が生きる場として存在している。温室効果ガスによる再放射がなければ、地表からの放射熱はすべて宇宙に逃げ出してしまう。つまり、温室効果はわれわれが地球上で生きていくために不可欠な現象なのである。
問題は温室効果ガスの量である。1750 年頃から始まった産業革命により、われわれは石油や石炭などの化石燃料をエネルギーとして活用することで、大量の二酸化炭素を大気に排出しはじめた。人間圏が成立する前は、自然の物質循環に即して、CO2は植物に利用されたり海洋や河川に吸収され、地球全体でバランスがとれていた。しかし、近年の急激な化石燃料の使用により過剰になったCO2を植物や海洋が吸収しきれなくなり、大気中のCO2濃度が上昇し続けてきた。
その結果、温室効果がますます増強され地球上の表面温度が上昇してきたのである。20 世紀の100 年間で、地球の平均気温は0.6℃上昇した。数字だけみれば、ごくわずかな変化に思えるかもしれないが、この値は地球全体の平均値であって、赤道に比べ南極や北極域はもっと高い値を示しているのである。
1990年代の10年間は、過去1,000年で最も温暖な10年となった。1998 年には観測史上最高気温を、また2005 年には史上2番目、2002 年には3番目、2003 年には4番目の高温を記録した。この気温の変化によって、地球上ではさまざまな影響が生じている。このことについては、この「情報:農と環境と医療」でも機会あるたびに紹介してきた。
感染症とは?
微生物が体内に侵入し感染することによって起こる病気の総称と定義される。ウイルスや細菌などの病原体が、野生動物や家畜などの自然宿主から、蚊やダニなどの媒介動物を介して、飲料水や食物を介して、あるいは人から人に直接侵入するために起こる病気である。
どんなときに感染症にかかるのか?
感染症を引き起こす病原体には、ウイルス、細菌、原虫、寄生虫、真菌(カビ)など、さまざまなものがある。一般的には次のような条件があると、感染症にかかりやすくなる。
- 人の体に侵入する病原体の数や侵入の機会が多い。
- 病原体の自然宿主や媒介する生物が多い。
- 病原体が侵入しやすい居住空間や生活様式である。
- 公衆衛生の状態がよくない。
地球温暖化(とくに気温や降雨量の変化)との関連が示唆されている感染症として、リフトバレー熱、マラリア、デング熱、コレラ、セントルイス脳炎、ハンタウイルス肺症候群がある。これらは、WHOが1998 年のエルニーニョ現象による地域気象の変動によって発生が増加したとする感染症である。このうち、マラリアなどでは降雨の変化の影響が大きい。また、とくにバングラデシュで発生したコレラは、海面温度や海面上昇により影響を受けるプランクトンの分布変動が影響していると考えられている。
これらのうち、蚊に媒介される感染症のマラリア、デング熱、ウエストナイル熱、日本脳炎などが、温暖化とともに増加すると予測している報告がある。しかし媒介動物の分布は、気温とともに降雨や地表水の状態にも大きく依存しているので、気温上昇のみでは説明しきれない。このことから、温暖化と感染症の将来予測は不確実な面があることも事実である。
世界保健機関(WHO)のリスク評価結果では、国際的には栄養不良、下痢、マラリア、洪水の順に死亡リスクが小さくなる傾向が示されている。これらについて、具体的な適応策を考えるためには、気温以外の他の気象条件や、媒介動物の生態の変化、脆弱性の高い集団の変化、衛生環境の整備、治療や予防のための技術や必要な資源の変化などによる間接的な影響も同時に考慮することが重要となる。
近年話題になっている感染症の例:ウエストナイル熱・脳炎
ウエストナイルウイルスは、北米、アフリカ、欧州から中央アジアに広く分布している。自然界では鳥と蚊の間でウイルスが維持されているが、人に感染することもある。人が感染すると、高熱や脳炎などを引き起こす。流行地域の拡大には、感染した鳥が広域に飛行することが関係していると考えられている。過去数年で、ニューヨークを起点として全米に急速に拡大しており、毎年数千人の患者と約100人の死亡者が発生している。また、シベリアなどの寒冷地域でも発生している。
温帯地域では、ウエストナイルウイルスによる患者が発生するのは、夏から秋にかけてである。温暖化によって、ウイルスを媒介する蚊の発生時期や地域が変化すると、この感染症にかかるおそれのある地域や時期も、広がったり増えたりすることがあるかもしれない。このように、動物が媒介する感染症では、媒介動物や自然宿主の生態と、気温上昇によるその変動が、流行拡大に大きく関連する可能性がある。
○アメリカのウエストナイル熱・脳炎患者数と死亡者数
年 | 患者数 | 死亡者数 |
2003年 | 9,862 | 264 |
2004年 | 2,470 | 88 |
2005年 | 3,000 | 119 |
温暖化は、感染症にどのような影響を及ぼすのか?
地球温暖化とは、単に気温が上昇して暑くなるという現象だけではない。温暖化すると、世界の各地で気候条件が変化し、それがさまざまな分野に影響を及ぼすことになる。温暖化が進むと、まず気温が上昇し、それと共に雨の量が変化する。温められた海水が膨張し、海面の上昇が生じる地域もある。また、台風、熱波、干ばつ、洪水などの異常気象も、頻度や強度が増すと予測されている。その結果、自然や社会にもさまざまな被害が生じることになる。温暖化の影響である。
ここでは、人への健康影響に焦点を当てる。健康影響には、気温が上昇して熱中症などが増加する「直接的な影響」と、感染症が増えるなどの「間接的な影響」とがある。
世界で議論されている温暖化の健康影響
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、直接的な影響としては熱波や洪水などによる被害、間接的な影響としてはマラリアやデング熱などの動物が媒介する感染症の拡大などが懸念されている。
地球温暖化とは、単に気温が上昇して暑くなるという現象だけではない。温暖化すると、世界の各地で気候条件が変化し、それがさまざまな分野に影響を及ぼすことになる。温暖化が進むと、まず気温が上昇し、それと共に雨の量が変化する。温められた海水が膨張し、海面の上昇が生じる地域もある。また、台風、熱波、干ばつ、洪水などの異常気象も、頻度や強度が増すと予測されている。その結果、自然や社会にもさまざまな被害が生じることになる。温暖化の影響である。
ここでは、人への健康影響に焦点を当てる。健康影響には、気温が上昇して熱中症などが増加する「直接的な影響」と、感染症が増えるなどの「間接的な影響」とがある。
世界で議論されている温暖化の健康影響
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、直接的な影響としては熱波や洪水などによる被害、間接的な影響としてはマラリアやデング熱などの動物が媒介する感染症の拡大などが懸念されている。
