北里大学

北里大学農医連携教育研究センター

67号(最終号)

情報:農と環境と医療67号(最終号)

2012/6/1
農医連携を心した人びと:古往今来
21世紀の予防医学が掲げる課題に、リスク評価・管理・コミュニケーション、疾病の発生予防、健康の質の増進などがある。これらの医学分野における今日的な課題に対して、農学分野が積極的に取り組むことは、社会の健全な発展にとって極めて重要なことである。「農医連携の科学」の確立と教育と普及が期待されている所以である。

20世紀の技術知が生んだ成果のなかには、われわれが生きていく21世紀の世界に、農医連携の教育、研究および普及が不可欠であることを示唆するものがいくつかある。病気の予防、健康の増進、食品の安全、環境を保全する農業、癒しの農などは、その代表的な事象であろう。そこでは、農と医の知の統合が必要とされている。「医食同源」、「身土不二」および「地産地消」などの言葉があるにもかかわらず、これまで農医連携の教育・研究・普及の重要性についてはそれほど強調されてこなかった。

農と医はかつて同根で、現在でもなお類似した道を歩いている。医学には代替医療が、農学には代替農業がある。前者は西洋医学を中心とした近代医学に対して、それを代替・補完する医療である。後者は化学肥料や農薬を中心とした集約的農業生産に対して、これを代替・補完する農法である。いずれも、生命の探求を基盤にした科学がなすわざであろう。21世紀に入り医学はヒトゲノム、農学はイネゲノムの塩基配列を解読する全作業を完了した。これも農と医がともに生命科学の探求を志している結果である。

農学と医学を連携させることは、健全な食品を食べ健康を維持するという人間の営みの基本に属する事項である。農と医はいずれも生命に関わることであるから、冒頭に述べたようにかつて同根であって類似した歴史を辿ってきた。さらに現在でも、生命科学という類似した道を歩いている。そこで、農と医の連携を心にかけてきた人びとを歴史の視点から追って見る。すでに歴史上の人物の紹介は「情報:農と環境と医療」で紹介した。詳細は解説の後に示したホームページを参照されたい。ここでは簡単に特徴のみを示した。

1.炎帝神農(神話伝説:BC2700頃)
 炎帝神農は中国太古の伝説的な帝王である。農具の発明、有用植物の栽培を指導した。草木をなめて薬草の性質を明解にした。自ら薬草をなめて、一日に70回も毒に当たったと言われる。神話伝説のうえで、農医連携の元祖といえる人物である。https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no61-67/noui_no64.html#p06

2.ヒポクラテス(BC460頃~BC370頃)
ヒポクラテスの次の言葉は、農医連携論を進めるうえできわめて興味深い。「食べ物について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか」。この聖賢の言葉は、次のような言い回しに変えることができる。食べ物は土壌から生産されるので、「土壌を知らない人が、人の健康について理解できようか」。食べ物は、水と土壌と大気から生産されるので、「水と土壌と大気を知らない人が、どうして病気について理解できようか」「食をして薬となし、薬をして食となせ」「基本的に二つのことがある。すなわち知ることと、自分が知っていることを信じることである。知ることは科学である。信じることは無知である」など経験科学への出発点がここにはある。古代ギリシャの医者。エーゲ海のコス島に世襲制の医者の子として生まれた彼は、各地で医学を学んだ。https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no61-67/noui_no64.html#p07

3.フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796-1866)
シーボルトは農医連携を心した学者。「シーボルト・日本植物誌‐本文覚書篇‐」と「シーボルト‐日本の植物に賭けた生涯‐」が証明。植物の育種法、栽培法、肥培管理、立地条件、土壌条件など研究。同時に、刺激剤、下痢、発汗薬、通経剤、水腫、間欠熱、虫下しなど各種植物の薬剤としての活用を研究し普及につとめた。農医連携の普及の原点でもある。https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no31-40/noui_no38.html#p05

4.ユストゥス・フォン・リービヒ(1803-1873)
 実験化学者、分析化学者、有機化学者、農芸化学者、化学教育者、栄養学者と呼ばれる多面的な科学者。さらに動物化学、生理学、病理学に関わる科学を習得。これらに関する著作の「生理学および病理学に応用する有機化学」には、動物の呼吸、新陳代謝、栄養についての化学的な解釈が詳細に書かれている。人間の栄養に関わる健康について関心が深かった。 https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no31-40/noui_no39.html#p07

5.北里柴三郎(1853-1931)
 「医道論」は、医の基本は予防にあるという信念を掲げ、広く国民のために学問の成果を用いるべきことを主張している。学問と実践を結びつけた実学の思想がある。コレラ調査に出かけた長崎では、町の道路、井戸、排水の状況など病気が発生した路地裏の環境を的確に観察している。寄生虫による肝臓ジストマ症について、肝蛭(かんてつ)の肝臓への伝染経路を紹介している。これは、環境を観察する鋭い視点から得られた成果である。その結果、この肝蛭を有する蝸牛を食する羊に注意を促すことを指摘している。環境を通した農と医の連携の必要性が説かれている。 https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no61-67/noui_no64.html#p08

6.ルドルフ・シュタイナー(1861-1925)
 現在のクロアチア(オーストリア帝国、オーストリア・ハンガリー帝国)出身の神秘思想家。アントロポゾフィー(人智学)の創始者。ウイーン工科大学で、自然科学・数学・哲学を学ぶ。人間を身体・心魂・精神の存在としてとらえる独自の科学である人智学を樹立した。シュタイナーの精神科学は、学問の領域を越え、世界各地に広がっている。教育運動をはじめ、治療教育・医学・農学・芸術・建築・社会論などのさまざまな社会的実践の場で、実り豊かな展開を示している。農業ではバイオダイナミック農法を提案した。これは、天体から地球上の生命に影響を及ぼしている宇宙的な生態系の原理に従い、土壌、鉱物、植物、動物などの全体的関連を考慮する農法である。人間の健康も農業生産物に影響されるという。 https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no61-67/noui_no65.html#p03

7.新渡戸稲造(1862-1933)
 「農業本論」の第五章で「農業と国民の衛生」と題して「農業は健康を養う説」「農業は長命なる事」「医薬の効能田舎に著しきこと」「都鄙に於ける死亡者の割合」「都鄙に於ける嬰児の夭死」「都鄙に於ける男女の健康」「田舎生活は女子に適せざる理由」「都鄙に於ける女子の生殖力」「田舎は強兵供給の泉源なる事」「過度の労働は農民を害ふ事」について語る。これらの項目の中から彼の言葉を二、三紹介。熊澤蕃山(著書:大学或問)と小川顕道(著書:塵塚談)の士農と出生国別のデータ例から、農は健康を助ける職業であると証明する。農業は筋肉を動かし、胸‐E肺臓の為に益あり、脳髄が発達し、神経組織を強壮ならしむと結論している。 https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no11-20/noui_no12.html#p05

8.アレキシス・カレル(1873-1944)1912年:ノーベル生理学・医学賞
 「土壌が人間生活全般の基礎なのであるから、私たちが近代的農業経済学のやり方によって崩壊させてきた土壌に再び調和をもたらす以外に、健康な世界がやってくる見込みはない。生き物はすべて土壌の肥沃度(地力)に応じて健康か不健康になる」「化学肥料では土壌肥沃土を回復させることはできない」「文明が進歩すればするほど、文明は自然食から遠ざかる」と述べている。農と環境と医療が連携していることを早くから指摘した人である。 https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no1-10/noui_no05.html#p01

9.アルバート・ハワード(1873-1947)
ハワードは、世界における有機農業運動の創始者であった。彼はインドにおいて、25年間もの長い間にわたって農業研究に従事した。東洋の伝統的な堆肥作りを近代科学の基盤で再構築した新たな堆肥づくりの手法、インドール方式を築き上げた。著書「ハワードの有機農業」の原題は、"The Soil and Health"すなわち「土壌と健康」である。また「農業聖典:An Agricultural Testament」には、土壌と健康に関する以下の要約がある。
1)すべての生物は、生まれながらにして健康である。
2)この法則は、土壌、植物、動物、人間に当てはまる。これら四つの健康は、一つの鎖の環で結ばれている。
3)この鎖の最初の部分の環(土壌)の弱点または欠陥は、環をつぎつぎとつたわって最後の環、すなわち人間にまで到達する。
4)近代農業の破滅の原因である広範に広がる植物や動物の害虫や病気は、この鎖の第二環(植物)および第三環(動物)の健康の大きな欠陥を示す証拠である。
5)近代文明国の人間(第四環)の健康の低下は、第二、第三の環におけるこの欠陥の結果である。
6)あと三つの環の一般的な欠陥は、第一の環である土壌の欠陥に原因があり、土壌の栄養不足な状態がすべての根源である。健康な農業を維持できないことは、われわれが、衛生や住居の改善、医学上の発見でえた利益のすべてをだいなしにしてしまうものである。
7)ひとたびこの問題に関心を向けるならば、われわれが歩んできた道を引き返すことはそれ程困難なことではない。われわれは自分の指示を心にとどめ、自然の厳然たる要求に従わなければならない。

その要求とは、a)すべての廃棄物を土地に還元する。b)動物と植物を同居させる。c)植物栄養に対する適正な保全機能を維持する。すなわち菌根の共生を妨げてはならない、ということである。このように自然の法則に進んで従うならば、農業の反映をつづけるばかりではなく、われわれ、また子孫の健康増進というはかりしれない資産の形で速やかに報酬を受けることになろう。 https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no61-67/noui_no66.html#p03

10.岡田茂吉(1882-1955)
 土壌が本来もつ生育力を高めるために、化学肥料や農薬という自然に反する化学物質を用いず、土壌を清浄化させ、自然力を高めることによって、大自然の摂理に適った生産方法、すなわち自然農法を確立した。これは、農業生産の分野に止まらず、土壌・大気・水質の汚染防止や地球環境の保全、さらには人間の健康の維持の視点からも有効な手段となった。こうして生産された農産物は、あるいはこれを原料に化学物質を用いないで生産された食品を摂取することで、人間は健康へと導かれ、生命は健全に維持されることになる。 https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no61-67/noui_no65.html#p04

11.吉岡金市(1902-1986)
 吉岡は岡山県井原市の農家の息子として明治35(1902)年に生まれ、京都帝国大学を卒業。専攻は農林経済学。倉敷の労働科学研究所で労働生理学、産業衛生学、労働医学、労働技術学を研究。農学博士・医学博士・経済学博士。幼少の頃から体験した農業現場での重労働が、農業改革を妨げる最大の障害であることを実感していた。
 吉岡の関心は農家の生産と経済と労働の問題だった。しかし農民の生の豊かさを望む吉岡の関心は、時代の変遷とともに人と環境の健康に移った。神通川水系のカドミウム公害を追求し、イタイイタイ病の研究に大きな業績を残す。昭和36(1961)年に刊行された吉岡金市著「神通川水系鉱害研究報告書‐農業鉱害と人間公害(イタイイタイ病)」は、日本で初めてカドミウム公害を明らかにした科学的な報告書。この報告書により、イ病の原因がカドミウムによることが明確になった。 https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no1-10/noui_no06.html#p01

12.アンドルー・ワイル(1942- 現在)
 実践的研究から代替医療・薬用植物・変性意識・治癒論の第一人者となる。アリゾナ大学統合医学プログラム理事。アリゾナ大学教授。世界各地の伝統医療と西洋近代医学を統合する「統合医療」の世界的権威である。統合医療医学博士の称号を持つ。『医食同源』『人はなぜ治るのか』『癒す心、治る力』『心身自在』など世界的ベストセラーの著者でもある。
 彼の著書『医食同源:Eating Well for Optimum Health』は、健康と食生活に関する情報の混乱を整理し、食生活に明解な指針を提供するために書かれたものである。「医食同源」は「健康な食生活は健康なライフスタイルの礎石である」という信念と結びついている。 https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui/spread/newsletter/no61-67/noui_no65.html#p05

土壌と健康 3.土壌疫学システムは存在するか?
Soil and Culture(2010年)と題する本が、Edward R. LandaとChristian FellerによってSpringer社から出版された。前者はミネソタ大学で土壌科学を学び博士課程を修了し、アメリカの地質調査所に勤務している。後者はソルボンヌ大学で有機化学の学位を取得している名誉土壌学者である。

この本は、「Soil and the Visual Arts:土壌と視覚芸術」「Under My Feet - Soil Presence and Perspectives in the Work of Four Contemporary Visual Arts:4つの現代視覚芸術に見る土壌の臨場的・眺望的視点」「Soil and Soul: Literature and Philosophy;土壌と霊魂:文学と哲学」「Perspectives on Soil by Indigenous and Ancient Cultures:古来からの文化による土壌の見解」「Soil and Health:土壌と健康」「Soil - The Dark Side and the Light Side:土壌の影と光」の全6部からなる。このうち「Soil and Health:土壌と健康」の第5部は、「Soils and Geomedicine: Trace Elements:土壌と地理医学:微量要素」「Do Pedo-Epidemiological Systems Exist‐:土壌免疫学システムは存在するか?」「Earth Eaters;Ancient and Modern Perspectives on Human Geophagy:"アースイーター":食土に関する古代および近代の視点」の3章に分かれている。

「情報:農と環境と医療 60号」では、「Soil and Health:土壌と健康」の中の「Soils and Geomedicine: Trace Elements:土壌と地理医学:微量要素」を、「情報:農と環境と医療 61号、62号、64号」では、「Earth Eaters;Ancient and Modern Perspectives on Human Geophagy:"アースイーター";食土に関する古代および近代の視点」を紹介した。今回は、残りの「Do Pedo-Epidemiological Systems Exist‐:土壌免疫学システムは存在するか?」を紹介する。

まえがき
人間の健康は専門家の扱う分野だが、万人の関心事でもある。さまざまな媒体に情報や分析結果があふれ、私たちが受ける健康被害について、誰もが正否を論ずることができるようになった。平行して、実験・調査技術の進歩、生物学と医療分野における劇的な知識量の増加によって研究が分割していき、病原体システムの全般的な理解が困難になっている。この二重構造の結果、リスク要因と医学的影響の単純な関係が頻繁に分割され、学問領域の専門分野に則ったアプローチによりさらに細分化されてしまう。健康被害の発生および様態は、時間と空間によって変動するので、原因と結果という単純な関係によって被害が語られる機会はほとんどない現実がある。

フランスでは、1970~1980年モンペリエ大学(Montpellier University)のH.Picheral教授(健康地理学)が、1つの新しい概念すなわち病原体システムを構築した。彼によると、病気は複数の相互作用の結果であり、空間の物理的・社会的構造を現しているものだという(Picheral, 1983)。したがって、健康地理学の初期の研究目的は、空間・社会・時間による病気の変動性とその要因の解明にあった。疫学と共通する部分も一部あるが、最終的な目的は、異なる空間でどのようにして病気のリスクが発生するのか、そして病原体システムがいかにして機能するのかを理解することである。彼は主な病原体システムを次の4つに分類した。
  • 生態環境‐病原体システム(環境が重要な役割を果たす。例:アフリカトリパノソーマ症と植生)
  • 技術‐病原体システム(技術と産業の発達がリスクを説明する上で重要である。例:ダイオキシンとがん)
  • 社会‐病原体システム(挙動がリスクの説明上重要である。例:アルコール依存症)
  • 遺伝学的‐病原体システム(例:血友病)

そこで、この章は以下の質問による枠組みで構成する。
  • 大規模な病原体システムのグループ内で、健康被害の変動性を説明する上で優位な役割を果たす土壌疫学システムを特定することができるか。あるいは、少なくとも注目に値すべき役割を担う土壌を特定できるか。
  • 土壌の視点から予防的措置または治療行為を実施することにより、その影響を低減させることが可能な土壌疫学システムは存在するか。

土壌と健康被害への影響:概略調査
土壌と健康の関わりについては、多くの文献がある(Oliver 1997; Abrahams 2002; Sanchez 2002; De Silva 2003; Brooker 2006; Lal 2007)。

これらの文献からわかるように、土壌は、吸入、摂取、または直接接触すると潜在的にヒトに対して毒性がある構成要素からなる混合物だと考えられている。ラドン、鉛、クロム、アルミニウム、ヒ素、カドミウム、そして水銀がよく引き合いに出される。専門家の間では、土壌構成要素の潜在的な毒性が問われているのではなく、ヒトと動物にとっての閾値と容認可能な濃度について鋭い議論が交わされている(Glorennec 2005)(Steinnesによる本巻第21章を参照)。このような閾値などの議論においては、土壌の特性を十分に考慮しなければならない。たとえば、土壌の酸性度は微量元素とアルミニウムの不溶化や可給態に関する極めて重要な特性要因である(例:Cambier 1994)。

他の例では、土壌はヒトとヒトの健康の関わりに積極的な役割を果たす。土壌の役割は受動的で、単なる支持母体でもある。土壌は、寄生生物が生息する媒体となりうる。腸内寄生生物による病気の多くは、土壌が付着した食物を経口摂取し、それが曝露の経路となっている可能性がある(Oliver 1997)。あるいは、ハエ蛆症の例のように、汚染された土壌と皮膚との直接的な接触も同様である(Zumpt 1965)。ハエ蛆症は双翅目の幼虫が生物組織内(場合によっては動物の傷口)に寄生・成長することに関わる病気である。鼻孔や消化管といった開口部に寄生する生物もいる。ハエの1種のCayor worm(Cordylobia anthropophaga)は湿った地面または衣服に卵を産み付けるので、これらの媒体に接触することで幼虫が皮膚内に侵入する。幼虫は成虫になる前まで皮膚内で成長する。ハエ蛆症は熱帯地域で頻繁に発生し("Cayor"は、大西洋岸セネガルの一地域名)、ヒト同様に他の動物にも罹患する(Devienne 2004)。たいていの場合、この病気は湿ってざらざらした砂のような土壌条件で起こる。

