北里大学

北里大学農医連携教育研究センター

66号

情報:農と環境と医療66号

2012/3/1
平成23年度農医連携論の内容
平成23年度の「農医連携論‐知識の統合をめざして‐」は、以下のような講師と講義内容のもとに、1年生を対象に教養演習として行われた。

教育目標:
病気の予防、健康の増進、安全な食品、環境の保全、癒しなどは、21世紀の人びとが幸福に生きるための重要な課題である。今世紀に予測される地球規模での食料危機や地球環境問題などを解決し、人びとが健康で他の生物と共存しながら、生物資源の開発利用を図るという課題を解決するために、農医連携の科学や教育が必要である。この講義の目的は、農学領域と医学領域の接点を見出し、現代社会が上述した課題を解決し、人びとが健康で豊かな生活をおくるために、農医連携が必要であることの修得にある。生命科学を標榜する北里大学の学生が、農医連携の重要性を認識することは極めて重要であると考えるからである。なお、獣医学部動物資源科学領域を学ぶ学生にとって、この講義は極めて重要である。

教育内容
農医連携の概要を解説したのち、農学あるいは医学的観点から見た農医連携、代替医療論、代替農業論、感染症、重金属と農業・医療の関連、地球温暖化と環境などに関する基礎知識を理解する。また、世界の農医連携の取り組み、農医連携の現場や将来についてを学ぶ。

教育方法など:各学部からの教員、あるいはすでに社会で活躍されている方による分担講義で実施する。講義はパワーポイントを用いて行い、各講義でレポートを課す。また、提示した参考図書のうち、授業前に「人びとの健康と地球環境保全のために」を事前に読むことを薦める。授業後は内容をノートに整理すること。

講師と講義内容:
陽 捷行:農医連携入門:農と医の歴史的な類似性と、現代社会がもつ農と医の問題点を指摘しながら農医連携の科学の必要性を解説し、それについて意見交換する。

相澤好治:医学からみた農医連携:持続的な社会をめざす中で、健康的な生活を送るために、農医連携による食育、食科学の展開は極めて重要である。講師の体験談とともに八雲牧場での研修を紹介する。

陽 捷行:農学からみた農医連携:健全に調和された土壌から、はじめて人間にとって健康を維持できる食料が生産される。医食同源の考え方を紹介し、農医連携の科学や教育の必要性を理解させ、食の重要性を討論させる。

山田陽城:東洋医学および代替医療からみた農医連携:わが国の正式な医療である東洋医学について西洋医学および最近の代替医療と比較しながら解説し、農医連携の現状と必要性を説く。

若杉安希乃:東洋医学からみた農医連携:わが国で現在行われている東洋医学について、さまざまな内容を具体的に紹介・解説し、現状と必要性を理解させる。

陽 捷行:代替農業論:従来の農業は、農薬や化学肥料を多用してきた。このことが、農作物や環境に悪影響を与えた。これに代わるさまざまな農業を紹介し、代替農業の必要性を説き、現場の見学をする。

高井伸二:獣医学からみた農医連携:鳥インフルエンザの動物や人間への感染が自然環境や農業生産の現場と密接に関係していることを解説し、現場を紹介し、その対策について考える。

萬田富治:自然・牛・人の健康を保全する自然循環的畜産論:資源循環型の畜産の展開が環境と調和した持続的生産を可能にし、このシステムで生産した動物性食品を病棟で利活用する意義について解説する。

向井孝夫:動物資源科学からみた農医連携:持続的社会を目指す中で、動物資源科学と医学領域が連携することによって、食や環境に関する現代的な問題をどのように解決できるか、また医療への貢献できる点について解説する。

有原圭三:食と農医連携:「医食同源」という言葉があるように、古くから食と健康は密接な関連があると考えられてきたが、現代的な科学論からもその関連は証明されている。ここでは「食」と「健康」について解説する。

陽 捷行:重金属:生物地球化学的視点にたち、地殻から掘り起こされる各種重金属の挙動を、土壌‐作物‐動物‐人間の循環から解説する。とくに、カドミウムとヒ素について紹介する。

山内 博:重金属:海産物に含まれるAs(ヒ素)は、人間の健康に影響を及ぼす。各種海産物のAs含量と健康との関係を解説する。ヒ素中毒の予防と機能性食品についても紹介する。

佐久間哲也:農医連携の現場:医療・福祉・保健衛生の現場で急増している心身不調に対して、自治体とともに進める農医連携の現況と、海外の代替医療事情を例に今後の展望を説く。

陽 捷行:医食同源・身土不二・地産地消:古い言葉の中に農医連携の必要性が含まれている。これらについて解説する。総合討論:21世紀における農医連携のあるべき姿を考える。そのために、学生の意見をとりまとめ、討論する場をもうける。

参考資料
  1. 北里大学農医連携学術叢書第1号~第9号:陽 捷行編著、養賢堂(2006~2011)
  2. 「情報:農と環境と医療1~65号」サイト(北里大学HP内) 北里大学学長室
  3. 「北里大学農医連携シンポジウム」サイト(北里大学HP内) 北里大学農医連携委員会(シンポジウム主催)
  4. 陽 捷行:人びとの健康と地球環境保全のために、東方書林(2007)

農医連携論(2008~2011):受講生の感想・意見など
農医連携論は、2008年から2011年度の4年間にわたって行われた。今後の農医連携論の講義を充実させるための糧として、各年度の受講生の意見やレポートなどを整理した。その内容の一部を年次順に紹介する。

2008年度:受講生の感想や討論内容を紹介する。受講生は15名であった。以下の意見を参考にして、今後の農医連携論をさらに進化させる必要がある。

1.農医連携論を受講した理由:複数回答看護学部の道を選んだが農医連携に興味があった/医療に携わる者として農医連携論が大切/鳥インフルエンザの経路で農医連携が知りたい/農医という言葉に興味/多くの先生の話が聴ける/病気の予防に環境と農と医療の連携が大切/農医連携論があったので北里大学を選んだ/人と地球の健康を学びたい/二つの専門分野を跨いだ前代未聞の講義内容に惹かれた/環境を通した人と動物の共存に興味/農業と環境と医療を獣医学の立場で興味/教養演習Aの講師の講義に惹かれたから/獣医学には農と環境など幅広い知識が必要/微生物の視点から農学と医学の関係を知りたい/この時間が空いていた/農と医療を跨ぐとは何か知りたい/地域における農と医療に関心があった/積極的な討論が成績評価に関連するから/医療分野に興味

2.何に興味を惹かれたか:複数回答「農医連携入門:3」「医学からみた農医連携:2」「農学からみた農医連携:7」「東洋医学および代替医療からみた農医連携:2」「代替農業論:3」「環境保全型畜産論‐生産から病棟まで‐3」「鳥インフルエンザ‐感染と対策‐:5」「鳥インフルエンザ‐ワクチン対策‐:3」「重金属‐生物地球化学的視点と土壌と農産物の汚染リスク対策‐:1」「重金属‐臨床環境医学の視点‐:1」「地球温暖化と農・環境・健康:3」

3.今後やってほしい農医連携論の内容:複数要望「バイオの世界:基礎から応用」「おばあちゃんの知恵袋」「土壌の重要性」「食の安全性」「環境と病気・伝染病」「健康な土壌・健康な食物・健康な人」「低投入型農業・自然農法」「日本が国際社会の一員として、これから取り組むべき農医連携とは」「化学物質(農薬)・食品添加物について」「石油論」「農医連携の視点から捉える日本の教育論」「マスコミ論」「獣医学から見た農医連携」「一人暮らしの食生活」「野外実習」「農から医に貢献した研究」「医から農に貢献した研究」「外国人の講義」「疫病と医学のつながり」「宇宙空間と人」「物理的視点から見た医療」「畜産と医療」「自然と人間との共存」「討論を増やした講義」「農業従事者と医、医療従事者と農」

4.レポート「農と環境と医療の視点から人間の真の幸福について記せ」:回答は受講生によってさまざまである。T嬢とN嬢の回答の一部を紹介する。

T嬢の回答:私の大好きな作家、山田詠美のエッセイに「幸福も不幸も、すべて自分による選択。事象がそれらを運んでくるのではない。幸福はいつだって、自らの研ぎ澄まされた感覚の内にある」。「人間の真の幸福」について考えるには、時間も労力も必要だ。「私」に限定した、私にとっての幸福についてならのべられるのだが、「人間」と広くなると非常に難しい。

