北里大学

北里大学農医連携教育研究センター

52号

情報:農と環境と医療52号

2009/11/1
平成21年度文部科学省大学教育改革支援プログラム決定‐農医連携による動物生命科学教育の質の向上‐
文部科学省の平成21年度「大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム」に応募した北里大学の「農医連携による動物生命科学教育の質の向上」が、支援プログラムに選定された。

このプログラムが選定された背景には、北里大学が農医連携を重点課題の一つとして取り上げ新しい視点で教育を展開しようとしていることがある。これに対して、医学部長と獣医学部長のきわめて高度な連携・協力があり、さらに医学部と獣医学部の教員が、松下 治教授と向井孝夫教授のもとに積極的な協力を惜しまなかった現実が、決定の引き金になったと考えられる。ここには、知と知の分離を克服しようとする新たな科学の萌芽が感じられる。

このプログラムの目的は次のように表現できる。「農」は食を支えるとともに、環境保全といった多面的な機能を持ち合わせているうえに、古来、医食同源(いしょくどうげん)や身土不二(しんどふじ)などの言葉で表現されるように人の健康や医療とも切り離せないものである。

このような視点に立てば、「農」と「医」を密接に連携させる手法を考案するべきであるが、これまで「農学」と「医学」は、それぞれの立場で独自に発展してきた歴史がある。人材養成など教育面においても例外ではない。農と医は、積極的な連携が重視されないまま今日に至っているのが現状である。

そのため、食の安全性の喪失や人獣共通感染症の発生など現代的な問題が生じている。このことは、持続的な発展を必要とする人間社会の構築そのものにも影響が及んでいる。今ほど、農医連携による教育・研究・普及の必要性が叫ばれる時代はない。

このプログラムの目的は、北里大学獣医学部動物資源科学科に「農医連携教育」を柱とした新しい教育課程を編成することによって、教育の質の向上を図り、次のような人材を養成をすることにある。このプログラムを推進することによって、高い倫理観および農と医の複眼的視点を身につけた、農を中心とした幅広い領域で活躍が期待されるジェネラリスト型の人材が養成でき、その上で農と医の境界領域における専門基礎能力を有したスペシャリスト型の人材をも養成できる。
21世紀に生じるであろう事象が予測される環境・食と生命に係る諸課題と、それらを解決するための道筋を提起し自らの考えを提示できる力、そしてそれを実践する学生の育成を目指す。これらの目標を達成するために、(1)生命倫理観、(2)創造的思考力、(3)課題探求能力、(4)コミュニケーションスキル・情報発信力、などの向上を目指した教育を展開する。詳細については、機会を見てこの「情報:農と環境と医療」でお伝えする予定である

獣医学部動物資源科学科の動物資源科学概論2で農医連携論が始まる
獣医学部動物資源科学科の動物資源科学概論2(平成21年度後期)で農医連携論が始まった。内容は以下の通りである。

教育目標:病気の予防、健康の増進、安全な食品、環境を保全する農業、癒しの農などのために、今世紀にも予測される地球規模での食料危機と環境問題を解決し、人類と生物の共存を実現しながら、生物資源の開発利用を図るという、本来農学領域に求められている課題を解決するために、農医連携の科学や教育の必要性を強調してもし過ぎることはない。本講義は、動物資源科学領域と医学領域の接点を見出し、現代社会が地球規模で抱える問題点を解決し、人類が健康で豊かな生活をおくるために、農医連携の必要性を修得することを目標として掲げる。生命科学を標榜する北里大学の学生が農医連携の重要性を認識することは極めて重要である。

教育内容:農医連携の概要を解説したのち、農学あるいは医学的観点から見た農医連携、代替医療論、代替農業論、感染症、重金属と農業・医療の関連、地球温暖化と環境などに関する基礎知識を理解させる。また、世界の農医連携の取り組み、農医連携の将来についてを学ぶ。

教育方法:各学部からの教員あるいはすでに社会で活躍されている方による分担講義で実施する。講義はパワーポイントを用いて行い、各講義でレポートを課す。

授業内容

農医連携入門:農と医の歴史的な類似性と、現代社会がもつ農と医の問題点を指摘しながら農医連携の科学の必要性を解説し、それについて意見交換する。

医学からみた農医連携:持続的な社会をめざす中で、健康的な生活を送るために、農医連携による食育、食科学の展開は極めて重要である。講師の体験談とともに八雲牧場での研修を紹介する。

農学からみた農医連携:健全に調和された土壌から、はじめて人間にとって健康を維持できる食料が生産される。医食同源の考え方を紹介し、農医連携の科学や教育の必要性を理解させ、食の重要性を討論させる。

東洋医学・代替医療からみた農医連携:わが国の正式な医療である東洋医学について、西洋医学および最近の代替医療と比較しながら解説し、農医連携の現状と必要性を説く。

東洋医学からみた農医連携:わが国で現在行われている東洋医学について、さまざまな内容を具体的に紹介・解説し、現状と必要性を理解させる。

代替農業論:従来の農業は、農薬や化学肥料を多用してきた。このことが、農作物や環境に悪影響を与えた。これに変わるさまざまな農業を紹介し、代替農業の必要性を説き、現場の見学をする。

環境保全型畜産論-生産から病棟まで:環境を保全する畜産を紹介し、この環境から生産された安全な動物性食品を病棟で利活用するシステムを紹介する。

獣医学からみた農医連携-鳥インフルエンザを例として-:鳥インフルエンザの動物や人間への感染が、自然環境や農業生産の現場と密接に関係していることを解説し、現場の紹介をし、その対策について考える。

動物資源科学からみた農医連携:持続的社会を目指す中で、動物資源科学と医学領域が連携することによって、食や環境に関する現代的な問題をどのように解決できるか、また医療へ貢献できる点について解説する。

食と農医連携:「医食同源」というように、古くから食と健康は密接な関連があると考えられてきたが、現代的な科学論からもその関連は証明されている。ここでは「食」と「健康」について解説する。

重金属-生物地球化学的視点-:地殻から掘り起こされた各種重金属の量、さらにはそれら重金属の地球上での挙動を生物地球化学的な視点から解説する。

重金属-土壌と農産物の汚染リスクと対策-:地殻から掘り出された各種重金属が、土壌や作物に吸収される過程を解説し、重金属が作物に吸収されない対策について紹介する。また、土壌の実地見学をする。

重金属-臨床環境医学の視点-:重金属による健康障害は、臨床医学の領域において極めて重要な問題である。重金属と人との歴史、発症機序などについて解説する。

地球温暖化と農・環境・健康:地球の温暖化現象が、専門家の予想を遙かに超えて早まっているといわれる。温暖化により、農業は、環境は、人の健康はどうなるのであろうか。これらのことについて、最近のデータを紹介し、その重要性を理解させ、対策を議論する。

到達目標:21世紀には農医連携の科学が不可欠であるとの理解ができる。農と医の歴史的背景が理解できる。動物資源科学領域と医学の接点が理解できる。

学生へのメッセージ:地球規模での環境破壊、温暖化などは直接、食糧生産の低下や感染症を引き起こす原因となっており、いまこそ農学と医学が連携し、多くの問題の解決に取り組む必要がある。21世紀を支える現在の学生諸君が、農医連携教育を受け、地球規模で生じている種々の問題解決に取り組むことは、非常に重要である。

第22回「バイオサイエンスフォーラム」研究会:盛会に終わる
学校法人北里研究所・北里大学の第21回「バイオサイエンスフォーラム」研究会が、盛会のうちに終了した。第20回までの名称は「遺伝子とその周辺」研究会であったが、昨年から両法人の統合に伴って名称も改変した。筆者はこの3年(2007, 08, 09)にわたって、研究会に参加したので、今回の様子と3年間の推移を紹介する。

二日間にわたり40課題の講演が行われた。その内訳は、薬学部(5)、獣医学部(7)、医学部(4)、海洋生命科学部(4)、理学部(5)、医療衛生学部(1)、医療系研究科(4)、感染制御科学府(9)、釜石研究所(1)であった。学生、教職員を含めて約200名が参加した。

講演の分野は、病原微生物、免疫の調節因子、細胞機能、ウイルス(HIV、インフルエンザ)、代謝、創薬資源、病態解析、生態学、生態調節機能に分類された。ウイルスの分野などに農医連携の必要性があるし、この分野では、将来、農医連携の共同研究が期待できる。昨年の例では、タンパク、免疫、ウイルスの分野で農学と医学の両方の研究者の共同研究が発表された。

