北里大学

北里大学農医連携教育研究センター

第6号

第6号
食の安全と予防医学

目次

  • 『食の安全と予防医学』発刊にあたって
  • 第1章 食品安全委員会のこれまでの活動と今後の課題
  • 第2章 食生活の現状と課題-健康維持・おいしさ・安全性の連携-
  • 第3章 水産物の機能と安全性
  • 第4章 脂質・過酸化脂質と疾病
  • 第5章 サルモネラおよびカンピロバクター食中毒-農の領域から-
  • 第6章 ヒ素による健康障害:海藻類多食者におけるヒ素による健康影響の問題点
  • 第7章 これからの動物実験施設:北里大学医学部遺伝子高次機能解析センターの試み
  • 第8章 農医連携の架け橋としてのプロバイオティクスの可能性を探る
  • 第9章 機能性食品の可能性と限界
  • 第10章 北里大学の農医連携構想の現状
  • 著者略歴

発刊にあたって

北里大学学長 柴 忠義

病気の予防、健康の増進、安全な食品、環境を保全する農業、癒しの農などのために、すなわち21世紀に生きる人びとの健康と安全のために、農医連携の科学や教育の必要性は強調されてもされすぎることはないであろう。

北里大学では、これまで三年にわたって農医連携の必要性を強調し、北里大学農医連携叢書として5冊の冊子を養賢堂から刊行してきた。その内容は、「現代社会における食・環境・健康」、「代替農業と代替医療の連携を求めて」、「鳥インフルエンザ-農と環境と医療の視点から-」、「農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響」、「地球温暖化:農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策・適応技術」で、いずれも環境を通した農と医療の連携の必要性を説いたものである。

今回は、生命科学を探求している北里大学の教授らだけによる「食の安全と予防医学」と題した農医連携にかかわる冊子を刊行した。

食のグローバル化、大腸菌O157や異常プリオンタンパク質など新たな危害要因の出現、遺伝子組換え技術といった新技術開発、中国食品に代表される中毒事件など、食生活と予防医学を取り巻く状況が大きく変化し、食品の安全性や予防医学における科学情報が、われわれの日常生活に深く入り込む時代になって久しい。

このため、食卓では絶えず科学を意識せざるを得ない潮流が生まれてきた。ポリフェノールがもつ赤ワインの抗酸化作用が強調され、アルコール摂取量の増加という健康の問題は棚上げされる。焼き鳥ひとつ食べるのにも、鳥インフルエンザウイルスを意識する。また、ギョーザの包装を見るにつけ、製造元が気になる。

ひとつの食品をとって、その部分の効果や影響だけを強調し、総合化したらどうなるかという問題には触れない風潮も生まれた。知と知の分離である。

食品はもともと、炭水化物、脂肪、タンパク質、ミネラル、ビタミンなど数多くの成分が集まってできたものであるから、利点も欠点もある。われわれは昔から食品をおいしくバランスよく摂るため、味と保存方法に多くの関心を寄せてきた。食品は添加物がないと、腐敗し食中毒のリスクが上昇することも周知の事実であった。

ヒトは長い歴史の中で、さまざまな食品をバランスよく食する知恵を身につけてきた。科学技術に支えられる現代の食品と予防医学は、このヒトの歴史・習慣・常識を忘れ去らせようとしているのではないか。

最新の食品の安全と予防医学は、最新の科学技術を駆使して維持されている。このような食の安全と予防医学について農学と医学の立場から、両者がどのように連携できるかをこの冊子でも考えていきたい。

この冊子が、今後の農医連携の科学に少しでも貢献できることを願っている。