さまざまな試行錯誤を重ねた結果、辿り着いたのは「個々が感じる幸福と、人間全体がイメージする幸福とが一致するとき、人間の真の幸福が完成するのではないか」という考えだ。

人間全体がイメージする幸福も、時代や状況に応じて日々変化している。だが一貫して変わらない幸福感というものは、誰にでも存在しているはずだ。衣食住が確立していること。身体の健康状態を保てること。精神的要求が満たされていること。精神の健康状態を保てること。自己を取り巻く外部環境が安定していること。地球環境が健康状態を保てること。人間以外の生命体も健康であり、尚且つそれらが共存・共進化していること。

より具体的な例を挙げるとなると、個人の価値観によってこれらは全く異なってくる。実に多種多様だ。医療面から言うならば、人間の真の幸福とは、身体的健康と精神的健康の両方が確立して初めて実現するものだろう。生理的要求が比較的満たされている日本人に限定して考えるならば、これからは、より精神的健康へと焦点をあわせていくべきではないだろうか。

農業面から言うならば、人間の健康を確立するには、まず健康な土壌を作ることだろう。健康な土壌なくして、安全で安心な食材提供は不可能であり、健康な人間を育てることはまずできない。

最後に環境面から言うならば、人間の身体的健康と精神的健康が確立されていたとしても、地球環境全体が健康でない限り、その健康を安定的に持続させることは不可能である。土と人間が一蓮托生であるように、地球環境と人間は運命共同体だからだ。

身体的健康、精神的健康、地球環境の健康、この三つの柱が一つも欠けることなく持続可能な状態を確立し、尚且つ個人レベルでそれを正確に実感できたとき、人類全体が真の幸福を手にしたことになるのではないか。

N嬢の回答:そもそも人間は何を基準に幸福というのだろうか。今から数百年前の世界には今のような生活はなかった。ほしいと思ったものはいつでも手に入れることができるし、もっと便利にするために様々な分野で技術の発達は止まることを知らない。

その中で、人間が地球に存在し始めたときから必ず在るもの。それが土、水、大気、オゾンである。人はこれらが無ければ絶対に生きていけない。しかし現在、問題になっている環境問題。その中でも特に土壌汚染に注目する。土壌は「不健康な状態」になった。土壌が不健康だと人間も不健康になってしまうということだ。すべての食物は土壌から生まれるから、人は土壌を基盤とし、土壌の健康は人の健康そのもの、土壌の生命は人の生命そのものであるということなのだ。

幼いころから両親は無農薬な野菜や果物を選び、私も無意識に食べていた。虫が付いている野菜、色や形が不格好な果物は土の力を最大限に使ったことを表している。土の健康=作物の健康=食品の健康=人の健康、とするならば18年間一度も病院にかからず健康に過ごせてこられたのは、作物を育てた土壌が健康であったということだ。

自分の健康を維持するのと同じように健全な環境にするよう励むということが、人間の真の幸福なのではないだろうかと私は考える。幸福は自分で求め、努力の上に訪れる。簡単に手に入れることができたものは、真の幸福ではない。そして自分と相手が相互に幸せだと感じられるなら、それが真の幸福であると思う。


2009年度~2010年度:受講生はそれぞれ8名と145名。平成21年の後期から、一般教育部の教養演習Cと獣医学部動物資源科学科の動物資源科学概論2を合わせた農医連携論が始まった。内容は「情報:52号 (https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no51-60/noui_no52.html#p02)」に詳しい。ここでは、22年度の農医連携論を受講した学生の感想や意見をまとめた。

そのまえに、平成21年度文部科学省大学教育改革支援プログラムが決定された情報を知っておく必要がある。これは、文部科学省の平成21年度「大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム」に応募した北里大学の「農医連携による動物生命科学教育の質の向上」が、支援プログラムに選定されたことである。(「情報:52号(https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no51-60/noui_no52.html#p01

このプログラムが選定された背景には、北里大学が農医連携を重点課題の一つとして取り上げ新しい視点で教育を展開しようとしていることがある。これに対して、医学部長と獣医学部長のきわめて高度な連携・協力があり、さらに医学部と獣医学部の教員が、松下 治教授と向井孝夫教授のもとに積極的な協力を惜しまなかった現実が、決定の引き金になったのである。ここには、知と知の分離を克服しようとする新たな教育者間の協力・促進の萌芽が感じられる。

1.講義内容や講義のあり方など:生徒の参加/実習/健康と絡める/農学生に医学知識を医学生に農学知識を/身近な話題/ビデオの活用(いのちのたべかたの例)/プリント欲しい/予防/クイズ形式/土壌を使い作物生育の実習/倫理/漢方薬など現物みたい/医学の知識必要/講義の関連性/農学と医学の共生の場(栄養・ビタミン・感染)/講義後の学生の感想を聞く/動物介在活動/代替医療・代替農業を詳細に解説/ノートをとらせろ

もっと多彩なテーマを/感想の発表会/実践プロジェクト紹介/レポート提出/農医連携の定義を前期に徹底する/現場の人の講義/農より医が多すぎる/農と医の基礎が知りたい/新事実の紹介/不安解消の講義/文化系も必要/講義の継続性/農と医の先生の討論/講義が急ぎすぎ/議論する力を涵養/食体験/レポートとメイル交換/他大学の参加/全学部の参加/映像教育が最高/リアクション時間の設定/参加型講義/感想文を書かせる/講義時間が短い/海洋生命科学がない

2.感想など:講師は最高の布陣/深い講義/身近な問題は分かりやすい/他の学部にも聞かせる/若い学問/内容が興味深い/文系の学部との連携必要/理解しやすかった/この学問を深めよ/重要性をもっとわかりやすく/ものを考えさせる講義/長所・短所の明確化/感想の発表会/集中できた/2年次以降の学習に期待がもてた/農医連携のつながりが分からない/環境問題が重要だと分かった/多くの人に講義を聴かせたい/面白く興味深い/質は高いが繋がりが不明/医学部学生との意見交換

充実しているがさらに/分離の病の克服/出欠表の配り方配慮/高校生の頃から期待/学科指定で強制的/内容が複雑で興味もてない/医学部学生も受講せよ/授業のスタイルがよい/漢方医薬を嘗めたのが最高の経験/雑談する学生が多い/幅広い視野がもてた/講師の講演会が欲しい/発達途上の学問

このような受講生の農医連携論に関する率直な意見や感想は貴重である。これに対応するための筆者の時間的余裕も少なくなったが、これらの意見のうち、内容のある項目は可能な限り改善・追加していくつもりでいる。


2011年度:受講生156名。
平成23年度は、新たに現場の医師である佐久間哲也氏に「農医連携の現場‐理論を超えて‐」と題した講義をしていただいた。そこでは、医療・福祉・保健衛生の現場で急増している心身不調、自治体とともに進める農医連携の現況、海外の代替医療事情などが語られた。以下は、この講義についての学生(133名)のレポートを集約したものである。

今回のレポートから、講義の内容が知識としてどのように学生に伝わるか、伝わった中でどの部分に注目しているか、どこに疑問を感じているか、どういう感想を持つか、さらには、どう学習や行動への意欲につながっているか、などの内容が明らかになった。

選択授業のためか、農医連携についての意見や感想は全員が好意的かつ積極的である。当然なことではあるが、注目したポイントやキーワードは各人それぞれ異なる。本人・家族・友人のメンタルヘルスにかかわる経験や問題を通して、農医連携に期待を寄せる記述が多い。型どおりの感想とは違い、講義への興味が深く、真剣に農医連携を考えている様子がうかがわれる。
1.学生が注目したポイントやキーワードなど(人数)

食と農 30予防医学 8
心身一如・心身医学的アプローチ 23有機農業・ハワード 8
自然の力 23スピリチュアリティ・スピリチュアルペイン 8
いのち(医農地) 23地球環境の健康 5
分離の病 17震災 5
奥熱海療院・クリニック 17持続可能な健康社会・ソハス 5
突破口 16犯罪更生と農医連携 5
生きがい支援 16病は気から 4
メンタルヘルス問題 16統合医療 2
東洋医学・未病 13身土不二 2
ベルツ博士 13自律訓練法 1
アニマルセラピー・動物介在療法 13口蹄疫 1
健康医学 12コミュニケーション能力 1
2.数多い意見と感想