○温暖化の健康影響
直接影響 | 温暖化による環境変化 | 人の健康への影響 |
暑熱、熱波の増加 | 熱中症、死亡率の変化(循環器系、呼吸器系疾患) | |
異常気象の頻度、強度の変化 | 障害、死亡の増加 | |
間接影響 | 媒介動物等の生息域、活動の拡大 | 動物媒介性感染症:マラリア、デング熱増加 |
水、食物を介する伝染性媒体の拡大 | 下痢や他の感染症の増加 | |
海面上昇による人口移動や社会インフラ被害 | 障害や各種感染症リスクの増大 | |
大気汚染との複合影響 | 喘息、アレルギー疾患の増加 |
近年、世界中で異常気象(極端な気候現象)が増加しており、多くの被害が生じている。例えば、2003年の欧州の熱波や2005年の米国を襲ったハリケーン・カトリーナは多くの死傷者を出し、経済被害も甚大なものとなった。温暖化が進むと、こうした異常気象も変化し、熱波、暴風雨、洪水、干ばつ、台風・ハリケーンの強度が増大する可能性があり、人の健康にも悪影響を及ぼす。例えば、以下のような影響がある。
温暖化のもたらす影響は、地域によって差がある。健康影響のうち、動物・食物・水が媒介する多くの感染症は、気象や気候の変化に敏感であること、地域により影響が大きく異なることが特徴としてあげられる。IPCCでは各地域の影響を下表のようにまとめている。
- 死亡や負傷 ・家屋損失、移動・移住、飲料水汚染、食料不足、感染症リスクの増大 (下痢や呼吸器疾患など)
- 保健衛生サービス施設の被害
温暖化のもたらす影響は、地域によって差がある。健康影響のうち、動物・食物・水が媒介する多くの感染症は、気象や気候の変化に敏感であること、地域により影響が大きく異なることが特徴としてあげられる。IPCCでは各地域の影響を下表のようにまとめている。
○温暖化のもたらす地域ごとの健康影響の特徴
アフリカ |
|
アジア |
|
オーストラリア/ニュージーランド |
|
ヨーロッパ |
|
中米 |
|
北米 |
|
小島嶼国 |
|
WHO は2001年に発表した報告で、"2000 年には温暖化の影響による死者がすでに15 万人に達した"と報告した。温暖化が進行し、2020 年には下痢などに悩む人々が2.5%増加すると予測されている。今後、途上国の農村部や大都市のスラム街の調査などが進めば、影響を受ける人数はさらに増える可能性が高い。
気温上昇と影響リスクの上昇
IPCCは、21世紀末には1980~1999年に比べて、1.1~6.4℃気温が上昇し、海水面が18~59cm 上昇すると予測している。2100年の人口が71億人、化石燃料と新エネルギーをバランス良く使う社会になるとすると、2100年の大気中の二酸化炭素は720ppmとなり、気温は約3℃上昇する。欧州連合(EU)では、温暖化を防止するためには温室効果ガスを550ppmを大きく下回るようにし、気温上昇を2℃に抑えるようにすべきだと指摘している。
サンゴ礁の白化現象は、1℃の水温上昇でおこる。各国の社会経済は、2.3℃の気温上昇で影響が深刻になると予測されている。とくに熱帯や亜熱帯の途上国では、2℃までに気温上昇を抑えないと、食料の生産や水資源の確保ができなくなるおそれがあると予測されている。20 世紀の100 年間で、すでに平均気温は0.6℃上昇しているので、あと1.4℃上昇するだけで、この限界に達してしまう。
水媒介性感染症への影響
汚染された水が原因で生じる下痢などの"水媒介性感染症"には、温度、湿度、降水、水源の汚染状況など、複数の要因が関連している。下痢は、上下水道などの給水・衛生設備の普及により減少する。
多くの途上国では、現在でも上下水の設備が不十分で、安全な水が手に入りにくく、また衛生面での問題があるため、汚染された水が原因の感染症が大きな問題となっている。その上に今後温暖化が進むと、水温が上がり、大腸菌など水を汚染する要因が増える。今よりも一層安全な飲み水が減り、下水の汚染状態が悪くなるため、水媒介性感染症が増加すると考えられている。
温暖化による感染症のリスク
感染症のリスクは、温暖化によって全般的に上昇することが示唆されているが、その程度や内容は感染症の種類によって異なる。また気温上昇だけでなく、降雨や日射量の変動による地域の水分布や砂漠化などの変動を介する二次的な影響など、なお不明な点が多く残されている。温暖化によって影響を受ける感染症の例としては、以下のようなものが想定される。
気温上昇と影響リスクの上昇
IPCCは、21世紀末には1980~1999年に比べて、1.1~6.4℃気温が上昇し、海水面が18~59cm 上昇すると予測している。2100年の人口が71億人、化石燃料と新エネルギーをバランス良く使う社会になるとすると、2100年の大気中の二酸化炭素は720ppmとなり、気温は約3℃上昇する。欧州連合(EU)では、温暖化を防止するためには温室効果ガスを550ppmを大きく下回るようにし、気温上昇を2℃に抑えるようにすべきだと指摘している。
サンゴ礁の白化現象は、1℃の水温上昇でおこる。各国の社会経済は、2.3℃の気温上昇で影響が深刻になると予測されている。とくに熱帯や亜熱帯の途上国では、2℃までに気温上昇を抑えないと、食料の生産や水資源の確保ができなくなるおそれがあると予測されている。20 世紀の100 年間で、すでに平均気温は0.6℃上昇しているので、あと1.4℃上昇するだけで、この限界に達してしまう。
水媒介性感染症への影響
汚染された水が原因で生じる下痢などの"水媒介性感染症"には、温度、湿度、降水、水源の汚染状況など、複数の要因が関連している。下痢は、上下水道などの給水・衛生設備の普及により減少する。
多くの途上国では、現在でも上下水の設備が不十分で、安全な水が手に入りにくく、また衛生面での問題があるため、汚染された水が原因の感染症が大きな問題となっている。その上に今後温暖化が進むと、水温が上がり、大腸菌など水を汚染する要因が増える。今よりも一層安全な飲み水が減り、下水の汚染状態が悪くなるため、水媒介性感染症が増加すると考えられている。
温暖化による感染症のリスク
感染症のリスクは、温暖化によって全般的に上昇することが示唆されているが、その程度や内容は感染症の種類によって異なる。また気温上昇だけでなく、降雨や日射量の変動による地域の水分布や砂漠化などの変動を介する二次的な影響など、なお不明な点が多く残されている。温暖化によって影響を受ける感染症の例としては、以下のようなものが想定される。
○さまざまな感染症と感染経路の例
直接感染 | 媒介するもの | 感染経路 咬まれる なめられる ひっかき傷 排泄物 | 感染症の種類 狂犬病 パスツレラ症 猫ひっかき病 トキキソプラズマ症、回虫症 |
間接感染 | 媒介動物によるもの | 蚊 ダニ げっ歯類 ノミ 巻き貝 | 日本脳炎、マラリア、デング熱 ウエストナイル熱、リフトバレー熱 ダニ媒介性脳炎 ハンタウイルス肺症候群 ペスト 日本住血吸虫 |