ラービッシュ病、クリーピング病も汚染された土壌と皮膚の直接接触に関わる病気の例である。また、土壌は破傷風菌(Clostridium tetani)の感染媒体ともなりうる。この菌は、刺創に土壌が入り込んだ際、体内に侵入することがある(Sutter 1998)。幼虫に土壌がくっついて入り込む。

ラービッシュ病(Chabasse 1995)は「皮膚幼虫移行」症候群で(皮膚爬行症とも呼ばれる)、幼虫段階の寄生生物が下等動物から排出され、ヒトの皮膚に活発に侵入することによって発生する。多くの場合この症候群に関与する種は線形動物である(Ancylostoma brazilienseまたはAncylostom braziliense:ブラジル鉤虫は熱帯・亜熱帯地域の大半、A. ceylanicum:セイロン鉤虫は東南アジア、Uncinaria stenocephala:挟頭鉤虫は温暖な気候の地域に生息する)。これらの線形動物は共通してイヌとネコの消化器官に寄生しており、その糞便を通して卵が環境中に排出される。その際、糞便の落ちた土壌が日陰にあって砂のようにざらついており、湿度と気温が高ければ、卵は孵化して土壌の汚染が起こるであろう。動物の糞便で汚染された土壌と単純に直接接触することで、ヒトの皮膚汚染が起こる。しかし、これは特定の動物の病気であり、ヒトの場合、この寄生生物は最後まで成長しきれない。そこで幼虫は皮膚から抜け出すことができず、ラービッシュ病の症状が現れる。つまり、皮膚を通った幼虫によって掘られたトンネルの網目が、赤く盛り上がって皮膚表面に出てくるのである。手、足、臀部に共通してこの発疹が現れ、非常なかゆみを伴うのが症状としての様相である。ラービッシュ病は主に熱帯・亜熱帯地域に分布しているが、湿度が高い沿岸部にとくに集中している。ポトゾル土壌を調査しているときに、筆者の一人がコンゴ共和国の沿岸部(首都のブラザビル)でラービッシュ病に罹患したことがある。

土壌はまた、感染サイクルの源となるであろう宿主からの受け入れを待ち受ける他の細菌の温床にもなる。そこで引き合いに出されるのが、「ペスト(黒死病)」の蔓延伝染である。この悪疫の流行期間が続いたのは、原因である細菌Yersinia pestisが、ある種の土壌中で生き延びたという可能性がある(Karimi 1963; Drancourt at al. 2006)。自然宿主であるラットとマウスはペストに感染しやすく、流行期間にその数は激減した。公衆衛生の専門家の極めて重大な疑問のひとつは、再導入は別として、どのようにして環境中でペストの病原菌数が維持されているか、という点である。実験の結果からは、ペスト菌が土壌中で長期間生き延びられることが示唆されているが、環境中ではまだ立証されていない。げっ歯動物のように土を掘り起こす動物は、ペスト菌を掘り起こし、自身が汚染される可能性がある。土壌粒子がエアロゾルとして分散され、ペストの発生を引き起こしたというもう一つのシナリオもある。

土壌はまた、他の媒介動物によって感染する病気についても重要な役割を果たす。Glossina palapalis、ツェツェバエはアフリカ西部でアフリカ睡眠病(African human trypanosomiasis)の感染を媒介するが、成虫が土壌中に卵を産み付けることがこの病気の発端となる。土壌は、疫学的連鎖を維持する上で不可欠な媒体である(Laviessiere et al. 2000)。森林でツェツェバエの幼虫にとって好ましい土壌は通常、有機成分が豊富な黒色土である。粘土の含有量が多く、非常に湿った状態は幼虫にとって良い環境ではない。というのは、捕食動物であるシロアリ(粘質土壌)や糸状菌(湿った状態)などが成長可能な条件だからである。

アフリカ西部でアフリカ睡眠病の原因となる病原体は、Trypanosoma brucei gamnienseであり(アフリカ東部ではT. rhodesiense)、宿主であるヒトの血液中で再生産される。わずか1匹のツェツェバエがヒトの体内に侵入すると、数年はおろか、数ヶ月で死に至ることもある。ヒトはツェツェバエ(Glossosina 種)に咬まれることでこの原生動物に感染する。アフリカ西部では、Glossina palapalisとGlossina tuchinoidesだけがアフリカ睡眠病の媒介生物である。ツェツェバエはもっぱらアフリカで生息し、北緯15°から南緯20°の緯度に平行な範囲だけで見うけられる。これらの昆虫は日陰で湿った環境を求めて生息し、あまり高温を好まない(森林、ココアまたはコーヒーが作付けされているスーダン国内の地域、あらゆる種類の植物が生息する森林地域、森林や農村部周辺の日陰の水腐れ地も同様に好む)。この寄生虫の温床として認識されているのはヒトだけである。

もう一つ別の要因として、土壌の物理的な性質も重要性である。風で運ばれる土壌粒子は、ヒトの病気感染の過程に大きな役割を担っている。アフリカ西部では、病原菌Neisseria meningitidisによる髄膜炎が発生しており、また、眼球に影響する角膜炎やトラコーマ(Schemann 2007; Reinhards J 1970)の発生は、サハラ南部からギニア湾にかけて吹いて来る「ハルマッタン」という乾燥して埃っぽいアフリカ西部の貿易風と関連がある。これらの疾病の地理学的な位置(サハラ・スーダンベルト)は、風と土壌によることで説明できる。両者が相まって粘膜細胞に物理的な悪影響を与え、これらの病原体への感染を促進するのである。砂のようにざらついた土壌は、ここでは物理的な役割を担っているだけで微細な傷の原因となる。しかし、主なリスク要因は土壌の性質ではなく、社会的な状態、とくに水の利用可能性と衛生習慣と関連する。

トラコーマは失明の原因であるが、これは一般に回避できる病気である。これは、トラコーマクラミジア(Chlamydia trachomatis)の感染による角膜と結膜の炎症(keratoconjunctivitis)である。トラコーマの感染および炎症は、第2段階では睫毛乱生(逆さまつげ)へと進展する。世界中で8400万人がこの病気に罹患していると推定され、600~700万人は失明寸前の段階にあり、100~300万人が完全に失明している(Wright et al. 2008)。トラコーマの原因となる病原体は、目の周りに大量に集まってくるハエが機械的に運んで来るため、感染により起こる。

筆者は、これまで上に挙げた感染症に注目してきた。しかし、穀物収量と栄養不良に明確な関連を持つ土壌肥沃土も、もう一つの重要な課題である(Steinnessによる本巻第21章参照)。

土壌の経口摂取に関しては、別の章で展開されているが(Abrahamによる本巻第23章参照)、ここで述べておきたいのは、土壌の経口摂取が治療、魔術、または宗教的理由を含め、多くの文化的慣行の中心的存在となっているということである(Young et al. 2007)。ところが、近年ハイチでの食料危機(Newspaper le Monde,"A main food crisis will come"by F. Lemaitre, 02 August 2008 edition)に際しては、不幸なことに粘質土壌が「日常の」食品成分として消費され、最も貧しい人々は少量のトウモロコシ、または小麦粉に混ぜ込んでパンのような食べ物を作っていた。

粘土は医薬品・化粧品産業で幅広く利用されている。長い間これらの業界では、肌の経年劣化としわの増加を防ぐために粘土を利用してきたと言われている。マッサージ師は温かい泥の湿布を美容・治療目的で使用する。実際に、最近のアリゾナ州立大学の研究では、一部の鉱床粘土は抗細菌性があるという結果が示されている。フランス・中央高原地帯(Massif Central)の粘土は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[methicillin-resistant Staphylococcus aureus]に対し、効果的に利用されている(Williams 2007)。しかし、土壌関連の健康被害を土壌との直接的な関係だけに限定すると、疑問点の複雑さは低下し、病気の予防と病気と闘う数多くの対策を制限してしまうことになる。オンコセルカ症(河川盲目症)の場合、医療面における土壌の影響は間接的であるとはいえ、知らぬまに進む可能性がある。

オンコセルカ症はヒトの寄生虫感染症で、線形動物のOnchocerca volvulusとの関係がある。Onchocerca volvulusの幼虫は眼に侵入し、深刻な不可逆性の眼疾患を引き起こす。その最終段階は失明である。この病気の媒介生物はブユ科(Simuliidae family)に属し、ヒトを咬む小さいヌカカ(ブユ)である。感染者が血粉を受けると、メスは幼虫を産み、そのいくらかは(ブユの体で移動と変容の後)再び経口器官を獲得する。血粉が後期の段階になると、これらの幼虫は次に別のヒトへ病原菌を植え付ける。その後これらの幼虫は成虫に変容して何百万もの新たな幼虫を産むことができるようになり、寄生虫による発病段階へと至る。媒介生物であるブユの中でのこの進展過程は避けられない。したがって、この累積的に分布していく影響は病原菌を媒介する生物に依存する。ブユは、加速した水流によって水が著しく酸素の供給を受ける河川のみで成長する。この酸素供給は幼虫の成長に欠かせない条件である。そこで、こうした再生産が行われる場所を特定するのは難しいことではなく、媒介生物との戦いはやりやすくなる。

オンコセルカ症は、ヒトの寄生虫感染症である。この疾病サイクルの鍵となる構成要素はブユである。連続的にヒトを咬むことで、寄生生物である回旋糸状虫(Onchocerca volvulus)は感染済みのヒトから健康なヒトへと移動してゆく。症状の程度は、対象者に感染をもたらす1日あたりの刺し傷の数に直接依存する。この指標は、媒介の密度(例:ブユが何匹存在しているか)およびヒトとブユの接触条件により変動する。ブユの幼虫の成長には、十分な酸素が供給される水が必要であり、スーダンの大規模河川の急流ではとくにそのような水が豊富にある。ブルキナファソ、マリ、ガーナ、ギニアの首都コナクリ、象牙海岸(コートジボワール)そしてスーダンといったアフリカの国々でオンコセルカ症が流行している。この生態系に関する必要条件によって、地域の盆地ではオンコセルカ症のリスクが高まる。ところが、この生物気候区におけるこれらの盆地は、最も肥沃な土壌を有しており、農業者とその家族は必然的に、媒介生物の多い環境に魅力を感じる。つまり、肥沃な土壌が高リスクの地域へ人々を惹きつけることによって、この病気に関する間接的な役割を担っているのである(Hervouet and Prost 1979)。より多くの事例を挙げることもできるが、ここでの目的は、あらゆるリスクの可能性を列挙することではなく、上述した一部の病原体システムにおいて、土壌という構成要素が占める割合を評価することにある。

土壌と病原体システム
H.Picheral(1983)と彼の病原体システムの説にしたがうなら、病気は原因と結果だけではなく、むしろ複数な相互作用による要因と可能性のある因子が互いに働いて作用する複雑なシステムである。この概念に照らすと、フランス語圏の科学者による健康地理学の最新の研究においては、土壌は全体の中で(病気の)原因となる要素の1つとしてのみ理解することができる。この仮説に基づいたひとりの土壌学者の事例を見てみよう。

土壌学者Pierre Solterre教授は世界中を旅し、彼がその権威と認められているある種の土壌について、その構造と機能に関する知識を強化しようとした。土壌断面を調査するため、彼は鍬を使って穴を掘り始めた。すると鍬は大きな樹の根に当たったので、それをナイフで切り、手で取り除いた。根を引き抜く際、その破片で彼は小さな刺し傷を負った。このとき破傷風菌が彼の身体に密かに侵入した。彼は何の自覚症状もないままに、菌は活動を始めた。彼が作業を続ける間、土壌は手足にこびり付き、ラービッシュ病が定着し、小さな赤い網目状の発疹が皮膚の下で発生する下地ができあがっていた。この発疹は数週間におよぶかゆみを伴う。作業に夢中になっていた彼は、ムカデの類に咬まれ毒液を注入されたのにも気づかなかった。その咬み傷が痛かったため、彼は腕を連打し、もろくて不安定な穴の壁面を叩いた。すると、壁の一面が崩れ、立ち込める砂埃で彼は咳き込んだ。汚れた手で口をこすったため、無意識におそらく100個の寄生虫(寄生蠕虫)の卵を飲み込んだ。卵は孵化して彼の体内でライフサイクルを繰り返すことになる。しかし、Solterre教授のこの不運な出来事は死にまでは至らなかった。実際のところ、彼は調査を終える前に破傷風ワクチン接種をやり直すという良いアイデアを思いついた。さらに、自身の財力によって大規模な専門家チームを招集し、崩れかけた坑から自身を救出することができた。最終的にはフランスへ帰国し、ラービッシュ病と寄生蠕虫を治療する熱帯医学専門の医師による診察を受けることができた。

この皮肉な出来事は、ヒトが土壌に接触するとその身に健康被害が及ぶことを示している。また、土壌に接触した結果、病的状態に至るのは特定の条件下に限られており、即時的・必然的な原因と結果という関係によるものではないことも示唆している。健康被害の分析でよく実践されるのは、1つの要素を所属するシステムから切り離し、システム全体、および相互作用と影響のあるフィードバックを無視することにより相互関係、因果関係までも探求することである。しかし、われわれはこの研究手法を適用するよりも、むしろ任意の土壌に関連した病原体システム内の連環を分析し、健康被害を減少させる可能性のある場所はどこかを探っていく。

ここで再びSolterre教授の事例を検討するとすれば、土壌に関わる健康被害は病状を導く下記のようないくつかの要素に依存する。(1)まず、病原体、寄生病原体、または毒物を含む土壌の特性と許容量、(2)そして、影響を受けるヒトと土壌との経路の径路と頻度、(3)最後に、健康への負の影響を低減または回避する公衆衛生評価能力。これら3つの健康被害緩和要因のそれぞれの特異性をみると、健康被害は人口、空間、時間で異なる様相を呈する。

回虫症は、全世界で数億人のヒトを悩ませている。これは土壌に関わる象徴的な事例である。というのも、原因となる回虫は土壌中で生息・再生産されているためである。しかしながら、"Medical Geography"誌に掲載されたMeadeとEarickson(2000)の論文により、土壌に関わる健康被害に対する影響の変動は、物理的環境よりも、むしろ文化的環境に依存する割合が少しく高いのは当然であることがわかる。実際に、もし感染サイクルが(媒介生物である)虫にとって土壌中で重要な場所に依存する場合、ヒトの汚染は、同じ場所でも異なる生活様式があるため一致しないことになるであろう。任意の地域共同体内で、すべてのヒトが同じ経路、あるいは同じ強度で感染する訳ではない。感染の変動を制御するには、ヒトの排泄物処理設備および慣行、食習慣、住宅の床材の種類、住宅周辺の植生、そして土壌の水分などが影響する。土壌の特性はその中の1つに過ぎず、回虫への影響のリスクを決定する上で優位性のある要因ではない。

セネガルのダカール州郊外の大規模な市、ピキンで実施された研究から、3種の重要な寄生虫性疾患であるジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)、十二指腸虫症(鉤虫症)、そして回虫症の人口に占める発生率は市の人口に対応していないことが判明した(Salem 1998)。

ジルアジア症は原生動物の寄生虫性疾患である。3種類の寄生虫が存在するが、G. lambliaのみがヒトに感染する(Heresi 2000)。この病気は下痢を引き起こし、腸による脂肪の吸収を妨げる(消化不良)。排泄物に含まれる嚢胞形態をとった寄生虫が、土壌汚染の原因である。この寄生虫は湿った土の中で長期間、また淡水中では2~3ヶ月生存できる。嚢胞の経口摂取によりヒトに感染するが、これは公衆衛生の状態の悪さが関連している。

十二指腸虫症は、鉤虫属すなわちNecatorおよびAncylostomaの寄生虫がヒトの小腸上部にコロニーを形成することにより感染する。これらの土壌を介した寄生蠕虫の感染は、熱帯および亜熱帯地域に幅広く分布している。気候は感染の重要な決定要因であり、十分な水分と温かい気温が土壌中での幼虫の成長には不可欠である。同様に貧困、水の供給不足、そして衛生状態も重要な決定要因となる。こうした条件下では、任意の土壌の一部分に、土壌感染を経て病原体となる様々な種類の寄生蠕虫が存在している可能性がある(Bethony et al. 2006)。衛生状態の悪さと関連して、排泄物中の寄生虫の卵により土壌が汚染される。ヒトへの感染は、汚染された土壌の経口摂取によって起こる。