農医連携の重要性や現状を理解した 40
農医連携を広めたい,関わりたい 17
わかりやすい,面白い,興味をひいた 16
より学びたい 16
3.個別の意見・感想の類型化
1)農医連携
  • 農医連携とは新しい学問分野のように思えるが、本来は農学と医学が切り離されて考えてきたことが不自然なことなのだと再確認した。もともと自然の恵みによって保たれていた健康なのだが、それが分離したことによってできた歪みが環境問題、社会問題、心の病の深刻化などとして現れているように思う。
  • 農医連携が理論や医療の枠を超えて、社会という大きな舞台で効力を発揮するかどうかは、専門家ばかりでなく、多くの国民の行動や意識が大切である。私は、農医連携ということを大学で学んだからには、まだ知らない人々に広めていきたいと改めて思った。
  • 農医連携を充実させることによって、医学で患者だけでなく医師も健康になるはずである。
  • 不調を治し、時には(不調を)予期する医学の力と、まだ本当の意味での効能が解明されていない食を扱う農学が手を結ぶ農医連携は、草分け的存在となり、学問というものの進歩を後押ししていくことのできる試みだと思う。
  • 農医連携について学んだおかげで、人の健康についての考え方が変わったように感じます。将来医療従事者になるので、患者さんの病気を単体で捉えずに、様々な要素と複雑に絡み合っているということを忘れずに患者さんに関わっていきたいと思いました。
  • とても説得力のある講義であったと思った。さらに農医連携の分野は社会福祉や教育などの分野にも関わってくるということを深く感じることができた。
  • 早く農医連携が全国に広まって、日本中の多くの病院で農医連携の活動をすれば多くの患者さんの心が豊かになり、病気が治るようになったり、不登校の生徒が減るのではないかと思いました。私も農の分野で農医連携を広めていきたいと思いました。
  • 佐久間先生の講義では農医連携がどう大切で、現状やこれから私たちがどうするべきなのか、より深く理解することができました。
  • 農医連携を、もっと人々から理解してもらえ、重要視されるよう、私たちが行動していくべきであると思った。
  • 佐久間先生のホームページやクリニックのホームページには、農医連携についての興味深い話が掲載されていた。もし機会があれば一度訪ねて自分の目で農医連携の一つの形を見てみたいと思った。

2)食と農
  • 医師は診察するときに患者の顔を見ず、データだけを見て診察すると聞く。しかし、病気になる原因は食生活の中にもあるので、患者が何を食べ、どんな生活をしていたかを知る必要があると思う。だが、人を健康にすべき食が農薬に汚染され、健康被害を出しているので、治療・予防のみならず農薬を使用しない有機農業の研究を進めるべきである。
  • 農薬を使った方が虫はつかないし、きれいな野菜ができる。だが、虫も寄り付かないような野菜を食べたいとは私は思わない。同様に、太陽の光を見たこともないような家畜の食肉を口にしたいとも思わない。私たちの健康を考えるとまず1番に「食」が肝心だと考える。
  • 健康であるために、運動・バランスの良い食事はやはり大切であると思うので、自分でも心がけていきたいです。野菜をおばあちゃんの家で作っているので、将来は私も自分の家で野菜を作りたいと思いました。
  • 全ての人が自分たちで野菜を作れば、好きなときに野菜を食べ、運動すれば、健康になり、お医者さんにかかる人が減って良いと思います。

3)医療への関心
  • 今回の講義で、農・医・地のつながりを理解し、医療発展のために農・地は必要不可欠なものではないかと思いました。
  • 今は医療というと最先端の科学技術を駆使して人の命を救うというイメージが強いけれど、人の健康という医学の原点にかえったとき、食であったり、生命の源である大地であったり、農というものが大きく人の健康に関わっているのだなと思いました。
  • 保険診療として認められていないが、食養生・運動・転地療養・ハーブ医療・マッサージ・音楽療法・園芸療法・森林療法・傾聴カウンセリングなどは心身医学アプローチとしての効果が期待され、検証の場が必要とされている。医療と言われると堅苦しい気もするが、このような療法は普段の生活でできるチャンスがあると思う。医療として確立するまで、そういった体験ができる機会が増えていってほしいと思う。

4)メンタルヘルス問題
  • うちの父は以前うつ病でした。しかし、その頃から犬を飼い、よく山登りをし、自然と触れ合う機会が増えました。そして最近完治したそうなのですが、これはペットによるヒーリングの効果と、山登りの効果があったと私は信じています。
  • ストレスの原因は土に触れられないことだと気がついたのである。その後アパートのベランダで花を育て始めると、それまでのイライラはなくなった。この経験から自分にとって自然、特に土に触れることがどれだけ大切なのかを知ったため、今回の講義の、クリニックの近くで花を育てることが患者さんやそこで働く人に良い影響を与えている、という話にはとても納得した。
  • 私は数年前から不眠の影響でどんどん体調が悪くなり、1年ほど前から自律訓練法を生活に取り入れている。最近この方法を必要とする人が増えたということは、それだけ生きるのが苦しい社会になっていっている証拠だと考える。これからは、自分が生きている環境に関心を持ち、自然の魅力や季節の変化を楽しみながら、精神の健康を保ちたい。
  • 人とコミュニケーションがとれない小学生の子供たちが、農業や牛や馬の世話、キャンプでの自炊を通して笑顔で話すようになっているものも見たことがあります。精神疾患が多い中、必要なのは自然との触れ合いではないでしょうか。
  • 近年の日本の都市化にともない、生活の中で直接土や植物にふれる機会が少なくなってきている中、メンタルヘルスに注目し、農の視点から医を見ることがこれからさらに大事になってきていると感じた。
  • 私にはうつ病の友人がいる。抗うつ剤だけでは心も体も治らない。身近な交流を持った私だからそう感じる。医学が治せないと言うならば、農学でも何でも使えるものは全部使ってその友人を健康にできたらいいと願う。農医連携にはそんな夢が詰まっているように感じた。

5)統合医療
  • まだ個人的な動きでしかない統合医療だが、バラバラになってしまったいろいろなことをつなげることができる可能性を秘めていると私は考える。虐待や万引きなど昔から続いていることが少しでも減少するかもしれない。心と身体がつながっていることを理解する人が増加すれば、都市と自然をちょうど良いバランスで共存共栄することも無理ではないかもしれない。
  • いのち(医・農・地)をつなぐ。私はこの言葉がすごく素敵だと思う。日本の統合医療はまだ個人的な動きでしかないが、人間と自然や食農を統合したり、心と体を統合したりすることはとても重要であると多くの人に感じてほしい。
  • 今後は東洋医学と西洋医学を統合した医療を目指すべきだと考える。理由は、どちらの分野にも利点があり、それが一緒になればより良い医者と患者の関係を築くことができると思う。

6)震災
  • 震災後は物資の支援、医学的な支援などがあるが、「生きがい支援」こそ、その後の復興、発展に必要だと思った。これからの時代、医療と農業がつながり大きな発展・進歩が必要だと思った。
  • 被災地の方々は、この震災で生きる意欲を失うほどの大きな苦しみを背負った人が多くいるが、現場では病気を診るのが精一杯で、メンタル面でのケアまではしてくれない。そういったときに、心身医学的アプローチをしていこうという農医連携の考えはとても素晴らしいと思った。

7)自然共生
  • 自然の力は人とのコミュニケーションを深められる場である。
  • 土や森林などの自然、動物には、人工的な科学では変えることのできない人の心を変えたり、障害や病気を治してくれたりと、人工的な科学にはない不思議な力があるのではないかと思いました。
  • 私たちは、自然と共に生きていくべきであり、技術だけが先走りしたらいけないと思います。
  • 自分が「地球で生きる一員だ」と思えるようなケアを目指し実現することがもっともっと広まってほしいなと思った。せっかく命あふれる地球に生きているのに、今の私たちは人間だけが孤立して他の生き物から取り残されているようにしか思えない。それでは今のような精神的に不安定な人々が悲しそうな顔で歩く社会ができても当然だ。「科学的根拠がない」とか「予算が足りない」とかそんな馬鹿げた理由で遠ざけないで、もっと世界の現状を見てほしい。これからもこの地球で生きていくのなら、もっと自然との共生に目を向けて良いと思う。
  • このままでは、人間は自然を忘れ、精神が乱れ、機械のようになってしまうかもしれない。この状況を解決してくれるのは、農医連携であると考える。医・農・地をつなぐ心身医学的アプローチとして園芸療法や森林療法などは、人間と自然をつなぐことができる。土に触れ、自然に触れることで生まれる笑顔を農医連携の活動はつくっていけると考える。この笑顔は、例えば多くの人と食事をともにする時に出る笑顔と同じである。幸せを感じ、命を感じることができる。人間と自然は離れてはいけない存在であることを、この講義を聞いてさらに実感することができてよかった。
  • 日本人と自然との間の距離を縮めるための活動に私も協力したいと思います。それから、私は来年青森で学校生活を送ることになるのですが、この機会に植物栽培を始めてみようと思います。
  • 現在は一人暮らしで都会に出てきています。しかし、なかなか環境が合わず困っています。体調が崩れやすくなったり、イライラすることが多くなりました。ここだと自然に触れ合う機会がないから心を和ませる場がないのだと思いました。実家に帰るとついつい花を見たり、匂いを嗅いだり、庭で散歩したりしてしまいます。だから医療に自然の場を利用することは、本当に良いことだと思います。
  • これから自分が学ぶことの社会的な意義をより一層強く認識することができました。また、専門分野への意欲も高くなったような気がします。自分は将来、ビオトープや自然公園を造るのに携わりたいと考えているのですが、そのような仕事に就けたら、人々の健康に対して大きく貢献できるようなものを造りたいと思います。

