44号
情報:農と環境と医療44号
2008/11/1
第6回農医連携シンポジウムの映像音声と資料画像
平成20年10月24日に開催された第6回北里大学農医連携シンポジウム「地球温暖化:農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術」の映像音声と資料画像は、本学のホームページの「農医連携」(https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/symposium/sympo06.html)で見ることができます。
第6回北里大学農医連携シンポジウムの内容:(1)開催にあたって
平成20年10月24日に開催された第6回北里大学農医連携シンポジウムの講演プログラムと挨拶を紹介する。
講演プログラム
講演プログラム
10:00~10:05 | 開催にあたって | 北里大学学長 柴 忠義 |
10:05~10:20 | 食品安全委員会の5年間の取組と今後の課題-カドミウムとヒ素を中心に- | 内閣府食品安全委員会委員長 見上 彪 |
10:20~10:40 | 北里大学の農医連携構想の現状 | 北里大学教授 陽 捷行 |
10:40~11:20 | 食生活の現状と課題-健康維持・おいしさ・安全性の連携- | 北里大学保健衛生専門学院講師 多賀 昌樹・旭 久美子・大村 正史 |
11:20~12:00 | 水産物の機能と安全性 | 北里大学名誉教授 神谷 久男 |
13:00~13:40 | 過酸化脂質と疾病 | 北里大学薬学部教授 中川 靖一 |
13:40~14:20 | サルモネラおよびカンピロバクター食虫毒-農の領域から- | 北里大学獣医学部教授 中村 政幸 |
14:20~15:00 | 海藻類多食者におけるヒ素による健康影響の問題点 | 北里大学医療衛生学部教授 山内 博 |
15:20~16:00 | 農医連携における遺伝子高次機能解析センターの役割 | 北里大学医学部教授 篠原 信賢 |
16:00~16:40 | 農医連携の架け橋としてのプロバイオティクスの可能性を探る | 北里大学獣医学部教授 向井 孝夫 |
16:40~17:20 | 機能性食品の可能性と限界 | 北里大学獣医学部教授 有原 圭三 |
17:20~18:00 | 総合討論 | 相澤 好治・陽 捷行 |
開催にあたって
北里大学学長 柴 忠義
第6回北里大学農医連携シンポジウムの開催にあたり、主催者を代表しまして一言ご挨拶申し上げます。
北里大学から農医連携という新たな概念を発信してから、3年の歳月が経過しました。また、最初の農医連携シンポジウムが開催されて2年半の月日が流れました。この間、農医連携委員会を設置し、委員の皆様に「北里大学農医連携構想について」をまとめていただきました。昨年の10月のことです。
この間、農医連携の科学や教育を深化させるために、情報、教育、研究、普及に関わる活動をしてまいりました。
情報の探索や普及に関わる活動としては、「北里大学学長室通信:農と環境と医療」を2005年5月から毎月発刊し、2008年10月で第43号に至りました。
教育に関わる活動としては、医学部においては「農医連携に関わる講義と演習」を、獣医学部の3学科においては「農医連携に関わる講義」が2007年4月から開始されました。さらに2008年4月からは、一般教育部において「教養演習B:農医連携論」が開設されました。また、「質の高い大学教育推進プログラム」で「複合的な知識・技術の習得による高度職業人へのキャリアパス形成をめざして」と題するプロジェクトの申請も試みました。
研究に関しては、新たに「重金属摂取の現状把握とその低減化に向けた標準化手法の開発」を構築し、学部を超えたオール北里大学としての農医連携に関する研究を推進する試みもなされました。
一方、社会への貢献という立場からは、農医連携の普及と学術情報の発信を目指して、北里大学農医連携シンポジウムを2006年4月から半年ごとに開催しております。この間、「農・環境・医療の連携を求めて」に始まり、「代替医療と代替農業の連携を求めて」、「鳥インフルエンザ?農と環境と医療の視点から?」、「農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響」、「地球温暖化:農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術」と題して、環境を通した農業と医療の今日的な問題を取り上げてまいりました。これらの成果は冊子にまとめ、誰でも購入できるシステムも構築しました。
第6回のシンポジウムは、「食の安全と予防医学」と題した日常的でかつ重要な問題を取り上げました。このシンポジウムを開催する趣旨の原点は、次のようなことにあります。
病気の予防、健康の増進、安全な食品、環境を保全する農業、癒しの農などのために、すなわち21世紀に生きる人びとの健康と安全のために、農医連携の科学や教育の必要性は強調されてもされすぎることはないでしょう。
今回は、生命科学を探求している北里大学の研究者による農医連携シンポジウムを「食の安全と予防医学」と題して開催します。
食のグローバル化、大腸菌O157や異常プリオン蛋白質など新たな危害要因の出現、遺伝子組え技術の開発・普及、中国食品に代表される中毒事件など、食生活と予防医学を取り巻く状況が大きく変化し、食品の安全性や予防医学における科学情報が、われわれの日常生活に深く入り込む時代になりました。
このため、食卓では絶えず科学を意識せざるを得ない潮流が生まれてきました。ポリフェノールを含む赤ワインの抗酸化作用が強調される一方で、アルコール摂取量の増加という健康の問題は棚上げにされています。焼き鳥ひとつ食べるのにも、鳥インフルエンザウイルスを意識しますし、ギョーザの包装を見るにつけ、製造元が気になります。
ひとつの食品をとって、その部分の効果や影響だけを強調し、総合化したらどうなるかという問題には触れない風潮も生まれました。これは、知と知の分離です。
食品はもともと、炭水化物、脂肪、タンパク質、ミネラル、ビタミンなど数多くの成分が集まってできたものですから、利点も欠点もあります。われわれは昔からさまざまな食品をおいしくバランスよく摂るため、味と保存方法に多くの関心を寄せてきました。食品は添加物がないと、腐敗し食中毒のリスクが上昇することも周知の事実でした。
ヒトは長い歴史の中で、さまざまな食品をバランスよく食する知恵を身につけてきました。科学技術に支えられる現代の食品と予防医学は、このヒトの歴史・習慣・常識を忘れ去らせようとしているのではないでしょうか。
最新の食品の安全と予防医学は、最新の科学技術を駆使して維持されています。このような食の安全と予防医学について農学と医学の立場から、両者がどのように連携できるかを考えるシンポジウムにしていただきたいと思います。
第6回北里大学農医連携シンポジウムの内容:(2)食品安全委員会の5年間の取組と今後の課題
平成20年10月24日に開催された第6回北里大学農医連携シンポジウムのうち、演題「食品安全委員会の5年間の取組と今後の課題」を紹介する。残りの演題と総合討論については、次号以降に順次紹介する。
食品安全委員会の5年間の取組と今後の課題
1.はじめに
平成15年7月に「食品の安全性を科学に基づき客観的かつ中立公正に評価する機関」として、食品安全委員会が設置され、今年の7月で5周年を迎えた。食品安全委員会設置後5年間の取組を振り返るとともに、今後の課題について整理する。
2.食品安全委員会の設置と役割
1)食品安全委員会設置の背景
食生活を取り巻く状況は、食品流通の広域化や国際化の進展、O157、異常プリオン等の新たな危害要因の出現、遺伝子組換え等の新たな技術の開発、分析技術の向上等大きく変化してきている。
2)食品安全委員会の設置と役割
