安元剛先生
講師
安元 剛
Ko
Yasumoto

主な研究テーマ

新しいCO2固定法を生み出すのは海洋生物のバイオミネラリゼーション?

大気中のCO2濃度上昇と気候変動の関係が注目されていますが,大気中のCO2濃度は,原始大気の30気圧下で97%から現大気の1気圧下で0.04%まで大きく減少しており,現代はCO2が最も少ない時代の1つともいえます。この大気中から減少したCO2の行方は,現地球上の炭素分布から理解することができます。現地球上の全炭素の約半分は,カンブリア紀以降に一斉に誕生した有孔虫,円石藻,貝,ウニ,サンゴなどの石灰化を行う海洋生物が起源の炭酸塩堆積物で,残り半分は光合成生物が起源の石炭や石油などの化石燃料です。つまり,原始大気に膨大にあったCO2は石灰化および光合成といった生命活動によって減少してきました。植物の光合成がCO2固定を担っているのは有名ですが,海の生き物がCO2固定をしているとの認識は広まっていませんでした。最新の研究から海洋生物がCO2固定に寄与していることが明らかになってきました。私たちは新たなCO2固定法開発を目指して海洋生物のバイオミネラリゼーションのメカニズム解明に取り組んでいます。

共同研究先:東京大学,琉球大学,産業技術総合研究所,東京理科大学,その他(複数の民間企業)
海洋生物のバイオミネラリゼーションと地球上の炭素循環図1.海洋生物のバイオミネラリゼーションと地球上の炭素循環

熱帯・亜熱帯域における陸域負荷が底生生物の生育環境に及ぼす影響

世界のサンゴ礁は危機的な状況にあります。世界規模の調査報告では,沿岸開発や陸域負荷などローカルな脅威と海水温上昇などのグローバルな脅威を合わせると,現在,世界のサンゴ礁の約75%が何らかの脅威に晒されています。注目すべきはこの75%の内訳です。約8割がローカルなストレスが原因となっています。このことは,それぞれの地域でのサンゴへの脅威を調査しその要因を解決することで,サンゴ礁の健全性を大幅に向上できることを意味しています。しかし,この陸域負荷などのローカルな脅威がサンゴ礁生態系に及ぼす影響については科学的な検証が十分になされておらず対策もほとんどされていないのが現状です。本来,陸と海は水循環を介して繋がっています。陸域から河川水や地下水を介して供給される物質は沿岸域の生物生産過程に不可欠です。また,沖縄県のような琉球石灰岩で形成されている地域では、地下に地上物質を含んだものが非常に染み込みやすくなっています。そのため生活排水や農業用水といった栄養塩や有害物質も地下水を通して海へ流れ込んでしまっています。この汚濁物質を含む地下水が海へ流れ込むことは,サンゴ礁などの海洋生態系へ悪影響を及ぼしていると示唆されています。私達は,陸域から流れでるリン酸態リン(PO4-P)がCaCO3で構成されるサンゴ骨格に素早く吸着し,骨格形成を阻害することを見出しました。PO4-PのCaCO3への高い吸着性と,熱帯亜熱帯域の底質(砂)が主に石灰質で構成されることを考慮すると,陸域由来のリン酸塩は沿岸域の底質に蓄積していると考えられます。私達はこれを蓄積型栄養塩と新たに定義し,サンゴや沖縄県の重要な水産資源であるシラヒゲウニなどの底生生物に及ぼす影響の実態解明を進めているところです。今後,リーフ内に豊かなサンゴ礁を取り戻すために研究を進めていきたいと思います。

共同研究先:琉球大学,産業技術総合研究所,沖縄県栽培漁業センターなど
水循環を介した陸と海の繋がり図2.水循環を介した陸と海の繋がり

担当科目

2年次生対象有機化学(2年必修)2011年度~
3年次生対象海洋生命科学実験Ⅲ 2010年度~
4年次生対象卒論研究 2010年度~
その他生物無機化学(三重大学生物資源学部)非常勤講師 2018年度~

経歴・業績等

主な経歴

  • 高知大学理学部化学科卒業 2001
  • 高知大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了2003
  • 徳島大学大学院薬学研究科薬品化学専攻博士後期課程修了,博士(薬学)2006
  • 島根大学医学部微生物・免疫学講座 助教 2006~2010
  • 北里大学海洋生命科学部応用生物化学講座 講師 2010~現在