講演のうち、15課題が学部単独研究、19課題が二学部、6課題が三学部以上・他大学・他機関との共同研究であった。学部単独の研究が07、08、09年でそれぞれ25、40、15課題であったこと、また二学部共同研究の課題が07、08、09年でそれぞれ5、8、19課題であったことは、この研究会の目的が達成されつつある証しになる。今後、さらに学部を超えた共同研究の進展が望まれる。

北里大学では、"人間の生命と健康に関する分野""動植物と環境に関する分野""生命科学の基礎的研究を行う分野"において、それぞれ生命科学領域の教育・研究を実践している。対象とする生物は五界を網羅しており多様性に富む。これらに関わる教員・学生が一堂に会して研究発表を行い、相互理解を深めている。さらには、学部・研究所を越えた連携を強化し、本学における生命科学研究の発展を図ることもこの研究会の目的である。

本研究集会は全北里グループで展開されている研究の生命科学分野に焦点を定めて、研究内容や成果を発表し討論を行う。若い教員や大学院生の参加が多く、学術上の興味や問題点を共有し、技術的な問題も含めて互いに助け合い問題解決のヒントを得る場所としての特徴をもっている。上述した例にみられるように、この研究会は農医連携の場の一つにもなる。

管見:環境を通した農業と健康‐半世紀を振り返る‐
1. 地球生命圏と農業
2. 人間と環境の関わり
3. 人間の健康と地球環境保全
4. 農業と健康に関わる環境問題
 1)世界の動向
 2)わが国の動向
5. 農・環境・健康の連携をめざした科学と教育と研究
6. 北里大学の農医連携シンポジウムの成果
引用文献

1.地球生命圏と農業
今から13年前の1996年、季刊誌「肥料」75号に「地球生命圏と農業と肥料」と題した小論1)を書いた。そこでは46億年前に地球が誕生して、大気圏、水圏、地殻圏、生物圏、土壌圏などが分化したあとに、今から約1万年前に人間圏と称される新しい圏が誕生したことを紹介した。さらに拡大した人間圏の圧力に、この地球生命圏が耐えられるかどうかという疑問を呈した。その理由に、次のような現象があることを述べた。

すなわち地球環境問題は、まさに人口増加の問題で、人口問題は食料の問題で、増加しつつある人口に食料を提供するのは、まちがいなく農業の問題であり、農業問題は土壌の問題であると。また、われわれの生きる糧を生産する農業活動が、地球環境に負荷をあたえていることを様々な例を示しながら解説した。そのことから結局、21世紀は環境の時代と言うよりは、むしろ農業の時代であると説いた。このことは、最終的には土壌の問題に繋がることを強調した。

人類の英知でこのような問題を解決するために、現在の生産力を維持しながら持続的な生産が可能な農法を確立することの必要性も述べた。そのためには、農業の持つ多面的機能の活用や、環境保全型農業や持続型農業の展開が重要であると主張した。これらの例の一つとして、被覆肥料に代表されるような利用効率の高い肥料の開発と、その活用技術の確立の必要性をも強調した。

さらに、増加しつつある人口に食糧を供給し続けることと、変動しつつある地球環境を保全するという相対立する容赦のない難題が、いまわれわれ人類に与えられていることを強調した。
 歳月は、それから容赦なく経過した。残念なことに、そのときに危惧した筆者の思いは、歳月を追うとともにさらに現実味を増してきた。人間圏の圧力に悲鳴をあげはじめている地球生命圏の姿が、天空から海原から、そして大地から聞こえてくる。

天空からは温暖化、オゾン層破壊、酸性雨、大気汚染などの悲鳴が、海原からは冨栄養化、エルニーニョ現象、赤潮、青潮、原油汚染、浮遊物汚染、海面上昇などの悲鳴が、大地からは土壌侵食、砂漠化、重金属汚染、地下水汚染、熱帯林の伐採、鳥インフルエンザなどの悲鳴が聞こえてくる。地球生命圏ガイアの悲鳴は、いまや慟哭に変わりつつある。

2.人間と環境の関わり

続いて今から7年前の2002年、「肥料」93号に「肥料か?環境と肥料か?」と題した小論2)を書いた。そこでは、上述した地球環境変動のなかで21世紀に生きる人間と環境の係わりは、どのようなものであるかについて考えた。その内容は概ね以下のようなものである。

人間の文化を離れた環境というものは存在しない。肥料という化学物質は科学が産んだもので、これを使用することによって多くの人が食料という生きるための糧を得ていることを強調した。しかし、肥料そのものは物質・エネルギー系だけを対象にしているから、人間に関わる環境が抜け落ちている、すなわち肥料は環境との関係においてはじめて成立することを指摘した。

環境とは、自然と人間の営みに関わるものであるから、環境が人間と離れてそれ自身で善し悪しが問われるわけではない。人間と環境の関係は、人間が環境をどのように見るか、環境に対してどのような態度をとるか、そして環境を総体としてどのように価値付け、概念化するかによって決まる。すなわち、環境とは人間と自然の間に成立するもので、人間の見方や価値観が色濃く刻み込まれているものであることを強調した。

だから、人間の文化を離れた環境というものは存在しない。となると、環境とは文化そのものともいえる。すなわち環境を改善するということは、とりもなおさず、われわれ自身を保全するとか改良することにほかならないことを強調した。

そのためには、われわれの人生の豊かさや心の豊かさが必要であろう。このような豊かさを問うことは、空間と時間の豊かさを問うことから切り離すことができない。豊かな環境とは、時間と空間の質と量の豊かさであろう。これまで時空における豊かさは、次の三つの思想を通して追求されてきた。

ひとつは、西行などに見られる文学や宗教に関わる思想である。もうひとつは、風土の概念を導入し、空間と時間を環境につなげた和辻哲郎に代表される哲学的な思想であろう。最後は、熊澤蕃山、古在由直、吉岡金市などに見られる公害や水理などに関わる科学の思想である。結局、環境とは文学や思想や科学の履歴書なのである、と書いてきた。

もちろん、われわれは農業と環境の関わりを科学の思想によって進展してきた。科学者として最初に日本の環境問題と農業問題に執刀を加えたのは、古在由直である。あの渡良瀬川沿岸の足尾銅山の鉱毒調査に全力を注ぎ、わが国で初めて農業と公害問題を提起した古在由直は、農水省の農業環境技術研究所の前身(農業技術研究所)のさらに前身の農事試験場の第2代目の場長(明治36年~大正9年)であった。

古在由直が「足尾銅山鑛毒ノ研究」3)を発表し、「農業と環境と健康」の関わりを指摘したのは、今から117年前の明治25年(1892)のことである。その後、この国ではさまざまな「農業と健康」の問題が環境問題を通して頻出した。今は、地球環境のスケールでこれらの問題が語られる時代になった。

3.人間の健康と地球環境保全

 今年(2009年)、筆者は、東方書林から「人びとの健康と地球環境保全のために」4)と題する冊子を出版した。そこでは、生命現象を扱っている農と医は同じような歴史をたどってきたこと、人間圏の誕生によって土壌と農の質が衰退し始めたこと、健康や医療が環境と密接に関係していること、代替農業と代替医療が連携した新しいシステムの構築が必要であること、さらに心豊かな健康を獲得するには、世界保健機関(WHO)が1999年から今なお模索している健康の定義、すなわち「健康とは、完全に身体、精神、spiritualおよび社会的によい(安寧な)動的な状態であることを意味し、単に病気でないとか虚弱でないということではない」をどう実体化するかなどについて述べた。

また、人びとの健康と地球環境の保全、環境を通した農学と医学の連携は、21世紀が必要とする新たな統合知にほかならないことを強調し、農学、環境科学、医学という分離の科学を克服して、統合知の科学を獲得するための研究・教育・普及が今ほど必要とされる時代はないと書いた。このことを成功させなければ、「こころ豊かな健康と地球環境の保全」の未来はないとも書いた。

筆者が農業と環境に関わる研究に携わってすでに44年、農業と環境と健康に関わる研究に携わって、4年の歳月が経過した。前者については、ほぼ半世紀が経過したことになる。そこで管見ではあるが、紙面の許す範囲で半世紀にわたる「農と健康に関わる環境問題:世界の動向」と「農と健康に関わる環境問題:日本の動向」を整理する。また、この4年間に北里大学から発信した農医連携に関わる成果を紹介する。