このような状況の下、平成13年に我が国初のBSEが発生し、この問題をめぐる行政対応に対して国民から厳しい批判がなされ、従来の食品安全行政の反省の上に立って、平成15年7月に食品安全基本法が施行され、食品安全委員会が内閣府に設置された。
その目的は、国民の健康保護を最優先に、食品安全行政にリスク分析手法を導入し、食品の安全に関するリスク評価を農林水産省や厚生労働省から独立して行うことである。
食品安全委員会は、リスク評価以外にもリスクコミュニケーションを行うほか、大規模な食中毒が起きたような場合に、情報を収集し、国民に知らせる等の緊急時対応も担っている。
食品安全委員会は7人の委員から構成されており、食品安全委員会には14の専門調査会が置かれている。このうち、「企画」、「緊急時対応」、「リスクコミュニケーション」は横断的な事項を扱う専門調査会であり、このほか、添加物、農薬、動物用医薬品、微生物・ウイルス、プリオン、遺伝子組換え等危害要因ごとにリスク評価について調査審議する11の専門調査会が置かれている。
3.5年間の取組と成果
1)5年間の取組
(1)リスク評価
食品安全委員会の最も重要な役割は、リスク評価であり、リスク管理機関である厚生労働省や農林水産省からの要請に応じて、この5年間で600件以上のリスク評価を行った。また、食品安全委員会が自らの判断により評価対象を決めてリスク評価を行う「自ら評価」も実施している。
このうち、BSEに係るリスク評価は、食品安全委員会の真価を問われる重要な評価であり、広く国内外から情報・データを収集し、科学的な慎重な議論を重ね、「BSE対策の中間とりまとめ」、「我が国のBSE対策の見直し」、「米国及びカナダ産牛肉等に係るリスク評価」等のリスク評価を行った。
また、BSE以外にも、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ等の食中毒原因微生物に係るリスク評価や、家畜等への抗菌性物質の使用により選択される薬剤耐性菌のリスク評価等を実施している。
さらに、平成18年5月に「ポジティブリスト制度」が導入されたことに伴い、758物質の農薬や動物用医薬品等の評価を順次実施しているところである。
(2)リスクコミュニケーション
食品安全委員会では、各地で開催する意見交換会やリスク評価結果等についての意見・情報の募集をはじめ、インターネット等での情報公開、印刷物やDVDといったさまざまな方法による情報発信等、あらゆる機会とコミュニケーション手段を用いて、リスクコミュニケーションの推進に努めてきており、この5年間で324回の意見交換会を開催し、353回の意見・情報の募集を行った。
また、平成18年度から、地方公共団体と協力して、地域におけるリスクコミュニケーションを積極的に推進する人材を育成するため、地域の指導者育成講座を開催している。
さらに、食品安全委員会では、科学に基づくリスク評価機関としての特性を活かし、国民が過度な不安を抱いたり、社会的混乱がおこらないよう、鳥インフルエンザの発生等食品摂取による健康被害に関係する重大な事柄について、委員長談話を発表している。
2)5年間の成果
平成15年7月以降、食品安全委員会は、科学に基づく審議を行う独立機関として、リスク管理機関と連携と牽制の関係を保ちつつ、客観的かつ中立公正なリスク評価を行ってきたが、この5年間の取組により、食品安全に関わる関係者の間にリスク分析の考え方も定着してきた。また、食品安全委員会の設立により、審議過程等の公開によるリスク評価プロセスの透明性の確保や意見交換会、意見・情報の募集等の手法が定着する等リスクコミュニケーションの基礎づくりが進んだ。併せて、国民に対する食品安全に関する情報提供も充実してきた。
4.食品安全委員会の今後の課題
食品安全委員会は5周年という節目を迎え、5年間の実績を総括し、業務の見直しが必要な時期を迎えており、また、消費者庁の設置を巡る消費者行政推進会議等の議論でも、食品安全委員会の改革の必要性が指摘された。
食品安全委員会としては、関係者の様々な指摘や期待を踏まえ、委員会の機能・役割の一層の強化に向けて、今後、以下に掲げる諸課題に取り組むこととしている。
1)リスク評価
リスク評価については、審議案件の増大に対応し、従来から、審議体制や方法の見直し等の改善を行ってきたものの、多くの評価未了案件が残っている。今後も、ポジティブリスト制度、新技術の開発等により多くの評価が見込まれるため、リスク評価審議のさらなる効果的かつ効率的な運営が必要である。
また、自ら評価については、「案件数が少ない」、「消費者の関心の高い案件を評価して欲しい」等の指摘がなされており、自ら評価の案件の選定プロセス等のあり方について検討が必要である。併せて、自ら評価の充実のためには、評価に必要なデータや情報を収集し、解析するための体制の強化も必要である。
2)リスクコミュニケーション
リスクコミュニケーションについては、「評価結果の内容が分かりにくい」、「情報・意見の双方向性が確保されていない」等の指摘がなされている。また、地方公共団体におけるリスクコミュニケーションの取組姿勢には温度差がみられ、地域におけるリスクコミュニケーションの担い手育成のための取組も緒についたばかりの状況である。
このような状況を踏まえ、リスクコミュニケーションに関しては、分かりやすい資料の作成、より一層の参加型の意見交換会等の運営、意見・情報の募集方法の改善等を行うとともに、地方公共団体の主体的な取組を支援し、地方公共団体との連携を進めることが必要である。
3)情報発信・情報提供
情報発信・情報提供に関しては、食品安全基本法により導入されたリスク分析の考え方や食品安全委員会の役割・活動等に対する理解が広く十分に浸透しているとは言い難い状況にある。また、食品に関する問題が発生する中、食品の安全性に関する国民の不安が解消されるような情報の発信・情報の提供が求められている
このため、リスク分析の枠組みや食品安全委員会の役割等について多様な媒体・手段を積極的に活用したより分かりやすい情報提供が必要であり、さらに、国民が食品の安全性について不安を抱くような問題が発生した際には、委員長談話等のタイムリーな情報発信をいかに行うかが課題である。
4)食品安全委員会の活動の国際化と国際連携
食のグローバリゼーションが進む中、我が国として、国際基準作成へ積極的に参加するとともに、国際基準との整合性の確保を図っていくことが重要である。また、ポジティブリスト制度導入等に伴い、リスク評価に関して国際的動向の注視を要する案件が急増している。
このような状況の中で、海外におけるリスク評価結果や評価手法に関する情報の迅速な入手や国際的なリスク評価作業への協力が不可欠となっていることから、食品安全委員会としては、国際機関・外国機関との連携強化に取り組んで行く必要がある。特に、欧州食品安全機関(EFSA)とは、日常の情報交換・共有等を通じて連携を一層強化することとしている。
5.おわりに
食品安全委員会は、平成20年7月24日の第248回食品安全委員会会合において、食品安全委員会の改善に向けた検討に着手することを決定した。今後、取り組むべき課題等を踏まえ、食品安全委員会において議論を重ね、平成20年度内に改善策の最終とりまとめを行う予定である。
食品安全委員会の5年間の取組と今後の課題
内閣府食品安全委員会委員長 見上 彪
1.はじめに
平成15年7月に「食品の安全性を科学に基づき客観的かつ中立公正に評価する機関」として、食品安全委員会が設置され、今年の7月で5周年を迎えた。食品安全委員会設置後5年間の取組を振り返るとともに、今後の課題について整理する。
2.食品安全委員会の設置と役割
1)食品安全委員会設置の背景
食生活を取り巻く状況は、食品流通の広域化や国際化の進展、O157、異常プリオン等の新たな危害要因の出現、遺伝子組換え等の新たな技術の開発、分析技術の向上等大きく変化してきている。
2)食品安全委員会の設置と役割