8)アニマルセラピー
  • アニマルセラピーや広い自然、豊かな自然の恵みは心身症に対し、また病気全般に対し効果があります。障害を持っていても、アニマルセラピーにより治療となってより明るく活発になったり、病気を持っていても、明るい元気を取り戻し、治療に耐えることができたり...と農・環境はしっかりと重要な役割を持っています。
  • 以前、実際にアニマルセラピーの活動をしている人の話を聞いたことがあって、すごく感動した。本物のセラピー犬も見ることができた。...その犬たちは、老化が進んで寝たきりになってしまった人や、半身麻痺でなかなか自分で動くことのできない人たちのところへ行って、励ましていた。犬たちが近付くと寝たきりだった人がわずかに自分から起き上がろうと努力したり、笑顔になったりしたのを見た。それは本当に奇跡的で動物の力はすごいと思った。

9)スピリチュアリティ
  • 私は、これからは科学の進歩より、佐久間先生のやられているような、自然+somethingの方が注目され、発展していくと思う。それは、私たちが無意識に欲しているものが何か、気づく人が増え始めたときである。今回私がそれに気づいたのは、佐久間先生の講義のおかげであった。
  • メンタリティとは心情を意味し簡単に変化するもの、スピリチュアリティとは存在意義や世界観、生きがいとおっしゃられた。現在の日本では横文字が乱用され分かりづらい言葉が蔓延している中で非常に分かりやすい説明だったと思う。
  • 文字だけの世界を好む若者が増えている今、他人と本当のコミュニケーション。いのちといのちの会話がはっきり成り立つという現場が増えず、文字ならではの世界で起こるたくさんのトラブルに巻き込まれたり巻き込んでしまったりする人が急増してしまうのだと思う。そうして最終的には自分を殺してしまったり、他の誰かを傷つけてしまったりするという最悪な事態にまで発展することもある。これは、機械が発達しすぎたのが悪い要因というわけではなく私たちがその機械に頼り過ぎているということが変えるべき要因だと思った。自分たちが良くも悪くも生み出し、進化させた技術たちによって、自分たちは生まれたありのままの自然環境という存在を忘れつつあるのではないだろうかと思った。

10)連携
  • 健康医学を含め、農医連携を進めていくにあたって、農学や畜産側にいる自分たちだけでなく、医学や行政、企業など、多くの人との協力と理解が必要不可欠なのだと改めて感じた。
  • 生命は「医」「農」「地」の連携なくしては成り立たないと、そう強く訴えかけているように感じられた。私だけでなく、誰もがこの3文字を見ればそう思うのではないだろうか。

4.2011年度北里大学農医連携論受講生レポート例3題
T嬢のレポート:実際の農医連携の取り組みを行っている現場で働いていらっしゃる佐久間先生のお話を聞くことができ、とてもよかったです。医学、農学分野の学術は確かにとても発展しているイメージがあり、事実発展しているにも関わらず、どんどん現実は深刻化しているのは私も感じています。やはり佐久間先生や陽先生がおっしゃるようにこの2つの分野には深く関わりがあり、繋げて考えていかなければ解決しないものだということを、授業を通して改めて認識しました。

授業の中でトータル・ヘルス・ケアがまだ学問として成立していないというお話がありましたが、意外なことに感じました。未病という言葉も街中の広告等で目にする機会がありました。しかし日本で主流となっている西洋医学の中には未病という考えがないことや、また日本の保険医療制度がカバーしている範囲について学ぶと、学問として成立していないことも当然のように感じました。根付いている西洋の考えや日本経済を考えると現状を変えていくのは難しいことですが、病気を前もって予防し病院にかかる人が減少すれば医療費も削減でき、良い循環が生まれるのではないかと思います。農医連携のように西洋医学と東洋医学をうまくつなぎ合わせ、双方の長所を生かして利用していくことが必要なのではないかと思いました。

農医連携が社会福祉や教育まで広がっていることをまだしっかりと実感や認識ができていなかったのですが、授業を通して心と体は分離していない、一体であるという考えを持つことで、改めてしっかりと農医連携の分野は広く用いられるものだと認識することができました。やはり体が健康であっても心が健康でなければ真の健康とは言えず、心の健康と体の健康は繋がっています。そして双方の健康には医療ももちろん必要であるし、食や大地という面で農学も深く関わっています。体の病気も心の病気も深刻化している今、農医連携の必要性を強く確認することができました。

佐久間先生の取り組み、農医連携の受け皿をつくり、エビデンスを積み上げること、農医連携による実際の結果を検証するためのフィールドづくりは、とても現実的・行動的なもので素晴らしいものだと感じました。せっかくこの授業を受けることができ農医連携に取り組む大学に入学したのだから、これからの大学での学業を通して、より農医連携に対する理解を深めます。そして最終的には高い意識をもち、農医連携を通し社会に貢献できる行動が出来る人間になろうと強く思いました。

T嬢のレポート:農医連携の問題は今回の授業で改めて実際の私たちの生活に密接な学問なのだなと分かりました。先生がおっしゃったように今の病院では体調を崩して病気になってから治療を行うスタイルであり、予防については意識がとても薄いと感じました。現在の傾向として生活習慣病や糖尿病といった慢性疾患が多くなっているというのであれば、なおさら、健康なうちからの積極的健康増進や予防が大切なのだと思います。また慢性患者は治療に時間がかかり、お金もかかります。そういったことからも、日本の国民保険費が増加し、社会的な負担となっているので、国民全員が考えていかなければならない学問分野だと思いました。

「分離の病」について、私も昔から疑問に思うことがありました。私たち人は、動物と人を分け、自然と人を分けてきたと思われます。そうしたことで社会的には効率が上がり、経済を発展させてきたのも事実ですが、自殺やうつ病といった精神病が増加したのも、自然と分離したことで自然の中の動物であるという普通のことから抵抗したことが原因なのではと思いました。またそういった分離をすることでそこに優劣が生まれているように感じます。農より医の方が優とされる意識があるから病院へ行って薬をもらえば治るという認識があると思います。しかし本当は「医食同源」という言葉もあるようにそこには優劣はなく、普段の食事や生活環境も含めて農だと考えたら、本当に計り知れないくらい健康に影響を与えるものです。

自然界の中には境界線はなく分離が必要とされていないことから、私たち人間にも境界線をおくことに良いことはないのではないかと思います。医学の外でも内科・外科・精神科など事細かく分かれていますが、人間の体だって自然の中の一部だから境界線はありません。そう考えると、統合医療の重要性も感じますし、生きがい支援や予防医学も一体となって医学が成り立ち健康を維持、増進していく必要性を感じました。根治治療も大事ですが、その根っこには何かしらの原因があり、その原因は私たち一人一人の日常生活の何かに隠されている農の部分であるとすると、医と農は切っても切り離せない関係なのだなと改めて感じました。

Y嬢のレポート:農医連携は今私が最も興味を持っている分野で、北里大学に入学し動物資源科学科を専攻した理由でもある。だが、講義の始めから自分の理解や知識はまだまだ浅いと痛感した。「農医連携は単に農業と医療を連携する事業を目的とするものではない」講義の始めから自分の思い描いていた農医連携と違いを感じた一文である。「農医連携」とは、農・医・環境の専門分野を俯瞰し現代の閉塞状況に突破口を開く新しい学術を生み出そうというものであった。私は、農医連携をすごく狭い範囲でしか見ていなかったと分かった。そして、現代の病気の傾向は臓器や遺伝子等の生体に限定されず、心理・社会・環境、そして道徳(人格や倫理観)などが複雑に絡み合って起こっている。つまり現代こそが農医連携を確立しなければいけない時期であると私は思う。