主な業績

特許
  1. 特開2017-137225 黄色真珠様色素 服部 文弘, 前山 薫, 岡本 暉公彦, 永井 清仁, 柿沼 誠, 渡部 終五, 安元 剛
  2. 特許第6044015号 空気中の二酸化炭素を用いたアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法とその利用 安元 剛, 廣瀬 美奈
論文
  • Iijima, M., Yasumoto J., Iguchi, A., Koiso, K., Ushigome, S., Nakajima, N., Kunieda, Y., Nakamura, T., Sakai, K., Yasumoto-Hirose, M., Mori-Yasumoto, K., Mizusawa, N., Amano, H., Suzuki, A., Jimbo, M., Watabe, S., Yasumoto, K., Phosphate bound to calcareous sediments hamper skeletal development of juvenile coral. Royal Society Open Science, Royal Society, 8, 201214, 2021 (in press).
  • Thuy, L. V., Yamamoto, S., Kawaura, R., Takemura, N., Yamaki, K., Yasumoto, K., Takada, K., Watabe, S., Sato, S. Tissue distribution of tetrodotoxin and its analogs in Lagocephalus pufferfish collected in Vietnam. Fisheries Science, Springer Japan. 86(6), 1101-1110, 2020.
  • Watabe, S., Ikeda, D., Mashiro, T., Kagetakubo, Y., Takahashi, Y., Uemura, M., Mizusawa, N., Koyama, H., Yasumoto, K., Jimbo, M., Kan-no, N., Ueda, T., Matsuoka, Y., Ueki, N., Wan, J. Suitability of Japanese codling as a raw material for surimi‑based products revealed by primary sequence analysis of myosin heavy chain and thermal gel properties. Fisheries Science, Springer Japan, 86(4), 711-719, 2020.
  • Mori-Yasumoto, K., Hashimoto, Y., Agatsuma, Y., Fuchino, H., Yasumoto, K., Shirota, O., Satake, M., Sekita, S. Leishmanicidal phenolic compounds derived from Dalbergia cultrata. Natural Product Research, Taylor & Francis Online, 1-9, 2020.
  • Kakinuma, M., Yasumoto, K., Suzuki, M., Kasugai, C., Koide, M., Mitani, K., Shidoji, K., Kinoshita, F., Hattori, F., Maeyama, K., Awaji, M., Nagai, K., Watabe, S. Trivalent Iron Is Responsible for the Yellow Color Development in the Nacre of Akoya Pearl Oyster Shells. Marine Biotechnology, Springer, 22(1), 19-30, 2020.
  • Sato, S., Takaishi, S., Yasumoto, K., Watabe, S. Novel Polyclonal Antibody Raised against Tetrodotoxin Using Its Haptenic Antigen Prepared from 4, 9-anhydrotetrodotoxin Reacted with 1, 2-Ethaneditiol and Further Reacted with Keyhole Limpet Hemocyanin. Toxins, MDPI, 11(10), 551, 2019.
  • Iijima, M., Yasumoto, K., Yasumoto, J., Yasumoto-Hirose, M., Kuniya, N., Takeuchi, R., Nozaki, M., Nanba, N., Nakamura, T., Jimbo, M., Watabe, S. Phosphate Enrichment Hampers Development of Juvenile Acropora digitifera Coral by Inhibiting Skeleton Formation. Marine biotechnology, Springer, 21(2), 291-300, 2019.
  • Singh, T., Iijima, M., Yasumoto, K., Sakai, K. Effects of moderate thermal anomalies on Acropora corals around Sesoko Island, Okinawa. PloS one, Public Library of Science, 14(1), e0210795, 2019.
  • Yasumoto, K., Sakata, T., Yasumoto, J., Yasumoto-Hirose, M., Sato, S. I., Mori-Yasumoto, K., Jimbo, M., Kusumi, T., Watabe, S. Atmospheric CO2 captured by biogenic polyamines is transferred as a possible substrate to Rubisco for the carboxylation reaction. Scientific reports, Nature Research, 8(1), 1-10, 2018.
  • Koyama, H., Mizusawa, N., Hoashi, M., Tan, E., Yasumoto, K., Jimbo, M., Iikeda, D., Yokoyama, T., Asakawa, S., Piyapattanakorn, S., Watabe, S. Changes in free amino acid concentrations and associated gene expression profiles in the abdominal muscle of kuruma shrimp (Marsupenaeus japonicus) acclimated at different salinities. Journal of Experimental Biology, The Company of Biologists, 221(11), 2018.
  • Reza, M. S., Mizusawa, N., Kumano, A., Oikawa, C., Ouchi, D., Kobiyama, A., Yamada, Y., Ikeda, Y., Ikeda, D., Ikeo, K., Sato, S., Ogata, T, Kudo, T., Jimbo, M., Yasumoto, K., Yoshitake, K., Watabe, S. Metagenomic analysis using 16S ribosomal RNA genes of a bacterial community in an urban stream, the Tama River, Tokyo. Fisheries science, Springer Japan, 84(3), 563-577, 2018.
  • Takeuchi, R., Jimbo, M., Tanimoto, F., Tanaka, C., Harii, S., Nakano, Y., Yasumoto, K., Watabe, S. (2017). Establishment of a model for chemoattraction of Symbiodinium and characterization of chemotactic compounds in Acropora tenuis. Fisheries science, Springer Japan, 83(3), 479-487.
  • Kuniya, N., Jimbo, M., Tanimoto, F., Yamashita, H., Koike, K., Harii, S., Nakano, Y., Iwao, K., Yasumoto, K., Watabe, S. Possible involvement of Tachylectin-2-like lectin from Acropora tenuis in the process of Symbiodinium acquisition. Fisheries Science, Springer Japan, 81(3), 473-483, 2015.
  • Koyama, H., Okamoto, S., Watanabe, N., Hoshino, N., Jimbo, M., Yasumoto, K., Watabe, S. Dynamic changes in the accumulation of metabolites in brackish water clam Corbicula japonica associated with alternation of salinity. Comparative Biochemistry and Physiology Part B: Biochemistry and Molecular Biology, Elsevier, 181, 59-70, 2015.
  • Yasumoto, K., Yasumoto-Hirose, M., Yasumoto, J., Murata, R., Sato, S. I., Baba, M., Mori-Yasumoto, K., Jimbo, M., Oshima, Y., Watabe, S. Biogenic polyamines capture CO2 and accelerate extracellular bacterial CaCO3 formation. Marine biotechnology, Springer 16(4), 465-474, 2014.
受賞歴
  • 2015年5月 マリバイオテクノロジー学会 平成26年度マリバイオテクノロジー学会論文賞 Biogenic polyamines capture CO2 and accelerate extracellular bacterial CaCO3 formation. 安元 剛
  • 2013年9月 第55回天然有機化合物討論会 天然有機化合物討論会奨励賞 安元 剛

