ノーベル生理学・医学賞 大村 智博士

2015 ノーベル生理学医学賞 受賞

大村智博士

 学校法人北里研究所北里大学 特別栄誉教授 大村 智 博士は、ドリュー大学(Drew Univ. USA)名誉研究フェロー ウィリアム・キャンベル(William C. Campbell)博士と共に、2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞いたしました。

 2015年10月5日、スウェーデンのカロリンスカ研究所(Karolinska Institute)は、大村 智 博士とウイリアム・キャンベル博士に、「線虫感染症の新しい治療法の発見 [ for their discoveries concerning a novel therapy against infections caused by roundworm parasites ]」を受賞理由に、Youyou Tu氏(中国医学科学院)に、「マラリアの新しい治療法の発見 [ for her discoveries concerning a novel therapy against Malaria ]」を受賞理由として、2015年ノーベル生理学・医学賞の受賞を発表いたしました。

 ノーベル生理学医学賞の授賞式は、2015年12月10日(金)に、ストックホルムのコンサートホールで行われました。

エバーメクチン

エバーメクチンの電子顕微鏡写真

 大村 智 博士と米国メルク社に在職していたウィリアム・キャンベル博士は、土壌から分離された微生物(放線菌:Streptomyces avermitilis  現在の学名:Streptomyces avermectinius )の生産する、寄生虫(線虫類など)に有効な新しい16員環マクロライド化合物を発見し、エバーメクチン(Avermectin)と命名しました。この物質は、細菌や真菌などには抗菌活性を示さず、寄生虫(鉤虫、回虫、肺線虫、糸状虫などの線虫類)やダニ、ハエの成虫や幼虫などの節足動物に、ごく少量で強い殺虫作用があります。
 エバーメクチンの作用は、寄生虫や節足動物の神経などに選択的に働き、寄生虫や節足動物が麻痺を起こすことで死に至らしめます。しかし、ヒトなどのほ乳動物には親和性が低く、中枢神経系には浸透しないため、このような作用はほとんど生じません。エバーメクチンの寄生虫とほ乳類への作用の差違を利用して、新たな抗寄生虫薬が開発されました。

エバーメクチンの化学構造式

 エバーメクチンの抗寄生虫活性を高め、副作用をさらに低減するため、有機合成等の手法を用いて改良し、ジヒドロ誘導体イベルメクチンが開発されました。
 この物質は、1981年から動物薬として販売され、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌなどの獣医学領域で寄生虫駆除に広く用いられています。この薬剤の効果は、例えば日本におけるイヌのフィラリア症(犬糸状虫症)の場合、フィラリアの予防と駆除に著効を示し、使用前の時代と現在では犬の寿命が約2倍に延びました。

北里生命科学研究所棟前の像

 イベルメクチンは動物薬として使用されている間にヒトのオンコセルカ症に対しても極めて有効なことが明らかになりました。オンコセルカ症は、河川域で繁殖するブヨによって媒介され、河川盲目症とも呼ばれています。ブヨの吸血により回旋糸状虫(Onchocerca volvulus)の幼虫が感染し、皮膚のかゆみ、発疹、浮腫や腫瘤などの症状を起こし、特に問題となるのは幼虫が目に侵入して角膜炎から失明に至ることです。W H Oはアフリカ(サハラ砂漠以南)や中南米などの熱帯地域36カ国の感染地域に2億50万人の人が住んでおり、1987年には感染者数2千90万人、失明者は115万人に達すると報告しておりました。
 WHOは1974年からオンコセルカ症制圧プログラム(OCP: Onchocerciasis Control Program)を展開しておりましたが、殺虫剤散布によるブヨの駆除では効果が思わしくありませんでした。このような状況の中でイベルメクチンが登場し、1987年から米国メルク社と北里研究所からの無償提供が始まり、集落ごとに集団で年1回、毎年服用し、オンコセルカ症を撲滅するプログラムが開始されました。