私が農医連携と聞いて一番初めに頭に浮かぶことは「動物介在療法(活動)」である。まだ日本では発達していないが、最近では海外で医療に動物が活躍し始めている。しかし医療側の専門職(医者や看護師、ソーシャルワーカー)、作業・心理・言語療法士などと動物側の専門職(獣医師・訓練士)が協力しなければ成り立たないため、スムーズにいかないのが現状である。ただ、私は医療としての確立に時間はかかるかもしれないが、動物介在活動はすぐ身近にあるのではないかと思う。実際私は、乗馬を体験して馬たちに心を癒してもらったことがある。馬と触れ合っているときは、もやもやした気分を忘れられ、馬が自分の心を開いてくれた気がした。また、練習に参加することでインストラクターの方や周りの人たちと話すことが多くなり、人との関わりが感じられた。

他にも、保険診療として認められていないが、食養生・運動・転地療養・ハーブ医療・マッサージ・音楽療法・園芸療法・森林療法・傾聴カウンセリングなどは心身医学アプローチとしての効果が期待され、検証の場が必要とされている。医療と言われると堅苦しい気もするが、このような療法は普段の生活でできるチャンスがあると思う。医療として確立するまで、そういった体験ができる機会が増えていってほしいと思う。

農医連携が理論や医療の枠を超えて、社会という大きな舞台で効力を発揮するかどうかは、専門家ばかりでなく、多くの国民の行動や意識が大切である。私は、農医連携ということを大学で学んだからには、まだ知らない人々に広めていきたいと改めて思った。いのち(医・農・地)をつなぐ。私はこの言葉がすごく素敵だと思う。日本の統合医療はまだ個人的な動きでしかないが、人間と自然や食農を統合したり、心と体を統合したりすることはとても重要であると多くの人に感じてほしい。

農医連携を心した人びと:12. アルバート・ハワード(1873-1947)
インドで学ぶ
アルバート・ハワードは、世界における有機農業運動の創始者であった。彼はインドにおいて、25年もの長い間にわたって農業研究に従事した。はじめは中央インドおよびラージプターナの州の農業指導者として、後にインドールにおいて植物産業研究所の所長として働いた。そこで、東洋の伝統的な堆肥作りを近代科学の基盤で再構築した新たな堆肥づくりの手法、インドール方式を築き上げた。

ハワードはすぐれた研究者であると同時に、途上国の農業問題一般にも関心が深く、これらの問題にも積極的に取り組んだ。多くの研究が専門化、細分化される状態に早くから見切りをつけた。現場とは異なる研究所や試験場で栽培された作物の研究でなく、実際の農地に出かけ、現実の畑で健康な作物を栽培するための研究を続けた。北里柴三郎のいう実学である。

彼が教えを仰いだ師は、インドの農民であり、人びとが害虫や雑草と呼ぶ動物や植物であった。ハワードは自然を「最高の農業者」と敬い、インドの農民たちを重要な研究の顧客と見なしたのである。また、害虫や雑草を「農業の教授たち」と呼んでいた。自然生態系の中で、自然が害虫にどのような役割を負わせているかを注意深く観察し、研究を進めた。研究の結果を農業生態系で活用することによって、農場の害虫は自然と姿を消した。また、彼が栽培する作物も飼育する家畜たちも、病害虫の被害を受けない健康な生体を獲得していった。

土壌と健康
「ハワードの有機農業」という本の原題は、もともとは "The Soil and Health"、すなわち「土壌と健康」である。彼の出版した「農業聖典:An Agricultural Testament」には、土壌と健康に関する要約がある。この要約を以下に紹介して、ハワードの有機農業の紹介に代える。

  1. すべての生物は、生まれながらにして健康である。
  2. この法則は、土壌、植物、動物、人間に当てはまる。これら四つの健康は、一つの鎖の環で結ばれている。
  3. この鎖の最初の部分の環(土壌)の弱点または欠陥は、環をつぎつぎとつたわって最後の環、すなわち人間にまで到達する。
  4. 近代農業の破滅の原因である広範に広がる植物や動物の害虫や病気は、この鎖の第二環(植物)および第三環(動物)の健康の大きな欠陥を示す証拠である。
  5. 近代文明国の人間(第四環)の健康の低下は、第二、第三の環におけるこの欠陥の結果である。
  6. あと三つの環の一般的な欠陥は、第一の環である土壌の欠陥に原因があり、土壌の栄養不足な状態がすべての根源である。健康な農業を維持できないことは、われわれが、衛生や住居の改善、医学上の発見でえた利益のすべてをだいなしにしてしまうものである。
  7. ひとたびこの問題に関心を向けるならば、われわれが歩んできた道を引き返すことはそれ程困難なことではない。われわれは自分の指示を心にとどめ、自然の厳然たる要求に従わなければならない。その要求とは、a)すべての廃棄物を土地に還元する。b)動物と植物を同居させる。c)植物栄養に対する適正な保全機能を維持する。すなわち菌根の共生を妨げてはならない、ということである。このように自然の法則に進んで従うならば、農業の反映をつづけるばかりではなく、われわれ、また子孫の健康増進というはかりしれない資産の形で速やかに報酬を受けることになろう。

参考資料
  • アルバート・ハワード:ハワードの有機農業 上・下、横井利直ら訳、人間選書、日本有機農業研究会(2002)

本の紹介 70:ドキュメント東日本大震災 救助の最前線で:Jレスキュー編、イカロス出版(2011)
3月11日14時46分、国内観測史上最大となるマグニチュード9.0の大地震発生。この地震直後、想定を超える巨大津波が東北地方の太平洋沿岸地域の町々をのみこんだ。長く壮絶な戦いの始まりであった。と、始まる本書には、前書きも後書きもなく、まさにドキュメント(記録)が18題掲載されている。ドキュメント本の紹介であるため、紹介もドキュメント風にタイトル(表題)と要約のみを坦々と記述する。なお本書には「求められていたのは、医療の長期支援だった」と題して、北里大学医療支援チームの紹介もある。

「原発放水、ヒーローたちの恐れと覚悟」:緊急消防援助隊 東京都隊 消防救助機動部隊 活動地/福島県 福島第一原子力発電所:中村純一郎。もはや一刻の猶予も許されない状況の原子炉建屋に最初の高所放水。死の光線が降り注ぐ現場で活動したハイパーレスキュー隊の証言。

「すべてが流され消防庁舎も失った」:岩手県陸前高田市 陸前高田市消防本部:岩崎 亮 消防庁舎を失った陸前高田市消防本部は今、仮庁舎で市民の要請に応えながら再起を目ざす。

「最前線で闘った消防団の苦悩」:岩手県陸算高田市 陸前高田市消防団 高田分団:大阪 淳。津波災害で町が壊滅した地域では、かつての町の姿と住民の生活を知る消防団が大きな力となった。

「想定外の連続の中で迫られた幹部の決断」:宮城県仙台市 仙台市消防団:藤原 浩・大久保俊幸・芳賀丈夫・遊佐 茂・川島 哲。市街地の地震災害、津波が襲いかかる沿岸部、ヘリポートの水没、さらに製油所の爆発火災...緊急事態が次々に発生した。

「町民を救った攻めの避難誘導」:宮城県亘理郡亘理町 亘理地区行政事務組合消防本部・亘理町消防団:森 義重・長谷川正悦・山本良一。内陸部深くまで津波が浸食していった平坦な沿岸地帯。消防職員、消防団員は住民たちをどう助けたか。

「統括というミッション」:緊急消防援助隊 指揮支援部隊長(岩手県) 名古屋市消防局。活動地/岩手県:伊藤悦三。岩手県における緊急消防援助隊の指揮支援部隊長をつとめた名古屋市消防局は、発災の翌朝、岩手県庁に入った。

「火災は異常な速さで燃え広がった」:緊急消防援助隊 東京都隊。活動地/宮城県気仙沼市鹿折:下山正敏。津波に続き、大火災にも襲われた気仙沼市の沿岸部。百戦錬磨のハイパーを困惑させた「津波火災」との闘い。

「総勢800名による大捜索」:緊急消防援助隊 大阪府隊 大阪市消防局。活動地/岩手県釜石市、大槌町:高田敦史・武村健一郎。105隊の大集団で陸路約1000キロを移動。30時間以上かけて入った被災地で大阪府警が活動を開始した。

「救急隊、100隊体制で福島県に結集」:緊急消防援助隊 指揮支援部隊長(福島県)千葉市消防局。活動地/福島県:穴倉 操・大野新治・小圷 博。福島第一原発の爆発で屋内退避令。ミッションは地域の入院患者・高齢者の搬送だった。