このような状況の下、平成13年に我が国初のBSEが発生し、この問題をめぐる行政対応に対して国民から厳しい批判がなされ、従来の食品安全行政の反省の上に立って、平成15年7月に食品安全基本法が施行され、食品安全委員会が内閣府に設置された。
その目的は、国民の健康保護を最優先に、食品安全行政にリスク分析手法を導入し、食品の安全に関するリスク評価を農林水産省や厚生労働省から独立して行うことである。
食品安全委員会は、リスク評価以外にもリスクコミュニケーションを行うほか、大規模な食中毒が起きたような場合に、情報を収集し、国民に知らせる等の緊急時対応も担っている。
食品安全委員会は7人の委員から構成されており、食品安全委員会には14の専門調査会が置かれている。このうち、「企画」、「緊急時対応」、「リスクコミュニケーション」は横断的な事項を扱う専門調査会であり、このほか、添加物、農薬、動物用医薬品、微生物・ウイルス、プリオン、遺伝子組換え等危害要因ごとにリスク評価について調査審議する11の専門調査会が置かれている。
3.5年間の取組と成果
1)5年間の取組
(1)リスク評価
食品安全委員会の最も重要な役割は、リスク評価であり、リスク管理機関である厚生労働省や農林水産省からの要請に応じて、この5年間で600件以上のリスク評価を行った。また、食品安全委員会が自らの判断により評価対象を決めてリスク評価を行う「自ら評価」も実施している。
このうち、BSEに係るリスク評価は、食品安全委員会の真価を問われる重要な評価であり、広く国内外から情報・データを収集し、科学的な慎重な議論を重ね、「BSE対策の中間とりまとめ」、「我が国のBSE対策の見直し」、「米国及びカナダ産牛肉等に係るリスク評価」等のリスク評価を行った。
また、BSE以外にも、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ等の食中毒原因微生物に係るリスク評価や、家畜等への抗菌性物質の使用により選択される薬剤耐性菌のリスク評価等を実施している。
さらに、平成18年5月に「ポジティブリスト制度」が導入されたことに伴い、758物質の農薬や動物用医薬品等の評価を順次実施しているところである。
(2)リスクコミュニケーション
食品安全委員会では、各地で開催する意見交換会やリスク評価結果等についての意見・情報の募集をはじめ、インターネット等での情報公開、印刷物やDVDといったさまざまな方法による情報発信等、あらゆる機会とコミュニケーション手段を用いて、リスクコミュニケーションの推進に努めてきており、この5年間で324回の意見交換会を開催し、353回の意見・情報の募集を行った。
また、平成18年度から、地方公共団体と協力して、地域におけるリスクコミュニケーションを積極的に推進する人材を育成するため、地域の指導者育成講座を開催している。
さらに、食品安全委員会では、科学に基づくリスク評価機関としての特性を活かし、国民が過度な不安を抱いたり、社会的混乱がおこらないよう、鳥インフルエンザの発生等食品摂取による健康被害に関係する重大な事柄について、委員長談話を発表している。
2)5年間の成果
平成15年7月以降、食品安全委員会は、科学に基づく審議を行う独立機関として、リスク管理機関と連携と牽制の関係を保ちつつ、客観的かつ中立公正なリスク評価を行ってきたが、この5年間の取組により、食品安全に関わる関係者の間にリスク分析の考え方も定着してきた。また、食品安全委員会の設立により、審議過程等の公開によるリスク評価プロセスの透明性の確保や意見交換会、意見・情報の募集等の手法が定着する等リスクコミュニケーションの基礎づくりが進んだ。併せて、国民に対する食品安全に関する情報提供も充実してきた。
4.食品安全委員会の今後の課題
食品安全委員会は5周年という節目を迎え、5年間の実績を総括し、業務の見直しが必要な時期を迎えており、また、消費者庁の設置を巡る消費者行政推進会議等の議論でも、食品安全委員会の改革の必要性が指摘された。
食品安全委員会としては、関係者の様々な指摘や期待を踏まえ、委員会の機能・役割の一層の強化に向けて、今後、以下に掲げる諸課題に取り組むこととしている。
1)リスク評価
リスク評価については、審議案件の増大に対応し、従来から、審議体制や方法の見直し等の改善を行ってきたものの、多くの評価未了案件が残っている。今後も、ポジティブリスト制度、新技術の開発等により多くの評価が見込まれるため、リスク評価審議のさらなる効果的かつ効率的な運営が必要である。
また、自ら評価については、「案件数が少ない」、「消費者の関心の高い案件を評価して欲しい」等の指摘がなされており、自ら評価の案件の選定プロセス等のあり方について検討が必要である。併せて、自ら評価の充実のためには、評価に必要なデータや情報を収集し、解析するための体制の強化も必要である。
2)リスクコミュニケーション
リスクコミュニケーションについては、「評価結果の内容が分かりにくい」、「情報・意見の双方向性が確保されていない」等の指摘がなされている。また、地方公共団体におけるリスクコミュニケーションの取組姿勢には温度差がみられ、地域におけるリスクコミュニケーションの担い手育成のための取組も緒についたばかりの状況である。
このような状況を踏まえ、リスクコミュニケーションに関しては、分かりやすい資料の作成、より一層の参加型の意見交換会等の運営、意見・情報の募集方法の改善等を行うとともに、地方公共団体の主体的な取組を支援し、地方公共団体との連携を進めることが必要である。
3)情報発信・情報提供
情報発信・情報提供に関しては、食品安全基本法により導入されたリスク分析の考え方や食品安全委員会の役割・活動等に対する理解が広く十分に浸透しているとは言い難い状況にある。また、食品に関する問題が発生する中、食品の安全性に関する国民の不安が解消されるような情報の発信・情報の提供が求められている
このため、リスク分析の枠組みや食品安全委員会の役割等について多様な媒体・手段を積極的に活用したより分かりやすい情報提供が必要であり、さらに、国民が食品の安全性について不安を抱くような問題が発生した際には、委員長談話等のタイムリーな情報発信をいかに行うかが課題である。
4)食品安全委員会の活動の国際化と国際連携
食のグローバリゼーションが進む中、我が国として、国際基準作成へ積極的に参加するとともに、国際基準との整合性の確保を図っていくことが重要である。また、ポジティブリスト制度導入等に伴い、リスク評価に関して国際的動向の注視を要する案件が急増している。
このような状況の中で、海外におけるリスク評価結果や評価手法に関する情報の迅速な入手や国際的なリスク評価作業への協力が不可欠となっていることから、食品安全委員会としては、国際機関・外国機関との連携強化に取り組んで行く必要がある。特に、欧州食品安全機関(EFSA)とは、日常の情報交換・共有等を通じて連携を一層強化することとしている。
5.おわりに
食品安全委員会は、平成20年7月24日の第248回食品安全委員会会合において、食品安全委員会の改善に向けた検討に着手することを決定した。今後、取り組むべき課題等を踏まえ、食品安全委員会において議論を重ね、平成20年度内に改善策の最終とりまとめを行う予定である。
地球温暖化と感染症:その2
「情報:農と環境と医療 43号」の「地球環境と感染症:その1」では、「地球温暖化とは」「感染症とは?」「どんなときに感染症にかかるのか?」「近年話題になっている感染症の例:ウエストナイル熱・脳炎」「温暖化は、感染症にどのような影響を及ぼすのか?」「世界で議論されている温暖化の健康影響」「温暖化の健康影響」「温暖化のもたらす地域ごとの健康影響の特徴」「気温上昇と影響リスクの上昇」「水媒介性感染症への影響」「温暖化による感染症のリスク」「さまざまな感染症と感染経路の例」について紹介した。今回は、その続きを紹介する。