環境が媒介するもの | 水系汚染 土壌汚染 | 下痢症(コレラ等) 炭疽 | |
動物性食品が媒介するもの | 肉 魚肉 | 腸管出血性大腸菌感染症(O157血清型) サルモネラ症 アニサキス症 |
温暖化による気温上昇で、直接的に死亡率や熱中症が増えることは、温暖化以外の要因が一定ならば因果関係は明白である。WHOは、温暖化の原因と人間の健康に関するさまざまなリスクについてまとめている。主要な健康影響の項目としては、次の7つが挙げられている。
温暖化と感染症による健康影響は、これらの多様な影響のうち、どの程度、どのように影響するのかについて、まだ明確にはわからない部分も多くある。
最近の研究では、中国の3つの地域において、飲料水や食物が原因の感染症や食中毒などに罹患することが、気温の上昇で生じる暑熱ストレスによる死亡のリスクを、一層高めているのではないかとみられる例がある。
熱波などの局所的かつ急激な気温上昇の結果として感染症が急増するおそれは、飲料水や食物由来の感染症を除き、比較的小さいと考えられる。しかし、媒介動物の生息、分布、活動力が温暖化による気象変動によって徐々に拡大し、暑熱による過剰死亡リスクをさらに上昇させる新たな要因となることは憂慮される。また、感染症のリスクには、貧困、低栄養、低い衛生状態、水や食物由来の感染などが大きく関係しているため、それらのリスクが高い途上国などでは、特に大きく影響を受けるおそれがある。早急な対応が必要である。(この項次号に続く)
参考資料
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/pamph_infection/full.pdf
- 温度関連の疾病と死亡(主に日最高気温)
- 異常気象に関連した健康影響(熱波、洪水など)
- 大気汚染に関連した健康影響(乾燥化による砂粒子ダストなどの遠距離輸送の変動、都市化の進行・自動車利用の増加による排気ガスの増加による光化学スモッグの上昇。ヒートアイランドと呼ばれる都市中心部の気温上昇の影響なども含む)
- 水および植物由来の疾病(各種細菌等による水系汚染、植生の変化による各種アレルゲン分布の変動など)
- 媒介動物由来の疾病
- 食料や飲料水不足の影響(とくに乾燥や降水の変化の進行・増加による影響)
- 精神的、栄養学的、感染症及びその他の健康影響(気温上昇による暑熱ストレス、低栄養、水系―および食物系由来の感染症などの影響)
温暖化と感染症による健康影響は、これらの多様な影響のうち、どの程度、どのように影響するのかについて、まだ明確にはわからない部分も多くある。
最近の研究では、中国の3つの地域において、飲料水や食物が原因の感染症や食中毒などに罹患することが、気温の上昇で生じる暑熱ストレスによる死亡のリスクを、一層高めているのではないかとみられる例がある。
熱波などの局所的かつ急激な気温上昇の結果として感染症が急増するおそれは、飲料水や食物由来の感染症を除き、比較的小さいと考えられる。しかし、媒介動物の生息、分布、活動力が温暖化による気象変動によって徐々に拡大し、暑熱による過剰死亡リスクをさらに上昇させる新たな要因となることは憂慮される。また、感染症のリスクには、貧困、低栄養、低い衛生状態、水や食物由来の感染などが大きく関係しているため、それらのリスクが高い途上国などでは、特に大きく影響を受けるおそれがある。早急な対応が必要である。(この項次号に続く)
参考資料
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/pamph_infection/full.pdf
「農医連携論」の概略:5.代替農業論
本年度から開始した「農医連携論」の講義内容(情報:40号の1~3p参照)のうち、「1.農医連携入門、2.医学からみた農医連携、3.農学からみた農医連携」の概略は、情報:40号の3~11pに、「4.東洋医学および代替医療からみた農医連携」の概略は、情報:42号の5~11pに紹介した。今回は「5.代替農業論」の概略を講師のパワーポイントから紹介する。
5. 代替農業論
○ 代替農業と土の話
○ 代替農業の前史
狩猟・採集から農耕へ:約10,000年前
文明の衰亡と食料生産基盤の劣化
第二の自然としての農業へ:18世紀末
自然休閑農法・混合農業・水田稲作
○アメリカ農業の近代化の道筋と問題点
灌漑農業における土壌塩類化と地下水枯渇と環境問題の顕在化(土壌侵食、水質汚濁、食料の安全性)
5. 代替農業論
○ 代替農業と土の話
- 代替農業の前
- 近代農業の問題点
- 代替農業とは
- 代替農業のねらい
- ルドルフ・シュタイナー、アレキシス・カレル
- 身土不二
- 土と壌と土壌
- 土の話アラカルト
○ 代替農業の前史
狩猟・採集から農耕へ:約10,000年前
文明の衰亡と食料生産基盤の劣化
第二の自然としての農業へ:18世紀末
自然休閑農法・混合農業・水田稲作
○アメリカ農業の近代化の道筋と問題点
灌漑農業における土壌塩類化と地下水枯渇と環境問題の顕在化(土壌侵食、水質汚濁、食料の安全性)
農業機械の導入・普及(20世紀初頭) | |
↓ | 品種改良 |
役畜無用=飼料作物不要=輪作の変容 | |
↓ | 化学肥料 |
商品作物の増大 | |
↓ | 合成農薬 |
機械の大型化・専用機化 | |
↓ | 政策的支援 |
農場の拡大・単作化=輪作崩壊・休閑廃止 | |
↓ | 社会・経済的要因 |
生産性の向上 |
○ 低投入持続型農業型:LISA
1985年農業法:「農業生産性研究」、USDA:1988年1月より"Low Input Sustainable Agriculture"プログラムの発足
1990年以降の農業法でも推進:"Sustainable Agriculture Research and Education"(SARE) プログラムとして
○ Alternative Agriculture という言葉
Henry A. Wallace:Institute For Alternative Agriculture: 1983
資源の節約、環境の保全、経営の健全さを目指す農業システムの支援を目的とする
American Journal of Alternative Agriculture: 1986
代替的農法に関する研究成果の発表媒体として全米研究協議会が特別委員会を設置: 1984
Alternative Agriculture に関する検討を開始
○ 代替農業という言葉
久馬・嘉田・西村監訳:「代替農業-永続可能な農業をもとめて」、自然農法国際研、開発センター、熱海(1992)
National Research Council: 1989"Alternative Agriculture"、National Academy Press, Washington, D.C.