ある市内の複数地域におけるサンプル集団の調査で示されたこの変動性は、人口密度、公共サービスの利用可能性(道路、水道、排水処理システムなど)が、大西洋に近接した場所での疾病の発生と関連している様子を示していた。また、降水量の多さは、大西洋に近接した場所におけるこれらの寄生虫性疾患の有病率が、アフリカ内陸の都市部を大きく上回っている状態を説明する一助となっているが、ピキン市内における有病率の変動性を説明するものではない。一方、この海岸線に近い立地と地下水面の高さが砂地の水分を保持し、土壌・溝・その他浅瀬での寄生虫の存続に拍車をかけている。多くの研究者(Asaolu and Ofoezie 2003など)が寄生虫性疾患の制御について、健康および公衆衛生に焦点を絞った教育の重要性を強調している。

都市部の土壌と健康
都市はその人口および機能的な特徴から環境を構成しているが、そこで目に見える土壌は景観の二次的な要素である。しかし、都市の環境を特徴付ける生活様式と活動によって、これらの土壌は強力な汚染物質にさらされる。土壌は、とくに家庭での燃料燃焼、自動車の走行、廃棄物焼却、発電、およびその他の産業活動の結果として、絶えず重金属の影響を受けている。イタリアの都市トリノ(人口~100万人)で行われた調査(Biasoli et al. 2006)の結論が、この事実をよく表している。面積133km2(うち約10%は緑地に覆われている)のこの都市では、人間の活動によって鉛、亜鉛、銅の土壌中の含有量が著しく増加した。同様に、建設事業によりアルカリ性物質(例:軽量コンクリートブロック、コンクリート)が入り込み、土壌のpHが上昇している。pHの上昇は、そのために重金属の吸収を抑制している。

しかし、これらの現象を画一的なものと認識すべきではない。トリノ(イタリア)、ウプサラ(スウェーデン)、セビリア(スペイン)、リュブリャナ(スロベニア)、グラスゴー(スコットランド)、そしてアヴェイロ(ポルトガル)の各都市で土壌中の水銀含有量を比較したところ、汚染度の測定結果は均一ではなかった(Rodrigues et al. 2006)。水銀は強力な神経毒性物質であり、主に地方での鉱業活動および金の抽出に幅広く使用されている。ところが、都市部/郊外では、石油精製、石炭燃焼、産業活動、廃棄物焼却、農薬使用、そして電池・医療機器・電気スイッチ向けの用途が水銀による汚染の原因となっている。この調査を通してRodriguesらは、約数百メートルというきめ細かいスケールにおいて、高レベルの土壌汚染の変動性が、6都市間のそれに比べ非常に大きいことを明らかにしている。

この汚染の不均一性は、水銀だけでなく他の多くの汚染物質でも判明している。米国コロラド州のプエブロ市は長い歴史を持つ鉄鋼業が営まれていることに特色がある。この町の周辺地域ではヒ素、カドミウム、水銀、鉛の土壌中の濃度が米国の平均値より高い(Diawara et al. 2006)。市の内部は収入が低く、大部分がヒスパニック系およびアフリカ系アメリカ人の占める居住地域であり、最も汚染度が高い場所としての特徴がある。そこでDiawaraらは結論として、環境面についての公正さを考慮した公衆衛生の研究手法には、汚染物質の影響が検討事項して必要であることを確認した。子どもが屋内および屋外環境で鉛の汚染から影響を受ける度合いは、社会様式や経済的レベルによって異なる(Laidlaw et al. 2005)。土壌の水分量が重要な寄与要因のようである。都市部の中でも空気中に浮遊粉塵が蔓延している地域では、人びとはより多く鉛汚染の影響を受ける。

土壌汚染物質の存在に影響を及ぼす地域の特性を確認することにより、その地域から周辺住民に発生するリスクの度合いが特定できる。たとえば、汚染は社会的条件、人間の活動、土壌の特性などによりその様相が異なる。そこで問題の本質は、これらのリスクに関する特別な地域を特定することである。汚染物質の影響を受ける系統的な範囲を考慮したこの分析は難しいので、めったに行われることがない。一方、汚染物質の排出および周辺土壌への影響の分析は多くの研究の的となり、汚染源の削減または除去という目的を伴う。バルセロナでは、固形廃棄物焼却設備による土壌汚染がモニタリング調査の1つの課題である。その調査の結果、周辺住民への弱いリスクが明らかにされた(Schuhmacher et al. 1997)。英国のニューカッスルでは、主に固形廃棄物焼却施設備の風下にある土壌と、重金属およびヒ素の含有量の増加との間に相関性はなかった。なぜなら、19世紀以降、この都市で次々に起こった産業活動による負の遺産により、土壌汚染の様相も様々だったからである。

また一方、堆肥化された都市の有機物は公衆衛生へのリスクを示す指標になる。スペインのセビリア近郊では、実験的にこのような都市型コンポストを設置した土地の1区画で亜鉛と鉛の緩やかな蓄積が見うけられた。この堆肥で育った農産物の消費は、ヒトにリスクを与える可能性があることが明らかになった(Madrid et al. 2006)。この論文の著者は、スペイン政府に容認されると思われる毒性の閾値を下げる提案をした。このようなシステムにおいて、人間活動は土壌汚染だけではなく、廃棄物の転換、多様な土地の規制管理によって土壌改良を行い、公衆衛生を保護する重要な手段へとつながる。持続可能な開発という視点で、公的機関は利用可能な技術に基づく適切な方策でリスクを管理できる(Mohan 2006)。これを推進するためには、明確に示された政策と適切な手順があることが、いまなお必要である(Nathanail 2006)。

したがって、(バイオマスの自然な転換による伝統的な有機コンポストとは対照的に)都市/産業活動で生産された残渣を土壌改良剤として都市/郊外部での農業活動に加える、といった人為的な状態は、土壌汚染の要因となる病原体の重要な(感染)経路を特定し、汚染土壌への接触と使用によるヒトへの影響を評価する上で価値がある。これらの健康‐リスク状態は、筆者らが特定を試みている「土壌疫学システム」の基盤である。

ヒトの健康のための健全な土壌
土壌の健康とヒトの健康の類似性はきわめて古く、そこにはさまざまな理由がある。土壌を生き物とする認識、ヒトの健康を制御しようとする意思が土壌の健康を管理しようとする意思を導くこと、または単に土壌生成過程に関する知識が欠如していることによる。そこで、過去の農学者たちは、ある種の物質が土壌の性質を改善すると理解していた。これらの「肥料」は、どちらかと言えば薬剤のように認識されていた(Boulaine 1989)。フランス語で"engrais"(肥料)という単語は"engraisser"(土地を肥やす)と同じ語源である。つまり、肥料は土壌を肥やす。肥料の施用が、土壌の肥沃化の兆候であることはもちろん、実験により確かめられる微細な鉱物(粘土/シルト粒子部分)および有機物を豊富に含む土壌のなめらかな感触は、十分な肥沃化として認識される。場合によって、このヒトと土壌の類似性の指摘は非常に先見性がある。哲学者ルドルフ・シュタイナー(1924)が創出したバイオダイナミック農法では、ホメオパシー療法のような物質を、極めて厳正に定められた時刻(例:満月)に土壌へ加え、土壌の改良を目指している。この手法は多分に経験主義的で、著しく人間中心的なものである。

しかし、そこには限界がある。微量元素の少ない土壌、もしくは微量元素の可給性に乏しい土壌の場合(pHが高いなどの理由で)、植物の成長にこれらの元素が不足する。それらの植物から栄養を摂取している動物相、そしてその土地固有の植物と栽培された植物だけを食べて生きているヒトも同様に元素が不足する。たとえば、熱帯地域のアレノソル(新しい砂丘、海岸の砂など未熟な砂質土壌)がこの事例に相当する。この場合、土壌が「病気である」と言えるだろうか。より論理的な手法なら、土壌(の微量元素)が「欠乏している」という言い方になるだろう。土壌を病気になった身体として見るよりも、むしろ科学的な手法では、再生不可能な脆弱な資源であり、持続可能な開発に向けた視点からすれば、保全すべきものとして認識する方がよいであろう。

土壌の種類と健康被害を関連づけられるか
論点は見出しのとおりである。土壌の種類(土壌分類学の範囲)と健康被害を関連づけられるだろうか。場合によっては、それは明らかに無理である。具体例を挙げると、土壌は様々な寄生生物にとって単なる物理的な支持母体となる可能性がある。たとえ、寄生生物の存在の度合いに影響するかもしれない粒子の分布、水分量、pHなどのような、物理・化学的特徴を以てしても、これらの特徴を厳密な土壌の種類と関連づけられる可能性はほとんどない。土壌の種類と健康被害の関わりについては、より直接的と考えられる他の事例がある。つまり、湛水土壌(常に、または一定の期間過剰な水の存在下で生成される土壌)とマラリア、住血吸虫症といった病気の感染、カビの存在、湿性環境におけるリウマチの悪化、洪水に対する脆弱性など、さまざまな医学的な問題の間に関連性がある。しかし、その関連性は偶発的なものではない。洪水の事例が明確に示しているように、それは湛水土壌よりもむしろ、医療面において水の循環が問題の根本にあることは確かである。

もう1つの事例は地滑りに関わることである。地震や洪水といった他の地形学・地質学的リスクとは対照的に、正式には地滑りは土壌の構成成分による。この現象は、しばしば流動性のある湿った土壌で発生し、豪雨がきっかけとなるが、とくに湿潤な熱帯地方のフェラリティック土壌(米国農務省:USDAの土壌分類ではオキシソル、食糧農業機関:FAOの分類ではフェラルソル)で頻繁に発生する。ここでは2つの要因が中心的な役割を果たしている。(1)土壌の種類:数メートルの厚さで、最大数十メートルにのぼる、流動可能な、固まっていない層(表土)に覆われている土壌、(2)とくに湿潤な気候条件。3つめの要因として、土地の起伏が著しいことが加えられる。この3つの要因はそれぞれ独立したものではない。暑くて湿潤な気候は表土の厚さに根本的に重要で、激しい起伏は湿潤な気候を際立たせ、表土の特性と厚さが土地の起伏を強める。この表土は変質していない母岩に比べ、地質学的侵食に対し脆弱である。まとめて言うなら、地滑りと健康被害には気候や土地の起伏が関連する一方、土壌も一部分関係する。必要なのは、すべての環境を考慮しなければならないということである。

結論
小型望遠鏡の一端、あるいはもう片方の端から土壌と健康の関係について取り組む場合、両者の関係を環境の全体像としてみれば、明らかにそこに映るイメージのみが価値あるもののように見うけられる。筆者らがここで推奨する体系的な手法は、作用をおよぼす可能性がある偶発的な要素を特定することにより、健康に成るための改善に向けた適応性を追求するものである。また、この手法では、健康に影響する要因の範囲全体を比較することで、さらに現実的な方法でリスク概念が分析できる。現在の地球温暖化に関する議論では、一般的によく医療面の疑問点が取りあげられ、とくに熱帯病流行地域の発生がその対象となる(参照事例:2008年に野生動物保護協会が公表した「死に至る12の病」と題する病原体のリスト。これらは気温、降水量のレベルが変化すると、その結果として蔓延する可能性がある。腸内寄生虫、外部寄生虫、アフリカ睡眠病も含まれている)。マラリアとその北半球諸国への回帰の可能性を例にとると、欧州でこの病気の撲滅に関わった要因を思い起こすのが賢明である。実際には、土壌の管理規範、とくに湛水土壌の大規模な配水管の配置と、石灰による酸性土壌の改良(土壌の構造と透水性を改善する)によって、媒介生物の成長に適した場所、つまり蚊の繁殖地が排除された(Fanica, 2006)。土壌に対する人間活動、居住環境と農業生産性の向上を目指した人間社会による環境の管理が媒介生物を排除し、衛生状態を改善したのである。

そこで、積極的な管理が望ましい健康回復を導く可能性がある環境システムの中で、土壌は1つの要素として考慮されるべきである。もし、土壌が重要な役割を果たしていることが明らかなら、著者らはこの文献で触れた大半の病気・症候群に関する土壌疫学システムを語ることはできないだろう。寄生生物によるヒトの感染症は、土壌の特性よりも、生活様式、社会的行動、公衆衛生、そして環境管理の結果によるところが大きい。実際のところ、土壌がある寄生生物の生涯に必要な支持母体を構成していても、ヒトは感染から逃れられず、汚染地域に住む人種によって感染の様相はさまざまである。都市の廃棄物で肥料を生産するコンポストは、その顕著な例とみなすことができる。重金属または都市廃棄物の残渣による環境汚染は、土壌改良に基づく過程がもたらす直接的な結果である。この場合、事前の予防措置を講じることで、こうした土壌改良による土壌の品質低下を確実に回避できる。これは、Picheralの技術‐病原体システムにおける下位項目を表している。
北里大学農医連携シンポジウムの変遷
大学の社会的使命は、学生の教育、研究の発展、医療への貢献、知識や研究成果の普及などにある。農医連携の科学を普及するために、平成18(2006)年3月から8回にわたって学内および学外に向けて北里大学農医連携シンポジウムを開催してきた。それらの内容を整理し、今後のシンポジウムのあり方の参考にしたい。

各回(1~8回)のアブストラクトには残部があるので、必要な方は請求されたい。また、アブストラクトの個々の内容は、この情報にも掲載してきた(https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui-test/spread/newsletter/index.html)。さらに、シンポジウムの講演は北里大学ホームページのオン・デマンドで見ることができる(https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/noui-test/spread/symposium/index2.html)。ただし、第8回北里大学農医連携シンポジウム‐Agromedicine: Examples from the USA, Thailandand Japan‐は、平成23年3月11日の東日本大震災のため残念ながら中止とした。

第1回北里大学農医連携シンポジウム‐農・環境・医療の連携を求めて‐
日時:平成18年3月10日(金)13:00~17:30
場所:北里大学白金キャンパス 薬学部コンベンションホール

開催趣旨
大量生産と経済効率をめざした農業は、農地に化学肥料、農薬および化学資材を加え、集約的なシステムへと変わった。その結果、増加しつつある人口に多くの食料を提供することができた。一方、大量生産のために投与された膨大な資源とエネルギーは、重金属汚染にみられる点的な、あるいは窒素やリンによる富栄養化にみられる面的な、またメタンや亜酸化窒素による温暖化にみられる空間的な環境問題を起こした。さらに最近では、ダイオキシンのような世代という時間を超えた環境問題を生じせしめ、人間の健康と地球の環境に多くの問題点をもたらした。

医学においては、微生物学、免疫学、臨床医学、薬学などが進歩・発展するなかで、栄養学の進歩とともに多くのひとびとが病気を克服することができ、さらには健康の増進に励むことができた。一方、そのために発見されたさまざまな化学物質、例えばサリドマイドに代表される薬原病などの問題が浮上し、臨床医学をさらに進化させることへの反省が生まれた。さらには、生態知の一つとも考えられる「人の癒し」の問題なども十分には進展しなかった。

21世紀の予防医学が掲げる目標には、リスク評価・管理・コミュニケーション、疾病の発生予防、健康の質の増進などの課題がある。これらの医学分野における課題と、農学がどのように連携できるかという現代的な問題の解決に取り組むことは、社会の要請に応えるうえで極めて重要である。

20世紀の技術知が生んだ結果は、われわれが生きていく21世紀の世界に、農医連携の科学や教育が必要不可欠であることを示唆している。病気の予防、健康の増進、安全で健康な食品、環境を保全する農業、癒しの農などのために、すなわち21世紀に生きるひとびとが幸せになるために、農医連携の科学や教育の必要性は強調されてもされすぎることはないであろう。医食同源と言う言葉があるにもかかわらず、これまで農医連携の科学や教育がそれほど強調されなかったように思われる。

講演プログラム
開催にあたって:北里大学学長 柴 忠義
農・環境・医療の連携の必要性:北里大学教授 陽 捷行
千葉大学環境健康フィールド科学センターの理念と実践:千葉大学学長 古在豊樹
医学から農医連携を考える:北里大学教授 相澤好治
食農と環境を考える:東京農業大学前学長 進士五十八
東洋医学と園芸療法の融合:千葉大学助教授環境健康フィールド科学センター助教授
千葉大学柏の葉診療所所長 喜多敏明
人間の健康と機能性食品:日本大学教授・前食品総合研究所理事長 春見隆文
総合討論 座長:進士五十八・陽 捷行

第2回北里大学農医連携シンポジウム‐代替医療と代替農業の連携を求めて‐
日時:平成18年10月13日(金)13:00~17:30
場所:北里大学白金キャンパス 薬学部コンベンションホール

開催趣旨
21世紀の予防医学が掲げる課題には、リスク評価・管理・コミュニケーション、疾病の発生予防、健康の質の増進などがある。これらの医学分野における課題に対して、農学分野がどのように連携できるかという今日的な問題の解決にとりくむことは、社会の要請に応えるうえで極めて重要である。

20世紀の技術知が生んだ成果のなかには、われわれが生きていく21世紀の世界に、農医連携の科学や教育が不可欠であることを示唆するものがいくつかある。病気の予防、健康の増進、食品の安全、環境を保全する農業、癒しの農などは、その代表的な事象であろう。医食同源という言葉があるにもかかわらず、これまで農医連携の教育や科学はそれほど強調されなかった。

医と農はかつて同根であった。そして現在でも類似した道を歩いている。医学には代替医療がある。農学には代替農業がある。前者は、西洋医学を中心とした近代医学に対して、それを代替・補完する医療である。後者は、化学肥料や農薬を中心とした集約的農業生産に対して、これを代替・補完する農法である。いずれも生命科学としての特徴を共有している。また、21世紀に入り医学はヒトゲノムの、農学はイネゲノムの塩基配列を解読する全作業を完了している。