4.農業と健康に関わる環境問題

20世紀とは一体どのような世紀であったのかと問われれば、恐らく科学技術が大いに発展し、それに付随した成長の魔力に取り憑かれた世紀と答えざるをえない。ここでいう成長とは、あらゆる意味の物的な拡大を意味する。エネルギー使用量の増大、工業生産量の増大、自動車生産量の増大、人口の増大、食料生産の増大、森林の大量伐採など多くの事象を挙げることができる。

このような成長を支える科学技術はわずか百年前に始まり、さらに肥大拡大し、強大な潮流となり、20世紀後半を駆け抜けていった。この歴史の流れの中で、われわれは数限りない豊かなものを造り、その便利さを享受してきた。

その結果、何が起こったか。新たな圏の分化である。これまでの地球の歴史は、分化の歴史であった。地球における物質圏の分化は、46億年前の混沌(カオス)から大気圏、地圏、生物圏、土壌圏などを生み出していった。このように、宇宙も地球も土壌も生命もその歴史を通じて分化していることが解る。これをひとつのシステムに例えれば、システムが安定化すると表現してもいい。20世紀は、人間圏と称される新しい物質圏が分化した時代と定義できる。

このような20世紀は、人びとに物質的な豊かさと便利さをもたらした。その反面、資源は浪費され、環境は汚染され、ストレス障害は増加し、農産物と食品の安全性に不安が募り、人と自然との乖離が生じ、生きがいが失われるなど、大きな社会問題が続出した。別の表現をすると、農業と環境と健康が乖離し、エネルギーと資源のあり方に「ひずみ」が顕在化したともいえる。

人間圏のサイズは、今も拡大し続けている。地球上には今や69億人に近い人口がところ狭しと生存している。そのため、あらゆる物的拡大は今も続いている。新しい物質圏が生まれることによって、地球システムの物質循環やエネルギーの流れが変わり、環境が変動する。

その結果、様々な環境問題が続出している。その様態は、地殻から絶えず掘り出されているカドミウムや銅などに代表される重金属による点的な問題から、窒素やリン酸肥料などに由来する河川や湖沼の富栄養化現象に観られる面的な広域性の問題を経て、今では地球規模での空間に関わる問題へと展開されている。

工業の発展に伴って大気へ放出される二酸化窒素、クロロフルオロカーボン、農業活動から発生する臭化メチル、亜酸化窒素、メタンなどのガスは、オゾン層の破壊や地球の温暖化に影響を与えている。環境問題は点から面を経て空間にまで拡大されてきた。

一方では、世代を超える環境問題がわれわれを蝕み始めた。「沈黙の春」5)の著者レイチェル・カーソンは、今から約50年も前にその著書の中で合成殺虫剤が招く危険性を警告した。カーソンの志を継ぎ、この化学合成物質が性発達障害や行動および生殖異常といかに係わりがあるかを実証したのが、「奪われし未来」6)の著者シーア・コルボーン達である。農薬やダイオキシンなど人間の作りだした化学合成物質が、ヒトの生殖の機能に関連し、次世代まで影響を及ぼし続ける。今や環境問題は、時空を越えたのである。

これら時空を越えた環境問題の解決は、急速に増え続けつつある人間圏の圧力をどこのレベルで落ち着かせ、地球システムの中で人間圏が水圏、大気圏、生物圏および土壌圏など安定な関係を保って持続的に共存できるかに尽きる。

1)世界の動向
まず、ここではこの半世紀に及ぶ環境問題に関わる世界の動向を眺めてみる。これをもとに、わが国の環境に関わる行政動向や農業環境技術研究所の研究動向を理解することが出来る。世界の環境問題は、1962年に発効されたレイチェル・カーソンの著書「沈黙の春」に始まる。この本は、世界の人びとの環境問題についての意識を一変させた。

その後、OECD環境委員会(1970)や国際連合環境計画(1972)が設立された。国連環境計画管理理事会特別会合(1982)では、世界の環境の保全と改善を訴えた「ナイロビ宣言」が採択された。また、オゾン層保護の「ウイーン条約」が1985年に採択された。有害廃棄物の国境を越える移動および処分の規制に関する「バーゼル条約」が、1989年に採択された。

1990年に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は第1次評価報告書を作成し、地球温暖化の問題を評価した。さらに、1995年の2次報告書では主として産業別の削減の評価を、2001年の第3次報告書では健康の問題を、2007年の4次報告書では主として政策のあり方を評価した。1993年にはOECDで「農業と環境」合同専門会が設置された。このような状況の中で、農業や健康が環境の変動と密接に関わっていることが、世界の人びとに広く認識されるようになった。

1990年代から、代替農業および代替医療という考え方が台頭し、これまでの近代農学および近代医学では解決できない問題点を改善しようとする動きが少しずつ進展しつつある。

1992年の「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)を契機として、持続可能な開発が世界のキーワードになった。地球サミットでは持続可能な開発に向けた行動計画であるアジェンダ21が1992年に採択されるとともに、気候変動に関する国際連合枠組条約、生物の多様性に関する条約(生物多様性条約)および森林原則声明が採択された。

続いて、レイチェル・カーソンの志を継いだシーア・コルボーンたちが「奪われし未来」を1996年に発表した。ここでは、われわれが作った化学合成物質そのものが食べ物や食物連鎖を通してわれわれの体を蝕み、さらにはその影響が次世代の子供達を脅かすことも教えてくれている。時空を越えた環境問題の警告である。2000年前後には、難分解性や高蓄積性などの化学合成物質などに関わるCODEX(コーデックス委員会)やPOPs(残留性有機汚染物質)などにも、多くの関心が寄せられている。

2007年には、アメリカのアル・ゴア元副大統領とIPCCがノーベル平和賞を授与した。このことによって地球変動や温暖化の問題は、一挙に世界の人びとの掌中に握られることになる。

2008年には、中国の餃子事件が起きた。このためもあり食の安全が声高に叫ばれ、安全の確保と次世代への安全の継承がひとびとの痛切な思いになっている。以下に年代順に環境を通した農と医療に関わると考えられる世界の動向を示す。この表1と次の表2の作成にあたっては「農業と環境-研究の軌跡と進展-」7)、「環境史年表」8)などを参照した。なお、独断と偏見で農と医に関連すると考えられる項目については、強調文字にした。
表1:農と健康に関わる環境問題:世界の動向