「64名を救出したヘリコプター」:緊急消防援助隊 航空部隊 愛知県防災航空隊。活動地/宮城県沿岸部:布川賢治。泥の海に取り残された人々。最初の3日間、被害者の捜索と吊り上げ救助に徹した航空機の経験。

「沿岸を徹夜で往復した救出ミッション」:陸上自衛隊 東北方面ヘリコプター隊。活動地/宮城県沿岸部:前濱嘉和・嶺 和晃・高橋宏彰。他機関のヘリが撤収した日没後、夜を徹して人々の救出にあたった部隊があった。地元・霞目駐屯地の陸自ヘリ部隊である。

「できることを精一杯やるしかなかった」:緊急消防援助隊 航空部隊 鳥取県消防防災航空隊。活動地/宮城県石巻市:中園和秀。地図の通用しない破壊された被災地を飛び、消防防災ヘリは賢明に救助し、被災者を搬送した。

「"女房役"が語るもうひとつの現地活動」:緊急消防援助隊 埼玉県隊後方支援部隊 さいたま市消防局。活動地/岩手県陸前高田市 福島県本宮市・福島市:澤田竜一・高野 稔。2ヶ月半の長きに及んだ活動。現地での活動隊員の生活全般を支えた後方支援隊。

「"消防への信頼"を整備で支える」:東京消防庁 整備工作隊。活動地/宮城県気仙沼市 福島第一原発 千葉県市原市:久保田恭弘・芹澤宏幸。延べ511台の消防車両を支援に送り出した東京消防庁。彼等の活動を裏で支えたのが、整備工作隊の技術力である。

「被災地病院で災害と闘う医師」:岩手県大船渡市 岩手県立大船渡病院:山野目辰味。いつかは大津波がくると備えていた災害医療。その「いつか」は突然やってきた。

「発災当日に駆けつけた医療チームの4日間」:DMAT(災害派遣医療チーム) 山形県・日本海総合病院。活動地/宮城県仙台市・石巻市:緑川新一。震災直後に大量発生する重傷者を救うDMAT(ディーマット)。2万人が犠牲になった今回の災害で、新たな課題に直面した。

「求められていたのは医療の長期支援だった」:北里医療支援チーム(北里大学病院)。活動地/岩手県大船渡市:竹内一郎。破滅状態の医療体制をいかに支援し、再構築していくか。その方策は大きな課題である。

「日本で初めての公的災害救助犬出動」:警察庁派遣救助犬部隊 NPO法人救助犬訓練士協会(RDTA)。活動地/宮城県名取市閑上地区 亘理郡山元町・亘理町:村瀬英博。警視庁、海上自衛隊が初めて救助犬を派遣! 救助犬に出遅れた日本が記した歴史的な第一歩。

本の紹介 71:糖尿病、認知症、骨粗しょう症を防ぐミネラルの働きと人間の健康、渡辺和彦著、農山漁村文化協会(2011)
筆者は20代の終わり頃、土壌や植物の重金属の研究をしていた。この本の著者は、その頃からの研究仲間である。著者はこれまで、「原色:生理障害の診断法」「原色:野菜の要素欠乏・過剰症」「作物の栄養生理最前線」「ミネラルの働きと作物の健康」「わかりやすい園芸作物の栄養診断」など、現場で実践できる分かり易い本を書いてきた。これらの本のなかには、韓国語に訳されたものもある。

植物生理学を学び、それを兵庫県農業試験場の研究員として実践した農学研究の第一人者が、農作物のとくにミネラルの栄養生理を人間の体の栄養生理と結びつけ、最新の研究をもとに執筆したこの本は、まさに農医連携のすぐれた指導書といえる。各章の表題そのものが、すぐに役にたつ。

第1章の表題は「お米や野菜のミネラルが骨をつくり、認知症を防ぐ」で、「その1:明らかになってきたケイ素やホウ素のすごい働き」「その2:マグネシウム、カリウム、葉酸も骨つくり、認知症防止に大きな役割」が項目である。内容は、それらのことを詳細に証明するデータで満ちている。

第2章は「日本人はマグネシウム不足‐メタボや生活習慣病はマグネシウムで防げる‐」で、項目は「不健康の原因はマグネシウム不足」「作物のマグネシウム不足はなぜ?」「日本人のマグネシウム不足はなぜ?」「マグネシウムの働き‐不足が招く障害、病気」「さらに深刻なのは活性酸素の発生」「こんなにある! 人体へのマグネシウムの効果」「マグネシウムを十分とるために」に分れている。最近の専門の研究成果(Physiol. Plant, 133, 692, 2008)を駆使して、分かり易く説明してくれる。

第3章は「『元気で長生き』するために」で、「その1:『元気で長生き』する食生活とは?」では、若いときから日本型食生活が大切で、脂肪摂取の常識はまちがっていたことが説かれる。また、短命化、総アレルギー時代を克服する方法が語られる。「その2:寿命宣告された高齢者が亜鉛でお元気に!」では、食べ物が亜鉛不足になっていること、高齢者の亜鉛欠乏のこわさ、亜鉛がよくとれる食事について紹介している。また、上手に塩を減らし高血圧を防ぐこと、クロムやセレンなどの微量元素も不可欠であること、などが語られる。

第4章は「人間は何歳までいきられるか」「植物にない糖尿病が人間になぜ?」「糖尿病とその合併症のこわさ」「糖尿病対策その1:いちばん大事なのは『有酸素運動』」「糖尿病対策その2:ミネラル、なかでもマグネシウムをとる」「糖尿病対策その3:ストレスを減らす」からなる。前のふたつの項目「人間は何歳までいきられるか」「植物にない糖尿病が人間になぜ?」は、だれでも関心が深いだろう。答えは、この本をお読みくださればわかる。研究仲間の本を読者に買ってもらいため紹介しない。あしからず。ただし、この本の著者がその年まで生きておられるかどうか?保証の限りではない。

ミネラルの役割をまとめよう。
ケイ素:骨作りにカルシウム以上に働き、骨粗鬆症を防ぐ。コラーゲン合成にも必要で皮膚の若さを保つ:玄米、大麦、大豆、お茶、海草、貝類、ビール、ワインなどに多い。

ホウ素:骨のカルシウムを増やす。高齢者の記憶をよくし(アルツハイマー病)防止に大きな役割:大豆、海草、野菜、果物に多い。

マグネシウム:糖尿病、メタボ、脳梗塞、生活習慣病などを防ぎ、便秘や頭痛にも。加工食品の摂取増で現代人はマグネシウム不足:玄米(胚芽米、白米にも)、豆類とその加工品、にがり、魚貝類などに多い。

葉酸:健康な赤ちゃんの出産、貧血、動脈硬化、認知症の予防、骨形成にも効果:大豆、枝豆、ほうれん草、ブロッコリーなどに多い。 

亜鉛:不足すると、食欲不振、床ずれ、皮膚障害、高齢者の元気のなさなどの原因に:発芽玄米、納豆、味噌など、また肉にも多い。

本の紹介は、この辺りで終わるが、話はここで終わらない。ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner)に登場していただく。シュタイナーについては前号の「情報:農と環境と医療 65号」で紹介した。現在のクロアチア(オーストリア帝国、オーストリア・ハンガリー帝国)出身の神秘思想家で、アントロポゾフィー(人智学)の創始者である。ウイーン工科大学で、自然科学・数学・哲学を学んだ。人間を身体・心魂・精神の存在としてとらえる独自の科学である人智学を樹立した。

彼の仕事を医学の視点からみれば、霊学に基づく医学に関心があった。オランダの女医イタ・ヴェーグマン博士の主導で、「臨床医療研究所」や製薬施設を作った。治療法や薬剤に関する示唆は多くの医師の関心を呼び、研究が行われ、様々な国で薬剤が生産されるようになった。その一つが、現在シュタイナーの理念に基づいて、自然の原料のみを使った化粧品や食品を製造している会社「Weleda」(ヴェレダ)である。

農業ではバイオダイナミック農法を提案した。天体から地球上の生命に影響を及ぼしている宇宙的な生態系の原理に従い、土壌、鉱物、植物、動物などの全体的関連を考慮する農法である。有機体としての農場とその周辺におけるさまざまな要素、すなわち作物、耕作地、草地、森林、家畜、調合剤、肥料などの関連性を調整し、要素間の適正なバランスをつくりだすことを重視している。