○ 代替農業のなかみ
有機農業(生態学的農業、生物学的農業)、自然農法、低投入型農業、環境保全型農業、生態系調和型農業 など
○ 代替農業のねらい
農業生産を農地の潜在的生産力と自然的/特性に適合させる/農業外からの投入資材を減らす/農地管理の改善;資源の保全を重視/自然のプロセスの利用(N固定、天敵など)/生物種の遺伝的潜在力の積極的利用
○ 代替的農法を採用しない理由
経営管理により多くの知識・情報・技術を要求される/収量低下の恐れ/雑草害激化の恐れ/収益低下の恐れ/基礎面積(base acres)維持の必要
○ 今、環境は:土壌浸食
5-10 ton/ha/y:Africa, EC, Australia
10-20 ton/ha/y:N and S America、30 ton/ha/y:Asia
○ ルドルフ・シュタイナー
不健康な土壌からとれた食物を食べているかぎり、魂は自らを肉体の牢獄から解放するためのスタミナを欠いたままだろう
○ アレキシス・カレル:人間-この未知なるもの-
著名なフランスのノーベル生理学・医学賞受賞者、アレキシス・カレルは、1912年に「人間-この未知なるもの」と題する本の中で警告している。この言葉は「農医連携」の原点にもなるであろう。
「土壌が人間生活全般の基礎なのであるから、私たちが近代的農業経済学のやり方によって崩壊させてきた土壌に再び調和をもたらす以外に、健康な世界がやってくる見込みはない。生き物はすべて土壌の肥沃度(地力)に応じて健康か不健康になる」。なぜなら、すべての食物は、直接的であれ間接的であれ土壌から生まれてくるからである。
○ 身土不二:身土不二の探求、山下惣一著、創森社(1998)
中国の仏教書「廬山蓮宗寶鑑」(1305年)に、「身土不二」という言葉がある。
本来の意味は、仏心と仏土は不二であることを示したものである。食と風土と健康に強い関心を抱くかぎられた人たちの間で、いわば内輪の規範としてこの言葉が用いられていたが、近年は一般の人たちの間にも広がり、土が人の命、命は土、人間は土そのもの、と言われ出している。
これは、アレキシス・カレルの言葉と同様なことで、韓国でも深く浸透している。
○ 孔子
1985年農業法:「農業生産性研究」、USDA:1988年1月より"Low Input Sustainable Agriculture"プログラムの発足
1990年以降の農業法でも推進:"Sustainable Agriculture Research and Education"(SARE) プログラムとして
○ Alternative Agriculture という言葉
Henry A. Wallace:Institute For Alternative Agriculture: 1983
資源の節約、環境の保全、経営の健全さを目指す農業システムの支援を目的とする
American Journal of Alternative Agriculture: 1986
代替的農法に関する研究成果の発表媒体として全米研究協議会が特別委員会を設置: 1984
Alternative Agriculture に関する検討を開始
○ 代替農業という言葉
久馬・嘉田・西村監訳:「代替農業-永続可能な農業をもとめて」、自然農法国際研、開発センター、熱海(1992)
National Research Council: 1989"Alternative Agriculture"、National Academy Press, Washington, D.C.
○ 代替農業のなかみ
有機農業(生態学的農業、生物学的農業)、自然農法、低投入型農業、環境保全型農業、生態系調和型農業 など
○ 代替農業のねらい
農業生産を農地の潜在的生産力と自然的/特性に適合させる/農業外からの投入資材を減らす/農地管理の改善;資源の保全を重視/自然のプロセスの利用(N固定、天敵など)/生物種の遺伝的潜在力の積極的利用
○ 代替的農法を採用しない理由
経営管理により多くの知識・情報・技術を要求される/収量低下の恐れ/雑草害激化の恐れ/収益低下の恐れ/基礎面積(base acres)維持の必要
○ 今、環境は:土壌浸食
5-10 ton/ha/y:Africa, EC, Australia
10-20 ton/ha/y:N and S America、30 ton/ha/y:Asia
○ ルドルフ・シュタイナー
不健康な土壌からとれた食物を食べているかぎり、魂は自らを肉体の牢獄から解放するためのスタミナを欠いたままだろう
○ アレキシス・カレル:人間-この未知なるもの-
著名なフランスのノーベル生理学・医学賞受賞者、アレキシス・カレルは、1912年に「人間-この未知なるもの」と題する本の中で警告している。この言葉は「農医連携」の原点にもなるであろう。
「土壌が人間生活全般の基礎なのであるから、私たちが近代的農業経済学のやり方によって崩壊させてきた土壌に再び調和をもたらす以外に、健康な世界がやってくる見込みはない。生き物はすべて土壌の肥沃度(地力)に応じて健康か不健康になる」。なぜなら、すべての食物は、直接的であれ間接的であれ土壌から生まれてくるからである。
○ 身土不二:身土不二の探求、山下惣一著、創森社(1998)
中国の仏教書「廬山蓮宗寶鑑」(1305年)に、「身土不二」という言葉がある。
本来の意味は、仏心と仏土は不二であることを示したものである。食と風土と健康に強い関心を抱くかぎられた人たちの間で、いわば内輪の規範としてこの言葉が用いられていたが、近年は一般の人たちの間にも広がり、土が人の命、命は土、人間は土そのもの、と言われ出している。
これは、アレキシス・カレルの言葉と同様なことで、韓国でも深く浸透している。
○ 孔子
為人下者、其犹土乎! 種之則五穀生焉、禽獣育焉、生人立焉、死人入焉、其多功而不言
人の下なるもの、其はなお土か!これに植えれば、すなわち五穀を生じ、獣禽育ち、生ける人は立ち、死せる人は入り、その功多くて言い切れない。
参考資料:中国古代土壌分類和土地利用、林蒲田著、化学出版社、北京(1996)
○ 土の文字さまざま
人の下なるもの、其はなお土か!これに植えれば、すなわち五穀を生じ、獣禽育ち、生ける人は立ち、死せる人は入り、その功多くて言い切れない。
参考資料:中国古代土壌分類和土地利用、林蒲田著、化学出版社、北京(1996)
○ 土の文字さまざま
参考資料:中国古代土壌分類和土地利用、林蒲田著、化学出版社、北京(1996)
○ 土-壌-土壌
土:「地の萬物を吐生するものなり」、万物自生、つまり自然土壌のこと。
壌:「地の緩肥なるを壌と曰ふ」とあって、一度砕いた柔らかな土。「塊(つちくれ)無きを壌と曰ふ」とあって、耕土の意である。植物を栽培する場合、つまり耕作土壌のこと。
土壌:自然土壌と耕作土壌の全体。
史記・李斯列伝:BC201-206「是以太山不譲土壌、故能成其大、河海不択細流、故能就其深」泰山と太山
○ 土-生-世-姓
土:地の萬物を吐生するものなり。
生:草の生え出る形。進むなり。艸(草と同じ)木の生じて土上に生づるに象(かたど)る。
土壌:自然土壌と耕作土壌の全体。
世:草木の枝葉が分かれて、新芽が出ている形。
姓:血縁的集団 土は時間と空間を超えた
○土と思想(1)
ギリシャの四大元素説:水・土・風・火 (BC384)
中国の陰陽五行思想:木・火・土・金・水 (BC122)
旧約聖書:神はアダム(人間)をアダマ(土)の塵から造った。人間(homo)は大地(humus)からくる。エバ(女)は「命」であり、「すべて命あるものの母」。
ギリシャ神話の天地創造/古代印度のバラモン教の聖典/チベット仏教の五体投地/日本の古神道・古事記
○ 土と思想(2)陰陽五行思想:「土徳」
木非土不生。根亥茂栄。火非土不栄。得土著形。金非土不成。入範成名。水非土不停。堤防禁盈。土扶微助衰。成其道。故五行更互須土。土王四季而中央。不以名成時。
-「洪範」五行伝-