今回のシンポジウムの目標は、現代医学や現代農学のみでは治まりきれない問題を、伝統医学や代替医療あるいは代替農業の面から再び見直し、改めて農と医についての相互理解を深め、両者の具体的な課題について検討することにより、連携の糸口を見いだすことにある。また農医連携の実例の一つとして、すでに北里大学でおこなわれている「環境保全型畜産物の生産から病棟」までの流れを紹介する。

講演プログラム
挨拶:北里大学学長 柴 忠義
代替医療と代替農業の連携を考える:北里大学教授 陽 捷行
代替医療‐その目標と標榜名の落差について‐:金沢医科大学大学院代替基礎医学講座
教授 山口宣夫
代替農業‐その由来とねらい‐:京都大学名誉教授 久馬一剛
代替医療と東洋医学‐科学的解明によるevidenceを求めて‐:
北里大学附属北里生命科学研究所長 山田陽城
環境保全型農業を巡って:東京大学名誉教授 熊澤喜久雄
環境保全型畜産物の生産から病棟まで:北里大学獣医畜産学部教授 萬田富治
総合討論 座長:山田陽城・陽 捷行

第3回北里大学農医連携シンポジウム‐鳥インフルエンザ:農と環境と医療の視点から‐
日時:平成19年3月9日(金)10:00~17:20
場所:北里大学白金キャンパス 薬学部コンベンションホール

開催趣旨
人類の活動はウイルスであれ雑草であれ、地球の生命体をさまざまな様態で撹乱している。これらは、小さなインベーダーとして生態系を錯乱させる。

2001年9月にわが国において牛海綿状脳症(BSE)が発生した。牛の脳組織に空胞ができ、中枢神経が障害を受ける病気である。BSEに感染した牛のうち、とくに危険部位といわれる脳・神経組織および回腸遠位部など内臓類を食することにより、極めて稀だが人間に感染し、痴呆化し死亡するといわれる。これも、小さなインベーダーによるものだ。

いま、新たな心配事が生じている。ここ数年、アジアで流行していた鳥インフルエンザが、昨年の秋に欧州およびアフリカでも確認された。感染が繰り返されることで病原体のウイルスが変異し、人間社会で爆発的な流行を引き起こす新型インフルエンザ出現の可能性が高まっている。また、インベーダーの撹乱だ。

世界保健機関(WHO)をはじめ多くの国が、流行に備え体制を整えつつある。日本も例外ではない。厚生労働省は2005年の11月14日、近い将来に出現する危険性が高まっている「新型インフルエンザ」が国内で流行した場合、非常事態を宣言することなどを定めた行動計画を公表した。

生態系は、大きな生命の交響楽団である。無数の生き物が様々な環境のなかで作りあげている生態系のもつ秩序は、目をこらしてみても見えない無数の環境資源と生物の相互が依存しているネットワークと言える。生態系に生きる生物とこのネットワークそのものは、調和が崩れても、自動的に調和がとりもどされるように仕組まれている。だから、自然世界の調和は、永遠に終わることのないハーモニーを奏で続けることができるのである。

はたしてその永遠とは、期限付きの永遠なのか?鳥インフルエンザの問題は、われわれに悲壮な現実を突きつけている。過去におけるBSEの問題、今回の鳥インフルエンザの問題、そして将来も起こるであろうこれらの「小さなインベーダー」の問題について、真剣に取り組まなければ、人類の未来は暗い。これらの問題は、常に農と環境と医療に密接に関わっている。これらの関連を切り離しての問題解決はない。

したがって、今回は農と環境と医療に関わる専門家に参加していただき、第3回北里大学農医連携シンポジウム「鳥インフルエンザ:農と環境と医療の視点から」を開催し、この問題の解決の一助としたい。

講演プログラム
開催にあたって:北里大学学長 柴 忠義
農と環境と医療の視点から鳥インフルエンザを追う:北里大学教授 陽 捷行・高井伸二
動物由来ウイルス感染症の現状と問題点:東京大学教授 吉川泰弘
高病原性鳥インフルエンザの感染と対策:動物衛生研究所研究管理監 山口成夫
野鳥の渡りや生態と感染の発生:日本野鳥の会主任研究員 金井 裕
野鳥の感染とその現状:自然環境研究センター研究主幹 米田久美子
新型インフルエンザの脅威:国立感染症研究所感染症情報センター長 岡部信彦
高病原性鳥インフルエンザとワクチン対策:北里大学教授 中山哲夫
総合討論 座長:吉川泰弘・陽 捷行

第4回北里大学農医連携シンポジウム‐農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響
日時:平成19年10月12日(金)13:00~17:50>
場所:北里大学白金キャンパス 薬学部コンベンションホール

開催趣旨
人類は、文明の進歩とともに地殻から大量の金属を採掘し、地上にそれを拡散させた。とりわけ産業革命により、重金属の必要性は空前の勢いで高まった。その結果、採掘する重金属の種類と量は増大し、必然的に土壌や海洋や大気へ拡散した。このことによって、重金属の生物地球化学的な循環が乱されることになる。

重金属の生物地球化学的な循環が乱されるとは、何を意味するのか。これまで順調に循環していた重金属が、大気に土壌に海洋に過剰な負荷を掛けることになる。土壌に入った過剰な重金属は作物に吸収される。海洋に拡散した重金属はそこに生息する魚介類に摂取される。

その結果、それらを食する人間や動物は、通常より過剰な量の重金属を体内に蓄積する。さらに、その重金属は次の世代の人間や動物に引き継がれることにもなる。食物連鎖による蓄積、世代を超えた人間への重金属の集積である。重金属汚染は時間と空間を越えた問題なのである。

局在的にではあるが、われわれは不幸にもこのことをすでに経験している。カドミウムによるイタイイタイ病や水銀による水俣病がそれである。将来、この現象は潜在的ではあるが地球上のいたるところで起こる恐れがある。

すでに、FAO(国連食糧農業機関)およびWHO(世界保健機構)により設置されたコーデックス委員会は、食品の国際規格を作成し、食品中のカドミウムなどの規制を法律化している。

この地球にあまねく生存する生命にとって、とくに動物や人間が消費する食物にとって、適切な重金属濃度で生体を維持することは、きわめて重要なのである。地殻から自然界に拡散された重金属は、最終的には土壌・海洋・河川から植物・魚介類・動物を通して人間の体内に蓄積される。このような重金属の問題を解決するためには、農と環境と医療の研究を連携させることが必要なのである。

今回はカドミウムとヒ素を中心に、それらの挙動を生物地球科学、土壌、植物、臨床環境医学および法律の視点から追い、農医連携の科学の一助としたい。

講演プログラム
開催にあたって:北里大学学長 柴 忠義
重金属の生物地球化学的循環:北里大学教授 陽 捷行
農耕地土壌の重金属汚染リスクとその対策:農業環境技術研究所土壌環境研究領域長 小野信一
植物による重金属集積と人への摂取:東京大学教授 米山忠克
コーデックスの現状:農林水産省消費・安全局農産安全管理課 瀬川雅裕
カドミウム摂取の生体影響評価‐耐用摂取量推定の試み‐:北里大学教授 太田久吉
コーデックス基準策定と食の安全・安心にまつわる戦い:自治医科大学 教授 香山不二雄
臨床環境医学から見た重金属問題:北里大学教授 坂部 貢
総合討論 座長:香山不二雄・陽 捷行

第5回北里大学農医連携シンポジウム
‐地球温暖化:農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術‐
日時:平成20年3月25日(火)13:00~18:00
場所:北里大学白金キャンパス 薬学部コンベンションホール
主催:北里大学、後援:内閣府・農林水産省

開催趣旨
われわれはなぜ、人類や文明がいま直面している数々の驚異的な危機に思いが及ばないのだろうか。地球温暖化がさまざまな生態系に極めて有害な現象を引き起こし、地球生命圏が、すでに温暖化制御の限度を超えてしまっているのに、ひとびとがそれを理解できずにいるのはなぜだろうか。米国が京都議定書から離脱したり、先進国と途上国の間で政治的な綱引きが行われたり、有効な国際的温暖化対策が進んでいないのはなぜだろうか。

地球には、小は微生物から大はクジラにいたるヒトを含めたあらゆる生物が生息しているという概念、そしてこれらの生物がさらに大きな多様性を包み込む「生きている地球」の一部だという概念を、われわれは心の底からまだ理解していないのだろうか。

これらすべての危機的な現象が、食料を豊かに生産し、便利で文化的な生活を営むわれわれの活動に由来することに、なぜ気づかないのだろうか。たとえ気づいていても、これを改善できないのはなぜだろうか。

しかし幸いなことに、ノーベル賞委員会は、1970年代から地球温暖化問題に取り組んでいるアル・ゴア前米副大統領とIPCC「Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル」に、2007年のノーベル平和賞を授与すると発表した。このことによって、地球の温暖化問題が世界のひとびとの掌中に届いたことになる。

危機的状況にある地球の温暖化が人間の生活に及ぼす負の影響は、極めて重大である。干ばつ、塩類化、土壌浸食などによる食料問題、および熱射病、紫外線増加、デング熱、マラリアなどによる医療問題は、いずれも人類の未来に暗雲の影を落としている。

地球環境の変動は、いつの時代も食料を提供する農業と、人の健康と生命を守る医療に密接に関わっているのである。したがって今回は、地球温暖化が農と環境と健康に及ぼす影響とその対策・適応技術に関するシンポジウムを開催する。なお講演者は、これまで様々な形でIPCCに携わってこられた方々である。

講演プログラム
開催にあたって:北里大学学長 柴 忠義
IPCC報告書の流れとわが国の温暖化現象:北里大学教授 陽 捷行
温暖化による陸域生態系の影響評価と適応技術:
筑波大学大学院生命環境科学研究科教授 林 陽生
農業生態系における温室効果ガス発生量の評価と制御技術の開発:
(独)農業環境技術研究所物質循環研究領域上席研究員 八木一行
気候変動による感染症を中心とした健康影響:
東北大学大学院医学系研究科教授 押谷 仁
IPCCの今:宮城大学国際センター准教授 あん・まくどなるど
気候変動の影響・適応と緩和策‐統合報告の知見‐:
(独)国立環境研究所社会環境システム研究領域長 原沢英夫
総合討論 座長:林 陽生・陽 捷行

第6回北里大学農医連携シンポジウム‐食の安全と予防医学 ‐
日時:平成20年10月24日(金)10:00~18:00
場所:北里大学相模原キャンパス

開催趣旨
病気の予防、健康の増進、安全な食品、環境を保全する農業、癒しの農などのために、すなわち21世紀に生きる人びとの健康と安全のために、農医連携の科学や教育の必要性は強調されてもされすぎることはないであろう。今回は、生命科学を探求している北里大学の教授らによる農医連携シンポジウムを「食の安全と予防医学」と題して開催する。

食のグローバル化、大腸菌O157や異常プリオン蛋白質など新たな危害要因の出現、遺伝子組換え技術といった新技術開発など、食生活と予防医学を取り巻く状況が大きく変化し、食品の安全性や予防医学における科学情報が、われわれの日常生活に深く入り込む時代になって久しい。

このため、食卓では絶えず科学を意識せざるを得ない潮流が生まれてきた。ポリフェノールがもつ赤ワインの抗酸化作用が強調され、アルコール摂取量の増加という健康の問題は棚上げされる。焼き鳥ひとつ食べるのにも、鳥インフルエンザウイルスを意識する。

ひとつの食品をとって、その部分の効果や影響だけを強調し、総合化したらどうなるかという問題には触れない風潮も生まれた。知と知の分離である。

食品はもともと、炭水化物、脂肪、タンパク質、ミネラル、ビタミンなど数多くの成分が集まってできたものであるから、利点も欠点もある。われわれは昔から食品をおいしくバランスよく摂るため、味と保存方法に多くの関心を寄せてきた。食品は添加物がないと、腐敗し食中毒のリスクが上昇することも周知の事実であった。

ヒトは長い歴史の中で、さまざまな食品をバランスよく食する知恵を身につけてきた。科学技術に支えられる現代の食品と予防医学は、このヒトの歴史・習慣・常識を忘れ去らせようとしているのではないか。

最新の食品の安全と予防医学は、最新の科学技術を駆使して維持されている。このような食の安全と予防医学について農学と医学の立場から、両者がどのように連携できるかを考えるシンポジウムにしたい。

講演プログラム
開催にあたって:北里大学学長 柴 忠義
食品安全委員会の現状:内閣府食品安全委員会委員長 見上 彪
北里大学の農医連携構想の現状:北里大学教授 陽 捷行
食生活の現状と課題‐健康維持・おいしさ・安全性の連携‐:北里大学保健衛生専門学院講師 多賀昌樹・旭 久美子・大村正史
水産物の機能と安全性:北里大学名誉教授 神谷久男
過酸化脂質と疾病:北里大学薬学部教授 中川靖一
サルモネラおよびカンピロバクター食中毒‐農の領域から‐:北里大学獣医学部教授 中村政幸
海藻類多食者におけるヒ素による健康影響の問題点:北里大学医療衛生学部教授 山内 博
農医連携における遺伝子高次機能解析センターの役割:北里大学医学部教授 篠原信賢
農医連携の架け橋としてのプロバイオティクスの可能性を探る:北里大学獣医学部教授 向井孝夫
機能性食品の可能性と限界:北里大学獣医学部教授 有原圭三
総合討論 座長:相澤好治・陽 捷行

第7回北里大学農医連携シンポジウム‐動物と人が共存する健康な社会‐
日時:平成22年3月4日(木)13:00~18:00
場所:北里大学白金キャンパス 薬学部コンベンションホール
主催:北里大学
共催:平成21年度文部科学省大学教育改革支援プログラム採択課題実行委員会

開催趣旨
動物介在教育・療法学会の設立趣意の冒頭は、19世紀フランスの歴史家ジュール・ミシュレーの言葉、「生命は自らとは異なった生命と交流すればするほど、他の存在との連帯を増し、力と、幸福と、豊かさを加えて生きるようになる」ではじまる。人は人と人の関係において、はじめて豊かな人であるように、人は動物との関係においても精神的な豊かさを増して生きていける。

世界保健機関(WHO)は1999年に健康の定義の改正案、「健康とは、身体的・精神的・スピリチュアル・社会的に完全に良好な動的状態であり、単に病気あるいは虚弱でないことではない」を掲げている。この定義は改正されるに至っていないが、健康におけるスピリチュアルな概念は、社会が複雑多岐にわたる構造へと変動するなかで、ますます重要になる。

わが国においても、健康に関わるスピリチュアルな課題が動物介在教育・活動・療法などを活用して研究されはじめて久しい。その結果、これらの手法が人間の健康増進、医学における補完医療、高齢者や障害者の正常化、さらには子供の心身の健康的な発達に大きな役割を担っていることが認知され始めた。

とはいえ、わが国における動物介在教育・活動・療法などを進展させるためには、活用動物の習性や行動に基づく介在方法、公衆衛生上の評価、さらには倫理規定など周辺環境の整備がまだ十分に整っていない現状がある。

20世紀が技術知の勝利であるとすれば、21世紀は技術知を活用して得られた生態知、さらには技術知と生態知を連携した統合知を獲得する時代といえるかも知れない。さらに、自然科学を活用したスピリチュアルな幸福や豊かさを求める時代ともいえるであろう。

このような視点から、今回は「動物と人が共存する健康な社会」と題した農医連携に関わるシンポジウムを開催し、農医連携の科学の一助としたい。

講演プログラム
開催にあたって:北里大学学長 柴 忠義
人と動物とスピリチュアリティ:北里大学教授 陽 捷行
人と動物の望ましい関係:東京大学教授 林 良博
動物介在教育:特定非営利活動法人ひとと動物のかかわり研究会副理事長 的場美芳子
子どもの学習における動物の役割を考える:日本獣医生命科学大学教授 柿沼美紀
動物福祉と動物介在教育・療法のこれから:北里大学教授 樋口誠一
ヒポセラピー(馬介在療法)の効果:東京大学教授 局 博一
馬介在療法の科学的効果‐内科医の視点から‐:関西福祉科学大学教授 倉恒弘彦
総合討論 座長:林 良博・陽 捷行

第8回北里大学農医連携シンポジウム‐農医連携の現場:アメリカ・タイ・日本の例‐
日時:平成23年4月20日(水)10:00~17:30
場所:北里大学白金キャンパス 薬学部コンベンションホール

開催趣旨
21世紀の予防医学が掲げる課題に、リスク評価・管理・コミュニケーション、疾病の発生予防、健康の質の増進などがある。これらの医学分野における今日的な課題に対して、農学分野が積極的に取り組むことは、社会の健全な発展にとって極めて重要なことである。「農医連携」の科学の確立と教育と普及が期待されている。

20世紀の技術知が生んだ成果のなかには、われわれが生きていく21世紀の世界に、農医連携の教育や研究や普及が不可欠であることを示唆するものがいくつかある。病気の予防、健康の増進、食品の安全、環境を保全する農業、癒しの農などは、その代表的な事象であろう。そこでは、農と医の知の統合が必要とされている。医食同源とか身土不二などの言葉があるにもかかわらず、これまで農医連携の教育・研究・普及についてはそれほど強調されてこなかった。

医と農はかつて同根で、現在でもなお類似した道を歩いている。医学には代替医療が、農学には代替農業がある。前者は西洋医学を中心とした近代医学に対して、それを代替・補完する医療である。後者は化学肥料や農薬を中心とした集約的農業生産に対して、これを代替・補完する農法である。いずれも、生命の探求を基盤にした科学がなすわざであろう。21世紀に入り医学はヒトゲノム、農学はイネゲノムの塩基配列を解読する全作業を完了した。これも農と医がともに生命科学の探求を志しているからである。

このような視点から、北里大学では2005年から農医連携という新しい言葉を発信し、社会にさまざまな情報を提供してきた。なかでも北里大学農医連携シンポジウムでは、これまで「農・環境・医療の連携を求めて」「代替医療と代替農業の連携を求めて」「鳥インフルエンザ‐農と環境と医療の視点から‐」「農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響」「地球温暖化‐農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術‐」「食の安全と予防医学」「動物と人が共存する健康な社会」をテーマに、農医連携の必要性を強調してきた。さらに、農医連携の考え方を世界に発信するため、「Agriculture-Environment-Medicine」と題した英文の冊子を養賢堂から出版した。

学祖北里柴三郎の「医道論」には、医の基本は予防にあるという信念が掲げられ、学問の成果は広く国民のために活用されて初めて学問たりうることが強調されている。ここでは、叡智を実践に移すことの必要性が説かれている。このことを念頭において、今回は「農医連携の現場―アメリカ・タイ・日本の例―」と題したシンポジウムを開催し、農医連携の科学が現場でどのように普及されつつあるかを紹介させていただく。

The 8th Agromedicine Symposium in Kitasato University
Agromedicine: Examples from the USA, Thailand and Japan
The goals of preventive medicine in the 21st century include the management, assessment, and communication of risk, prevention of disease, and improvement of health. To address the expectations of society today, it is vital to investigate and establish common ground between these medical issues and agriculture issues.