自然生態系への影響:分布拡大中の衛生害虫
冬季の気温は、昆虫などの分布地域を決める重要な要因である。地球温暖化やヒートアイランド現象による冬季の気温上昇により、さまざまな害虫が北方に拡大する可能性がある。近年、人を刺し、噛み、感染症を媒介するなどのさまざまな"衛生害虫"が、生息地域を広げていることが確認されている。
以下に示した害虫は、そのごく一部である。他にもその可能性をもつ種類は数多くある。害虫の分布の拡大現象が確認されているが、気温上昇との因果関係が必ずしもきちんと把握されている訳ではない。しかし、その可能性は十分に考えられる。また、建築や生活様式の変化により冬季の建物内の温度が上昇しているので、新たに屋内害虫が発生している可能性もある。
世界における感染症と温暖化
日本には侵入していないが、世界各地には現在数多くの感染症が存在する。これらの感染症のいくつかは、温暖化により流行する可能性がある。とくに以下に示すリフトバレー熱とハンタウイルス肺症候群は、温暖化・気候変動との関連性がきわめて高い。
コレラの発生状況と海水温の関係
細菌による感染症のうち、最も多いのは水媒介性感染症である。コレラは代表的な水媒介性感染症で、世界に広く分布している。現在のコレラは"エルトールコレラ"と呼ばれるもので、コレラ菌に汚染された水や氷を飲んだり、その水で洗ったサラダや、汚染された氷で冷やした生ものなどを口にすることで感染する。
感染力は強いが、死亡率は2%程度とそれほど高くない。栄養状態の良い日本人は、感染しても死亡することはほとんどない。しかし、多くの途上国では死亡率・死亡者数とも高く、今でも非常に大きな問題になっている。また、日本人も胃腸の弱い人や老人・乳幼児は注意が必要である。海外旅行先で感染したり、感染者が帰国してから国内で発症することもあり、油断できない。
コレラ菌は、海水中のプランクトンと共生して生息している。海水温が上昇するとプランクトンが増殖し、コレラ菌も増えることが予想される。バングラデシュでは、海水温が上がり海面も上昇した年に、コレラの患者発生数が増加している。海水温の上昇で増加したコレラ菌が、海面上昇によって河川を遡上したため、河川水を利用する住民に被害が広まったものと考えられる。
南米では、1990年までコレラの集団発生はみられなかったが、エルニーニョ現象によって海水温が上昇した年には、多数のコレラ患者が発生した。
海水と関係のある感染症は、コレラだけではない。アラスカでは海水温が上昇した2004年に、腸炎ビブリオの集団発生があった。日本の近海でも、下痢・腹痛や皮膚疾患、壊死などを起こすおそれのあるビブリオ・バルフィニカスという菌がいる。この菌は、海水表面温度が20℃以上になると検出率が増加するが、この20℃の北限線が、近年北上している。
国内における動物媒介性感染症
日本脳炎
日本脳炎は、国内に存在する日本脳炎ウイルスによって起こる重篤なウイルス脳炎である。名称は日本脳炎というが、極東から東南アジア・南アジアにかけて広く分布している。
世界的には、年間3.4万人の日本脳炎患者が報告されている。日本、韓国、台湾での流行は、ワクチン接種により阻止されている。根絶された訳ではない。国内の患者数は年間10人以下である。2005年には7名の患者が発生した。患者の発生は西日本に多く見られるが、この感染症を人に媒介する日本脳炎ウイルス感染蚊は、北海道を除く全国にいる。厚生労働省では毎年夏期に日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調べている。それによると、日本脳炎ウイルスを持った蚊は毎年発生しており、国内でも感染の機会はなくなっていないことがわかる。
日本脳炎ウイルスは、日本などの温帯では水田で発生するコガタアカイエカが媒介する。熱帯では、数種類の蚊が媒介することが知られている。人から人への感染はない。ブタなどの体内でいったん増えて血液中に出てきたウイルスを、蚊が吸血時に取り込み、1、2週間後にその蚊に人が刺されると感染する。
日本脳炎ウイルスの活動(実際には感染蚊の活動)は、気候との関連がある。特に、夏季の気温が高い年には日本脳炎ウイルスの活動が活発となる。もちろん、日本脳炎の発生は気温のみによって決定されるわけではない。しかし温暖化によって日本脳炎媒介蚊の生息域が拡大し、蚊の活動も盛んになれば、日本脳炎の発生域が拡大し、ワクチン接種などの対策を十分にとらないと、患者数も増加していくであろう。
マラリアは昔から日本に存在していた
日本では、明治時代からマラリア患者発生の報告がある。北海道の深川市に駐屯していた屯田兵とその家族にマラリアが流行しており、1900年には人口約8,200名の内1,500名近くが感染していた。宮古島、八重山諸島(石垣、西表)では、昭和の初めに1,500名を超す患者が発生していた。本州では琵琶湖を中心として福井、滋賀、石川、愛知、富山で患者数が多かった。福井県では、大正時代に毎年9,000~22,000人以上の患者が発生しており、1930年代でも5,000から9,000人の患者が報告されている。
第二次世界大戦後の500万人を超す復員者によって、マラリアの再流行が危惧されたが、1946年の28,200人をピークに1951年には500名以下に減少した。現在は、外国で感染して日本に帰国してから発症する例が、年間100~150名程度ある。
わが国に生息する9種のハマダラカの中で、マラリアの媒介に係わるのは4種類である。水田地帯に多く発生し、いずれも夜間に活動して血を吸う性質(夜間吸血性)を持っている。1960年代に比べると発生数が減少したと言われている。その原因として水田地帯の環境変化、稲作法の変化などが考えられる。石垣島では熱帯熱マラリアの媒介蚊として知られているコガタハマダラカの生息が確認されている。
マラリアの流行には、1)マラリア原虫を血液中に持った患者が存在すること、2)媒介するハマダラカが分布し、3)その媒介蚊の媒介能力が高く、4)ヒト吸血嗜好性が高いこと、が影響する。また媒介蚊の発生に適した気象条件も重要で、高緯度地方や海抜が高い地域ではハマダラカの発生数が少なく、活動する期間が限定される。
夜間にハマダラカに刺される頻度は、人々の夕方から夜間にかけての行動や住宅構造に関係する。わが国の現在の住宅構造を考えると、毎晩多数の蚊に吸血される可能性はほとんどなく、現在の生活が自然災害などで破壊されない限り、マラリアの流行が起こる可能性は相当低いと考えられる。
都市部で懸念されるのはデング熱
第二次世界大戦の1943年に、長崎、呉、神戸、大阪などでデング熱が流行した。戦域が一番拡大している時期で、外地から頻繁に商船や軍艦が入港していた。また、防空法で各家に防火水槽の設置が義務づけられていた。それらの水槽にヒトスジシマカを含む多数の蚊が発生していたとの報告がある。
当時、デング熱の媒介蚊として最も知られているネッタイシマカが生息していたという推測も否定できない。しかし、大部分はヒトスジシマカによる流行であったと考えられている。2002年にはハワイで小規模なデング熱が流行したが、この流行もヒトスジシマカによるものであった。
東南アジアの多くの地域では、ネッタイシマカとヒトスジシマカは異なる分布をしている。ネッタイシマカは主に都市部に、ヒトスジシマカは都市部近郊から郊外に分布している。この分布状態から、都市部の人口が密集している地域で流行するデング熱は、ネッタイシマカによることが多い。しかし温帯地域であるわが国では、都市部でのヒトスジシマカの発生密度が高いため、デング熱の流行に関わる可能性が高いと考えられる。
温暖化により想定される、わが国の動物媒介性感染症への影響のまとめ
参考資料
自然生態系への影響:分布拡大中の衛生害虫
冬季の気温は、昆虫などの分布地域を決める重要な要因である。地球温暖化やヒートアイランド現象による冬季の気温上昇により、さまざまな害虫が北方に拡大する可能性がある。近年、人を刺し、噛み、感染症を媒介するなどのさまざまな"衛生害虫"が、生息地域を広げていることが確認されている。