木は土がなければ生ぜず、繁茂もしない。火は土なくして勢いはなく、土あってはじめて火としての形をなす。金は土の鋳型に入ってこそ有益なものとなり得る。
水は土がなければ溢れて止まることを知らない。
水は堤防によって溢れずにすむ。
土気は新たに萌しくるものを扶け、衰えていくものを衰えさせて、そのものの道を達成させる。
故に、五行循環は土徳の力に負うものである。
土気は四季の変化の中央にいて四季を行きめぐらせ、四季の王となる。
○ わが国の土の神々(1)
地鎮祭(トコシズメノマツリ)
大土神(オオツチノカミ)大年神(オオトシノカミ)の御子で、母神は天知迦流美豆比売 (アメチカルミズヒメ)。田地を守護する神。またの名を土之御祖神(ツチノミオヤノカミ)
大地主大神(オオドコヌシノカミ)土地を守護する神
埴山姫大神(ハニヤヒメノオオカミ)土を守護する神
産土大神(ウブスナノオオカミ)その土地の守り神
○ わが国の土の神々(2)
波邇夜須毘売神(ハニヤスヒメノカミ)女神。土神
波邇夜須毘古神(ハニヤスヒコノカミ)男神。土神
『古事記』では波邇夜須毘売神、『日本書紀』では埴山姫(ハニヤマヒメ)、埴山媛、埴安神(ハニヤスノカミ)と記されている。
『古事記』によれば、火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)を生んで陰部を火傷し、苦しんでいた伊邪那美命(イザナミノミコト)が糞をしたが、その糞から化生した神が、波邇夜須毘古神(ハニヤスビコノカミ)と波邇夜須毘売神(ハニヤスビメノカミ)である。
尿から生まれたという弥都波能売神(ミズハノメノカミ)と一緒に肥料の神とされているが、埴は粘土のことで、糞から赤土を連想したものであろう。
また弥都波能売神と共に和久産巣日神(ワクムスヒノカミ)も生まれている。
○ わが国の土の神々(3)
伊勢神宮外宮の別宮に、「土の宮」と「風の宮」がある。
外宮を右にして、左に池の橋を渡ると、右に土の宮、左に風の宮が鎮座している。
「土の宮」に祀ってある神は、大土御祖神(オオツチノミオヤノカミ)、「風の宮」に祀ってある神は、級戸神(シナトノカミ)である。
土と風とは、いわば土壌と環境である。この二神は、農業技術の立場から最も重要な因子である。
「土の宮」と「風の宮」をあわせて研究しているところは、現在の独立行政法人農業環境技術研究所にあたるであろう。
内宮の摂社にも大土御祖神社(オオツチノミオヤジンジャ)があるが、祭神は土の宮と同じである。
○ 世界の文明と土壌
○ 土:日本語とタミル語
茨城・埼玉・佐賀で使われているアカは、タミル語で農地。
佐賀を中心に九州で使われているコミはタミル語で臭い粘土。
岐阜・愛知などで使われているサバはタミル語で粘土質の土地。
鹿児島・宮城・愛知で使われているシロはタミル語で泥水。
山口・徳島・香川で使われているガラは石っころの意味。
愛知で使われているマナまたはマナゴは砂、小砂の意味。
土に限らず農業に関する言葉はいくらもあるようだ。
例えば、チャリ(小石)、ジャリ(砂利)、ザッパ(残飯)、ニ(土)、カライ(刈る)、クマイ(神米)、ヌク(糖)、ウル(熟る)、ウルグ(うるかす)などなど。
○ 食土
Geophagy, A traditional practice which provides nutrients to the body. People around the world eat clay, dirt or other pieces of the lithosphere for a variety of reasons. Commonly, it is a traditional cultural activity which takes place during pregnancy, religious ceremonies, or as a remedy for disease. Most people who eat dirt live in Central Africa and the Southern United States. Whileit is a cultural practice, it also fills a physiological need for nutrients.
山田 忍:食土に就いて、土肥誌、15, 393-396 (1944)
食用・迷信・医療
○ 土と発見
Geophagy, A traditional practice which provides nutrients to the body. People around the world eat clay, dirt or other pieces of the lithosphere for a variety of reasons. Commonly, it is a traditional cultural activity which takes place during pregnancy, religious ceremonies, or as a remedy for disease. Most people who eat dirt live in Central Africa and the Southern United States. Whileit is a cultural practice, it also fills a physiological need for nutrients.
周期表の創始者:メンデレーエフ/抗生物質の発見:ワックスマン/粘土鉱物:吉永・和田/その他
○ 土と文学:サン・テグジュペリ著「人間の大地」
この本の冒頭は、「大地はわれわれ人間について、万物の書物より多くのことを教えてくれる。大地はわれわれに抵抗するからである。」で始まる。
「ね、あなた・・・ときには、土を掘り起こしながら汗もかきました。・・・・・土を掘り起こすという仕事が、わたしにはそんなにすばらしいものに思われるんですよ!土を掘り起こしているときは、そんなに自由なんですよ。・・・」
「彼はすこしずつ土に同化しつつあったのだ。太陽によって乾かされ、土に迎え入れられながら。三十年の労働のあと、眠りと大地への権利を手に入れたのだった。」
この本の最後は、「精神の風が粘土のうえを吹きわたるとき。はじめて人間は創造されるのだ。」で終わる。
○ 土の研究夢物語
○ 生命システム理論土が生きていることの証明:Living Systems, by JG Miller
○ 司馬遼太郎:21世紀に生きる君たちへ
むかしも今も、また未来においても変わらないものがある。そこに空気と水、それに土などという自然があって、人間や他の動植物、さらには微生物にいたるまでがそれに依存しつつ生きているということである。
自然こそ不変の価値なのである。なぜならば、人間は空気を吸うことなく生きることができないし、水分をとることがなければ、かわいて死んでしまう。・・・
○ 土:松本邦彦、産経新聞(06/09/02)
ああ ほっこりと土は 柔らかいのですね 朝の草みちを歩めば しみじみと
靴裏から溜息が 地球の中心に 降りていく 「たまには 素足になって 遊ぶのよ」
母さんのように やさしい 大地の声がした
○ 土:小林敦子、産経新聞(06/10/04)
野菜を食べている人が みな 百姓に なれたらいいな 大きな畑で なくていい
茄子の苗から 茄子がなる この不思議を知る 機会が皆にあればいい
そして できれば 二カ所以上 違った場所なら もっといい その時
あなたは知るだろう 同じ お世話をしていても 土には 個性があることを
○ 徳冨健次郎(蘆花):みみずのたはこと
土の上に生れ、土の生むものを食うて生き、而して死んで土になる。我等は畢竟土の化物である。土の化物に一番適當した仕事は、土に働くことであらねばならぬ。あらゆる生活の方法の中、尤もよきものを撰み得た者は農である。
○ 土と草:金子みすゞ
母さん知らぬ 草の子を、 なん千萬の 草の子を、 土はひとりで 育てます。