1960年代 :緑の革命が達成され,世界の人口が30億人(1960)/この頃(1962)レーチェル・カーソンの不朽の名作「沈黙の春」出版
1970年 : OECD環境委員会が設立。環境委員会として設立され1992年4月に気候変動などの環境問題への意識の高まりを背景に環境政策委員会と改称され組織強化。経済・天然資源・大気管理・化学品など9つの専門家グループ
1971年 :ラムサール条約採択。湿地の保存に関する国際条約。水鳥を食物連鎖の頂点とする湿地の生態系を守る目的
1972年 :ストックホルム人間環境宣言。国際連合人間環境会議において採択された共通見解7項の前文と共通の信念26原則から成る宣言/ローマ・クラブ「成長の限界」出版。現在のままで人口増加や環境破壊が続けば,資源の枯渇や環境の悪化により100年以内に人類の成長は限界。地球が無限であることを前提とした従来の経済のあり方を見直し,世界的な均衡を目指す必要があると論じる/国連環境計画(UNEP)設立。国際連合の機関として環境に関する諸活動の総合的な調整を行なうとともに,新たな問題に対しての国際的協力を推進することが目的/地球観測衛生ランドサット1号打ち上げ
1973年 :組換えDNA実験法の確立/ワシントン条約採択。絶滅のおそれのある動植物種の国際取引に関する条約
1974年 :世界人口会議・世界食料会議・国連砂漠化防止会議/ローランドらがフロンによるオゾン層破壊説発表/世界の人口40億人
1975年 :ラムサール条約発効。湿地の保存に関する国際条約。水鳥を食物連鎖の頂点とする湿地の生態系を守る目的で制定/アシロマ会議でDNA実験自主規制の合意
1976年 :セベソダイオキシン汚染事件。イタリアでダイオキシンが大量飛散し,22万人以上の人間の身体へ影響。家畜の変死,草木の枯れ,遺伝毒性による次世代への被害
1977年 :砂漠化防止行動計画。砂漠化の影響を受けている国が砂漠化防止行動計画を作成し先進国がこれに対して支援
1979年 :スリーマイル島原発事故。アメリカ合衆国ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所で発生した重大な原子力事故。原子炉冷却材喪失事故/ヨーロッパ諸国を中心に長距離越境大気汚染条約の締結
1980年 :米国政府調査報告書「西暦2000年の地球」。地球温暖化と種の絶滅を警告
1981年 : FAO(国際連合食糧農業機関)とUNEP(国連環境計画)が熱帯林資源調査を実施
1982年 : UNEP特別会議ナイロビ宣言。ナイロビ宣言は10項目から構成され,その前文で,世界の環境保全および改善のためには全世界,地域および国のレベルで努力を一層強化する緊急の必要性があると認識/遺伝子組換え作物の作製/IWC(国際捕鯨委員会)が1986年からの商業捕鯨の禁止決議
1984年 :環境と開発に関する委員会(WCED)発足。地球環境保全の戦略を審議する国連機関
1985年 : FAO熱帯林行動計画。熱帯林の保全・造成と適正な利用のための行動計画/オゾン層の保護のためのウィーン条約/南極上空でオゾンホール発見/ヘルシンキ議定書採択。長距離越境大気汚染条約締結(1979)に基づく硫黄酸化物排出削減に関する議定書。1983年発効
1986年 :チェルノブイリ原発事故。ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所の4号炉での大爆発事故/ILO(国際労働機関)総会でアスベスト規制条約採択
1987年 :「地球の未来を守るために」発刊。環境と開発に関する世界委員会(WCED)がまとめた報告書/モントリオール議定書。オゾン層を破壊する物質に関する議定書/世界人口50億人
1988年 :IPCC(気候変動に関する政府間パネル)設立/IGBP(地球圏?生物圏国際協同研究計画)発足。国際科学会議(ICSU)が主催する学際的な国際研究計画で,1986年設立/ソフィア議定書。窒素酸化物排出規制とその越境移動に関する議定書/アメリカLISA(低投入持続型農業)研究プロジェクト開始
1989年 :CGIAR(国際農業研究協議グループ)報告書「持続可能な農業生産」/バーゼル条約。有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関する条約。一定の廃棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組み及び手続などを規定/北極にオゾンホール発生/特定フロン全廃に向けたヘルシンキ宣言
1990年 :IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第1次報告書シャロン・ローン著「オゾン・クライシス」出版代替医療への関心が1990年代から高まる代替農業への関心が1990年代から高まる第1期IGBP(地球圏・生物圏国際共同研究計画)開始
1992年 :リオデジャネイロ地球環境サミット(国連環境開発会議)開催/アジェンダ21採択。地球サミットで採択された21世紀に向け持続可能な開発を実現するために実行すべき行動計画/森林保全の原則声明。世界の全ての森林の持続可能な経営のための原則を示した森林に関する初めての世界的な合意/生物多様性条約。生物の多様性の保全,その構成要素の持続可能な利用および遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を実現することが目的/気候変動枠組条約。正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組条約」で,地球温暖化問題に対する国際的な枠組みを設定した条約/アメリカ国立衛生研究所(NIH)に,アメリカ国立補完代替医療センター(NCCAM)設置
1993年 :OECD「農業と環境」合同作業部会設置,農業環境指標検討開始/ウルグアイ・ランド農業合意。最大の争点であった農業問題に関する合意
1994年 :気候変動枠組条約発効/砂漠化対処条約。正式には「深刻な干ばつまたは砂漠化に直面する国(特にアフリカの国)において砂漠化に対処するための国際連合条約
1995年 : COP1(気候変動枠組み条約第1回締結国会議)ベルリンで開催/IPCC第2次評価報告書/WTO(世界貿易機関)発足。ガット(GATT)の機能を増強したもので,無差別で自由な貿易を促進するための国際機関/先進国のフロンと臭化メチル全廃に向けて先進国における臭化メチルの規制強化と発展途上国における臭化メチルの全廃時期の決定/環境分野に初のノーベル賞。クルッツェン,モリーナおよびローランドが大気化学,特にオゾンホールに関する研究で受賞
1996年 :コルボーンら「奪われし未来」出版。身体に影響を及ぼす内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)の指摘/世界食料サミット。世界的な食料危機と穀物収穫に対する気候変動の影響に取り組むための共通戦略策定の国連主催のサミット/遺伝子組換え作物の商業生産開始/COP2ジュネーブ/APN(アジア太平洋地球変動ネットワーク)発足。アジア太平洋地域における地球変動研究を推進し科学研究と政策決定の連携を促進することを目的とする政府間ネットワーク
1997年 :COP3温暖化防止京都会議で京都議定書採択。先進国および市場経済移行国の温室効果ガス排出の削減目的を定めた/OECD農業環境指標の枠組。政策立案者が農業環境問題に取り組むための13指標群提案。自然農法の研究,教育,普及および実践
1998年 :WHO(世界保健機関)ダイオキシンのTDI(1日摂取量)見直し/COP4ブエノスアイレス行動計画。気候変動枠組条約および京都議定書上の今後解決すべき残された課題について,具体的取組を規定する行動計画
1999年 :CODEX(コーデックス)オーガニック農業基準合意ダイオキシン汚染事件。ベルギー産の鶏肉と鶏卵のダイオキシン汚染問題は世界中に影響を及ぼし世界各国がベルギー産の鶏肉や鶏卵の輸入禁止,販売禁止あるいは自粛勧告/Btトウモロコシのオオカバマダラへの影響論文。組換え体作物の栽培による非標的生物や生態系への影響を懸念したネーチャー誌論文/世界人口60億人/OECDが農業の持つ多面的機能の検討作業開始
2000年 : WTO農業交渉で農業の持つ多面的機能の議論/バイオセイフティに関するカルタへナ議定書採択。カルタへナ議定書は生物の多様性を確保する目的で遺伝子組み換え生物などの利用に関わる措置/CODEXバイテク応用食品特別委員会設置ホワイトハウスに補完代替医療政策委員会設置
2001年 :IPCC第3次報告書/COP6,COP7開催,議定書実施ルール合意/POPsに関するストックホルム条約。難分解性,高蓄積性,長距離移動性,有害性(人の健康・生態系)を持つ物質。POPsによる地球規模の汚染が懸念されている
2002年 : WSSD2002(持続可能な開発ヨハネスブルグ世界サミット)。持続可能な開発のための世界首脳会議
2003年 :第3回世界水フォーラム。政府・国際機関・学識者・企業・NGOにより包括的な水のシンクタンクとして設立/高病原性鳥インフルエンザ発生/バイオセイフティに関するカルタへナ議定書発効
2004年 : POPsに関するストックホルム条約発効/国連国際コメ年/高病原性鳥インフルエンザ
2005年 : COP11モントリオール/国連ミレニアム生態系アセスメント総合報告/京都議定書発効
2006年 :南極オゾンホール過去10年で最大/精米のカドミウム国際基準値0.4ppmに決定/遺伝子組換え作物の面積1億ヘクタール越える
2007年 :IPCC第4次評価告書・統合報告書/世界の陸上平均気温観測史上最高値/COP13インドネシア・バリ/アル・ゴアとIPCCが地球温暖化でノーベル平和賞
2008年 :地球温暖化問題で洞爺湖サミット開催/COP14ポーランド・ボズナン/ラムサール条約第10回締結国会議(水田決議)/中国餃子汚染事件/世界人口68億人
2009年 :豚インフルエンザ発生/鳩山総理大臣国連で温暖化制御のため25%削減表明
2)わが国の動向

わが国の経済は、昭和30年頃を境に戦後の復興期を脱却し成長期へと入った。昭和40年代半ばにかけての新しい科学技術の発展には、目を見張るものがあった。その結果、わが国は世界でも類のない経済的発展をとげることができた。しかしこの発展の裏には、人の健康や安全性、自然生態系への配慮に欠けた部分があったうえ、産業や都市廃棄物の処理など環境への社会的配慮が払われない事実が厳然としてあった。

このため、貴重な環境資源である大気、水、土壌、生物、さらにはヒトに対して様々な公害問題が発生し、これが大きな社会問題となり、経済活動そのものに制約が加えられるようになってきた。そのうえ各種の汚染問題は農林水産活動はもとより、食品の安全性やヒトの健康にも深刻な影響を与えるに至った。

これらの現象に対して、農水省や大学で公害研究調査が実施された。農水省におけるこの研究調査は、昭和31年の農林水産技術会議の発足により、学際的なプロジェクト体制をとり、農林水産業の生産の維持・増進と安全な食料供給の視点から行われてきた。

ところが、公害問題は年がたつにつれて複雑かつ深刻化したため、各省庁は個別の調査研究に対応しきれなくなった。このためもあって昭和46年に環境庁が発足し、各省庁の環境研究の試験研究を総合調整し、予算も一括して計上するようになった。