以下に示した害虫は、そのごく一部である。他にもその可能性をもつ種類は数多くある。害虫の分布の拡大現象が確認されているが、気温上昇との因果関係が必ずしもきちんと把握されている訳ではない。しかし、その可能性は十分に考えられる。また、建築や生活様式の変化により冬季の建物内の温度が上昇しているので、新たに屋内害虫が発生している可能性もある。
- ヒロヘリアオイラガ:この幼虫の毒棘に触れると激しい痛みを覚える。東南アジアや中国南部原産といわれ、1900 年代前半は鹿児島県などごく一部の地域で発生していたが、次第に分布域が北上し、1970~1980 年代には近畿以南の各地、2000年代にかけては関東地方でも局地的に大発生するようになった。
- ヤンバルトサカヤスデ: 1980年代に台湾から沖縄県に侵入し、分布域が北に拡大している。直接的な害はないが、大量発生して不快感を与える。植木などの移動によって広まったと言われている。南西諸島を北上し、2000 年代には薩摩半島や、静岡県、神奈川県、埼玉県などでも発生している。産卵に適する温度は10~20℃との報告があり、温暖化による気温の上昇で分布が北上したり、繁殖期間が延長する可能性が考えられる。
- オオミツバチ: 1995 年に川崎市で営巣しているのが発見され、駆除された。東南アジアに広く分布するミツバチで、日本のミツバチと違い獰猛である。現在の日本では、越冬できないと言われているが、冬期の温度が上昇することで、定着する恐れもある。
- イエシロアリ: 分布の北限は神奈川県や千葉県の南岸であったが、現在はこの分布域が内陸部に広がっている。その他、屋内害虫としてはカドコブホソヒラタムシ、ヒメマキムシ類、チャタテムシ類の発生事例が増加傾向にある。温暖化に限らず、住宅の高気密化や高温化によるカビの発生に起因すると考えられている。
- チャバネゴキブリ: 人が作り出した害虫の典型例である。昔から害虫として知られていた。九州・四国南部以北では、冬は温度が低いので木造家屋では定着していない。しかし、ビルや飲食店では冬季の温度が確保されているので、北海道にも分布している。冬季の温度上昇により、もっと北の地域の木造家屋にも定着できるようになる可能性がある。その他の家住性ゴキブリについても同じことが言えるであろう。
- ヨコヅナサシガメ: 害虫とはいえないが、他の昆虫の体液を吸って餌にしており、たまに人を刺す。中国原産といわれ、1960年代は九州のみに分布していたが、1970年代には近畿地方、1990年代以降は神奈川県、東京都、栃木県、茨城県などでも採集されている。
- セアカゴケグモ: オーストラリア原産と考えられているクモで、コブラ毒に匹敵する毒をもつ。1995年に高石市や四日市市で発見されたが、現在は大阪府や三重県以外に兵庫県、愛知県、京都府などでも発見されている。物資の移動に伴って分布が拡大した可能性が指摘されている。2005年には群馬県でも数匹が発見され、駆除されたが、これは大阪府からの引越し荷物に紛れて運ばれたものと考えられている。低温に弱いといわれるが、温暖化で冬期の気温が上昇すると、より北方でも定着する可能性がある。
世界における感染症と温暖化
日本には侵入していないが、世界各地には現在数多くの感染症が存在する。これらの感染症のいくつかは、温暖化により流行する可能性がある。とくに以下に示すリフトバレー熱とハンタウイルス肺症候群は、温暖化・気候変動との関連性がきわめて高い。
- リフトバレー熱: リフトバレー熱は、主にアフリカにみられるウイルス感染症である。通常は羊、ヤギ、牛などに見られる感染症で、これらの動物がリフトバレーウイルスに感染した蚊に吸血されることで感染、発症する。さらに、感染した動物を吸血することで、ウイルスを持っていない蚊が感染する。通常は、このようなサイクルでウイルスが自然界に維持されている。
感染された蚊に吸血されたり、感染された動物の血液や体液と接触することによって、人はリフトバレーウイルスに感染するが、通常は感染動物や感染蚊の数が多くないため、人への感染は起こらない。しかし、エルニーニョによって雨量が増加すると蚊の数が増加し、それに伴って感染蚊と感染動物が増加することで、人の感染も増加すると考えられている。温暖化によって雨量が増加すると、同じ影響が生じる可能性が考えられる。 - ハンタウイルス肺症候群: ハンタウイルス肺症候群は、アメリカ大陸にみられる感染症である。この感染症のウイルスは、ネズミなどのげっ歯類の間で維持されている。病因となるウイルスに感染したげっ歯類のフンや、尿中に排泄されたウイルスを吸い込むことによって感染する。従って、人家の周りに生息するげっ歯類が感染源となる。
通常は、感染しているげっ歯類の数が少ないため、人の感染は起こらない。しかし、エルニーニョ現象によって雨量が増加し、げっ歯類のエサになる植物が増加すると、それに伴いげっ歯類の数が増加する。その結果、感染したげっ歯類の数も増加するため、人が感染する確率も高まると考えられる。
コレラの発生状況と海水温の関係
細菌による感染症のうち、最も多いのは水媒介性感染症である。コレラは代表的な水媒介性感染症で、世界に広く分布している。現在のコレラは"エルトールコレラ"と呼ばれるもので、コレラ菌に汚染された水や氷を飲んだり、その水で洗ったサラダや、汚染された氷で冷やした生ものなどを口にすることで感染する。
感染力は強いが、死亡率は2%程度とそれほど高くない。栄養状態の良い日本人は、感染しても死亡することはほとんどない。しかし、多くの途上国では死亡率・死亡者数とも高く、今でも非常に大きな問題になっている。また、日本人も胃腸の弱い人や老人・乳幼児は注意が必要である。海外旅行先で感染したり、感染者が帰国してから国内で発症することもあり、油断できない。
コレラ菌は、海水中のプランクトンと共生して生息している。海水温が上昇するとプランクトンが増殖し、コレラ菌も増えることが予想される。バングラデシュでは、海水温が上がり海面も上昇した年に、コレラの患者発生数が増加している。海水温の上昇で増加したコレラ菌が、海面上昇によって河川を遡上したため、河川水を利用する住民に被害が広まったものと考えられる。
南米では、1990年までコレラの集団発生はみられなかったが、エルニーニョ現象によって海水温が上昇した年には、多数のコレラ患者が発生した。
海水と関係のある感染症は、コレラだけではない。アラスカでは海水温が上昇した2004年に、腸炎ビブリオの集団発生があった。日本の近海でも、下痢・腹痛や皮膚疾患、壊死などを起こすおそれのあるビブリオ・バルフィニカスという菌がいる。この菌は、海水表面温度が20℃以上になると検出率が増加するが、この20℃の北限線が、近年北上している。
国内における動物媒介性感染症
日本脳炎
日本脳炎は、国内に存在する日本脳炎ウイルスによって起こる重篤なウイルス脳炎である。名称は日本脳炎というが、極東から東南アジア・南アジアにかけて広く分布している。
世界的には、年間3.4万人の日本脳炎患者が報告されている。日本、韓国、台湾での流行は、ワクチン接種により阻止されている。根絶された訳ではない。国内の患者数は年間10人以下である。2005年には7名の患者が発生した。患者の発生は西日本に多く見られるが、この感染症を人に媒介する日本脳炎ウイルス感染蚊は、北海道を除く全国にいる。厚生労働省では毎年夏期に日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調べている。それによると、日本脳炎ウイルスを持った蚊は毎年発生しており、国内でも感染の機会はなくなっていないことがわかる。
日本脳炎ウイルスは、日本などの温帯では水田で発生するコガタアカイエカが媒介する。熱帯では、数種類の蚊が媒介することが知られている。人から人への感染はない。ブタなどの体内でいったん増えて血液中に出てきたウイルスを、蚊が吸血時に取り込み、1、2週間後にその蚊に人が刺されると感染する。