アフリカ視察中の大村博士

 その後、このプログラムはアフリカ・オンコセルカ制圧プログラム(APOC:the African Program for Onchocerciasis Control)へと拡大され、2012年9月にオンコセルカ症タスクフォース(NOTF)がAPOCとWHOにより開催され、オンコセルカ症制圧活動の報告と現状分析、疫学的・昆虫学的な評価、アフリカでの撲滅のための行動計画草案などについて協議・検討が行われました。その結果、アフリカの感染諸国29か国のほとんどでイベルメクチン の投与により2025年を目処にオンコセルカ症の撲滅が予測されると発表されました。2016年からはP E N D A(Program for the Elimination of Neglected Diseas in Africa)によって撲滅作戦が続けられています。
 アフリカでは、チャド、ブルキナ・ファソ、コート・ジュボアール、マリ、マラウイ、スーダン、タンザニア、セネガル、ウガンダなどが撲滅に近づいております。中南米において年に2回の集団投与により、成果をあげたことから、一部アフリカにおいても年に2回の投与が試みられております。
 また、中南米においては、1992年からアメリカ・オンコセルカ症制圧プログラム(OPERA: the Onchocerciasis Elimination Program of the Americas)が開始され、年に2回の広範囲の投与・治療を行うことで、現在はコロンビア、エクアドル、グアテマラ及びメキシコでオンコセルカ症の撲滅を達成したことをW H Oは承認しております。現在は残りのブラジルとベネズエラに住むヤノマミ族を中心に治療が進められています。

アフリカの子供達に囲まれた大村博士

 もう一つイベルメクチンが有効な熱帯病に、種々の蚊によって媒介され、リンパ浮腫と象皮症を主徴とするリンパ系フィラリア症があります。感染地域はアフリカ、中南米、アジアなど、広範囲にわたり、蔓延地域に13億人以上の人々が住んでおり、2000年の感染者は1億2千万人に達し、感染地域を持つ国は83か国に及びんでおりました。
 アフリカにおいて、このリンパ系フィラリア症についても2000年からWHO主導による撲滅作戦が開始されております。現在、アフリカのトーゴ及びイエメンにおいて撲滅が完了し、マラウイ、マリではイベルメクチンの投与を終え、感染動向を調査する段階にあります。そして、カメルーン及びウガンダではイベルメクチン投与の最終段階に来ております。
 加えて、2018年からはインド、フィジー、エジプト、アメリカン・サモア、ケニア、パプアニューギニア、サモア、ツバルなど36か国において、イベルメクチン、アルベンダゾール、ジエチルカルバマジンの3剤併用による撲滅プログラムが展開されております。

 以上のように2つの撲滅プログラムは着実に進展しており、2019年には年間4億人余りがイベルメクチンの投与を受けております。イベルメクチンが人類の健康と福祉の増進に大きく貢献していることを示しております。