この間、水質汚濁、重金属汚染、有機性廃棄物、大気汚染、農林生態系の保全、農薬の安全性などのプロジェクトが実施され、その成果は農林水産技術会議により研究成果としてまとめられた。その成果の一部は、文献9,10)にまとめられている。それ以降の成果は、農林水産省農林水産技術会議の「研究成果シリーズ」を参照されたい。

このような状況の中で、1968年には大気汚染防止法が、1970年には水質汚染防止法、海洋汚染防止法および農地汚染防止法などが制定された。その後、光化学スモッグが頻発したり、BHCやDDTの販売が禁止されるなど、農業と環境に関わる問題が社会をにぎわした。

1975年には、有吉佐和子による「複合汚染」11)が刊行され、点源や面源の環境汚染はもとより複合汚染に世間が注目し始める。1980年頃からは、環境問題の関心は組換え体作物の安全性や絶滅野生動植物にも及ぶ。1980年以降は、オゾン層破壊や地球温暖化の問題が起こり、1990年には、IPCCが第1次評価報告書を提示するが、わが国では時を同じくして地球温暖化防止行動計画が提示される。

農業は食料の生産供給と同時に緑の保全、水資源の涵養、大気の浄化、景域の保全など社会生活にとって重要な役割を果たしている。しかし、人間の生産活動の発展と生活圏の拡大に伴って農業生産活動が低下したり、農業形態の変化に伴って農業生態系や自然生態系へマイナスのインパクトが生じ、さらにはそれが拡大され地球規模の環境問題が懸念されるようになった。このような問題を克服し、人間生活と自然生態系が調和した農業技術の体系を確立することが焦眉の急務になってきた。

地球環境計画が1990年に、環境基本計画が1994年に策定され、国内でも環境問題への盛り上がりが観られた。このころ、遺伝子組換え体の問題が新たに浮上した。1998年には地球温暖化対策推進法が策定された。

また、食料・農業・農村基本法が1999年に公布され、この基本法に関連した環境3法も公布された。この年、ダイオキシンによる作物汚染が埼玉県所沢市で問題化した。東海村のウラン加工施設(JCO)で臨界事故が発生し、これによる作物汚染が心配された。なお、筆者が所属した農業環境技術研究所では臨界事故で安全宣言に必要なデータの分析と解析を行った12)。以下に年代順に農と健康に関わる日本の環境問題の動向を示した。
表2:農と健康に関わる環境問題:わが国内の動向

1960年代 :農業基本法(1961)四日市喘息(1961)胎児性水俣病(1963)OECD正式加入(1964)
新潟水俣病(1965)公害対策基本法(1967)イタイイタイ病原因究明(1967)
カネミ油症事件(1968)
大気汚染防止法(1968)稲作転換対策開始(1969)
公害被害者全国大会(1969)PCBによる牛乳汚染
1970年 :水質汚濁防止法海洋汚染防止法農用地土壌汚染防止法光化学スモッグ被害問題化カドミウム米安全基準決定
1971年 :環境庁発足/水質汚濁環境基準/BHC・DDT販売禁止/PCB環境汚染問題化
1972年 :自然環境保全法/PCB生産中止
1973年 :宮崎県土呂久鉱山慢性ヒ素中毒を公害病足尾・生野・別子鉱山閉鎖
1974年 :環境庁に国立公害研究所設置/生産緑地法
1975年 :母乳から残留農薬検出有吉佐和子「複合汚染」PCB・水銀など汚染問題深刻化アスベストによる肺ガン死
1977年 :気象衛星ひまわり1号打ち上げ
1978年 :農水省から農林水産省に改称
1979年 :科学技術庁が組換えDNA実験指針提示
1980年 :過疎地域振興特別措置法/ワシントン条約・ラムサール条約加盟
1982年:緑資源の維持・培養と環境保全の論議/川崎公害訴訟
1983年:農林水産基本目標/農業技術研究所を廃止し農業環境技術研究所設立
1984年:湖沼水質保全特別措置法/世界湖沼環境会議/農水省バイテク室設置/地力増進法
1986年:ソ連チェルノブイリ原子発電所事故
1987年:絶滅野生動植物譲渡規制法/特別栽培米制度/農水省組換え体安全性評価プロジェクト開始
1988年:オゾン層保護法
1989年:農水省有機農業対策室/農林水産分の組換え体利用指針策定
1990年:地球科学技術基本計画/地球温暖化防止行動計画/環境庁国立公害研究所を国立環境研究所に改組/農林水酸基本目標
1991年:通産省公害資源研究所を資源環境技術総合研究所に改組/レッドデータブック発刊/土壌汚染に係わる環境基準
1992年:農水省新政策公表(環境保全型農業)/農水省環境保全型農業対策室設置出版:代替農業
1993年:生物多様性条約批准/窒素・リンの水質汚濁防止法排出基準/特定農山村法/有機農産物表示制度/大冷害・米輸入部分開放/環境基本法/アジェンダ21行動計画
1994年:環境保全型農業推進本部設置/環境基本計画決定
1995年:生物多様性国家戦略/科学技術基本法施行/食糧管理法廃止・新食糧法施行/環境保全型農業総合推進事業
1996年:科学技術基本計画/農水省研究基本目標/大気汚染防止法改正/水質汚染防止法改正/有機農産物・特別栽培農産物表示ガイドライン
1997年:地下水の水質汚濁に係わる環境基準/環境ホルモン中間報告/地力増進基本指針改正/環境影響評価法施行/環境保全型農業推進憲章
1998年:地球温暖化対策推進大綱/農政改革大綱/食料・農業・農村基本問題調査会答申/地球温暖化対策推進法/日本代替医療学会設立自然農法の研究,教育,普及
1999年:所沢市の農作物ダイオキシン汚染報道/食料・農業・農村基本法/ダイオキシン類対策特別措置法/農業環境3法改正(持続農業法・家畜排泄物法・肥料取締法)/東海村JCO臨界事故/農林水産基本目標
2000年:農水省,遺伝子組換え農作物安全性検討専門委員会設置/有機JASマーク制定/食料・農業・農村基本計画/循環型社会形成推進基本法/ダイオキシン類環境基準/加工食品への未認可GM混入/農水省がOECDの毒性ガイドラインに合わせ農薬毒性試験法改定JAS法による有機農産物認証制度発足感染制御ドクター設定
2001年:内閣府に総合科学技術会議設置/新科学技術基本計画/食品リサイクル法施行/BSE感染牛初確認/出版:代替医療のすすめ
2002年:地球温暖化対策推進大綱改定/生物多様性国家戦略改定/農水省「食」と「農」の再生計画/土壌汚染対策法/地球温暖化対策推進法改正/京都議定書批准/米政策改革大綱/農業取締法改正/バイオテクノロジー戦略大綱
2003年:高病原性鳥インフルエンザ発生/自然再生推進法施行/特定防除資材(農薬)の指定/遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律/農林水産省に消費・安全局設置/内閣府に食品安全委員会設置
2004年:第1種使用規定承認組換え作物栽培実験指針/カルタへナ法施行
2005年:新食料・農業・農村基本計画/新農林水産研究基本計画/京都議定書目標達成計画/外来生物被害防止法施行/湖沼水質保全特別措置法改正/食品の安全性に関するリスク管理の標準手順書/京都議定書発効
2006年:国産陸域観測技術衛星ALOS-1打ち上げ/第3期科学技術基本計画/第三次環境基本計画/有機農業推進法施行/カエルのツボカビ病発見/宍道湖産シジミでチオベンカルブ検出/特定外来生物セイヨウオオマルハナバチ規制開始/農産物の残留農薬に関するポジティブリスト制度施行
2007年:中国産冷凍食品から高濃度農薬検出/第三次生物多様性国家戦略閣議決定/日本最高気温記録/21世紀環境立国戦略閣議決定/農林水産省地球温暖化対策総合戦略策定
2008年:農林漁業バイオ燃料法施行/環境省報告書「気候変動への賢い対応」/生物多様性基本法成立/京都議定書第一約束期間の開始/中国餃子汚染事件
2009年:温室効果ガス排出量削減目標発表(2005年比15%減)/バイオマス活用推進基本法成立/豚インフルエンザ発生/鳩山総理大臣国連で温暖化成業25%削減表明
5.農業・環境・健康の連携をめざした科学と教育と研究