草があおあお 茂ったら、 土はかくれて しまうのに。
○ 土:金子みすゞ
こっつん こっつん 打たれる土は よい畠になって よい麦生むよ
朝から晩まで 踏まれる土は よい路になって 車を通すよ
打たれぬ土は 踏まれぬ土は 要らない土か いえいえそれは 名のない草のお宿をするよ
○ 土-壌-土壌
土:「地の萬物を吐生するものなり」、万物自生、つまり自然土壌のこと。
壌:「地の緩肥なるを壌と曰ふ」とあって、一度砕いた柔らかな土。「塊(つちくれ)無きを壌と曰ふ」とあって、耕土の意である。植物を栽培する場合、つまり耕作土壌のこと。
土壌:自然土壌と耕作土壌の全体。
史記・李斯列伝:BC201-206「是以太山不譲土壌、故能成其大、河海不択細流、故能就其深」泰山と太山
○ 土-生-世-姓
土:地の萬物を吐生するものなり。
生:草の生え出る形。進むなり。艸(草と同じ)木の生じて土上に生づるに象(かたど)る。
土壌:自然土壌と耕作土壌の全体。
世:草木の枝葉が分かれて、新芽が出ている形。
姓:血縁的集団 土は時間と空間を超えた
○土と思想(1)
ギリシャの四大元素説:水・土・風・火 (BC384)
中国の陰陽五行思想:木・火・土・金・水 (BC122)
旧約聖書:神はアダム(人間)をアダマ(土)の塵から造った。人間(homo)は大地(humus)からくる。エバ(女)は「命」であり、「すべて命あるものの母」。
ギリシャ神話の天地創造/古代印度のバラモン教の聖典/チベット仏教の五体投地/日本の古神道・古事記
○ 土と思想(2)陰陽五行思想:「土徳」
木非土不生。根亥茂栄。火非土不栄。得土著形。金非土不成。入範成名。水非土不停。堤防禁盈。土扶微助衰。成其道。故五行更互須土。土王四季而中央。不以名成時。
-「洪範」五行伝-
木は土がなければ生ぜず、繁茂もしない。火は土なくして勢いはなく、土あってはじめて火としての形をなす。金は土の鋳型に入ってこそ有益なものとなり得る。
水は土がなければ溢れて止まることを知らない。
水は堤防によって溢れずにすむ。
土気は新たに萌しくるものを扶け、衰えていくものを衰えさせて、そのものの道を達成させる。
故に、五行循環は土徳の力に負うものである。
土気は四季の変化の中央にいて四季を行きめぐらせ、四季の王となる。
○ わが国の土の神々(1)
地鎮祭(トコシズメノマツリ)
大土神(オオツチノカミ)大年神(オオトシノカミ)の御子で、母神は天知迦流美豆比売 (アメチカルミズヒメ)。田地を守護する神。またの名を土之御祖神(ツチノミオヤノカミ)
大地主大神(オオドコヌシノカミ)土地を守護する神
埴山姫大神(ハニヤヒメノオオカミ)土を守護する神
産土大神(ウブスナノオオカミ)その土地の守り神
○ わが国の土の神々(2)
波邇夜須毘売神(ハニヤスヒメノカミ)女神。土神
波邇夜須毘古神(ハニヤスヒコノカミ)男神。土神
『古事記』では波邇夜須毘売神、『日本書紀』では埴山姫(ハニヤマヒメ)、埴山媛、埴安神(ハニヤスノカミ)と記されている。
『古事記』によれば、火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)を生んで陰部を火傷し、苦しんでいた伊邪那美命(イザナミノミコト)が糞をしたが、その糞から化生した神が、波邇夜須毘古神(ハニヤスビコノカミ)と波邇夜須毘売神(ハニヤスビメノカミ)である。
尿から生まれたという弥都波能売神(ミズハノメノカミ)と一緒に肥料の神とされているが、埴は粘土のことで、糞から赤土を連想したものであろう。
また弥都波能売神と共に和久産巣日神(ワクムスヒノカミ)も生まれている。
○ わが国の土の神々(3)
伊勢神宮外宮の別宮に、「土の宮」と「風の宮」がある。
外宮を右にして、左に池の橋を渡ると、右に土の宮、左に風の宮が鎮座している。
「土の宮」に祀ってある神は、大土御祖神(オオツチノミオヤノカミ)、「風の宮」に祀ってある神は、級戸神(シナトノカミ)である。
土と風とは、いわば土壌と環境である。この二神は、農業技術の立場から最も重要な因子である。
「土の宮」と「風の宮」をあわせて研究しているところは、現在の独立行政法人農業環境技術研究所にあたるであろう。
内宮の摂社にも大土御祖神社(オオツチノミオヤジンジャ)があるが、祭神は土の宮と同じである。
○ 世界の文明と土壌
- 土壌の起源は、約三億五千万年前のシルル紀に始まる。その後、土は動植物との相互依存によって、成長しつづけた。土の生成速度は、岩石の種類、気候、植生などの要因によって異なる。北米の例では、一センチの土が生成されるのに何と百年から五百年の歳月がかかると推定されている。
- 原始人が現れたのは、およそ百万年も前である。彼らは、土と動植物の相互依存の自然な過程を覆すことはせず、生きていくために自然環境にみずから順応してきた。
- 土の生成作用が完全に一変したのは、約六千年前の文明人の出現による農耕文化の定着からであった。この時から、人類はもてる知恵と発明した道具とを用いて、土を基盤とした農業方式を確立した。人類はこの土という資源を借用して、世界のいたるところで文明を進歩させてきた。
- しかし文明が発祥したところで、その繁栄が未来永劫にわたって持続したことはなかった。ギリシャ人のような民族が、なぜ三十から四十世代の短期間に没落したのか。ギリシャ人も糊口の道を農業に依存していた。人口の増加と、地力を収奪し土壌浸食を助長する商品作物の需要が加速したため、あの豊かな土資源の枯渇と生態系の破壊が進んだ。
- ローマ文明の崩壊もギリシャと似たパターンをたどった。メソポタミア文明の衰退も、塩分蓄積による土の劣化である。シュメールの土壌の塩分上昇は人類史上はじめての化学汚染と言えるかもしれない。ミノス文明は土壌浸食によって崩壊した。レバノンの顛末もミノスに似ている。シリアの文明は地力消耗と、これまた土壌浸食によって崩壊した。
- このように世界の文明の盛衰は、その文明発祥の地の土と深くかかわりあっている。文明が輝かしいものであればあるほど、進歩的な存在が短かった場合が多い。
- 人間は単に食物を食べるだけではない。われわれは大地をも食べている。流される土のひと粒ひと粒が、われわれの消費のありさまを示している。
○ 土:日本語とタミル語
茨城・埼玉・佐賀で使われているアカは、タミル語で農地。
佐賀を中心に九州で使われているコミはタミル語で臭い粘土。
岐阜・愛知などで使われているサバはタミル語で粘土質の土地。
鹿児島・宮城・愛知で使われているシロはタミル語で泥水。
山口・徳島・香川で使われているガラは石っころの意味。
愛知で使われているマナまたはマナゴは砂、小砂の意味。
土に限らず農業に関する言葉はいくらもあるようだ。
例えば、チャリ(小石)、ジャリ(砂利)、ザッパ(残飯)、ニ(土)、カライ(刈る)、クマイ(神米)、ヌク(糖)、ウル(熟る)、ウルグ(うるかす)などなど。
○ 食土
Geophagy, A traditional practice which provides nutrients to the body. People around the world eat clay, dirt or other pieces of the lithosphere for a variety of reasons. Commonly, it is a traditional cultural activity which takes place during pregnancy, religious ceremonies, or as a remedy for disease. Most people who eat dirt live in Central Africa and the Southern United States. Whileit is a cultural practice, it also fills a physiological need for nutrients.