Nature Biotechnology の表紙
Nature Reviews の表紙
Trends in Parasitology の表紙

経歴

2018年9月1日 現在

経歴
1935年
(昭和10年)
7月  山梨県韮崎市生まれ
1958年
(昭和33年)
3月  山梨大学 学芸学部自然科学科 卒業
4月  東京都立墨田工業高等学校 教諭    (~1963年3月)
1963年
(昭和38年)
3月  東京理科大学 大学院理学研究科 修士課程 修了
4月  山梨大学 工学部発酵生産学科 文部教官助手 (~1965年3月)
1965年
(昭和40年)
4月  社団法人 北里研究所
1968年
(昭和43年)
9月  薬学博士 (東京大学)
10月  北里大学 薬学部 助教授         (~1975年3月)
1970年
(昭和45年)
10月  理学博士 (東京理科大学)
1971年
(昭和46年)
9月  米国Wesleyan大学 客員教授      (~1973年1月)
1975年
(昭和50年)
4月  北里大学 薬学部 教授            (~1984年6月)
1981年
(昭和56年)
5月  社団法人 北里研究所 監事        (~1984年5月)
1984年
(昭和59年)
5月  社団法人 北里研究所 理事・副所長 (~1990年6月)
1985年
(昭和60年)
5月  学校法人 北里学園 理事          (~2003年6月)
1990年
(平成 2年)
6月  社団法人 北里研究所 理事・所長  (~2008年6月)
1993年
(平成 5年)
2月  学校法人 女子美術大学 理事       (~1997年1月)
1997年
(平成 9年)
3月  学校法人 女子美術大学 理事長    (~2003年5月)
2001年
(平成13年)
4月  北里大学 北里生命科学研究所 教授   (~2007年3月)
4月  北里大学 北里生命科学研究所 所長   (~2003年3月)
2002年
(平成14年)
3月  北里大学 大学院感染制御科学府 教授 (~2007年3月)
2003年
(平成15年)
9月  学校法人 女子美術大学 名誉理事長   (~2012年6月)
2005年
(平成17年)
3月  米国Wesleyan大学 Max Tishler教授    (~現在)
2007年
(平成19年)
4月  北里大学 名誉教授                   (~現在)
 北里大学 北里生命科学研究所
  天然物創薬推進特別研究プロジェクト
  スペシャル・コーディネーター       (~現在)
4月  学校法人 女子美術大学 理事長       (~2015年5月)
2008年
(平成20年)
4月  学校法人 北里研究所 名誉理事長    (~2012年6月)
2012年
(平成24年)
7月  学校法人 北里研究所 顧問       (~2016年6月)
2013年
(平成25年)
2月  北里大学 特別栄誉教授           (~現在)
2015年
(平成27年)
6月  学校法人 女子美術大学 名誉理事長   (~現在)
2016年
(平成28年)
7月  学校法人 北里研究所 相談役   (~現在)

受賞

学術賞受賞や勲章授与

2018年9月1日 現在

受賞
1985年
(昭和60年)
6月  ヘキスト・ルセル(Hoechst-Roussel)賞  【米国微生物学会】
1986年
(昭和61年)
4月  日本薬学会賞  【日本薬学会会】
1989年
(平成 1年)
3月  上原賞    【上原記念生命科学財団】
1990年
(平成 2年)
6月  日本学士院賞 【日本学士院】
1991年
(平成 3年)
8月  チャールズ・トム(Charles Thom)賞  【米国工業微生物学会】
1992年
(平成 4年)
4月  紫綬褒章
5月  フランス国家功労勲章シュバリエ章
  (Chevalier de L' Ordre National du Merit)
1995年
(平成 7年)
4月  米国工業微生物学会功績賞 【米国工業微生物学会】
6月  藤原賞    【藤原科学財団】
9月  日本放線菌学会 特別功績功労賞  【日本放線菌学会】
1997年
(平成9年)
11月  ローベルト・コッホ(Robert Koch)金牌
  【ローベルト・コッホ財団(ドイツ)】
1998年
(平成10年)
1月  プリンス・マヒドン(Prince Mahidol)賞  【タイ】
1999年
(平成11年)
3月  紺綬褒章
2000年
(平成12年)
3月  ナカニシ・プライズ(Nakanishi Prize)
  【日本化学会・米国化学会合同】
6月  野口賞    【山梨日日新聞、山梨放送、山梨文化会館】
2005年
(平成17年)
3月  アーネスト・ガンサー賞  【米国化学会】
  (Ernest Guenther Award in the Chemistry of
  Natural Products)
2006年
(平成18年)
8月  アムジェンレクチャーシップ賞
  (Amgen Lectureship Award)      【米国工業微生物学会】
2007年
(平成19年)
4月  ハマオ・ウメザワ記念賞
  (Hamao Umezawa memorial Award) 【国際化学療法学会】
4月  レジオン・ドヌール勲章
  (Chevalier, L'ordre national de la legion d'honneur)
2008年
(平成20年)
6月  平成20年度発明奨励功労賞  【(社)発明協会】
2010年
(平成22年)
6月  テトラへドロン賞  【エルゼビア社】
  (The Tetrahedron Prize for Creativity in Organic Chemistry
   or Bioorganic and Medicinal Chemistry)
2011年
(平成23年)
6月  瑞宝重光章
9月  アリマ賞(Arima Award)  【国際微生物連合】
2012年
(平成24年)
1月  山梨県韮崎市 市民栄誉賞    【韮崎市】
7月  ノーマン・R・ファルンスワース研究業績賞  【米国生薬学会】
  (The Norman R Farnsworth ASP Research Achievement Award)
2014年
(平成26年)
10月  カナダ 2015 ガードナー国際保健賞 【ガードナー財団】
  (Canada Gairdner Global Health Award)
2015年
(平成27年)
1月  朝日賞  【朝日新聞社】
11月  文化勲章
12月  ノーベル生理学医学賞
12月  東京都世田谷区 区民栄誉章  【東京都世田谷区】
12月  東京都栄誉賞 【東京都】
2016年
(平成28年)
2月  埼玉県栄誉賞 【埼玉県】
2月  埼玉県さいたま市 市民栄誉賞 【埼玉県さいたま市】
9月  日本放線菌学会特別栄誉賞 【日本放線菌学会】
11月  埼玉県北本市 市民栄誉賞 【埼玉県北本市】