J.E. ラブロックが、この地球は単一の有機体とみなしていい複雑なシステムをなす生命体であるという仮説を、「ガイアの科学:地球生命圏」13)で提唱したのは、今から40年前の1969年のことである。それより57年も前の1912年、ノーベル賞生理医学賞を受賞したアレキシス・カレルは、地球がほとんど回復できないほど病んでいることを明確に認識していた。

「人間-この未知なるもの」14)のなかでカレルは、概ね次のような警告をしている。土壌は人間生活全般の基礎だから、近代的な農業経済学のやり方によってわれわれが崩壊させてきた土壌に再び調和をもたらす以外に、健康な世界がやってくる見込みはない。土壌の肥沃度(地力)に応じて生き物はすべて健康か不健康になる。すべての食物は、直接的であれ間接的であれ、土壌から生じてくるからである。

これまで多くの土壌は、酷使され、さらに消耗されつづけてきた。そのうえ多くの土壌には、さまざまな化学合成物質が添加されてきた。したがって、土壌全般が必ずしも健全な状態にあるとは言い難い。そのため、その地で生産される食物の質は損なわれ、それが原因となって、われわれの健康も損なわれかねない状況にある。カレルの言うように、栄養失調も栄養のアンバランスも土壌から始まっているといって過言ではない。

笑顔の幼児のはずむような健康は、その子どもたちの体が健全な食物と良好な環境に依存しているであろうことに疑いない。土壌の成分が植物、動物、人間の細胞の代謝をコントロールしているとも、カレルは言う。微生物やウイルスを除くほとんどの病気は、空気や水や土壌や食物のなかにある、人間が生きていくうえで必要な元素間の調和が崩れることによって生じるのである。なかでも食の基となる土壌のなかの元素のバランスが、最も重要なのである。

カレルは、「文明が進歩すればするほど、文明は自然食から遠ざかる」とも言っている。いまでは、われわれが飲む毎日の水、常に呼吸する大気、種子や苗を育む土壌、日夜欠かすことのできない食品のいずれにも、何らかの化学合成物質が共存している。食品には、そのうえ加工、着色、漂白、加熱、防腐、保存のために化学合成物質が添加されている。もちろんこれらの化学合成物質の多くが、人間の健康に影響を及ぼさない証拠はあるが、いくつもの化学合成物質による複合影響についての証左は未解明な状況にある。

思い起こせば、われわれの生活には19世紀の半ばから様々な化学合成物質が取り込まれつづけてきた。例えば、無機栄養説で著名なユスタフ・フォン・リービヒの化学肥料、人造染料で名を馳せたウイリアム・ヘンリー・パーキンの染料、夢でサルが手を繋いでいたというフリードリッヒ・フォン・ケクレのベンゼン環をもつ化学物質、化学肥料の源のフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュのアンモニア、殺虫剤の極めつき、パウル・ミュラーのDDT、そして、その延長上にはクロルデン、ヘプタクロル、ディルドリン、アルドリン、エンドリンといったDDTと同様の塩化炭素系の殺虫剤とパラチオンやマラチオンといった有機リン系農薬があった。そのうえ近年では、ダイオキシン類の化学合成物質が大気から混入する。

澤瀉久敬(おもだかひさゆき)は、彼の著書「医学概論とは」15)(1987)で概ね次のようなことを語っている。

医学とは何を研究するのか。生命の哲学ではない。医の倫理でもない(ただし、医学概論のひとつではある)。医道論だけでもない。医学は、物理的な生命現象だけでなく精神現象も考慮する。単に自然科学とだけ考えるのではなく、社会科学でもなければならない。病気を治す学であり術である。病気の治療と予防に関する学問であるだけでなく、健康に関する学問でもある。これは、単に健康維持の学問であるばかりでなく、すすんで健康を増進する学問でもなければならない。

また、北里柴三郎が25歳のときに著した「医道論」16)(明治11年)の最初の部分に、医道についての信念が書かれている。

昔の人は、医は仁の術、また、大医は国を治すとは善いことをいう。医の真のあり方は、大衆に健康を保たせ安心して職に就かせて国を豊に強く発展させる事にある。人が養生法を知らないと身体を健康に保てず、健康でないと生活を満たせる訳がない・・・・・人民に健康法を説いて身体の大切さを知らせ、病を未然に防ぐのが医道の基本である。

また、北里の「医道論」に「医者の使命は病気を予防することにある」とあるように、病気のきたる所以を探して歩いた。例えば、長崎で発生したコレラ調査の仕事の合間には町に出て、道路や井戸、排水の具合など路地裏の環境を見て回った。寄生虫による肝臓ジストマ症については、肝蛭(かんてつ:キュウチュウ目(二生類)の扁形動物で、体長は20~30ミリメートル)の肝臓への伝染経路を紹介している。肝蛭を体に有する蝸牛を食する羊に注意を促している17)。実学そのもので、そこでは物質循環のとらえ方がすでに完成している。医学のもとに環境を深く見つめていた北里柴三郎がそこにあった。羊と蝸牛と肝臓の関係は、まさに環境を通した医療の関係である。農医連携の真髄がある。

澤瀉久敬と北里柴三郎の著書は、医学は病気の治療・予防、健康の維持・増進、精神の面を含めて解決にあたるべき学問だと指摘している。これを満足させるためには、人びとの生活の基である食(農)と環境を健全かつ安全に保つことがきわめて重要である。先人は、食と環境が健全でなければ健康はありえないことを指摘しているのである。

一方、現在のわれわれ社会が直面しているさまざまな事象、すなわち鳥インフルエンザ、ニュートリゲノミクス、動物媒介感染症、気候変動と健康影響、機能性食品、環境保全型農業、残留性有機汚染物質(POPs)、環境・植物・動物・人間と過剰窒素、コーデックス(Codex)、動物介在療法などは、いずれも環境を通して農と健康あるいは医療に関わる事象である。

このことは、現在われわれ社会が直面しているさまざまな問題を解決するには、農と環境と医の連携が必要だという人びとの認識や自覚、さらには連携を達成するための社会の構造やシステムが不可欠であることを意味する。

ところで、農と医はかつて同根であった。そして現在でも類似した道を歩いている。医学には代替医療があり、農学には代替農業がある。前者は、西洋医学を中心とした近代医学に対して、それを代替・補完する医療である。後者は、化学肥料や農薬を中心とした集約的農業生産に対して、これを代替・補完する農法である。いずれも生命科学としての特徴を共有している。21世紀に入って医学はヒトゲノムの、農学はイネゲノムの塩基配列を解読する全作業を完了している。農と医が連携できる素地は既にある。

日本学術会議は、従来の7部制から「人文科学」、「生命科学」および「理学及び工学」の3部制に移行した。農学と医学はいずれも「生命科学」に属する。いまこそ、農医連携の名の下に、それぞれの学問分野で獲得した技術知や生態知を統合知に止揚する時代が来たのである。その際、忘れてならないことは、これまでもそしてこれからも両方の学問が環境を通して展開されていることである。環境を通した農学と医学の連携が、この分野の原論と研究と教育にとって今ほど求められている時代はない18)

6.北里大学の農医連携シンポジウムの成果
このような国内外の環境問題に関連した農と医の事象を眺めながら、北里大学では、ここ数年の間に農・環境・健康の連携をめざした科学と教育と研究を実施してきた。その内容については、北里大学農医連携学術叢書第6号「食の安全と予防医学」19)に詳しく紹介した。ここでは、6回にわたって開催された農医連携シンポジウムを書籍として出版したので、その内容を紹介する。さらに、6回にわたって開催されたシンポジウムの要約を英文でまとめた「Agriculture-Environment-Medicine」20)も紹介する。いずれも、養賢堂から出版しているので、誰でも手に入れることができる。社会への普及である。
北里大学農医連携学術叢書 第1号:現代社会における食・環境・健康(2006)21)
  1.  『現代社会における食・環境・健康』発刊にあたって : 北里大学学長 柴 忠義
  2. 農・環境・医療の連携の必要性 : 北里大学 陽 捷行
  3. 千葉大学環境健康フィールド科学センターの設立理念と実践活動
    -大学における新たな教育研究・社会貢献方法論の構築を目指して- : 千葉大学学長 古在豊樹
  4. 医学から農医連携を考える : 北里大学 相澤好治
  5. 食農と環境を考える : 東京農業大学 進士五十八
  6. 東洋医学と園芸療法の融合 : 千葉大学環境健康フィールド科学センター千葉大学柏の葉診療所 喜多敏明
  7. 人間の健康と機能性食品 : 日本大学・前食品総合研究所理事長 春見隆文
総合討論 : 座長   進士五十八・陽 捷行