彼の著書に「農業講座:Landwirtschaftlicher Kursus、新田義之、イザラ書房、2000」がある。

そのなかの第一講「講座のための前置きと導入」に、渡辺和彦氏が解説しているケイ素の話が出ている。今から88年も前の1924(大正13)年のことである。講座の全体の流れのなかで、ケイ素がどのように語られるかを引用しなければ正確な理解につながらないが、紙数の関係で以下に要点だけを紹介し、過去にもケイ素の重要性を説いた巨人がいたことに、思いを馳せる。

「天体との関連をもつ生命、つまり地球上の生命と惑星の関係について述べてみようと思います。・・・・この地上の生の中で非常に大きな役割を果たしているのが、ふつうケイ素化合物と呼ばれているいっさいのものであるという事実に着目しなければなりません」

「この物質は一般的につきなみで表面的な見方をした場合、見たところ生命条件にはほとんど何の関係もないように思われます。しかしみなさんがスギナをお調べになりますと、その成分の90パーセント(灰分中の割合)はケイ酸であり、・・・・・・じつに私たちが地球上で出会うものの半数近くが、ケイ石からできているのであります」

「もし私たちが地球上に現在の半分しかケイ素をもっていなかったとするならば、どうなるでしょうか。そのときには地球上の植物はすべて、多かれ少なかれ角錐に似た形態をとることになるでしょう。花はすべて萎縮してしまい、私たちにとってたいへん異常に見えるあのサボテンの形が、ほとんどすべての植物の形態になるでしょう」

言葉の散策 35:心・身心一体
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る

情報65号の『言葉の散策 34:「生き物」「生命」「いのち」「身命」「身」「化け物」』では、身心・心身の身について記した。今回は身心・心身の心について考えてみる。身と心が健全ではじめて人は健康を維持できる。

「身心一体・心身一体」という言葉がよく使われる。身と心、心と身は分離できないということであろう。日常よく使われるが、小学館の日本国語大辞典の項目に「心身・神身」「心神」「身心・身神」「神心」はあるが、「身心一体・心身一体」はない。岩波書店の広辞苑の項目に「心身」「心神」はあるが、「身心」と「身心一体・心身一体」はない。

日本国語大辞典の「身心・身神」では、1)身体と精神、からだとこころ、心身、心人、2)からだ、身体、心をあわせもつからだ、などとある。「心身・神身」は、(古くは「しんじん」とも)「身心」に同じ。「心神」は、こころ。精神・気分。気持。魂。神心、とある。「神心」は「心神」と同じ、とある。

広辞苑の「心身」の項目は、(古くはシンジンとも)精神と肉体。こころとからだ。身体、とある。「心神」は、こころ。精神。たましい。身心に同じ、とある。

「身心」「心身」ともども、読みは「しんしん」であるから、こだわる必要もないかと思い、明治37年版「言海」を開いたら「心神:ココチ。精神」だけである。大正14年版「廣辭林」には、「心身:心神と身體と。こころとからだと」と「心神:こころ。たましひ。精神」がある。どうやら時代の流れは、「心身」から「身心」に移行したようである。

ここで「身心・心身」の「心」は、「精神」と同じ意味を持つ。日本国語大辞典の「精神」には、1)心。また、心の働き。肉体に対し、形而上的な働きをする実態としての心。2)物質的なものを超越した霊妙な実在。たましい。3)物事に執着する気持ち。目的を達成しようとする心の働き。気力。根気、などとある。「こころ」はふるく古事記に、「精神」はふるく万葉集に出てくる。いずれも古い大和民族の言葉である。

「心」から「精神」までの解説が長くなりすぎた。というのも、世界保健機関(WHO)は、憲章前文のなかで「健康」を「完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」(昭和26年官報掲載)と定義してきたことと、その後のことを説明しようとしたためである。

その後、1998年のWHO執行理事会において「健康」の定義を「完全な肉体的、精神的、spiritual及び社会的福祉のdynamicな状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」に改訂する議論が行われた。しかし結局、この提案は採決に至らなかった。

WHOは上述した健康の定義改訂の議論の前に、すでにスピリチュアリティに関する問題を緩和医療の中で取り上げていた。緩和医療とは「治療を目的とした治療に反応しなくなった疾患を持つ患者に対して行われる積極的で全体的な医療ケアであり、痛みのコントロール、痛み以外の諸症状のコントロール、心理的な苦痛、社会面の問題、spiritual problemの解決が最も重要な問題となる」とあり、スピリチュアルな問題に取り組むことが重要であると明記されている。

スピリチュアルとは、次のように記述されている。「霊的(スピリチュアル)とは、人間として生きるということに関連した経験的一側面であり、身体感覚的な現象を超越して得た体験を表す言葉である。多くの人にとって『生きていること』がもつ霊的な側面には宗教的な因子が含まれているが、『霊的』は『宗教的』と同じ意味ではない。霊的な因子は身体的、心理的、社会的因子を包含した人間の『生』の全体像を構成する一因子とみることができ、生きている意味や目的についての関心や懸念と関わっていることが多い。時に人生の週末に近づいた人にとっては、自ら許すこと、他の人々との和解、価値の確認などと関連していることが多い」。

日本医師会の「2008年版 ガン緩和ケアガイドブック」では、このスピリチュアルな問題に関して「生きている意味や価値についての疑問」と説明されている。「スピリチュアル」という表現は、すでに23年前の1989年にWHO緩和医療とWHOの健康の定義で議論されていた。

健康の定義に「精神」の他に、新たに「スピリチュアル」が胎動している。ここでは「スピリチュアル」については語らない。話を「精神」から再び「心」に戻し、言葉の散策をする。言霊の国といわれるわが国に、「こころ」に関わる言葉がいかに多いかを紹介する。

日本国語大辞典(全10巻)の第4巻の「こころ」の項を引くと、762pから804pまで合計42pに及ぶ。「こころ」に関する語句や格言は、「こころあくがる」から始まり「こころを渡す」までなんと534項目ある。おもしろいのは、「こころ」の後に動詞でも形容詞でも付け加えれば、すぐに語句になるところである。

「こころ」の付く言葉は、「こころ」「こころあい」から「こころわろい」まで併せて411項目ある。「こころかる」「こころかるげ」「こころかるさ」「こころかるし」「こころかろ」「こころかろげ」「こころかろ」「こころかろげ」「こころかろさ」「こころかろし」などはいずれも心軽い意味でヒヤリとする。

「こころざし:志」の項の格言は、豊かな気分になる。「こころざし合えば胡越も昆弟たり」「こころざしあり顔」「こころざしある者は事(こと)竟(つい)に成る」「こころざしは髪の筋」「こころざしは木の葉に包め」「こころざしを立てる」「こころざしを通ず」「こころざしを尽くす」「こころざしを遂げる」「こころざしを養う」など。思い起こすのは、吉田松陰の言葉でもある。曰わく「志を立ててもって万事の源となす書を読みて聖賢の訓を考がう」。

こうして見てくると、青い空があるのは、青い空があるという心があるからだと、つくづく感じる。必ずしもそうではないが、幸福、戦争、平和などの多くの抽象的な概念も、心のあり方で決まるのであろうか。幸福なんぞは、アランの「幸福論」を読んでも、そう簡単に得られるものでもない。

因みに、Oxford Dictionary of ENGLISHの「heart」には、heartaccle, heartheat, heartbreaker, heartbreaking, heartbroken, hearthurn, hearten, heart failure, heartfelt, hearth, hearthrug, hearthstone, heartily, heartily, heartland, heartless, heart line, heart-lung machineなどがある。もちろんこれ以外に、spirit, soul, mind, mentality, moralなどの言葉に、「こころ」の意味がふくまれるだろうが。

いずれにしても、健康にとって「身心一体・心身一体」という言葉を忘れてはなるまい。健康にとって、農が心の癒しの一部を担うことも忘れてはならないであろう。望むらくは、「身心一体・心身一体」という言葉が、辞典に掲載されたいものだが、いかがであろう。

本の紹介:まとめ
一貫した考えもなく一人の人間が、農・環境・医に関わる本をほぼ7年間にわたって75冊ほど紹介してきた。したがって本の内容はさまざまであるが、便宜上、「歴史と原論」「食と農」「健康と医療」「環境」「安全」に分類して本の題名などを以下にまとめた。内容については、北里大学ホームページの「情報:農と環境と医療No.1~No.66」に紹介してある。(https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/index.html)