The outcomes of 20th century scientific and technological advances in the 20th century suggest very strongly that research, education and extension in agromedicine will be absolutely vital to human society in the 21st century to prevent disease, promote health, ensure food safety, practice environmentally friendly agriculture, and benefit from the therapeutic value of agriculture in order to ensure human well-being. If the statement, "We are what we eat,"is true, then we feel we have not paid enough attention to agromedical research, education and extension.

A major problem in modern society is disjunction in various forms. These disjunctions can be roughly divided into three categories: disjunction between knowledge from knowledge, between knowledge and action, between knowledge and feelings, and between past and present knowledge. An all-embracing, multidisciplinary approach is needed to overcome the disjunctions in agricultural and medical research and education.

With this goal in mind, Kitasato University held symposiums on agromedicine as follows: "Agriculture, Environment and Healthcare,""Alternative Medicine and Alternative Agriculture,""A look at Avian Influenza from the Perspective of Agriculture, Environment and Medicine,""Effect of Cadmium and Arsenic on Agriculture, the Environment and Health,""Global Warming: Assessing the Impacts on Agriculture, the Environment , and Human Health, and Techniques for Responding and Adapting," "Safety Food and Preventive Medicine" and "Health and the Coexistence of Humans with Animals"

During this 8th symposium we will introduce practical examples from the USA, Thailand and Japan. We hope the symposium will help identify productive directions for future research, extension and education in agromedicine.

講演プログラム
開催にあたって:北里大学学長 柴 忠義
Opening: Tadayoshi Shiba <President、Kitasato University>
農医連携の科学:世界の動向 北里大学教授 陽 捷行
Agromedicine: The Worldwide Trend; Katsu Minami <Kitasato University>
北里大学における農医連携教育:北里大学教授 向井孝夫・松下 治
Education of Agromedicine in Kitasato University:Takao Mukai and Osamu Matsushita
親子二代で取り組んだ有機野菜栽培:農業生産法人 有限会社豆太郎 代表 須賀利治
The Actions to Achieve Organic Farming through Second Generation:Toshiharu Suga <MAMETARO Co., Ltd. (agricultural production corporation)>
カリフォルニアにおける健康食品の生産と利用:T&Dウィリーファームズ トム・ウィリー
Production and Sale of Health Food in California: Tom Willey <T&D Willey Farms>
現代医療からみた農医連携の必要性:エムオーエー奥熱海クリニック院長 佐久間哲也
The Necessity of Agromedicine from the View Point of Modern Medicine:Tetsuya Sakuma <MOA Okuatami Clinic>
タイにおけるハーブの医療活用:ダムナンサドアック病院長 スラット・レクタイ
The Medical Treatment of Herb in Thailand:Surat Lekutai <Damnoen Saduak Hospital Ratchaburi>
タイ国衛生省における農医連携の取り組み:タイ国衛生省伝統・代替医療局顧問 プラポッチ・ペトラカッド
Agromedicine Plan in Ministry of Public Health, Thailand:Prapoj Petrakard <Senior Medical Expert, Department Development of Thai Traditional and Alternative Medicine>
カリフォルニアにおける健康医療の実践:カリフォルニア健康統合センター長 デビッド・ワン
The Practice of Health Care in California:David Wong <California Health Integration Center>
総合討論:佐久間哲也・陽 捷行 Discussion: T. Sakuma and K. Minami
北里大学農医連携学術叢書の刊行−横井時敬と北里柴三郎の思いを継いで−
北里大学の農医連携に関わる教育・研究・普及は、2005年に開始された。その後、2006年から2012年にわたって北里大学農医連携学術叢書をまとめて11号まで上梓した。それらの本の表題などは、この項の最後に紹介する。本の紹介の前に医学の泰斗・北里柴三郎と、農学の泰斗・横井時敬の話を書き、農と医の因縁が必ずしも薄くなかったことを紹介する。

火の国、のちの肥後の国、今の熊本県に、後世になって泰山北斗(泰斗)と呼ばれた二人の青年が、ほとんど同じ時代に熊本洋学校と熊本医学校で、それぞれ農学と医学を学んでいた。東京農大の学祖横井時敬(ときよし)と北里大学の学祖北里柴三郎である。

近代農学の始祖といわれる横井時敬は、万延元年(1860)肥後国熊本城下の藩士横井久右衛門時教の四男として生まれた。北里柴三郎が生まれた年(1853)の7年後である。幼名を豊彦という。15歳で熊本洋学校を卒業し、ここでアメリカ人教師のジェーンズの助手になり、後進の指導に当たった。20歳の明治13年(1880)、東京駒場農学校農学本科を卒業し、駒場農学校農芸化学へ入校した。その後、兵庫県植物園長兼農業通信員となった。明治18年(1885)から福岡県農学校教諭となり、この間に「種籾の塩水選種法」を考案した。明治27年(1894)に東京帝国大学農科大学教授、明治44年(1911)から昭和2年(1927)まで東京農業大学学長を務めた。大正11年(1922)には東京帝国大学を定年で退職した。

この間、作物学および農業経済学の大家として活躍するのみならず、農業教育者、社会啓蒙家として、日本の社会のために大きく寄与した。特に、氏の言う「実学思想」は、彼が残した多くの「言葉」の中によく表れている。曰く、「一国の元気は中産階級にあり」「農民たる者は国民の模範的階級たるべきものと心得、武士道の相続性を以って自ら任じ、自重の心掛け肝要のこと」「人物を畑に還す」「農学栄えて農業亡ぶ」「稲のことは稲に聞け、農業のことは農民に聞け」。とくに最後の二つは、多くの農業関係者の知るところである。

横井は書道の大家でもあった。政治家の後藤新平は、現在の能書家として誰を挙げるかと聞かれ、躊躇なく「それは、犬養木堂(毅)と横井虚遊(時敬)だろう。特に虚遊の仮名文字は絶品」と答えたという。誰かが、同僚の農芸化学者古在由直(2代目農事試験場長、元千葉大学学長古在豊樹氏は由直の孫)のほうが時敬より字がうまい、と言ったのを聞いて悔しがり、横井は土肥樵石について本格的に字を習ったと言われている。

一方、近代医学の父と称される北里柴三郎である。学祖については、ここでの解説は必要ない。横井との類似点は、オランダの医師マンスフェルトに学び、東大医学部時代に医道論を書き、破傷風菌の純粋培養やペスト菌の発見など学術上の成果などがある。さらに重要なことは、横井と同じように明治時代を発展させた先駆者であり、「実学」の思想の重要性を説いた。

多くのものごとが分化しつつある現在、社会的に大きな問題のひとつに「分離の病」がある。人と人、親と子、教師と生徒、自然と人、事実と事実、文化・歴史と現在のつながりなど、枚挙に暇がない。

これらを整理すると4つの分離の病がある。「知と知」の分離、すなわち専門主義への埋没。「知と行」の分離、すなわち理論を構築する人と実践を担う人との分離。「知と情」の分離、すなわち客観主義やバーチャルへの執着。「過去知と現在知」の分離、すなわち文化の継承や歴史から学ぶ時間軸の分離、不易流行や温故知新などの言葉でも表現できる。

農学の知と医学の知は、生命科学の探究の結果生まれた知であるから、「医食同源」「身土不二」「地産地消」などの言葉があるように、本来統合されなければならない知である。北里柴三郎の「医道論」に、医道についての信念が「人民に健康法を説いて身体の大切さを知らせ、病を未然に防ぐのが医道の基本である」「病気を未然に防ぐ為には、病気の原因と治療、つまり、医術を徹底的に理解しないと達成出来ない。真の医を施すには医術の充分な研究が必要である。医学を志すものは理論技術とも甲乙なく徹底的に研究する必要がある」などとある。これらのことは、健全な環境のもとで生産され、安全な製造過程を経た食品を食し、健康を保ち病に陥らないことが必要であると解釈できる。北里は、環境を通した農医連携(統合知)の必要性をすでに説いていたのである。

同じ時代に肥後の国に生まれた泰山北斗が、150年以上も前に志した農学と医学の知が連携される科学、「農医連携の科学」が近い将来達成されることを祈念して、これまでに、北里大学から発信した冊子を以下に紹介する。

北里大学農医連携学術叢書第11号:農医連携論‐環境を基とした農と医の連携‐、養賢堂、 A5, 291p(2012)
北里大学農医連携学術叢書第10号:東日本大震災の記録‐破壊・絆・甦生‐、養賢堂、 A5, 214p(2012)
北里大学農医連携学術叢書第9号:農と環境と医の連携を求めて‐本の紹介55選・言葉の散策 30選‐、養賢堂、A5, 424p(2011)
北里大学農医連携学術叢書第8号:動物と人が共存する健康な社会、養賢堂、 A5, 169p(2010)
北里大学農医連携学術叢書第7号:Agriculture-Environment-Medicine、養賢堂、 B5, 224p(2009)
北里大学農医連携学術叢書第6号:食の安全と予防医学、養賢堂、A5, 253p(2009)
北里大学農医連携学術叢書第5号:地球温暖化‐農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術‐、養賢堂、A5, 122p(2009)
北里大学農医連携学術叢書第4号:農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響、養賢堂、 A5, 178p(2008)
北里大学農医連携学術叢書第3号:鳥インフルエンザ‐農と環境と医療の視点から‐、養賢堂、A5, 200p(2007)
北里大学農医連携学術叢書第2号:代替医療と代替農業の連携を求めて、養賢堂、 A5, 146p(2007)
北里大学農医連携学術叢書第1号:現代社会における食・環境・健康、養賢堂、 A5, 152p(2006)
この国の環境‐時空を越えて‐:アサヒビール発行・清水弘文堂書房編集発売、ブルース・オズボーン写真、A5, 167p(2011)
人びとの健康と地球環境保全のために:東方書林、B5, 77p(2009)
農と環境と健康:アサヒビール発行・清水弘文堂書房編集発売、A5, 311p(2007)

なお読者の参考に資するため、以下に最新の10号と11号の目次を紹介する。

北里大学農医連携学術叢書第11号:農医連携論‐環境を基とした農と医の連携‐、陽 捷行著
刊行にあたって
第1章 序論:はじめに/地球の悲鳴が聞こえる/人類の課題/分離の病/農医連携の定義
言葉の散策:「言葉」と「散策」の語源/コラム:決河之勢(けっかのいきおい)
第2章 歴史にみる農と医:農学と医学の原点/農と医の類似性/農学と医学の共生
言葉の散策:医食同源/コラム:姿勢/
第3章 農医連携を心した人びと:炎帝神農;古代中国/ヒポクラテス;古代ギリシャ/フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト;ドイツ/ユストゥス・フォン・リービヒ;ドイツ/北里柴三郎;日本/ルドルフ・シュタイナー;オーストリア帝国/新渡戸稲造;日本/アレキシス・カレル;フランス/アルバート・ハワード;イギリス/岡田茂吉:日本/吉岡金市;日本/アンドルー・ワイル;アメリカ/
言葉の散策:医(醫)は匚と矢と殳と酒(酉)から成立/コラム:事実と真実/
第4章 農医連携:世界の動向/国際窒素イニシアチブ(INI)/地球圏‐生物圏国際協同研究計画(IGBP)/地球変動と健康プロジェクト(GEC&HH)/国際土壌科学会議:土壌と安全食品と健康/オランダ;ワーへニンゲン大学とワーへニンゲン食品科学センター/オランダ;国立健康環境研究所(RIVM)/コペンハーゲン大学/メリーランド大学/南カロライナ医科大学/サスカチュワン大学/イギリス;リーバーヒューム農医連携研究所(LCIRAH)/タイ;チャオ・プラヤー・アバイブベ郡立病院/言葉の散策:環境/コラム:仁和寺にある法師/
第5章 農医連携:日本の動向/北里大学;農医連携/千葉大学;環境健康フィールド科学センター/島根大学;医工農連携プロジェクト/高知大学;環食同源/大阪府立大学生命環境科学部;生命環境科学部/学術会議の動向;生命科学、医と食、農学アカデミー/農林水産省;食料・農業・農村白書、農医連携事業/文部科学省;大学教育改善支援プログラム/学会関係;日本衛生学会、日本栄養改善学会、日本畜産学会、人と動物の関係学/
言葉の散策:人と病人と故人/コラム:告朔の羊(こくさくのきよう)
第6章 代替医療と代替農業:はじめに/代替医療/代替農業/代替農業と代替医療の連携/農医連携の実践;タイの例/
言葉の散策:農と環境と医療/コラム:蛍雪の功/
第7章 農医連携各論:鳥インフルエンザ/重金属;カドミウムとヒ素の例/
言葉の散策:身土不二/コラム:いのちの食べ方/地球温暖化/オゾン層破壊/動物と人が共存する社会/その他/
言葉の散策:教・育・学・習/コラム:盈科而進(えいかじしん)/
おわりに/附1 北里大学農医連携学術叢書シリーズ/附2 農・環境・医に関わる本の紹介/
附3 環境変動を基とした農と医の50年史


北里大学農医連携学術叢書第10号:東日本大震災の記録‐破壊・絆・甦生‐
陽 捷行・緒方武比古・古矢鉄矢編著

刊行にあたって:柴 忠義
第1章 この国の生いたち:陽 捷行
第2章 破壊・喪失・互助・再生/1.小さな体験から:陽 捷行/2.大学安全の視点から:古矢鉄矢
第3章 東日本大震災の記録/1.海洋生命科学部の東日本大震災対応:緒方武比古/2.学生の健康:岡田 純/3.東日本大震災における北里大学の医療支援:竹内一郎 第4章 地震による三陸津波の歴史:陽 捷行
第5章 対談:未来に向けて:柴・岡田・緒方・古矢・陽
‐破壊・忍耐・和・絆・奉仕・甦生・胎動・復興‐
付:関東大震災と北里柴三郎/おわりに
北里大学農医連携教育セミナーの歩み
文部科学省の平成21年度「大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム」に応募した北里大学の「農医連携による動物生命科学教育の質の向上」が、支援プログラムに選定された。このことについては、情報52号に詳しく紹介した(http://noui.kitasato-u.ac.jp/spread/newsletter/noui_no52.html#p01)

このプログラムの目的は次のように表現できる。「農」は食を支えるとともに、環境保全といった多面的な機能を持ち合わせているうえに、古来、医食同源(いしょくどうげん)や身土不二(しんどふじ)、地産地消などの言葉で表現されるように、人の健康や医療とも切り離せないものである。

このような視点に立てば、「農」と「医」を密接に連携させる手法を考案するべきであるが、これまで「農学」と「医学」は、それぞれの立場で独自に発展してきた歴史がある。人材養成など教育面においても例外ではない。農と医は、積極的な連携が重視されないまま今日に至っているのが現状である。

そのため、食の安全性の喪失や人獣共通感染症の発生など現代的な問題が生じている。このことは、持続的な発展を必要とする人間社会の構築そのものにも影響が及んでいる。今ほど、農医連携による教育・研究・普及の必要性が叫ばれる時代はない。

このプログラムの目的は、北里大学獣医学部動物資源科学科に「農医連携教育」を柱とした新しい教育課程を編成することによって、教育の質の向上を図り、次のような人材を養成をする教育にある。例えば(1)生命倫理観、(2)創造的思考力、(3)課題探求能力、(4)コミュニケーションスキル・情報発信力、などの項目を挙げることが出来る。