北里大学農医連携学術叢書 第2号:代替医療と代替農業の連携を求めて(2007)22)
  1. 『代替医療と代替農業の連携を求めて』発刊にあたって : 北里大学学長 柴 忠義
  2. 代替医療と代替農業の連携を考える : 北里大学 陽 捷行
  3. 代替医療と東洋医学
    -科学的解明によるevidenceを求めて- : 北里大学附属北里生命科学研究所 山田陽城
  4. 代替医療-その目標と標榜名の落差について- : 金沢医科大学大学院 山口宣夫
  5. 代替農業-その由来とねらい : 京都大学名誉教授 久馬一剛
  6. 環境保全型農業を巡って : 東京大学名誉教授 熊澤喜久雄
  7. 環境保全型畜産物の生産から病棟まで : 北里大学獣医畜産学部 萬田富治
総合討論 : 座長   山田陽城・陽 捷行


北里大学農医連携学術叢書 第3号:鳥インフルエンザ-農と環境と医療の視点から-(2008)23)
  1. 『鳥インフルエンザ:脳と環境と医療の視点から』発刊にあたって : 北里大学学長 柴 忠義
  2. 代替医療と代替農業の連携を考える : 北里大学 陽 捷行・高井伸二
  3. 動物由来ウイルス感染症の現状と問題点 : 東京大学大学院農学生命科学研究科 吉川泰弘
  4. 野鳥の渡りや生態と感染拡大の関係 : 動物衛生研究所 山口成夫
  5. 代替農業-その由来とねらい : 日本野鳥の会 金井 裕
  6. 野生鳥類の感染とその現状 : (財)自然環境研究センター 米田久美子
  7. 新型インフルエンザの脅威-鳥インフルエンザとヒトへの影響- : 国立感染症研究所感染症情報センター 岡部信彦
  8. 高病原性鳥インフルエンザとワクチン対策 : 北里大学付属生命科学研究所 中山哲夫
総合討論 : 座長   吉川泰弘・陽 捷行


北里大学農医連携学術叢書 第4号:農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響(2008)24)
  1. 『農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響』発刊にあたって : 北里大学学長 柴 忠義
  2. 重金属の生物地球化学的循環-カドミウムとヒ素を中心に- : 北里大学 陽 捷行
  3. 農耕地土壌の重金属汚染リスクとその対策 : (独)農業環境技術研究所 小野信一
  4. 植物によるカドミウムとヒ素の集積と人への摂取 : 東京大学大学院農学生命科学研究科 米山忠克
  5. コーデックスの状況とわが国の取り組み : 農林水産省消費・安全局農産安全管理課 瀬川雅裕
  6. カドミウム摂取の生体影響評価-耐用摂取量推定の試み- : 北里大学医療系大学院 太田久吉
  7. コーデックス基準策定と食の安心・安全にまつわる戦い : 自治医科大学 香山不二雄
  8. 臨床環境医学から見た重金属問題 : 北里大学 坂部 貢
 総合討論 : 座長   香山不二雄・陽 捷行


北里大学農医連携学術叢書 第5号:地球温暖化-農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術-(2009)25)
  1. 『地球温暖化:農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術』発刊にあたって : 北里大学学長 柴 忠義
  2. IPCC報告書の流れとわが国の温暖化現象 : 北里大学 陽 捷行
  3. 地球温暖化の影響及び適応策の課題 : 筑波大学大学院生命環境科学研究科 林 陽生
  4. 農業生態系における温室効果ガス発生量の評価と制御技術の開発 : (独)農業環境技術研究所物質循環研究領域 八木一行
  5. 気候変動による感染症を中心とした健康影響 : 東北大学大学院医学系研究科 押谷 仁
  6. 気候変動の影響・適応と緩和策-統合報告書の知見- : 内閣府 政策統括官付参事官 原沢英夫
総合討論 : 座長   林 陽生・陽 捷行


北里大学農医連携学術叢書 第6号:食の安全と予防医学(2009)19)
  1. 『食の安全と予防医学』発刊にあたって : 北里大学学長 柴 忠義
  2. 食品安全委員会のこれまでの活動と今後の課題 : 内閣府食品安全委員会 見上 彪
  3. 食生活の現状と課題-健康維持・おいしさ・安全性の連携- : 北里大学保健衛生専門学院 多賀昌樹・大村正史・旭 久美子
  4. 水産物の機能と安全性 : 北里大学名誉教授 神谷久男
  5. 脂質・過酸化脂質と疾病 : 北里大学薬学部 中川靖一
  6. サルモネアおよびカンピロバクター食中毒-農の領域から- : 北里大学獣医学部 中村政幸
  7. ヒ素による健康障害:海藻類多食者におけるヒ素による健康影響の問題点 : 北里大学医療衛生学部 山内 博
  8. これからの動物実験施設:北里大学医学部遺伝子高次機能解析センターの試み : 北里大学医学部 篠原信賢
  9. 農医連携の架け橋としてのプロバイオティクスの可能性を探る : 北里大学獣医学部 向井孝夫
  10. 機能性食品の可能性と限界 : 北里大学獣医学部 有原圭三
  11. 北里大学の農医連携構想の現状 : 北里大学 陽 捷行
総合討論 : 座長   相澤好治・陽 捷行


Kitasato University Agromedicine Series 7: Agriculture-Environment-Medicine(2009)20)

Preface
  1. Part1. Agriculture, Environment and Healthcare
  2. Part2. Alternative Medicine and Alternative Agriculture
  3. Part3. A Look at Avian Influenza from the Perspective of Agriculture, Environment,and Medicine
  4. Part4. Effect of Cadmium and Arsenic on Agriculture, the Environment, and Health
  5. Part5. Global Warming: Assesing the Impacts on Agriculture, the Environment, and Human Health, and Techniques for Responding and Adapting
  6. Chapter6.  Food Safety and Preventive Medicine

なお、この他に北里大学学長室通信「情報:農と環境と医療」の一部を「農と環境と健康」と題した冊子26)にまとめている。さらに、最近では農医連携論に関心が向けられている27,28,29)
引用文献
  1.   1) 陽 捷行:地球生命圏と農業と肥料、肥料、75号、8-10 (1996)
  2.   2) 陽 捷行:「肥料」か?「環境と肥料」か?、肥料、93号, 8-19 (2002)
  3.   3) 古在由直:足尾銅山鑛毒ノ研究、農学会会報、16号、55-96(明治25年:1892)
  4.   4) 陽 捷行:人びとの健康と地球環境保全のために、東方書林(2009)
  5.   5) カーソン、R.:沈黙の春、青柳築一訳、新潮文庫(1974)
  6.   6) コルボーン、T.ら:奪われし未来、長尾 力訳、翔泳社(1997)
  7.   7) 上路雅子・清野 博・陽 捷行編著:農業と環境-研究の軌跡と進展-、養賢堂(2005)
  8.   8) 環境史年表 1926-2000 昭和・平成編:河出書房新社(2004)
  9.   9) 陽 捷行・藤沼善亮:農林水産省における環境保全(土壌肥料分野)に関連する試験研究の流れ、土肥誌、55, 573-578 (1984)
  10. 10) 谷山一郎・菅原和夫・陽 捷行:農林水産省における土壌肥料分野の研究プロジェクトの流れ、土肥誌、57, 614-627 (1986)
  11. 11) 有吉佐和子:複合汚染、新潮文庫(1975)
  12. 12) 環境放射能の調査研究:散策と思索、独立行政法人 農業環境技術研究所編、64-71(2005)
  13. 13) ラブロック、J.E.:スワミ・ブレム・プラブッダ訳、地球生命圏-ガイアの科学、工作舎(1979)
  14. 14) ピーター・トムプキンズ、クリストファー・バード:新井昭廣訳、土壌の神秘、春秋社(1998)
  15. 15) 澤瀉久敬:医学概論、誠信書房(2000)
  16. 16) 北里柴三郎:医道論(1878)
  17. 17) 山崎光夫:ドンネルの男・北里柴三郎、上下、東洋経済新報社(2003)
  18. 18) 陽 捷行:農・環境・医の連携をめざした科学と教育と研究を、学術の動向、2006,8,80-82(2006)
  19. 19) 陽 捷行編著:食の安全と予防医学、北里大学農医連携学術叢書第6号、養賢堂235-249(2009)
  20. 20) Minami, K. ed: Agriculture-Environment-Medicine, Kitasato University Agromedicine Series 7, Yokendo (2009)
  21. 21) 陽 捷行編著:現代社会における食・環境・健康、北里大学農医連携学術叢書第1号、養賢堂(2006)
  22. 22) 陽 捷行編著:代替医療と代替農業の連携を求めて、北里大学農医連携学術叢書第2号、養賢堂(2007)
  23. 23) 陽 捷行編著、鳥インフルエンザ-農と環境と医療の視点から-、北里大学農医連携学術叢書第3号、養賢堂(2007)
  24. 24) 陽 捷行著、農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響、北里大学農医連携学術叢書第4号、養賢堂(2008)
  25. 25) 陽 捷行編著:地球温暖化-農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術-北里大学農医連携学術叢書第5号、養賢堂(2009)
  26. 26) 陽 捷行著:農と環境と健康、アサヒビール発行、清水弘文堂書房編集(2007)
  27. 27) 陽 捷行:農と医の連携を目ざして-海外および国内の現状-、日本衛生学学雑誌、197p(2009)
  28. 28) 陽 捷行:環境を基とした農医連携論のすすめ、栄養学雑誌、167, 41-42(2009)
  29. 29) 加藤俊博ら:食と健康-ミネラルと油脂栄養の重要性-、土壌肥料学会誌、192-200(2009)
資料の紹介12:手軽で簡単 自分でできるリラックス法101エムオーエー奥熱海クリニック院長、佐久間哲也ほか(2008)
自然農法の研究、教育、普及および実践などに役立つ人材を育成するために設置された「自然農法大学校(財:微生物応用技術研究所の人材育成機関)」では、現在の近代的な農業が、過剰な化学肥料と農薬により健康に良い安全な食料を生産する場でないと認識し、それに代わる生態系と調和した農業の実践に取り組む農業者の育成に励んでいる。