山田 忍:食土に就いて、土肥誌、15, 393-396 (1944)
食用・迷信・医療
○ 土と発見
Geophagy, A traditional practice which provides nutrients to the body. People around the world eat clay, dirt or other pieces of the lithosphere for a variety of reasons. Commonly, it is a traditional cultural activity which takes place during pregnancy, religious ceremonies, or as a remedy for disease. Most people who eat dirt live in Central Africa and the Southern United States. Whileit is a cultural practice, it also fills a physiological need for nutrients.
周期表の創始者:メンデレーエフ/抗生物質の発見:ワックスマン/粘土鉱物:吉永・和田/その他
○ 土と文学:サン・テグジュペリ著「人間の大地」
この本の冒頭は、「大地はわれわれ人間について、万物の書物より多くのことを教えてくれる。大地はわれわれに抵抗するからである。」で始まる。
「ね、あなた・・・ときには、土を掘り起こしながら汗もかきました。・・・・・土を掘り起こすという仕事が、わたしにはそんなにすばらしいものに思われるんですよ!土を掘り起こしているときは、そんなに自由なんですよ。・・・」
「彼はすこしずつ土に同化しつつあったのだ。太陽によって乾かされ、土に迎え入れられながら。三十年の労働のあと、眠りと大地への権利を手に入れたのだった。」
この本の最後は、「精神の風が粘土のうえを吹きわたるとき。はじめて人間は創造されるのだ。」で終わる。
○ 土の研究夢物語
- リンの代謝と循環
- 地形連鎖の機能
- 水の特性と効用
- 音波栽培
- 土と新規作物
- 土と紫外線など
- 雑草の本質的意義
- 土と新規作物
- 奇蹟の微生物探索
- 土と電磁波
- 土壌・植物と磁気
- 微量元素のバランス
- 土と化学物質
- 代替農業とは
- 土と倫理
○ 生命システム理論土が生きていることの証明:Living Systems, by JG Miller
- 生命システムが物質とエネルギーを摂取、消化、使用、排泄する仕方(8):
LIngestor: 摂取 Distributor: 分配 Converter: 変換 Producer: 生産 Mater-Energy Storage: 物質・エネルギー貯蔵 Extruder: 排泄 Motor: 動力 Supporter: 支持 - 生命システムが環境を知覚し、情報を抽象、完成、蓄積、想起する仕方(10):
Input Transducer: 入力変圧 Internal Transducer: 内部変圧 Channel and Net: チャンネル・回路 Timer: 時間調整 Decoder: 暗号解読 Associator: 連合 Memory: 記憶 Decider: 決定 Encoder: 暗号 Output Transducer: 出力変圧 - 物質・エネルギーの処理と情報の処理(2):
Reproducer: 再生 Boundary: 境界
○ 司馬遼太郎:21世紀に生きる君たちへ
むかしも今も、また未来においても変わらないものがある。そこに空気と水、それに土などという自然があって、人間や他の動植物、さらには微生物にいたるまでがそれに依存しつつ生きているということである。
自然こそ不変の価値なのである。なぜならば、人間は空気を吸うことなく生きることができないし、水分をとることがなければ、かわいて死んでしまう。・・・
○ 土:松本邦彦、産経新聞(06/09/02)
ああ ほっこりと土は 柔らかいのですね 朝の草みちを歩めば しみじみと
靴裏から溜息が 地球の中心に 降りていく 「たまには 素足になって 遊ぶのよ」
母さんのように やさしい 大地の声がした
○ 土:小林敦子、産経新聞(06/10/04)
野菜を食べている人が みな 百姓に なれたらいいな 大きな畑で なくていい
茄子の苗から 茄子がなる この不思議を知る 機会が皆にあればいい
そして できれば 二カ所以上 違った場所なら もっといい その時
あなたは知るだろう 同じ お世話をしていても 土には 個性があることを
○ 徳冨健次郎(蘆花):みみずのたはこと
土の上に生れ、土の生むものを食うて生き、而して死んで土になる。我等は畢竟土の化物である。土の化物に一番適當した仕事は、土に働くことであらねばならぬ。あらゆる生活の方法の中、尤もよきものを撰み得た者は農である。
○ 土と草:金子みすゞ
母さん知らぬ 草の子を、 なん千萬の 草の子を、 土はひとりで 育てます。
草があおあお 茂ったら、 土はかくれて しまうのに。
○ 土:金子みすゞ
こっつん こっつん 打たれる土は よい畠になって よい麦生むよ
朝から晩まで 踏まれる土は よい路になって 車を通すよ
打たれぬ土は 踏まれぬ土は 要らない土か いえいえそれは 名のない草のお宿をするよ
本の紹介 38:生きる自信−健康の秘密−、石原慎太郎・石原結實著、海竜社(2008)
新しい構成で、読者に解りやすく語りかけるシステムからなる興味深い本である。さらに、人生書としても、健康書としても読める本である。本を創作するにも、読者に統合知の提供が必要な時代の到来を痛感させられる本である。
知事として、作家として、精力的に仕事をこなしている石原慎太郎氏が、西洋医学と東洋医学の両方を理解し、健康実用書で数々のベストセラーを出している医師の石原結實氏と「人が生きる意味」と「人の健康」について対談する異色の本である。
特異な構成は全般にわたって、こうである。まず「石原慎太郎の独白」、続いて「ドクター結實のカルテ」、さらに「ドクター結實の健康コラム」、最後に「W石原トーク」とくる。ちなみに、Wとは二人の石原の意味である。
現在75歳の石原慎太郎氏は、知事の激務を精力的にこなす。新聞や雑誌に評論を寄稿する。なおかつ、現役の作家としても活躍している。その若々しさと活力を支える健康の秘密とは何であるのか。
それは、テニス、ゴルフ、ヨット、水泳、ダイビング、ウォーキングなどのスポーツで身体を鍛える傍ら、食生活の改善・節制、腹式呼吸の常用、さらには鍼灸、気功などさまざまな健康法への積極的な挑戦にある。すなわち、健康を維持するために細心の注意を払っているからである。そして良い酒と良い女に興味を示すとくる。石原慎太郎氏にとっては、まさに健康あっての人生なのである。