このプログラムを推進することによって、高い倫理観および農と医の複眼的視点を身につけた、農を中心とした幅広い領域で活躍が期待されるジェネラリスト型の人材が養成でき、その上で農と医の境界領域における専門基礎能力を有したスペシャリスト型の人材をも養成できると考える。21世紀に予測される環境・食と生命に係る諸課題と、それらを解決するための道筋を提起し自らの考えを提示できる力、そしてそれを実践する学生の育成が期待される。このセミナーの歩みを振り返ってみる。

1.2009年度農医連携教育セミナー:農医連携教育プログラム初年度の成果と展望
日時:2010年3月5日(金) 13:00~16:55
場所:北里大学相模原キャンパス医学部M5号館 M32号室
 問い合わせ:北里大学獣医学部動物資源科学科 webmaster@vmas.kitasato-u.ac.jp
プログラム
13:00~13:10:挨拶 農医連携委員会委員長/副学長
13:10~13:50:基調講演「農と医から『食』を考える」勝田新一郎(福島県立医科大学)
13:50~14:00:休憩
14:00~15:00:第1セッション 学生による農医連携プログラム報告会
  1. 医科実験動物学分野
  2. 動物介在活動・療法分野
  3. 食の安全分野
  4. 生殖補助医療分野
15:00~15:10:休憩
15:10~16:25:第2セッション 学生による課題学習発表
  1. 実験動物について考える―農と医のそれぞれの視点から―
  2. なぜ動物介在療法が普及しないのか―普及しない理由・問題点・解決法―
  3. 豚肉と健康
  4. 胚培養士という職業の現状、課題および将来展望
  5. 動物と人における生命の重さについて―命が生まれる時点で考える―
16:25~16:45:総合討論・意見交換会
16:45~16:55:講評


2.2010年度農医連携教育セミナー:農医連携教育プログラム2010年度の成果と展望
日時:2011年3月3日(木) 13:00~17:10
場所:北里大学相模原キャンパス L1号館3F 33講義室
問い合わせ:北里大学獣医学部動物資源科学科 webmaster@vmas.kitasato-u.ac.jp
プログラム
13:00~13:10:挨拶 農医連携委員会委員長/副学長
13:10~14:00:基調講演「農医連携と統合医療」杉岡良彦氏(旭川医科大学)
14:00~14:10:休憩
14:10~15:10:第一セッション 学生による農医連携プログラム報告会
  1. 医科実験動物学分野
  2. 動物介在活動・療法分野
  3. 食の安全分野
  4. 生殖補助医療分野
15:10~15:30:休憩
15:30~16:45:第二セッション 学生による課題学習発表
  1. 医科実験動物学分野:動物実験の削減方法として用いられる代替法について考える
  2. 動物介在活動・療法分野:動物介在療法の目指すべき形~新しい分野の開拓とその模索~
  3. 食の安全分野:混ぜるなキケン? ~食べ合わせの科学~
  4. 生殖補助医療分野:胚培養士と不妊カウンセリングとのかかわり
  5. 生命倫理学:『動物の権利』とはなにか ~よりよい共生を求めて~
16:45~17:00:総合討論・意見交換会
17:00~17:10:講評

3.2011年度農医連携教育セミナー:農医連携教育プログラム2011年度の成果と展望
日時:2012年3月1日(木) 13:00~17:00
場所:北里大学相模原キャンパス医学部M5号館M36号室
問い合わせ:北里大学獣医学部動物資源科学科 webmaster@vmas.kitasato-u.ac.jp
プログラム
13:00~13:10:挨拶 動物資源科学科学科長
13:10~13:40:北里大学における農医連携~農医連携の古往今来~ 副学長 陽 捷行
13:40~14:55:第1セッション「学生による農医連携プログラム報告会」
  1. 医科実験動物学分野
  2. 動物介在活動・療法分野
  3. 食の安全分野
  4. 生殖補助医療分野(3年生)
14:55~15:05:休憩
15:05~16:20:第2セッション「学生による課題学習発表」
  1. 医科実験動物学分野:日本における実験動物の利用の問題点とその改善策について
  2. 動物介在活動・療法分野:ペットが活躍できる動物介在療法~新しいサービスの提案
  3. 食の安全分野:「痩せる」で「閃く」~食事でアンチエイジング~
  4. 生殖補助医療分野:不妊治療患者の増加と晩婚化のかかわりについて
  5. 生命倫理分野:人間の品種改良はいけないのか?
16:20~16:30:休憩
16:30~17:15:「農医連携教育へのエール~今後の農医連携教育~」医学部教授 松下 治
資料の紹介 18:北里柴三郎博士の医道論を読む学校法人北里研究所 北里柴三郎記念室(2011)
「情報:農と環境と医療 1号」の「本の紹介 1」では、北里柴三郎の伝記ともいえる「ドンネルの男・北里柴三郎、山崎光男著、東洋経済新報社、2003」を紹介し、北里先生に登場していただいた。「情報:農と環境と医療 67号」では「資料の紹介 18:北里柴三郎の医道論を読む」に再び登場いただき、この最終号に花を添えることにした。

「医道論」は、北里が東京大学医学部の予科から本科へ昇級して間もない頃の25歳に書かれた演説用の原稿である。北里の理念の根底には実学の精神がある。この実学の精神は、農学の泰斗と呼ばれた横井時敬(ときよし)にもあったことは、この情報の別の項「北里大学農医連携学術叢書の刊行‐横井時敬と北里柴三郎の思いを継いで‐」でも紹介した。

どうやら、この火の国、のちの肥後の国、今の熊本県に、後世になって泰山北斗(泰斗)と呼ばれた二人の青年、医学の泰斗・北里と農学の泰斗・横井が、儒学者で政治家である維新の十傑の一人といわれた横井小楠の実学の精神に呼応していたと考えられる。

その実学の思想とは、小楠の語る経世済民からくる。すなわち、民の幸福や民の生活の豊かさを大切にする思想から政治をみる視点である。政治と学問を一体化する考えである。医学においても農学においても、経世済民の思想と同じように民のためにならなければ意味がない。学問は己の私欲のためではなく、民の豊かな暮らしや文化を発展させていくためのものであるとした精神が原点にある。

この冊子は、右頁に北里の直筆原稿が影印(原本の約80%)し、左頁上段を翻刻、下段を現代語訳としている。翻刻テキストについて、旧仮名づかいはそのままとし、漢字については現行の漢字に置き換えている。実際の演説原稿は、縦24.5cm、横29.5cmの18罫和紙8枚に本文約3000字が楷書で墨書きされている。二つ折りにして表紙を付けて綴じ込み、原稿には所々、演説での区切りと見られる大小の鉤印が付けられている、と解説されている。

書き出しが興味深い。『昔の人は「医は思いやりの術である」と言っている。また「優れた医者は国の病を治す」とも言っている。そもそも医の真の使命とは、人民の健康を維持し、安心して職業を努められるようにして、国家を奮い起こし富強することにある』。ここで、すでに現在言及されているスピリチュアリティの問題が提起されている。さらに、健康の主語が個人だけに偏らない。

最後は漢詩で終わる。
明治十一年四月某日 北里柴三郎述
地早慧何須俊 晩成只合掌賢豪 君看門前沼濱水 去為滄溟万里涛

幼児から賢いからといって、どうして立派な人物になれようか
晩成を期して、ともに、賢者剛勇者学ぶのみ
君には見えないか、門前の沼や濱の水も
やがて大海原の万里の波涛となるのを

さて、横井も似たような内容の書を残している。筑波にある独立行政法人農業境技術研究所の理事長室に古い掛字がある。横井の揮毫である。
盈科而進(えいかじしん) 農学博士横井時敬
水の流れは、科(あな)に満ちて(盈)から先の方に流れていく
転じて、学問をするにも順を追って進むべきであると解釈される
言葉の散策 36:字引・事典・字典・辞典と「映画」
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る

字引、字書または辞書は「辞典」「事典」と「字典」に分けられる。しかし、現実に刊行されている辞書の書名では、これらが明確に使い分けられてはいないようである。実際、筆者も日常では何の意識もなくこれらの辞書をかってに使っている。いちいち、これは「辞典」で、あれは「事典」によって、それは「字典」で引こうなどと考えず、無意識のうちにそれぞれの辞書を使っている。

「言葉の散策」では、これらの辞書類にお世話になった。辞書類なくして、この項は成立しなかった。まことに辞書類はありがたい。とくに、白川静の「字通」は「ドラえもん」の不思議なポケットのような案配で、表題を決めてからこの辞書を開くときは、心が躍った。氏の他の二冊、「字訓」と「字統」も多くのことを教えてくれた。このような三部作を一人で書き上げた白川静は、まさに怪物・巨人とよばれてふさわしい人であろう。

さて、この項を終わるにあたって辞典と事典と字典の違いを整理してみる。今頃になって、これらの違いが分かるとはお粗末の限りであった。

辞典:言葉を集めて配列し、意味や用法などを解説した書物。辞典=ことばてん。
「国語辞典」「漢和辞典」「古語辞典」「英和辞典」「用語辞典」など。

事典:事物に関する知識を集めて配列し、項目ごとに解説した書物。事彙。事典=ことてん。「百科事典」「歴史事典」「科学事典」「哲学事典」など。

字典:漢字などの文字を集めて配列し、その読みや意味を解説した書物。字典=もじてん。「書体字典」「かな字典」「康煕字典」「書道五体字典」など。

「ことばてん・ことてん・もじてん」の曰わくを調べただけでは、味が薄い。そこで、言葉の変遷についての経験知を紹介して、シリーズ「言葉の散策」も終わりにしたい。

言葉すべてについて、上述したようにわが国では歴史と文化がある。それにもかかわらず、現在のこの時代における未成熟な言葉の氾濫には、恐れ入谷の鬼子母神である。カタカナ用語、簡略言葉、訳も分からぬ子どもの名前など、それらの例を紹介するだけでも、おぞましい。とくに難読で男女の違いもわからない珍奇な名前をみると、その子の前途多難な将来が思いやられる。そのような奇妙な名前をつけた親はまことに立派な親御さんで、長い人生に渡って子どもを苦難を通して鍛えようとしているのであろうか。いずれにしても、言葉の荒れ模様はその時代の在りようが反映されるようである。

「歌もまた時代につれて変遷する」という定文があるように、言葉もまた変遷する。文化・文明の変遷は言葉の変遷でもある。そこで、「映画」という言葉の変遷を眺めてみよう。

飲んべえ詩人の杜甫が、詩「曲江」のなかで「酒債は尋常行く処に有り 人生七十古来稀なり(例によって酒代のつけは、わしの行くところ何処にでもある。しかし七十年も生きる人は、古くから稀であることよのう)」と詠っているように、筆者も数えで古来稀れなる歳になる。馬齢を重ねると、映画という言葉ひとつとってもこんなに変遷しているのである。

子どもの頃、大人が活動写真と言っていたのを思い出す。もちろん映画の旧称である。その大人の時代の頃の青年たちは、略してこれを活動、活動と言っていた記憶がある。私が子どもの頃の青年団の兄ーちゃんたちである。ポマードの臭いをプンプンとさせた兄ーちゃんが「彼女と活動に言ったよ」と嬉しそうにしゃべっていた。

その後、活動写真と活動は映画に変わった。古来稀なる歳に近い筆者は、ものごころついた頃から映画という言葉しか使わないし、使えない。もちろん今でも映画であり、映画館である。省線電車、山手線、JRのごとき変遷と同じように、いまの若者から映画とか映画館という言葉を聞かない。シネマだ。キネマだ。ムービーシアターだ。こまったものだ、アーティストと間違えそうだ。

しまった。軽率なカタカナ用語を用いてしまった。アートは芸術、アーティストは芸術家という立派な言葉が明治時代に多くの先達によって創られた。芸術家はこの言葉のように美を深く探求した人たちの総称だ。この重厚で立派な日本語が、いまでは床屋・散髪屋・理髪店の兄ちゃんまで芸術家になって、ヘアーアーティストときたもんだ。恐れ入谷の鬼子母神。

話を戻そう。さて、シアターとは恐れ入る。筆者にとって、シアターとは劇場であって、さらには古代ギリシャやローマの円形劇場以外の何者でもない。キネマとはキネマトグラフの略であろうが、「キネマ旬報」という雑誌を思い出す。なぜシネマ(cinema:英語)とキネマ(kinema:米語)の両語があるのかもよくわからない。

これ以上書くと、間違いなく爺の戯言になる。「言葉の散策」は戯言で終わってはならじ。万葉集の言霊を思い起こしながらこの項を終わる。

神代より言ひ伝て来らく そらみつ大和の国は 皇神(すめかみ)の厳しき国
言霊の幸はふ国と語り継ぎ 言ひ継がひけり (万葉集:山上憶良)

磯城島の大和国は 言霊の助くる国ぞ ま幸くありにそ (万葉集:柿本人麻呂)
総目次(情報:農と環境と医療 51号~67号)
平成17(2005)年5月1日から毎月1日に発行してきた「情報:農と環境と医療」が、最終の67号を迎えた。平成17(2005)年5月の1号から平成18(2006)年4月の12号までについては12号に、平成18(2006)年5月の13号から平成19(2007)年3月の24号については4月の25号に、平成19(2007)年4月の25号から平成20(2008)年3月の36号については4月の37号に、平成20(2008)年4月の37号から平成21(2009)年5月の50号については50号に、それぞれ総目次を掲載した。今回は、平成21(2009)年9月の51号から平成24(2012)年6月の67号(最終)までの総目次を掲載する。

51号(2009/9/1)
  •  「情報:農と環境と医療」の再開にあたって ・・・・・ 51-1
  •  地球温暖化:環境と健康と農林業への影響 ・・・・・ 51-2
  •  本の紹介 41:プラン B 3.0 ‐人類を救うために‐、レスター・ブラウン著、環境文化創造研究所、ワールドウォッチジャパン(2008) ・・・・・ 51-16

52号(2009/11/1)
  • 平成21年度文部科学省大学教育改革支援プログラム決定‐農医連携による動物生命科学教育の質の向上‐ ・・・・・ 52-1
  • 獣医学部動物資源科学科の動物資源科学概論2で農医連携論が始まる ・・・・・ 52-2
  • 第22回「バイオサイエンスフォーラム」研究会:盛会に終わる ・・・・・ 52-3
  • 管見:環境を通した農業と健康‐半世紀を振り返る‐ ・・・・・ 52-4
  • 資料の紹介 12:手軽で簡単 自分でできるリラックス法101エムオーエー奥熱海クリニック院長、佐久間哲也ほか(2008) ・・・・・ 52-18
  • 言葉の散策 28:生と産 ・・・・・ 52-19


53号(2010/1/1)
  • 新しい年を迎えて:平成22(2010)年元旦 ・・・・・ 53-1
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの開催‐動物と人が共存する健康な社会‐ ・・・・・ 53-3
  • 安全と安心:本の紹介 42~49 ・・・・・ 53-4
  • 言葉の散策 29:朝・昼・夕・夜 ・・・・・ 53-15


54号(2010/3/1)
  • 医学部と獣医学部教職員の北海道八雲牧場合同視察・交流会が開催された ・・・・・ 54-1
  • 医学部学生の「第3回八雲牧場体験演習」が終わる ・・・・・ 54-8
  • 農・環・医にかかわる国際情報:
    7.オランダ・ワーへニンゲン大学とワーへニンゲン食品科学センター ・・・・・ 54-10
    8.RIVM(国立公衆健康環境研究所) ・・・・・ 54-12
    9.コペンハーゲン大学 ・・・・・ 54-13
  • 本の紹介 50:カルテ拝見‐武将の死因、杉浦守邦著、東山書房(2000) ・・・・・ 54-14
  • 資料の紹介 13:特集‐人獣共通感染症の制御のために‐農林水産技術研究ジャーナル、Vol.32、No.12 ・・・・・ 54-15
  • 言葉の散策 30:死 ・・・・・ 54-19


55号(2010/5/1)
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの映像音声と資料画像 ・・・・・ 55-1
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(1)開催にあたって ・・・・・ 55-1
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(2)人と動物とスピリチュアリティ ・・・・・ 55-2
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(3)人と動物の望ましい関係 ・・・・・ 55-5
  • 農・環・医にかかわる国際情報:10.メリーランド大学 ・・・・・ 55-7
  • 農・環・医にかかわる国際情報:11.南カロライナ医療大学 ・・・・・ 55-8
  • 本の紹介 51:乳がんと牛乳‐がん細胞はなぜ消えたのか‐、ジェイン・プラント著、佐藤章夫訳、径(こみち)書房(2008) ・・・・・ 55-10
  • 本の紹介 52:代替医療のトリック、サイモン・シン、エツァアート・エルンスト著、青木 薫訳、新潮社(2010)  ・・・・・ 55-13
  • コラム:見えぬけれどもあるんだよ 見えぬものでもあるんだよ ・・・・・ 55-15