日本脳炎ウイルスの活動(実際には感染蚊の活動)は、気候との関連がある。特に、夏季の気温が高い年には日本脳炎ウイルスの活動が活発となる。もちろん、日本脳炎の発生は気温のみによって決定されるわけではない。しかし温暖化によって日本脳炎媒介蚊の生息域が拡大し、蚊の活動も盛んになれば、日本脳炎の発生域が拡大し、ワクチン接種などの対策を十分にとらないと、患者数も増加していくであろう。
マラリアは昔から日本に存在していた
日本では、明治時代からマラリア患者発生の報告がある。北海道の深川市に駐屯していた屯田兵とその家族にマラリアが流行しており、1900年には人口約8,200名の内1,500名近くが感染していた。宮古島、八重山諸島(石垣、西表)では、昭和の初めに1,500名を超す患者が発生していた。本州では琵琶湖を中心として福井、滋賀、石川、愛知、富山で患者数が多かった。福井県では、大正時代に毎年9,000~22,000人以上の患者が発生しており、1930年代でも5,000から9,000人の患者が報告されている。
第二次世界大戦後の500万人を超す復員者によって、マラリアの再流行が危惧されたが、1946年の28,200人をピークに1951年には500名以下に減少した。現在は、外国で感染して日本に帰国してから発症する例が、年間100~150名程度ある。
わが国に生息する9種のハマダラカの中で、マラリアの媒介に係わるのは4種類である。水田地帯に多く発生し、いずれも夜間に活動して血を吸う性質(夜間吸血性)を持っている。1960年代に比べると発生数が減少したと言われている。その原因として水田地帯の環境変化、稲作法の変化などが考えられる。石垣島では熱帯熱マラリアの媒介蚊として知られているコガタハマダラカの生息が確認されている。
マラリアの流行には、1)マラリア原虫を血液中に持った患者が存在すること、2)媒介するハマダラカが分布し、3)その媒介蚊の媒介能力が高く、4)ヒト吸血嗜好性が高いこと、が影響する。また媒介蚊の発生に適した気象条件も重要で、高緯度地方や海抜が高い地域ではハマダラカの発生数が少なく、活動する期間が限定される。
夜間にハマダラカに刺される頻度は、人々の夕方から夜間にかけての行動や住宅構造に関係する。わが国の現在の住宅構造を考えると、毎晩多数の蚊に吸血される可能性はほとんどなく、現在の生活が自然災害などで破壊されない限り、マラリアの流行が起こる可能性は相当低いと考えられる。
都市部で懸念されるのはデング熱
第二次世界大戦の1943年に、長崎、呉、神戸、大阪などでデング熱が流行した。戦域が一番拡大している時期で、外地から頻繁に商船や軍艦が入港していた。また、防空法で各家に防火水槽の設置が義務づけられていた。それらの水槽にヒトスジシマカを含む多数の蚊が発生していたとの報告がある。
当時、デング熱の媒介蚊として最も知られているネッタイシマカが生息していたという推測も否定できない。しかし、大部分はヒトスジシマカによる流行であったと考えられている。2002年にはハワイで小規模なデング熱が流行したが、この流行もヒトスジシマカによるものであった。
東南アジアの多くの地域では、ネッタイシマカとヒトスジシマカは異なる分布をしている。ネッタイシマカは主に都市部に、ヒトスジシマカは都市部近郊から郊外に分布している。この分布状態から、都市部の人口が密集している地域で流行するデング熱は、ネッタイシマカによることが多い。しかし温帯地域であるわが国では、都市部でのヒトスジシマカの発生密度が高いため、デング熱の流行に関わる可能性が高いと考えられる。
温暖化により想定される、わが国の動物媒介性感染症への影響のまとめ
- 蚊類の世代数が増加することで、居住環境における蚊の個体数も増加し、蚊の生息密度が高まる可能性がある。
- 卵、幼虫、成虫などで越冬する蚊の冬季死亡率の低下が翌年の個体数増加に関わる可能性が考えられる。
- 都市部の雨水マスは冬期に結氷することがなくなり、蚊が幼虫で越冬する。
- 夏期の大都市部およびその周辺地域における平均気温の上昇が、蚊体内でのウイルスの増殖をより活発化させる可能性がある。
- 人々が屋内外でより軽装(半ズボン、半袖など)になり、蚊に吸血される可能性が高まり、その結果として感染リスクが増大する。(おわり:「その1」は情報43号に掲載)
参考資料
- 環境省ホームページ http://www.env.go.jp/earth/ondanka/pamph_infection/full.pdf
- 国立感染症研究所ホームページ http://www.nih.go.jp/niid/index.html
- 全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)ホームページ http://www.jccca.org/index.html
- 環境省(2005)Stop the 温暖化2005
- 気象庁ホームページ http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/temp/an_wld.html
- IPCC(2001)Climate Change 2001. Impacts, Adaptation, and Vulnerability(IPCC第2作業部会第3次評価報告書)
- WHO/WMO/UNEP(2006)気候変動と人間の健康:リスクと対策 研修用マニュアル(和訳版)
- WHO(2001)Cholera 2000, Weekly epidemiological record, No. 31, pp233-240
- 古城八寿子他(1999)Vibrio vulnifi cus 感染症.診断と治療のフローチャートの試み.日本皮膚科学会誌Vol. 109, No. 6, pp875-884
- 厚生労働省(2005)平成17年版厚生労働白書
- 厚生労働省(2006)平成18年版厚生労働白書
- 厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/index.html
- 厚生労働省 動物由来感染症ハンドブック2006
- Office of Jin-Hwa Community Development Association (2003) Community Environmental Improvement for Dengue Fever Prevention & Control, Result Presentation
- Vector-Borne Disease Section, California Department of Health Services(2005)Vector-Borne Diseases in California - 2004 Annual Report, pp20-32
「農医連携」の概略:6.環境保全型畜産
本年度から開始した「農医連携論」の講義内容(情報:40号の1~3p参照)のうち、「1.農医連携入門、2.医学からみた農医連携、3.農学からみた農医連携」の概略は、情報:40号の3~11pに、「4.東洋医学および代替医療からみた農医連携」の概略は、情報:42号の5~11pに、「5.代替農業論」の概略は、情報:43号の8~14pに紹介した。今回は「6.環境保全型畜産」について講師のパワーポイントからその概略を紹介する。
○克服すべき課題:環境、エネルギー
フード・マイレージ(t・km) 〔トン・キロメートル〕= 輸入相手国別の飼料輸入量 × 輸出国から日本までの輸送距離
○克服すべき課題:環境、エネルギー
フード・マイレージ(t・km) 〔トン・キロメートル〕= 輸入相手国別の飼料輸入量 × 輸出国から日本までの輸送距離
○克服すべき課題:穀物需給