称号

学会特別会員・称号

2018年9月1日 現在

称号
1985年
(昭和60年)
7月  中国医学科学院 名誉教授
1987年
(昭和62年)
6月  米国生化学・分子生物学会 名誉会員
1991年
(平成 3年)
12月  ハンガリー国立ラヨス・コーシュス(Lajos Kosshuth)大学
  名誉理学博士
1992年
(平成 4年)
11月  ドイツ科学アカデミー レオポルディナ
  (Deutche Akademieder Naturforscher Leopoldina)
12月  米国微生物アカデミー 会員
  (American Academy of Microbiogy)
1994年
(平成 6年)
5月  米国ウエスレーヤン(Wesleyan)大学 名誉理学博士
11月  ドイツ ローベルト・コッホ研究所 名誉所員
1998年
(平成10年)
3月  日本化学会 名誉会員
1999年
(平成11年)
5月  米国国立科学アカデミー 外国人会員
10月  Elanco Animal Health Distinguished Lecturer
  【米国 Elanco Animal Health 】
2000年
(平成12年)
10月  山梨県韮崎市 名誉市民
2001年
(平成13年)
12月  日本学士院会員
2002年
(平成14年)
3月  フランス科学アカデミー 外国人会員
11月  山梨県県政特別功績者
2003年
(平成15年)
4月  日本細菌学会 名誉会員
2004年
(平成16年)
9月  ロシア自然科学アカデミー 会員
2005年
(平成17年)
4月  欧州科学アカデミー(ベルギー)会員
9月  日本放線菌学会 名誉会員
10月  中国工学アカデミー 外国人会員
12月  英国王立化学会 特別名誉会員
2006年
(平成18年)
6月  中国曁南大学 名誉教授
10月  山梨大学 名誉教授
2009
(平成21年)
3月  日本農芸化学会 名誉会員
2012年
(平成24年)
10月  文化功労者
2014年
(平成26年)
1月  The Journal of Antibiotics 名誉編集長
4月  加藤記念バイオサイエンス振興財団 名誉理事長
2015年
(平成27年)
5月  山梨科学アカデミー名誉会長
10月  山梨大学 特別栄誉博士
12月  山梨県 名誉県民
2016年
(平成28年)
4月  東京理科大学 特別栄誉博士
4月  女子美術大学 名誉博士
9月  中国上海交通大学 名誉博士
10月  東京都 名誉都民
2017年
(平成29年)
10月  東京都世田谷区 名誉区民
2018年
(平成30年)
6月  英国セント・アンドリュース大学 名誉理学博士

ノーベル賞受賞に関する問い合わせ先

学校法人北里研究所 総務部 広報課

〒108-8641 東京都港区白金五丁目9-1
e-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp
Phone :03-5791-6422
Fax:03-3444-2530

特別栄誉教授 大村 智 博士
北里大学 北里生命科学研究所
北里大学 大学院感染制御科学府
北里大学 感染制御研究機構

北里大学白金キャンパス

学校法人北里研究所 北里大学

〒108-8641 東京都港区白金五丁目9-1
Fax:03-5791-6335