JOHO:Nou-Kankyo-Iryo No.56(2010/7/1) Newsletter: Agriculture, Environment, and Medicine No.56
The Proceedings of the Seventh Agromedicine Symposium in Kitasato University March 4, 2010 Health and the Coexistence of Humans with Animals
  • Welcome Address Tadayoshi Shiba ・・・・・ 56-2
  • The Spirituality of Humans and Animals Katsu Minami ・・・・・ 56-3
  • The Desirable Relationship between Humans and Animals Yoshihiro Hayashi ・・・・・ 56-8
  • Animal-assisted Education From Humane Education to Animal-assisted Education Miyoko Matoba ・・・・・ 56-11
  • The Role of Animals in Children's Learning Miki Kakinuma ・・・・・ 56-16
  • The Future of Animal Welfare, and Animal-Assisted Education and Therapy Seiichi Higuchi ・・・・・ 56-19
  • The Benefits of Hippotherapy Hirokazu Tsubone ・・・・・ 56-24
  • Scientific Effects of Hippotherapy: A Physician's Perspective Hirohiko Kuratsune ・・・・・ 56-28


57号(2010/9/1)
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(4)動物介在教育‐ヒューメイン・エデュケーションから動物介在教育へ‐ ・・・・・ 57-1
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(5)子どもの学習における動物の役割を考える ・・・・・ 57-4
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(6)動物福祉と動物介在教育・療法のこれから ・・・・・ 57-6
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(7)ヒポセラピー(馬介在療法)の効果  ・・・・・ 57-9
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(8)馬介在療法の科学的効果‐内科医の視点から‐  ・・・・・ 57-12
  • 学長助成金による乳酸菌プロジェクトが開始‐分子基盤理解に基づく乳酸菌の健康増進機能の開発とその食・医療への応用‐  ・・・・・ 57-14
  • 農・環・医にかかわる国際情報:12.タイ ・・・・・ 57-15
  • 農学アカデミー:農医連携の学術とホット・イシュー ・・・・・ 57-21
  • 本の紹介 53:葬られた「第二のマクガバン報告」、上巻「動物タンパク神話」とチャイナ・プロジェクト、T・コリン・キャンベル+トーマス・M・キャンベル著、松田麻美子訳、グスコー出版(2009) ・・・・・ 57-21

58号(2010/11/1)
  • 医学部学生の「第4回八雲牧場体験演習」が終わる ・・・・・ 58-1
  • 第23回「バイオサイエンスフォーラム」研究会:盛会に終わる ・・・・・ 58-2
  • Agromedicine を訪ねる(17):Journal of Agromedicine ・・・・・ 58-2
  • 本の紹介 54:葬られた「第二のマクガバン報告」、中巻「あらゆる生活習慣病を改善する『人間と食の原則』」、T・コリン・キャンベル、トーマス・M・キャンベル著、松田麻美子訳、グスコー社(2010) ・・・・・ 58-4
  • 本の紹介 55:大気を変える錬金術‐ハーバー、ボッシュと化学の世紀‐、トーマス・ヘイガー著、渡会圭子訳、白川英樹解説、みすず書房(2010) ・・・・・ 58-7
  • 本の紹介 56:腰痛はアタマで治す、伊藤和磨著、集英社新書(2010) ・・・・・ 58-13
  • 言葉の散策 31:霜降月 ・・・・・ 58-15


59号(2011/1/1)
  • 新しい年を迎えて:平成23(2011)年元旦 ・・・・・ 59-1
  • 北里大学国際化推進方策検討委員会が発足 ・・・・・ 59-4
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの開催‐農医連携の現場:アメリカ・タイ・日本の例‐ ・・・・・ 59-5
  • Agromedicine を訪ねる(18):Journal of Agromedicine ・・・・・ 59-7
  • 資料の紹介 14:獣医学教育課程への保全医学の取り込み‐タフツ大学の例‐ ・・・・・ 59-10
  • 資料の紹介 15:「情報:農と環境と医療」に掲載した温暖化現象 ・・・・・ 59-10
  • 資料の紹介 16:2010年度 北里大学医学部北海道八雲牧場実習報告書 ・・・・・ 59-12
  • 本の紹介 57:雑食動物のジレンマ ─ある4つの食事の自然史‐、上・下、マイケル・ポーラン著、ラッセル秀子訳、東洋経済新報社(2009) ・・・・・ 59-13

60号(2011/3/1)
  • 農医連携論‐講義の経過と受講生の意見や感想‐ ・・・・・ 60-1
  • 土壌と健康: 1.土壌と地理医学 ・・・・・ 60-4
  • Agromedicine を訪ねる(19):Journal of Agromedicine ・・・・・ 60-13
  • 資料の紹介 17:シンポジウム‐食がカラダを変える!‐ ・・・・・ 60-13
  • 言葉の散策 32:断腸 ・・・・・ 60-15


61号(2011/5/1)
  • 2010年度農医連携教育セミナーが開催された ・・・・・ 61-1
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムが中止された ・・・・・ 61-2
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:1.開催にあたって ・・・・・ 61-2
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:2.農医連携:世界の動向 ・・・・・ 61-4
  • 土壌と健康 2.アースイーター:古代と近代の食土に関する見解(その1) ・・・・・ 61-9
  • 本の紹介 58:メディカルエッセイ集:バビンスキーと竹串、渡辺 良著、かまくら春秋社(2010) ・・・・・ 61-12
  • 本の紹介 59:昭和農業技術史への証言 第八集、西尾敏彦編、昭和農業技術研究会編、農文協、人間選書 272(2010)  ・・・・・ 61-14
  • 本の紹介 60:三陸海岸大津波、吉村 昭著、文春文庫(2004) ・・・・・ 61-15
  • 言葉の散策 33:徳富健次郎(蘆花)の農 ・・・・・ 61-15


62号(2011/7/1)
  • 破壊・絆・甦生:東日本大震災‐小さな体験から‐ ・・・・・ 62-1
  • 地震による津波の歴史 ・・・・・ 62-5
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムアブストラクトのホームページ掲載について ・・・・・ 62-8
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:3.北里大学における農医連携教育 ・・・・・ 62-8
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:4.親子二代で取り組んだ有機野菜栽培(自然農法)  ・・・・・ 62-12
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:5.カリフォルニアにおける健康食品の生産と利用/食する者はみな農業従事者である ・・・・・  62-14
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:6.現代医療からみた農医連携の必要性 ・・・・・ 62-20
  • 土壌と健康 2.アースイーター:古代と近代の食土に関する見解(その2) ・・・・・ 62-22
  • Agromedicine を訪ねる(20):Journal of Agromedicine ・・・・・ 62-27
  • 本の紹介 61:緊急改訂版、「原子力事故」自衛マニュアル、桜井 淳監修、青春出版社(2011)  ・・・・・ 62-27
  • 本の紹介 62:生きもの異変‐温暖化の足音‐、「生きもの異変」取材班、産経新聞社(2010)  ・・・・・ 62-28
  • 本の紹介 63:人はなぜ病気になるのか‐進化医学の視点‐、井村裕夫著、岩波書店(2009) ・・・・・ 62-29


JOHO:Nou-Kankyo-Iryo No.63(2011/9/1)
Newsletter: Agriculture, Environment, and Medicine No.63

The Proceedings of the Eight Agromedicine Symposium in Kitasato University
April 20, 2011
Agromedicine : Examples from the USA, Thailand and Japan
  • A Message from the Symposium Organizer Tadayoshi Shiba ・・・・・ 63-2
  • Agromedicine: The World Trends Katsu Minami ・・・・・ 63-4
  • Education of Agromedicine in Kitasato University Takao Mukai and Osamu Matsushita ・・・・・ 63-11
  • The Actions to Achieve Organic Farming through the Second Generation Toshiharu Suga ・・・・・ 63-16
  • Production and Sale of Health Food in California Tom Willey ・・・・・ 63-19
  • The Necessity of Agromedicine from the Perspective of Modern Medicine Tetsuya Sakuma ・・・・・ 63-27
  • Herbs Used for Medical Treatment in Thailand Surat Lekutai ・・・・・ 63-31
  • Agro-medicine Plan of the Ministry of Public Health, Thailand Prapoj Petrakard ・・・・・ 63-34
  • The Practice of Health Care in California‐Transforming our relationship to food‐ David Y. Wong ・・・・・ 63-38

64号(2011/11/1)
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:
    7.タイにおけるハーブの医療活用 ・・・・・ 64-1
    8.タイ国衛生省における農医連携の取り組み ・・・・・ 64-3
    9.カリフォルニアにおける健康医療の実践‐ヒトと食物との関係の変化‐ ・・・・・ 64-5
  • 農・環・医にかかわる国際情報:13.カナダ;農業関係者のための健康と安全センター ・・・・・ 64-7
  • 農・環・医にかかわる国際情報:14.英国;農業と健康の統合的研究リーバーヒューム・センター ・・・・・ 64-8
  • 農医連携を心した人びと:6.炎帝神農;古代中国(神話伝説:BC2700頃) ・・・・・ 64-9
  • 農医連携を心した人びと:7.ヒポクラテス;古代ギリシャ(BC460頃~BC370頃) ・・・・・ 64-10
  • 農医連携を心した人びと:8.北里柴三郎(1853-1931) ・・・・・ 64-11
  • 土壌と健康 2.アースイーター:古代と近代の食土に関する見解(その3) ・・・・・ 64-13
  • 本の紹介 64:こころの病は、誰が診る?、髙久史麿×宮岡 等、日本評論社(2011) ・・・・・ 64-19
  • 本の紹介 65:地震の日本史‐大地は何を語るのか‐、増補版、中公新書(2011) ・・・・・ 64-20


65号(2012/1/1)
  • 新しい年を迎えて:平成24(2012)年元旦 ・・・・・ 65-1
  • 関東大震災と北里柴三郎 ・・・・・ 65-3
  • 農医連携を心した人びと: 9.ルドルフ・シュタイナー;オーストリア帝国(1861-1925) ・・・・・ 65-4
  • 農医連携を心した人びと:10.岡田茂吉(1882-1955)  ・・・・・ 65-6
  • 農医連携を心した人びと:11.アンドルー・ワイル;アメリカ(1942-現在) ・・・・・ 65-6
  • EU科学技術協力機構(EU COST)アクション866:第5回農業グリーンケア(農業のもつ緑資源による介護)会議‐農業部門におけるグリーンケアの進展と未来に向けた最先端の方向性‐ ・・・・・ 65-8
  • Agromedicineを訪ねる(21):Journal of Agromedicine ・・・・・ 65-9
  • 本の紹介 66:未曾有と想定外‐東日本大震災に学ぶ‐、畑村洋太郎著、講談社現代新書(2011) ・・・・・ 65-10
  • 本の紹介 67:生物学的文明論、本川達雄著、新潮新書(2011) ・・・・・ 65-12
  • 言葉の散策 34:「生き物」「生命」「いのち」「身命」「身」「化け物」 ・・・・・ 65-15

66号(2012/3/1)
  • 平成23年度農医連携論の内容 ・・・・・ 66-1
  • 農医連携論(2008~2011):受講生の感想・意見など ・・・・・ 66-3
  • 農医連携を心した人びと:12.アルバート・ハワード(1873-1947) ・・・・・ 66-11
  • 本の紹介 68:ドキュメント東日本大震災 救助の最前線で、Jレスキュー編、イカロス出版(2011) ・・・・・ 66-12
  • 本の紹介 69:糖尿病・認知症・骨粗しょう症を防ぐミネラルの働きと人間の健康、渡辺和彦著、農山漁村文化協会(2011) ・・・・・ 66-14
  • 言葉の散策 35:心・身心一体 ・・・・・ 66-16
  • 本の紹介:まとめ ・・・・・ 66-17

67号(2012/6/1):最終号
  • 農医連携を心した人びと:古往今来 ・・・・・ 67-1
  • 土壌と健康 3. 土壌疫学システムは存在するか? ・・・・・ 67-5
  • 北里大学農医連携シンポジウムの変遷 ・・・・・ 67-13
  • 北里大学農医連携学術叢書の刊行‐横井時敬と北里柴三郎の思いを継いで‐ ・・・・・・・・ 67-21
  • 北里大学農医連携教育セミナーの歩み ・・・・・ 67-24
  • 資料の紹介 18:北里柴三郎博士の医道論を読む学校法人北里研究所 北里柴三郎記念室(2011) ・・・・・ 67-26
  • 言葉の散策 36:字引・事典・字典・辞典と「映画」  ・・・・・ 67-27
  • 総目次(情報:農と環境と医療 51号~67号) ・・・・・ 67-28
  • 総索引(情報:農と環境と医療 51号~67号) ・・・・・ 67-33
  • それでは、さようなら ・・・・・ 67-37
総索引(情報:農と環境と医療 51号~67号)
平成17(2005)年5月1日から毎月1日に発刊してきた「情報:農と環境と医療」が、最終の67号を迎えた。平成17(2005)年5月の1号から平成18(2006)年4月の12号については12号に、平成18(2006)年5月の13号から平成19(2007)年3月の24号については4月の25号に、平成19(2007)年4月の25号から平成20(2008)年3月の36号については4月の37号に、平成20(2008)年4月の37号から平成21(2009)年5月の50号については50号に、それぞれ総索引を掲載した。今回は、平成21(2009)年9月の51号から平成24(2012)年6月の67号(最終)までの総索引を掲載する。

索引の項目、「挨拶」「学内動向」「国内動向」「国際動向」「総説・トッピックス」「Agromedicine」「農医連携を心した人びと」「本の紹介」「資料の紹介」「講演会など」「言葉の散策」「コラム」などとした。

挨拶
  • 「情報:農と環境と医療」の再開にあたって ・・・・・ 51-1
  • 新しい年を迎えて:平成22(2010)年元旦 ・・・・・ 53-1
  • 新しい年を迎えて:平成23(2011)年元旦 ・・・・・ 59-1
  • 新しい年を迎えて:平成24(2012)年元旦 ・・・・・ 65-1
  • それでは、さようなら ・・・・・ 67-37


学内動向
  • 平成21年度文部科学省大学教育改革支援プログラム決定 ‐農医連携による動物生命科学教育の質の向上‐ ・・・・・ 52-1
  • 獣医学部動物資源科学科の動物資源科学概論2で農医連携論が始まる ・・・・・ 52-2
  • 第22回「バイオサイエンスフォーラム」研究会:盛会に終わる ・・・・・ 52-3
  • 医学部と獣医学部教職員の北海道八雲牧場合同視察・交流会が開催された ・・・・・ 54-1
  • 医学部学生の「第3回八雲牧場体験演習」が終わる ・・・・・ 54-8
  • 学長助成金による乳酸菌プロジェクトが開始 ‐分子基盤理解に基づく乳酸菌の健康増進機能の開発とその食・医療への応用‐ ・・・・・ 57-14
  • 医学部学生の「第4回八雲牧場体験演習」が終わる ・・・・・ 58-1
  • 第23回「バイオサイエンスフォーラム」研究会:盛会に終わる ・・・・・ 58-2
  • 北里大学国際化推進方策検討委員会が発足 ・・・・・ 59-4
  • 農医連携論‐講義の経過と受講生の意見や感想‐ ・・・・・ 60-1
  • 2010年度農医連携教育セミナーが開催された ・・・・・ 61-1
  • 平成23年度農医連携論の内容 ・・・・・ 66-1
  • 農医連携論(2008~2011):受講生の感想・意見など ・・・・・ 66-3
  • 北里大学農医連携教育セミナーの歩み ・・・・・ 67-24

国内動向
  • 農学アカデミー:農医連携の学術とホット・イシュー ・・・・・ 57-21

国際動向
  • 農・環・医にかかわる国際情報: 7.オランダ・ワーへニンゲン大学とワーへニンゲン食品科学センター ・・・・・ 54-10
  • 農・環・医にかかわる国際情報: 8.RIVM(国立公衆健康環境研究所) ・・・・・ 54-12
  • 農・環・医にかかわる国際情報: 9.コペンハーゲン大学 ・・・・・ 54-13
  • 農・環・医にかかわる国際情報:10.メリーランド大学 ・・・・・ 55-7
  • 農・環・医にかかわる国際情報:11.南カロライナ医療大学 ・・・・・ 55-8
  • 農・環・医にかかわる国際情報:12.タイ ・・・・・ 57-15
  • 農・環・医にかかわる国際情報:13.カナダ;農業関係者のための健康と安全センター ・・・・・ 64-7
  • 農・環・医にかかわる国際情報:14.英国;農業と健康の統合的研究リーバーヒューム・センター ・・・・・ 64-8
  • EU科学技術協力機構(EU COST)アクション866: 第5回農業グリーンケア(農業のもつ緑資源による介護)会議 ‐農業部門におけるグリーンケアの進展と未来に向けた最先端の方向性‐ ・・・・・ 65-8

Agromedicine
  • Agromedicine を訪ねる(17):Journal of Agromedicine ・・・・・ 58-2
  • Agromedicine を訪ねる(18):Journal of Agromedicine ・・・・・ 59-7
  • Agromedicine を訪ねる(19):Journal of Agromedicine ・・・・・ 60-13
  • Agromedicine を訪ねる(20):Journal of Agromedicine ・・・・・ 62-27
  • Agromedicine を訪ねる(21):Journal of Agromedicine ・・・・・ 65-9