世界における主要農産物の貿易率(2000年)

世界における主要農産物の貿易率(2000年)
○克服すべき課題:人口大国の爆食

資料:中国農業年鑑2004年

資料:中国農業年鑑2004年
○克服すべき課題:食の安全・安心

農林水産、厚生労働両省が昨年開示したデータを日本子孫基金がまとめた。
農水省は00年、厚労省98年の数値。(朝日新聞2003.6.14より引用

農林水産、厚生労働両省が昨年開示したデータを日本子孫基金がまとめた。
農水省は00年、厚労省98年の数値。(朝日新聞2003.6.14より引用


○克服すべき課題:荒廃農林地,国土保全 )

荒れゆく国土

国土の保全的管理
○克服すべき課題:ヒトの健康、農医連携
○持続可能な農業の実現
不揃いのイチゴを買いますか。
グリーンハウスを支持する消費者。
○環境支払い)大山隠岐国立公園西の島
国賀海岸放牧牛がつくった景観
○(政策ビジョン)21世紀のキーワード:環境・安全・安心・健康・エネルギー・食料
○(政策ビジョン)厳しい風土
北極圏フィンランドで追究する
エコ農業
○ (アグリミニマム)
21世紀農業の土地利用:★曲線農業と水平農業の調和
○ 畜産は資源濃縮型農業:草を良質タンパク質へ転換
○ 有機栽培・特別栽培等関係図
有機栽培:無農薬・無化学肥料
特別栽培:農薬・化学肥料半分以下
環境保全型農業:農薬・化学肥料2割以上削減
○ 有機畜産と日本型持続的畜産の関係図
コーデックスガイドライン>JAS有機畜産>日本型持続畜産
○ スイス有機農業研究所
○ 市民参加型農業:生産者・消費者連携、春の風物詩、野焼き
○ 放牧肥育は可能か:土地が不足、発育が不揃い、サシが少ない、牛肉格付評価が劣る
○ 北里大学八雲牧場の所在地
○ 八雲牧場の挑戦:医食同源、身土不二、地産地消、スローフード、食育・人間力
○持続可能な農業の実現
不揃いのイチゴを買いますか。
グリーンハウスを支持する消費者。
○環境支払い)大山隠岐国立公園西の島
国賀海岸放牧牛がつくった景観
○(政策ビジョン)21世紀のキーワード:環境・安全・安心・健康・エネルギー・食料
○(政策ビジョン)厳しい風土
北極圏フィンランドで追究する
エコ農業
○ (アグリミニマム)
21世紀農業の土地利用:★曲線農業と水平農業の調和
○ 畜産は資源濃縮型農業:草を良質タンパク質へ転換
○ 有機栽培・特別栽培等関係図
有機栽培:無農薬・無化学肥料
特別栽培:農薬・化学肥料半分以下
環境保全型農業:農薬・化学肥料2割以上削減
○ 有機畜産と日本型持続的畜産の関係図
コーデックスガイドライン>JAS有機畜産>日本型持続畜産
○ スイス有機農業研究所
○ 市民参加型農業:生産者・消費者連携、春の風物詩、野焼き
○ 放牧肥育は可能か:土地が不足、発育が不揃い、サシが少ない、牛肉格付評価が劣る
○ 北里大学八雲牧場の所在地
○ 八雲牧場の挑戦:医食同源、身土不二、地産地消、スローフード、食育・人間力