片や石原結實氏は、「人参ジュースダイエット」と「生姜紅茶」で身体を温める健康法と題して、数多くのベストセラーを世に問い、テレビジョンにも出演する医者である。石原結實氏は、西洋医学の長所と、病気を総合的にとらえる漢方などの東洋医学や民間療法を統合することの必要性を説いている医者である。石原結實氏にとっては、人の健康あっての人生なのである。
「第1章 人生と健康の公理」は、心の不健康を許すな/ドクター結實の健康コラム:100歳まで生きる10カ条/肉体の鍛錬がもたらすもの/体がつくる心の健康、心がつくる体の健康/限りあるものの美/海と人生、海と人体/ドクター結實の健康コラム:「海の幸」は健康のもと/W石原トーク:三宅島に海洋療法施設を、から構成されている。
「第2章 体には不思議な力が秘められている」は、肉体の声を聞き、肉体の声に応える/人間の深奥に触れる東洋医学/ドクター結實の健康コラム:西洋医学の神経システムと東洋医学の経路/見えない力で病気を治す/いまこそ塩の名誉回復/東洋医学と西洋医学のバランスを/ドクター結實の健康コラム:眼でわかる病気/W石原トーク:「高血圧=病気」の思いこみ、の項からなる。
「第3章 「老い」と「死」を考える」は、死にきるには生ききらねばならない/人が老いを意識するとき/死をどうとらえるか/W石原トーク:死をみつめて死にたい、で構成されている。
「第4章 生きることは動くことである」は、肉体的反復がもたらすもの/知っておきたい運動の健康効果/呼吸と健康の関係/生命力を左右する「運動」/W石原トーク:「運動」で免疫力を上げることが健康の秘訣、で解説される。
「第5章 「食べないこと(断食)で健康になる」は、飽食の時代のいま、健康をつくるのは「断食」/これだけある「断食効果」/断食は生命力を高める/W石原トーク:「断食」で開運?、の項からなる。
「第6章 生涯健康、生涯現役」は、NO幹人間を増産する日本の教育/人間を支える目に見えないもの/「年齢」とのつきあい方/定年は健康を奪う/W石原トーク:100歳現役を目指して、で終わる。
「おわりに」は対談である。「巻末付録」は食の実践そのもので、脳幹を鍛える食生活/老化を予防する運動/老化を予防する入浴法、から構成されている。筆者は読み進むうちにこの実践の付録に痛く共鳴したので、これらのうちのいくつかを実践することにした。三日坊主にならないように。もちろん筆者は坊主ではないが。
最後に、石原慎太郎氏が「はじめに」に記した痛烈な批判を、文章の脈略を無視して紹介する。
知事として、作家として、精力的に仕事をこなしている石原慎太郎氏が、西洋医学と東洋医学の両方を理解し、健康実用書で数々のベストセラーを出している医師の石原結實氏と「人が生きる意味」と「人の健康」について対談する異色の本である。
特異な構成は全般にわたって、こうである。まず「石原慎太郎の独白」、続いて「ドクター結實のカルテ」、さらに「ドクター結實の健康コラム」、最後に「W石原トーク」とくる。ちなみに、Wとは二人の石原の意味である。
現在75歳の石原慎太郎氏は、知事の激務を精力的にこなす。新聞や雑誌に評論を寄稿する。なおかつ、現役の作家としても活躍している。その若々しさと活力を支える健康の秘密とは何であるのか。
それは、テニス、ゴルフ、ヨット、水泳、ダイビング、ウォーキングなどのスポーツで身体を鍛える傍ら、食生活の改善・節制、腹式呼吸の常用、さらには鍼灸、気功などさまざまな健康法への積極的な挑戦にある。すなわち、健康を維持するために細心の注意を払っているからである。そして良い酒と良い女に興味を示すとくる。石原慎太郎氏にとっては、まさに健康あっての人生なのである。
片や石原結實氏は、「人参ジュースダイエット」と「生姜紅茶」で身体を温める健康法と題して、数多くのベストセラーを世に問い、テレビジョンにも出演する医者である。石原結實氏は、西洋医学の長所と、病気を総合的にとらえる漢方などの東洋医学や民間療法を統合することの必要性を説いている医者である。石原結實氏にとっては、人の健康あっての人生なのである。
「第1章 人生と健康の公理」は、心の不健康を許すな/ドクター結實の健康コラム:100歳まで生きる10カ条/肉体の鍛錬がもたらすもの/体がつくる心の健康、心がつくる体の健康/限りあるものの美/海と人生、海と人体/ドクター結實の健康コラム:「海の幸」は健康のもと/W石原トーク:三宅島に海洋療法施設を、から構成されている。
「第2章 体には不思議な力が秘められている」は、肉体の声を聞き、肉体の声に応える/人間の深奥に触れる東洋医学/ドクター結實の健康コラム:西洋医学の神経システムと東洋医学の経路/見えない力で病気を治す/いまこそ塩の名誉回復/東洋医学と西洋医学のバランスを/ドクター結實の健康コラム:眼でわかる病気/W石原トーク:「高血圧=病気」の思いこみ、の項からなる。
「第3章 「老い」と「死」を考える」は、死にきるには生ききらねばならない/人が老いを意識するとき/死をどうとらえるか/W石原トーク:死をみつめて死にたい、で構成されている。
「第4章 生きることは動くことである」は、肉体的反復がもたらすもの/知っておきたい運動の健康効果/呼吸と健康の関係/生命力を左右する「運動」/W石原トーク:「運動」で免疫力を上げることが健康の秘訣、で解説される。
「第5章 「食べないこと(断食)で健康になる」は、飽食の時代のいま、健康をつくるのは「断食」/これだけある「断食効果」/断食は生命力を高める/W石原トーク:「断食」で開運?、の項からなる。
「第6章 生涯健康、生涯現役」は、NO幹人間を増産する日本の教育/人間を支える目に見えないもの/「年齢」とのつきあい方/定年は健康を奪う/W石原トーク:100歳現役を目指して、で終わる。
「おわりに」は対談である。「巻末付録」は食の実践そのもので、脳幹を鍛える食生活/老化を予防する運動/老化を予防する入浴法、から構成されている。筆者は読み進むうちにこの実践の付録に痛く共鳴したので、これらのうちのいくつかを実践することにした。三日坊主にならないように。もちろん筆者は坊主ではないが。
最後に、石原慎太郎氏が「はじめに」に記した痛烈な批判を、文章の脈略を無視して紹介する。
- 私は最近の医術というものを、科学の一つの技としてはほとんど信用できずにいる。
- すべての科学もまた芸術と同じように人間の感覚、感性によらずしてその対策を把握解明できるものではない。
- 先日、私の親しいある老婦人が入院していた有名な大病院を五日にして憤然として退院してきてしまったと聞いたが、その訳は、彼女の担当の医師が、あれこれおこなった検査のデータばかりをあげつらって、一度として彼女の体に手で触れることがなかったということであった。彼女の判断は絶対に正しいと思う。
- 医者が知らずにすましているのなら、患者となる我々一般のほうが、人間の体の未知なる事柄について知ってかからないと、いらざる支出ですめばまだいいが、いらざる苦労を強いられることになるということを知るべきに違いない。
*本情報誌の無断転用はお断りします。
- 北里大学学長通信
情報:農と環境と医療43号 -
編集・発行 北里大学学長室
発行日 2008年10月1日