この大学校の教育の基本方針は、自然農法による健全な土壌で育まれる安全で健康な食料の生産と、自然生態系と調和した心身の平安にある。そのため、自然農法の原理や技術に基づいた環境保全型農業について、同じ敷地にある農場で実践的な教育を行い、安全な農産物を生産している。

一方、この農場の敷地に「奥熱海療院」が設置され、(財)MOA健康科学センターと連携しながら、代替医療をはじめとする統合医療の研究が取り組まれている。ここでは、農場の持つ「自然」との交わりが与えてくれる「癒し」の効果を取り入れ、そこで生産される食事を取りながら、人間が持っている自然治癒力を最大限に生かしていく「自然順応型の健康法」が行われている。

「自然順応型の健康法」では、リズムエクササイズから自然散策、ガーデニング、家庭菜園で土に触れ、いけ花・茶の湯・陶芸などを体験し、健康増進セミナーや食セミナーなどの療法が行われている。まさに農医連携の貴重な実例の一つであろう。このシステムは、わが国の将来の農医連携の在り方の一つの例として示唆にとむものと認識される。

エムオーエー奥熱海クリニックは、保険診療機関である。保養地の中に位置するが、保険診療であるから、だれでも診療が受けられる。このクリニックでは、「いのち(医・農・地)の輝きを守る」を合い言葉に、医と農と環境の連携による、健康な人・健康な食・健康な環境づくりを提言している。

この資料は、クリニック院長の佐久間哲也先生が編集された「手軽で簡単:自分でできるリラックス法101」である。以下に資料の目次を紹介する。

第1章:自然とふれあう
自然を眺める/鳥・虫の声を聞く/近くの山や高台に登る/近くの神社・寺などの静かな空間へ行く/樹木に触れる/森林浴をする/裸足で歩く/そよ風にふかれる
第2章:生活園芸を楽しむ
花・木を育てる/野菜を育てる/花を楽しむ
第3章:小さな命に触れる
ペットを飼う/動物の赤ちゃんの写真を見る/赤ちゃんと遊ぶ

第4章:無邪気に遊ぶ
水遊びする/遊具で遊ぶ/虫取りに出かける/粘土いじり/シャボン玉を飛ばす/絵本を読む/手遊びで遊ぶ
第5章:古き良き時代をなつかしむ
記念館・古民家・思い出の土地を訪ねる/昔の写真・日記・ビデオ/写真を整理する/なつかしい映画・アニメ・本/故人をしのぶ
第6章:乗り物にのる
ドライブする/サイクリングする/電車やバスに乗る/遊園地で観覧車に乗る

第7章:趣味
 音楽/絵・写真/短歌・俳句・詩/陶芸・書/料理/お笑いを楽しむ/芝居・映画・コンサートに出かける/趣味の小旅行に出かける
第8章:体を動かす
体をのばす/ツボを押す/呼吸法/水中運動/ウオーキング・ジョギング
第9章:からだを休める
ゆったりとした部屋着に着替える/寝具/入浴/マッサージする/昼寝する/湯たんぽ・足湯/仕事の合間に眼を休める/アロマ・お香/お茶する

第10章:こころを休める
ロウソクの火を眺める/自分の体に触れる/瞑想する/癒しのビデオ・DVDを見る/セルフヒーリング/水の流れを楽しむ/母親の胎内にいる自分を想像する
第11章:身近な人との交流
家族や職場の人の誕生日を祝う/家族にプレゼントする/家族に「ありがとう」を言う/挨拶してみる/気の合う人と会う/聞き上手の人に自分の話を聞いてもらう/手紙・カードを書く
第12章:食
おいしい水を飲む/素朴な味をじっくり楽しむ/自然農法産の野菜を食べる/木の実を食べる/食卓を楽しいものにする/一食抜いてみる

第13章:日常生活を変える
単純作業をする/部屋の模様替えをする/部屋の中に自然を採り入れる/おしゃれ・グルーミング/鏡を見て笑顔を作る/悪習慣に見切りをつける/大声を出す/玄関をきれいにする/不要なものを思い切って捨てる/はじめての道・町を歩く/ラッキー日記を書く/5年計画を立てる/ボランティア活動する/思い切り泣く/朝日を臨む・拝む
第14章:見方・気持ちを変える
役割を変えて見る/自分をほめる、勇気づける/微妙な違和感をながめてみる/悪い言葉を言わない一日にする/わざとゆっくり考える、歩く、動く/直感を働かせる/愛に満ちた自分の姿を思い浮かべる/白旗をあげて、がんばらないと決める/自分史の振り返り/季節を意識する/五感をとぎすます/前向きになる本を読む/気になることをノートに書き出す/この小冊子を実践す
参照:http://www.okuatami.com/

言葉の散策 28:生と産
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る

「情報:農と環境と医療 13号」で「土」について次のことを書いた。「土」という字の中心概念は、経済からみた土地でも、材料からみた土質でもない。あくまで生命を育むものとしての「土」である。このことは、中国最古の字典「説文解字」からわかる。「土」という漢字の成り立ちに示されている。漢の時代の許慎は説文解字で、「土」は「地の萬物を吐生するものなり」と解説し、「土」が生き物を生み出すものの象形であるとしている。

また、「土」を次のように表現している。"二"は地表と地下を表している。つまり、土壌には層のつながりがあり、上の"一"は表土層を、下の"一"は底土層を表している。"|"は地中から地上へのびる植物を示す。説文解字の「吐」は「土」と音が同じで、自然に物を生み出すことを意味している。

この「土」は、土-生-世-姓へと発展した。すなわち、「土」(地の萬物を吐生するものなり)から、「生」(草の生え出る形、草木の生じて土上に生づるに象(かたど)る)に転じ、「世」(草木の枝葉が分かれて、新芽が出ている形)に成長し、「姓」(血縁的な集団)にまで発展した。また、「生」は「産」にと成長した。

そこで、「生」と「産」である。「長州ウまれの男児が、ウみの苦しみを体験し、新しい社会をウみ、革命のウみの親になった」という文章を書くとき、これらの「ウ」は、「産」と「生」のどちらを使えばいいのだろうか。

例えば、誕生、生家、出生、産後、安産、出産などと並べてみると、「産」と「生」の本質に気づく。「産」は母親の立場で、「生」は子の立場であろう。となると、冒頭の文は「長州生まれの男児が、産みの苦しみを体験し、新しい社会を産み、生みの親になった」と書くのが正しいことになるのか。漢字はまことにおもしろい。
*本情報誌の無断転用はお断りします。
北里大学学長通信
情報:農と環境と医療52号
編集・発行 北里大学学長室
発行日 2009年11月1日