ユーラップ川を遡上する鼻曲がり

清流の湧水で孵化したサケの稚魚

豊かな生態系の頂点:オオワシ

牧場内にヒグマが住む山麓丘陵地(350haに肉用牛300頭)
○2002年から首都圏の消費者団体と契約。


○放牧肥育中の北里八雲牛:病気に強く草だけでまるまる太る。






○ロース肉の粗脂肪、ビタミンE、 βーカロテン:村元ら(2005)
牛舎内肥育 | 放牧仕上げ | |
粗脂肪(%) | 3.7 | 1.4 |
ビタミンE(μg/g) | 2.5 | 7.0 |
βーカロテン(μg/g) | 0.07 | 0.24 |
○多様な販売ルートの構築
消費組合・大学病院患者食・学校給食・地元レストラン・温泉旅館
○マイナス指向からプラス指向へ:健康な老廃牛草熟北里八雲牛
ねらい:経産牛(老廃牛)の付加価値向上
名称の由来:草だけで多産→健康な母牛、保存剤無添加の加工品製造

○豊かな生態系の頂点:オオワシがロゴマーク
○八雲牧場の物質循環
○八雲牧場の取り組み
N-0草地の維持管理技術(4年目)、トウモロコシ栽培中止(低収量・ヒグマ食害)、麦類を取り込んだ有機栽培、微量要素の補給、サイレージ添加物の中止、産肉特性の解明

○皆様のお越しを牧場職員一同鍋を抱えてお待ちしています
小学館「DIME」より転載
消費組合・大学病院患者食・学校給食・地元レストラン・温泉旅館
○マイナス指向からプラス指向へ:健康な老廃牛草熟北里八雲牛
ねらい:経産牛(老廃牛)の付加価値向上
名称の由来:草だけで多産→健康な母牛、保存剤無添加の加工品製造

○豊かな生態系の頂点:オオワシがロゴマーク
○八雲牧場の物質循環
○八雲牧場の取り組み
N-0草地の維持管理技術(4年目)、トウモロコシ栽培中止(低収量・ヒグマ食害)、麦類を取り込んだ有機栽培、微量要素の補給、サイレージ添加物の中止、産肉特性の解明

○皆様のお越しを牧場職員一同鍋を抱えてお待ちしています
小学館「DIME」より転載
Agromedicine を訪ねる(13):Journal of Agromedicine
以下のことは、「情報:農と環境と医療10号」ですでに書いた。「農医連携」という言葉は、生命科学全般を思考する北里大学で新しく使用しはじめたものだ。それに相当する英語に、例えばAgromedicineがある。1988年に設立されたThe North American Agromedicine Consortium(NAAC)は、Journal of Agromedecineという雑誌とニュースレターを刊行している。この雑誌の話題には、農業者の保健と安全性、人獣共通伝染病と緊急病気、食料の安全性、衛生教育、公衆衛生などが含まれる。Journal of Agromedecineの目次は、これまでもこの情報で創刊号から紹介している。今回は、第12巻3号と4号の目次を紹介する。
第12巻3号
第12巻4号
第12巻3号
- The Need for Medical Surveillance in Agriculture is Reflected by Inadequate Existing Respiratory Protection Programs in the Agricultural Sector
- News Clippings Offer Intriguing Injury Prevention Possibilities
- Respiratory Disease in Agricultural Workers: Mortality and Morbidity Statistics
Keywords: Agriculture, respiratory system disorders, mortality rates, morbidity rates - Farm-Related Injuries Among Old Order Anabaptist Children: Developing a Baseline from Which to Formulate and Assess Future Prevention Strategies
Keywords: Amish, anabaptist, farm-related, injuries, fatalities, childhood injuries - Respirator Use and Practices in Agricultural Crop Production Establishments
Keywords: Agriculture, respirators, respiratory system disorders - Farmer Assessment of the Certified Safe Farm Program Keywords: Agriculture, qualitative research, occupational health, occupational safety, intervention studies
- Keokuk County Rural Health Study: Self-Reported Use of Agricultural Chemicals and Protective Equipment
Keywords: Pesticide, agriculture, exposure assessment, personal protective equipment - Pesticide Handling and Exposures Among Cotton Farmers in The Gambia
Keywords: Pesticide exposure, cotton farming, callisulfan, endosulfan, The Gambia - Agricultural Exposures in Patients with COPD in Health Systems Serving Rural Areas
Keywords: Agriculture, COPD, lung disease, pulmonary function tests, farming
第12巻4号
- Journal of Agromedicine Looks to Future with New Publisher
- Preparing Physicians for Rural Practice: The Role of Medical Student Education
- Perceptions of Risk, Stressors, and Locus of Control Influence Intentions to Practice Safety Behaviors in Agriculture
Keywords: Behavioral intention, farm safety, locus of control, risk perception, stress - Bone Quantity and Quality of Youths Working on a Farm ?A Pilot Study
Keywords: Bone quality, bone mass, bone shock absorption capacity, farm youth - Orphan Boy the Farmer: Evaluating Folktales to Teach Safety to Hmong Farmers
Keywords: Hmong, farmer, agriculture, storytelling, folktales, safety, evaluation, Minnesota, Wisconsin, United States - Rural Health Leaders Pipeline, 1990-2005: Case Study of a Second-Generation Rural Medical Education Program
Keywords: Rural medicine, medical education, pipeline program - Testing a Novel Child Farm Safety Intervention for Anabaptist Audiences
Keywords: Children, Amish, Anabaptist, farm, safety - Common Skin Disorders Seen in the Migrant Farmworker Health Care Clinic Setting
Keywords: Skin disease, primary care, rural, underserved, treatment - Blistering Eruption in a Latino Migrant Farmworker
Keywords: Health service research, epidemiology, impetigo, underserved, infection, CA-MRSA
*本情報誌の無断転用はお断りします。
- 北里大学学長通信
情報:農と環境と医療44号 -
編集・発行 北里大学学長室
発行日 2008年11月1日