北里大学

北里大学農医連携教育研究センター

第5号

第5号
地球温暖化-農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術-

目次

  • 『地球温暖化:農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術』発刊にあたって
  • 第1章 IPCC報告書の流れとわが国の温暖化現象
  • 第2章 地球温暖化の影響および適応策の課題
  • 第3章 農業生態系における温室効果ガス発生量の評価と制御技術の開発
  • 第4章 気候変動による感染症を中心とした健康影響
  • 第5章 気候変動の影響・適応と緩和策-統合報告書の知見-
  • 総合討論とアンケート
  • 著者略歴

発刊にあたって

北里大学学長 柴 忠義

新たに北里大学から農医連携という概念を発信してから、3年余の歳月が経過しました。この間、農医連携委員会を設立し、委員諸氏に「北里大学農医連携構想について」をまとめていただきました。

情報としては、「北里大学学長室通信:農と環境と医療」を毎月発刊し、これがすでに46号に至りました。

教育としては、医学部と獣医学部において「農医連携に関わる講義と演習」を開始しました。さらに2008年4月からは、一般教育部において「教養演習:農医連携論」を開講しました。

研究に関しては、新たに「重金属摂取の現状把握とその低減化に向けた標準化手法の開発」を構築し、学部を超えたオール北里大学としての農医連携に関する研究を推進しようとしています。

一方、社会への貢献と普及を目指した農医連携の一環として、北里大学農医連携シンポジウムを開催しております。このシンポジウムが開催されて3年の歳月が経過しました。この間、「農・環境・医療の連携を求めて」に始まり、「代替医療と代替農業の連携を求めて」、「鳥インフルエンザ-農と環境と医療の視点から-」、「農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響」と題して、環境を通した農業と医療の今日的な問題を取り上げてまいりました。さらに、これらの成果をまとめ『北里大学農医連携学術叢書』(第1号~4号)として発刊し、どなたでも購入できるシステムも構築しました。

「地球温暖化:農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術」と題した第5回のシンポジウムの内容をまとめたものがこの叢書です。このテーマでシンポジウムを開催した趣旨の原点は、次のようなことにあります。

われわれはなぜ、人類や文明がいま直面している数々の驚異的な危機に思いが及ばないのでしょうか。地球温暖化がさまざまな生態系に極めて有害な現象を引き起こし、地球生命圏が、すでに温暖化制御の限度を超えてしまっているのに、ひとびとがそれを理解できずにいるのはなぜでしょうか。米国が京都議定書から離脱したり、先進国と途上国の間で政治的な綱引きが行われたり、有効な国際的温暖化対策が進んでいないのはなぜでしょうか。地球には、小は微生物から大はクジラにいたるヒトを含めたあらゆる生物が生息しているという概念、そしてこれらの生物がさらに大きな多様性を包み込む「生きている地球」の一部だという概念を、われわれは心の底からまだ理解していないのでしょうか。これらすべての危機的な現象が、食料を豊かに生産し、便利で文化的な生活を営むわれわれの活動に由来することに、なぜ気づかないのでしょうか。たとえ気づいていても、これを改善できないのはなぜでしょうか。

しかし幸せなことに、1970年代から地球温暖化問題に取り組んでいるアル・ゴア前米副大統領とIPCC(気候変動に関する政府間パネル)に、2007年のノーベル平和賞が授与されました。このことによって、地球の温暖化問題が世界のひとびとの掌中に届いたことになります。

危機的状況にある地球の温暖化が人間の生活に及ぼす負の影響は、極めて重大です。干ばつ、塩類化、土壌浸食などによる食料問題、熱射病、紫外線増加、デング熱、マラリアなどによる医療問題は、いずれも人類の未来に暗い影を落としています。地球環境の変動は、いつの時代も食料を提供する農業と、人の健康と生命を守る医療に密接に関わっているのです。

このような視点から開催された第5回シンポジウムの講演者には、これまで様々な形で国内外を問わずIPCCに携わってこられた方々をお招きしました。本書により地球温暖化の最新の知見やこれまでの我が国の研究者によるIPCCへの協力の一端を理解いただければ幸いです。