第2号
第2号
代替医療と代替農業の連携を求めて
目次
- 『代替医療と代替農業の連携を求めて』発刊にあたって
- 第1章 代替医療と代替農業の連携を考える
- 第2章 代替医療と東洋医学-科学的解明によるevuidenceを求めて-
- 第3章 代替医療-その目標と標榜名の落差について-
- 第4章 代替農業-その由来とねらい-
- 第5章 環境保全型農業を巡って
- 第6章 環境保全型畜産物の生産から病棟まで
- 総合討論とアンケート
- 著者略歴
発刊にあたって
北里大学学長 柴 忠義
国際会議や国際学会で初めて対面した人との決まり文句に、「あなたのご専門は何ですか?」という質問があります。この会話は、現代知識人の常識的な挨拶のようにもみえます。とくにアメリカやその文明の影響を受けた国々にあっては、この質問なくしてお互いが知り合うことは難しい場面が多々あります。このように、それぞれの専門人が寄り集まって問題を総合化する試みのひとつに、国際会議などが催されます。
当たり前のことですが、一人の人間の能力と生涯は有限です。ですから、われわれは何か特定した対象について大学や研究所などに所属し、学会や協議会などを創り、専門人になり、研究などの成果を書いて後世に残します。生命科学に属する医学や農学も20世紀をそのようにして過ごしてきました。
たとえば、わたしは生物という対象を分析・解釈・説明する者として生物学を選びました。ところが、生物に限らずどんな対象も、それが存在する様態は純粋または別個にあるのではなく、つねに多くの側面を持ちかつ多くの対象と関連しています。
たとえば地球の温暖化は、対流圏や成層圏の気象的な現象による側面を、また生物における光合成などの代謝による側面を、さらにはバイオマス燃焼による側面などを、それぞれ持っています。つまり、地球の温暖化は気象的な側面だけで成り立っているわけではないのです。このことを多くの研究者が深く理解できたのが、20世紀にわれわれが経験した数多くの環境問題なのです。
一方これらの問題の経験を通して、われわれは総合的な知見の必要性を痛感してきました。百姓は読んで字のごとく「あらゆる多くのことを知っているかばね」ということで、作物の生長に関する生理学、土壌学、気象学、肥料学、地形学など総合的な知見を必要とします。かつての生物学は生物分類学に始まり、生理学や生態学、さらには分子遺伝学など生物全般とその周辺部分を学問の対象としました。
しかし、今ではそういう総合者としての専門人が姿を消し、いわば分析者としての専門人が大量に発生し続けています。生物学を学んだといっても、例えば特殊な微生物のバイオテクノロジーを学んだ若い研究者には、現在の生物に関する複雑な問題には答えきれないのが普通でしょう。しかし、答えなければなりません。そのためには、分析者として基礎論を学び進む過程において、少しずつ総合者としての知恵を身につけていくことが必要でしょう。
このようなことが、いずれも人の生命を対象とする医学と農学の間にも生じてはいないでしょうか。北里大学農医連携学術叢書第2号が、現代医学や現代農学のみでは治まりきれない問題を、伝統医学・代替医療あるいは代替農業の面から再び見直し、改めて医と農についての相互理解を深め、人の生命に関する総合化を目指すための連携の糸口を見出すきっかけとなれば幸いです。