1.歴史と原論
  • 北里柴三郎:長木大三著、慶應義塾大学出版会(1986年初版、2001年5版)
  • ドンネルの男・北里柴三郎:上・下巻、山崎光夫著、東洋経済新報社(2003)
  • 農業本論:新渡戸稲造著、東京裳華房(1898)
  • 医学概論とは: 澤瀉久敬著、誠信書房(1987)
  • 農学原論:祖田 修著、岩波書店(2000)
  • 医学の歴史:梶田 昭著、講談社学術文庫(2003)
  • 環境学原論‐人類の生き方を問う‐:脇山廣三監修・平塚 彰著、電気書院(2004)
  • 環境の歴史‐ヨーロッパ、原初から現代まで‐:ロベール・ドロール、フランソワ・ワルテール著、桃木暁子・門脇 仁訳、みすず書房(2007)
  • カルテ拝見‐武将の死因:杉浦守邦著、東山書房(2000)
  • 健康の社会史‐養生、衛生から健康増進へ‐:新村 拓著、法政大学出版局(2006)
  • 社会的共通資本:宇沢弘文著、岩波新書696(2000)
  • 大気を変える錬金術‐ハーバー、ボッシュと化学の世紀‐:トーマス・ヘイガー著、渡会圭子訳、白川英樹解説、みすず書房(2010)

2.食と農
  • 葬られた「第二のマクガバン報告」:上巻「『動物タンパク神話』の崩壊とチャイナ・プロジェクト」・中巻「あらゆる生活習慣病を改善する『人間と食の原則』」・下巻「政界・医学界・食品医薬品業界が犯した『情報黙殺』の大罪」、T・コリン・キャンベル、トーマス・M・キャンベル著、松田麻美子訳、グスコー出版(2009, 2010, 2011)
  • 雑食動物のジレンマ‐ある4つの食事の自然史‐:上巻・下巻、マイケル・ポーラン著、 ラッセル秀子訳、東洋経済新報社(2009)
  • フード・セキュリティー だれが世界を養うのか:レスター・ブラウン著、福岡克也監訳、ワールドウォッチジャパン(2005)
  • 日本とEUの有機畜産‐ファームアニマルウェルフェア‐:松永洋一・永松美希編著、農文協(2004)
  • 昭和農業技術史への証言 第四集:西尾敏彦編、昭和農業技術研究会、農文協、人間選書262(2005)
  • 昭和農業技術史への証言 第八集:西尾敏彦編、昭和農業技術研究会、農文協、人間選書272(2010)
  • 農業における環境教育:平成12年度環境保全型農業推進指導事業、全国農業協同組合連合会・全国農業協同組合中央会、家の光協会(2001)
  • A HANDBOOK OF MEDICINAL PLANTS OF NEPAL「ネパール産薬用植物ハンドブック」:渡邊高志ら、Kobfai Publishing Project, Foundation for Democ racy and Development Studies, Bangkok, Thailand(2005)

3.健康と医療
  • こころの病は、誰が診る?:髙久史麿×宮岡 等、日本評論社(2011)
  • メディカルエッセイ集 バビンスキーと竹串:渡辺 良著、かまくら春秋社(2010)
  • 人はなぜ病気になるのか‐進化医学の視点‐:井村裕夫著、岩波書店(2009)
  • ワイル博士の医食同源:アンドルー・ワイル著、上野圭一訳、角川書店(2000)
  • 乳がんと牛乳‐がん細胞はなぜ消えたのか‐:ジェイン・プラント著、佐藤章夫訳、径(こみち)書房(2008)
  • 代替医療のトリック:サイモン・シン、エツァート・エルンスト著、青木 薫訳、新潮社(2010)
  • 自然治癒力を高める生き方:帯津良一監修、NPO法人日本ホリスティック医学協会編著、コスモトゥーワン(2006)
  • 健康・老化・寿命‐人といのちの文化誌‐:黒木登志夫著、中公新書1898(2007)
  • 長寿遺伝子を鍛える:坪田一男著、新潮社(2008)
  • 人はなぜ太るのか―肥満を科学する:岡田正彦著、岩波新書1056(2006)
  • 医療崩壊‐「立ち去り型サボタージュ」とは何か‐:小松秀樹、朝日新聞社(2006)
  • 感染症は世界史を動かす:岡田春恵著、ちくま新書580(2006)
  • 感染爆発‐鳥インフルエンザの脅威‐:マイク・デイヴィス著、柴田裕之・斉藤隆央訳、紀伊國屋書店(2006)
  • 強毒性新型インフルエンザの脅威:岡田晴恵編著、藤原書店(2006)
  • 感染症‐広がりと防ぎ方‐:井上 栄著、中公新書1877(2006)
  • 生きる自信‐健康の秘密‐:石原慎太郎・石原結實著、海竜社(2008)
  • 内臓感覚‐脳と腸の不思議な関係‐:福土 審著、NHKブックス1093、日本放送出版協会(2007)
  • 体の取扱説明書:太田和夫著、産経新聞出版(2007)
  • 腰痛はアタマで治す:伊藤和磨著、集英社新書(2010)
  • アニマルセラピー入門:太田光明監修、NPO法人 ひとと動物のかかわり研究会編、IBS出版(2007)
  • 糖尿病、認知症、骨粗しょう症を防ぐミネラルの働きと人間の健康:渡辺和彦著、農山漁村文化協会(2011)

4.環境
  • 生物学的文明論:本川達雄著、新潮新書(2011)
  • 未曾有と想定外‐東日本大震災に学ぶ‐:畑村洋太郎著、講談社現代新書(2011)
  • 地震の日本史‐大地は何を語るのか‐、増補版:寒川 旭著、中公新書(2011)
  • 生きもの異変‐温暖化の足音‐「生きもの異変」取材班、産経新聞社(2010)
  • 三陸海岸大津波:吉村 昭著、文春文庫(2004)
  • 文明崩壊:上・下巻、ジャレド・ダイアモンド著、楡木浩一訳、草思社(2005)
  • 成長の限界 人類の選択:ドネラ・H・メドウズ著ら、枝廣淳子訳、ダイヤモンド社(2005)
  • 地球白書 2006-07:クリストファー・フレイヴァン編著、ワールドウォッチジャパン(2006)
  • ガイアの復讐:ジェームズ・ラブロック著、秋元勇巳監修・竹村健一訳、中央公論新社(2006)
  • プラン B 3.0 ‐人類文明を救うために‐:レスター・ブラウン著、環境文化創造研究所、ワールドウォッチジャパン(2008)
  • カナダの元祖・森人たち:あん・まくどなるど+磯貝 浩著、清水弘文堂書房(2004)
  • 硝酸塩は本当に危険か‐崩れた有害仮説と真実‐:J.リロンデル/J‐L リロンデル著、越野正義訳、農文協(2007)
  • 環境生殖学入門‐毒か薬か環境ホルモン‐:堤 治著、朝日出版社(2005)
  • 化学物質と生態毒性:若林明子著、産業環境管理協会、丸善(2000)
  • 化学物質は警告する‐「悪魔の水」から環境ホルモンまで‐:常石敬一著、洋泉社(2005)
  • リスク学事典:日本リスク研究学会編、TBSブリタニカ(2000)
  • リスク学事典、増補改訂版:日本リスク研究学会編、阪急コミュニケーションズ(2006)
  • 「猛毒大国」中国を行く:鈴木譲仁著、新潮新書(2008)
  • ダーウィンのミミズ、フロイトの悪夢:アダム・フィリップス著、渡辺政隆訳、みすず書房(2006)
  • 大気を変える錬金術 ‐ハーバー、ボッシュと化学の世紀‐:トーマス・ヘイガー著、渡会圭子訳、白川英樹解説、みすず書房(2010)
  • ドキュメント東日本大震災 救助の最前線で:Jレスキュー編、イカロス出版(2011)

5.安全
  • 緊急改訂版「原子力事故」自衛マニュアル:桜井 淳監修、青春出版社(2011)
  • 安全と安心の科学:村上陽一郎著、集英社新書(2005)
  • 食品安全委員会のこれまでの活動と今後の課題:見上 彪、陽 捷行編著「食の安全と予防医学」、北里大学農医連携学術叢書第6号、養賢堂、1-22(2009)
  • 環境リスク学‐不安の海の羅針盤‐:中西準子著、日本評論社(2004)
  • 「食品報道」のウソを見破る‐食卓の安全学‐:松永和紀著、家の光協会(2005)
  • メディア・バイアス‐あやしい健康情報とニセ科学‐:松永和紀著、光文社(2007)


*本情報誌の無断転用はお断りします。
北里大学学長通信
情報:農と環境と医療66号
編集・発行 北里大学学長室
発行日 2012年3月1日