北里大学

北里大学農医連携教育研究センター

第10号

第10号
東日本大震災の記録-破壊・絆・甦生-

目次

  • 『東日本大震災の記録-破壊・絆・甦生-』発刊にあたって
  • 第1章 この国の生いたち
  • 第2章 破壊・喪失・互助・再生
    1. 小さな体験から
    2. 大学安全の視点から
  • 第3章 東日本大震災の記録
    1. 海洋生命科学部の東日本大震災対応
    2. 学生の健康
    3. 東日本大震災における北里大学の医療支援
  • 第4章 地震による三陸津波の歴史
  • 第5章 座談会:未来に向けて -破壊・忍耐・和・絆・奉仕・甦生・胎動・復興-
  • 付:関東大震災と北里柴三郎
  • おわりに

発刊にあたって

北里大学学長 柴 忠義

北里研究所・北里大学の学祖である北里柴三郎博士は、若き日に「医道論」を書きました。そこで博士は、医の基本は環境を配慮した予防にあるという信念を掲げ、広く国民のために学問の成果を用いるべきであると述べています。ここには、学問と実践を結びつけた実学の思想があります。「知と知」や「知と行」の分離はありません。

一方、20世紀の科学は多くの技術知を獲得してきました。この技術知は、われわれに多くの便利さと幸せを提供してくれました。しかしこの技術知は、専門分野への没頭や専門用語の乱用など独善的な面を作りあげました。さらに技術知は、文化の継承や歴史から学ぶ時間軸などへの配慮が足らず、不易流行、温故知新、医食同源などの言葉に表される知と知の統合、すなわち統合知の獲得にまで及ばない点がありました。

生命科学のフロンティアをめざす北里大学では、北里博士の教えや統合知の視点から、農学、環境および医学の分野が密接に連携し、実学の思想を今なお生かすべく、六年前から環境を通して農学と医学を連携させるため「農医連携」という言葉を発信し、研究・教育・医療・普及の進展に努力しています。現代社会が直面している感染症、食の安全、重金属汚染、地球温暖化などの問題を解決するには、環境を通した農医連携の考え方と実践が不可欠です。

話は変わります。この度、不幸にもわれわれは東日本大震災に遭遇しました。大震災は多くの人びとの生命と生活を容赦なく奪っていきました。想像を絶する今回の地震と津波という環境変動は、農業生産と健康問題に大きな影響を与えています。この大震災によって、われわれは環境を通した農医連携の必要性をさらに深く痛感してきました。

今回の大震災によって、岩手県大船渡市に所在する北里大学海洋生命科学部・水産学研究科も人的および物的な被害に遭いました。今回の大震災を農医連携に関わる事象ととらえ、北里大学が体験した震災に関わる教育・研究・医療・普及に関して「北里大学農医連携学術叢書10号:東日本大震災の記録-破壊・絆・甦生-」と題し、それらの内容を記録したのがこの本です。農医連携に関心のある読者、また東日本大震災に関与された方々に何らかの参考になれば幸いです。

最後に、東日本大震災に被災された方々、震災後の今なお厳しい状況におかれておられる方々に、心からお見舞い申し上げます。