共同研究・競争的資金等の研究課題

  • 海洋生物に共通した新規骨格形成メカニズムの提唱  日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)  安元 剛(代表)2020年4月 - 2023年3月
  • 亜熱帯島嶼の持続可能な水資源利用に向けた参画・合意に基づく流域ガバナンスの構築 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発):SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム 研究代表者 安元 純 琉球大学, 農学部 地域農業工学科, 助教 ,研究分担者 安元 剛 2019年11月 - 2022年10月
  • 島嶼特有の水循環とリン酸塩負荷がサンゴの石灰化機構に及ぼす影響  日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)  安元 純(代表), 安元 剛 2019年4月 - 2022年3月
  • 高CO2時代に対応したサンゴ礁保全に資するローカルな環境負荷の閾値設定に向けた技術開発と適応策の提案  環境省 総合研究推進費 テーマリーダー:井口亮(産業技術総合研究所) サブテーマリーダー:安元純、(琉球大学)、安元 剛(北里大学),熊谷 直喜(国立環境研究所),2019年4月 - 2022年3月
  • 生体内におけるポリアミンが寄与する新たなCO2輸送機構の解明  日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)  安元 剛, 安元 加奈未, 安元 純 2018年6月 - 2020年3月
  • 植物のポリアミンは光合成を促進し乾燥ストレス適応に役立っているのか  日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)  坂田 剛, 安元 剛, 石田 厚 2016年4月 - 2020年3月
  • 記憶喪失性貝毒生産底生珪藻のアジアにおける分布拡大と適応戦略としての毒生産  日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)  小瀧 裕一, 原口 浩一, 小檜山 篤志, 林崎 健一, 安元 剛 2016年4月 - 2019年3月
  • サンゴの石灰化機構と各種リン酸塩の石灰化阻害メカニズムの解明  日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)  安元 純, 安元 剛 2016年4月 - 2019年3月
  • ポリアミンは生体内でCO2を濃縮し海洋生物のCaCO3形成や光合成に寄与するのか  日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)  安元 剛, 坂田 剛, 安元 純,  2015年4月 - 2018年3月
  • 海洋生物の炭酸カルシウム形成とポリアミンの関わり 日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(B)  安元 剛 2013年4月 - 2015年3月
  • バクテリアの無機炭素濃縮機構とポリアミンの関わり  財団法人発酵研究所 平成26年度一般研究助成 安元 剛 2014年4月 - 2015年3月
  • 海洋細菌の石灰化機構に関わる低分子化合物の探索 日本学術振興会研究費補助金 若手研究(B) 安元 剛 2011年4月 - 2012年3月
  • 海産生物における記憶喪失性貝毒の生産・動態に関する研究 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 小瀧 裕一, 小檜山 篤志, 安元 剛, 寺田 竜太 2011年 4月- 2013年3月
  • 石灰化能を有する海洋細菌の探索と石灰化メカニズムの解明 財団法人発酵研究所 平成23年度一般研究助成  安元 剛 2011年4月 - 2012年3月