本の紹介
  • 本の紹介 41:プラン B 3.0 ‐人類を救うために‐、レスター・ブラウン著、環境文化創造研究所、ワールドウォッチジャパン(2008)  ・・・・・ 51-16
  • 本の紹介 42~49:安全と安心 ・・・・・ 53-4
  • 本の紹介 50:カルテ拝見‐武将の死因、杉浦守邦著、東山書房(2000) ・・・・・ 54-14
  • 本の紹介 51:乳がんと牛乳‐がん細胞はなぜ消えたのか‐、ジェイン・プラント著、佐藤章夫訳、径(こみち)書房(2008) ・・・・・ 55-10
  • 本の紹介 52:代替医療のトリック、サイモン・シン、エツァアート・エルンスト著、青木 薫訳、新潮社(2010) ・・・・・ 55-13
  • 本の紹介 53:葬られた「第二のマクガバン報告」、上巻「動物タンパク神話」とチャイナ・プロジェクト、T・コリン・キャンベル+トーマス・M・キャンベル著、松田麻美子訳、グスコー出版(2009)  ・・・・・ 57-21
  • 本の紹介 54:葬られた「第二のマクガバン報告」、中巻「あらゆる生活習慣病を改善する『人間と食の原則』」、T・コリン・キャンベル、トーマス・M・キャンベル著、松田麻美子訳、グスコー社(2010) ・・・・・ 58-4
  • 本の紹介 55:大気を変える錬金術‐ハーバー、ボッシュと化学の世紀‐、トーマス・ヘイガー著、渡会圭子訳、白川英樹解説、みすず書房(2010)  ・・・・・ 58-7
  • 本の紹介 56:腰痛はアタマで治す、伊藤和磨著、集英社新書(2010) ・・・・・ 58-13
  • 本の紹介 57:雑食動物のジレンマ‐ある4つの食事の自然史‐、上・下、マイケル・ポーラン著、ラッセル秀子訳、東洋経済新報社(2009) ・・・・・ 59-13
  • 本の紹介 58:メディカルエッセイ集:バビンスキーと竹串、渡辺 良著、かまくら春秋社(2010) ・・・・・ 61-12
  • 本の紹介 59:昭和農業技術史への証言 第八集、西尾敏彦編、昭和農業技術研究会編、農文協、人間選書 272(2010) ・・・・・ 61-14
  • 本の紹介 60:三陸海岸大津波、吉村 昭著、文春文庫(2004) ・・・・・ 61-15
  • 本の紹介 61:緊急改訂版、「原子力事故」自衛マニュアル、桜井 淳監修、青春出版社(2011) ・・・・・ 61-27
  • 本の紹介 62:生きもの異変‐温暖化の足音‐、「生きもの異変」取材班、産経新聞社(2010) ・・・・・ 61-28
  • 本の紹介 63:人はなぜ病気になるのか‐進化医学の視点‐、井村裕夫著、岩波書店(2009) ・・・・・ 62-29
  • 本の紹介 64:こころの病は、誰が診る?、髙久史麿×宮岡 等、日本評論社(2011)  ・・・・・ 64-19
  • 本の紹介 65:地震の日本史‐大地は何を語るのか‐、増補版、中公新書(2011) ・・・・・ 64-20
  • 本の紹介 66:未曾有と想定外‐東日本大震災に学ぶ‐、畑村洋太郎著、講談社現代新書(2011) ・・・・・ 65-10
  • 本の紹介 67:生物学的文明論、本川達雄著、新潮新書(2011) ・・・・・ 65-12
  • 本の紹介 68:ドキュメント東日本大震災 救助の最前線で、Jレスキュー編、イカロス出版(2011) ・・・・・ 66-12
  • 本の紹介 69:糖尿病・認知症・骨粗しょう症を防ぐミネラルの働きと人間の健康、渡辺和彦著、農山漁村文化協会(2011) ・・・・・ 66-14
  • 本の紹介:まとめ ・・・・・ 66-17
  • 北里大学農医連携学術叢書の刊行‐横井時敬と北里柴三郎の思いを継いで‐ ・・・・・ 67-21

資料の紹介
  • 資料の紹介 12:手軽で簡単 自分でできるリラックス法101エムオーエー奥熱海クリニック院長、佐久間哲也ほか(2008) ・・・・・ 52-18
  • 資料の紹介 13:特集‐人獣共通感染症の制御のために‐農林水産技術研究ジャーナル、Vol.32、No.12  ・・・・・ 54-15
  • 資料の紹介 14:獣医学教育課程への保全医学の取り込み‐タフツ大学の例‐ ・・・・・ 59-10
  • 資料の紹介 15:「情報:農と環境と医療」に掲載した温暖化現象 ・・・・・ 59-10
  • 資料の紹介 16:2010年度 北里大学医学部北海道八雲牧場実習報告書 ・・・・・ 59-12
  • 資料の紹介 17:シンポジウム‐食がカラダを変える!‐ ・・・・・ 60-13
  • 資料の紹介 18:北里柴三郎博士の医道論を読む 学校法人北里研究所 北里柴三郎記念室(2011) ・・・・・ 67-26

講演会など
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの開催‐動物と人が共存する健康な社会‐ ・・・・・ 53-3
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの映像音声と資料画像 ・・・・・ 55-1
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(1)開催にあたって ・・・・・ 55-1
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(2)人と動物とスピリチュアリティ ・・・・・ 55-2
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(3)人と動物の望ましい関係 ・・・・・  55-5

Health and the Coexistence of Humans with Animals
  • Welcome Address Tadayoshi Shiba ・・・・・ 56-2
  • The Spirituality of Humans and Animals Katsu Minami ・・・・・ 56-3
  • The Desirable Relationship between Humans and Animals Yoshihiro Hayashi ・・・・・ 56-8
  • Animal-assisted Education From Humane Education to Animal-assisted Education Miyoko Matoba ・・・・・ 56-11
  • The Role of Animals in Children's Learning Miki Kakinuma ・・・・・ 56-16
  • The Future of Animal Welfare, and Animal-Assisted Education and Therapy Seiichi Higuchi ・・・・・ 56-19
  • The Benefits of Hippotherapy Hirokazu Tsubone ・・・・・ 56-24
  • Scientific Effects of Hippotherapy: A Physician's Perspective Hirohiko Kuratsune ・・・・・ 56-28
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(4)動物介在教育‐ヒューメイン・エデュケーションから動物介在教育へ‐ ・・・・・ 57-1
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(5)子どもの学習における動物の役割を考える ・・・・・ 57-4
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(6)動物福祉と動物介在教育・療法のこれから ・・・・・ 57-6
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(7)ヒポセラピー(馬介在療法)の効果 ・・・・・ 57-9
  • 第7回北里大学農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(8)馬介在療法の科学的効果‐内科医の視点から‐ ・・・・・ 57-12
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの開催‐農医連携の現場:アメリカ・タイ・日本の例‐ ・・・・・ 59-5
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムが中止された ・・・・・ 61-2
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:1.開催にあたって ・・・・・ 61-2
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:2.農医連携:世界の動向 ・・・・・ 61-4
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムアブストラクトのホームページ掲載について ・・・・・ 62-8
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:3.北里大学における農医連携教育 ・・・・・ 62-8
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:4.親子二代で取り組んだ有機野菜栽培(自然農法) ・・・・・ 62-12
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:5.カリフォルニアにおける健康食品の生産と利用/食する者はみな農業従事者である ・・・・・ 62-14
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:6.現代医療からみた農医連携の必要性 ・・・・・ 62-20


Agromedicine : Examples from the USA, Thailand and Japan
  • A Message from the Symposium Organizer Tadayoshi Shiba ・・・・・ 63-2
  • Agromedicine: The World Trends Katsu Minami ・・・・・ 63-4
  • Education of Agromedicine in Kitasato University Takao Mukai and Osamu Matsushita ・・・・・ 63-11
  • The Actions to Achieve Organic Farming through the Second Generation Toshiharu Suga ・・・・・ 63-16
  • Production and Sale of Health Food in California Tom Willey ・・・・・ 63-19
  • The Necessity of Agromedicine from the Perspective of Modern Medicine Tetsuya Sakuma ・・・・・ 63-27
  • Herbs Used for Medical Treatment in Thailand Surat Lekutai ・・・・・ 63-31
  • Agro-medicine Plan of the Ministry of Public Health, Thailand Prapoj Petrakard ・・・・・ 63-34
  • The Practice of Health Care in California -Transforming our relationship to food- David Y. Wong ・・・・・ 63-38
  • 第8回北里大学農医連携シンポジウムの内容:
    7.タイにおけるハーブの医療活用 ・・・・・ 64-1
    8.タイ国衛生省における農医連携の取り組み ・・・・・ 64-3
    9.カリフォルニアにおける健康医療の実践‐ヒトと食物との関係の変化‐ ・・・・・ 64-5
  • 北里大学農医連携シンポジウムの変遷 ・・・・・ 67-13

農医連携を心した人びと
  • 農医連携を心した人びと: 6.炎帝神農;古代中国(神話伝説:BC2700頃)  ・・・・・ 64-9
  • 農医連携を心した人びと: 7.ヒポクラテス;古代ギリシャ(BC460頃~BC370頃) ・・・・・ 64-10
  • 農医連携を心した人びと: 8.北里柴三郎(1853-1931) ・・・・・ 64-11
  • 農医連携を心した人びと: 9.ルドルフ・シュタイナー;オーストリア帝国(1861-1925) ・・・・・ 65-4
  • 農医連携を心した人びと:10.岡田茂吉(1882-1955) ・・・・・ 65-6
  • 農医連携を心した人びと:11.アンドルー・ワイル;アメリカ(1942-現在) ・・・・・ 65-6
  • 農医連携を心した人びと:12.アルバート・ハワード(1873-1947) ・・・・・ 66-11
  • 農医連携を心した人びと:古往今来 ・・・・・ 67-1

総説・トッピックス
  • 地球温暖化:環境と健康と農林業への影響 ・・・・・ 51-2
  • 管見:環境を通した農業と健康‐半世紀を振り返る‐ ・・・・・ 52-4
  • 土壌と健康 1.土壌と地理医学 ・・・・・ 60-4
  • 土壌と健康 2.アースイーター:古代と近代の食土に関する見解(その1) ・・・・・ 61-9
  • 破壊・絆・甦生:東日本大震災‐小さな体験から‐ ・・・・・ 62-1
  • 地震による津波の歴史 ・・・・・ 62-5
  • 土壌と健康 2.アースイーター:古代と近代の食土に関する見解(その2) ・・・・・ 62-22
  • 土壌と健康 2.アースイーター:古代と近代の食土に関する見解(その3) ・・・・・ 64-13
  • 関東大震災と北里柴三郎 ・・・・・ 65-3
  • 土壌と健康 3. 土壌疫学システムは存在するか? ・・・・・ 67-5

言葉の散策
  • 言葉の散策 28:生と産 ・・・・・ 52-19
  • 言葉の散策 29:朝・昼・夕・夜 ・・・・・ 53-15
  • 言葉の散策 30:死 ・・・・・ 54-19
  • 言葉の散策 31:霜降月 ・・・・・ 58-15
  • 言葉の散策 32:断腸 ・・・・・ 60-15
  • 言葉の散策 33:徳富健次郎(蘆花)の農 ・・・・・ 61-15
  • 言葉の散策 34:「生き物」「生命」「いのち」「身命」「身」「化け物」 ・・・・・ 65-15
  • 言葉の散策 35:心・身心一体 ・・・・・ 66-16
  • 言葉の散策 36:字引・事典・字典・辞典と「映画」 ・・・・・ 67-27

コラム
  • コラム:見えぬけれどもあるんだよ 見えぬものでもあるんだよ ・・・・・ 55-15


その他
  • 総目次(情報:農と環境と医療 51号~67号) ・・・・・ 67-28
  • 総索引(情報:農と環境と医療 51号~67号) ・・・・・ 67-33
それでは、さようなら
吉田松陰は死生観を四季(四時)に例えています。それは、知性と意思力で死を克服しようとする透き通った死生観です。少し長くなりますが、有名な「留魂録」の一部にあるその部分を紹介します(吉田松陰全集 第六巻、山口県教育会編集、大和書房、昭和48年)。

「今日死を決するに安心は四時の順環に於て得る所あり。蓋し彼の禾稼*1を見るに、春種し、夏苗し、秋苅り、冬蔵す。秋冬に至れば人皆其の歳功の成るを悦び、酒を造り醴*2を為り、村野歓声あり。未だ曾て西成*3に臨んで歳功の終るを哀しむものを聞かず。吾れ行年三十、一事成ることなくして死して禾稼の未だ秀でず実らざるに似たれば惜しむべきに似たり。然れども義卿の身を以て云へば、是れ亦秀実の時なり、何ぞ必ずしも哀しまん。何となれば人壽*4は定りなし、禾稼の必ず四時を経る如きに非ず。十歳にして死する者は十歳中自ら四時あり。二十は自ら二十の四時あり、三十は自ら三十の四時あり。五十、百は自ら五十、百の四時あり。十歳を以て短しとするは惠蛄*5をして霊椿*6たらしめんと欲するなり。百歳を以て長しとするは霊椿をして惠蛄たらしめんと欲するなり。斉しく命*7に達せずとす。義卿三十、四時已に備はる。亦秀で亦実、其の秕*8たると其の粟*9たると吾が知る所に非ず。若し同志の士其の微衷*10を憐み継紹の人あらば、乃ち後来の種子未だ絶えず、自ら禾稼の有年*11に恥ぢざるなり。同志其れ是れを考思せよ。

注) *1穀物、*2甘酒、*3秋に物の成熟すること、五行説で秋は西に当たる、*4人の寿命、*5ひぐらし、*6長生する一種の霊木、*7天命、*8しいな:殻ばかりで実のないもみ、*9もみ。米のまだ皮をとらないもの、*10自分の真心を謙遜していることば、*11穀物がよく実ること。

冒頭から大仰な文章を引用しましたが、それほど気負っているわけではありません。吉田松陰は孔子や孟子に強く影響を受けたので、松陰が発する言葉には孔孟の内容がほどよく発酵しているので、戦前・戦後を通して教育の場で広く普及してきました。ましてや、国内、いや世界全体が安定した状況にない時代において、松陰の言葉は強くわれわれの心を打ちます。

さて筆者が担当した農医連携委員会委員長の任期は、6月末日をもって満了します。この任期満了にともなって、当然のことながら「情報:農と環境と医療」はこの67号をもって最終号とします。上述した吉田松陰の言葉は、この情報を終わるに当たって想い出した詩なのです。十歳にして死のうが、六十歳にして死のうが、それぞれの人生には、それぞれの春夏秋冬があると詠っています。農医連携の情報がこの67号で拙く終わるとしても、この情報にはこの情報なりの春夏秋冬があったと思うからです。

松陰の語録に「講孟余話」があります。わかりやすくいえば「孔子こぼれ話」といえるでしょう。その内容の一つに、過去の教えをよく学び反復し、これを真似するのでなく考えて実行すること、という余話があります。温故知新というより、むしろ温故革新の考え方だといえるでしょう。農医連携の科学も、この考えを活用してきたのです。

次に、鴨長明の「方丈記」の冒頭文が思い出されます。「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例なし」。世の中のことは移ろうもの、一定ではないものという無常観を表現した文で、道元のいう侘と寂にも通じるものがあります。

それにしても、平成17(2005)年5月から平成24年6月の7年間は、ゆく河の流れのようでした。長いようで短かいものでした。簡単に言えば、一言「さようなら」と言えばいいところです。でも「さようなら」はそう簡単な言葉ではないと、この情報の50号でも書きました。もう一度書きます。それは「遠い朝の本たち:須賀敦子、ちくま文庫」の中のアン・リンドバーグの言葉です。

アン・リンドバーグは、大西洋横断単独無着陸飛行をした飛行家チャールズ・リンドバーグの妻で、美しい文章を書くことで有名な人でした。彼らはアジアへの飛行ルートを探っているうちに、千島列島に不時着しました。その後助け出され、船でたどり着いた東京で熱烈な歓迎を受けました。いざ横浜から出発するというとき、沿岸の日本人が口々に叫ぶ「さようなら」という言葉の意味を知って以下のように書いています。

「さようなら、とこの国の人々が別れにさいして口にのぼせる言葉は、もともと"そうならねばならぬのなら"という意味だとそのとき私は教えられた。"そうならねばならぬのなら"なんという美しいあきらめの表現だろう。西洋の伝統の中では、多かれ少なかれ、神が別れの周辺にいて人々をまもっている。英語のグッドバイは、神がなんじとともにあれ、だろうしフランス語のアディユも、神のみもとでの再会を期している。それなのに、この国の人々は別れにのぞんで、そうならねばならぬのなら、とあきらめの言葉を口にするのだ」。

そうならねばならないのなら・・・といいながらも、言葉の背後にある言葉では表しきれない想いを伝える言葉が、「さようなら」なのだと思います。自然界の万物に神を見出し、宇宙が織なす出来事をあるがままに受け入れながらも、言葉の背後にある凜とした言霊に日本人のこころが感じられる話です。

さて、読者の皆様、7年間のお付き合い誠にありがとうございました。それでは、ここらで本当に、さようなら。お元気で。北里大学学長室(文:陽 捷行、挿絵:古矢鉄矢、事務担当[赴任順]:古矢鉄矢・下佐和博・田中悦子・平川洋二・荒井文夫・井草慶子・金子清佳・佐々木愛美・飯淵哲・伊藤哲慈・江連まゆみ)、編集・印刷[松涛企画]:安倍美幸
*本情報誌の無断転用はお断りします。
北里大学学長通信
情報:農と環境と医療67号(最終号)
編集・発行 北里大学学長室
発行日 2012年6月1日