免疫学
「免疫の正負の側面」を明らかにし、疾患の理解や治療に役立てる
担当科目 | 免疫学総論・実習 |
専門分野 | 細胞免疫学 |
キーワード | 感染,がん,T細胞,NKT細胞,単球,好中球,自己免疫疾患,自己抗体、慢性炎症,生活習慣病 |
北里大学医学部 免疫学単位
大学院医療系研究科細胞免疫学
教授:末永 忠広(感染と自己免疫疾患)
講師:竹内 恵美子(自己寛容の誘導機構)
講師:佐藤 雅(NKT細胞の分化と機能)
技術員:高松 昌子
大学院博士課程:服部 精人(D4)
大学院修士課程:樋代 理子(M2)
大学院修士課程:大和 千鶴(M2)
大学院修士課程:島村 雛乃(M1)
卒業研究:香川 千咲都(理学部4年)
医学部2年次の免疫学総論・実習を担当しています。将来ベッドサイドで目の当たりにする膠原病・感染症・アレルギー・炎症性疾患の病態や移植などの治療をよりよく理解するため、免疫系・免疫担当細胞がどのように発生・分化するか、自己主要組織適合抗原拘束性に抗原を認識することにどのような意義があるのか、なぜ正常では自己に対する反応が回避されているのか、など基礎的な事柄を学びます。
① 自然リンパ球,特にナチュラルキラーT(NKT)細胞と生活習慣病の関連NKT細胞は,胸腺細胞上の非古典的主要組織適合抗原複合体(class Ib)分子で選択され,胸腺髄質上皮細胞の関与する成熟過程を経て生成します。後者の過程ではNF-kB-inducing kinase (NIK)が重要ですが,亜群により影響の受け方が異なります。NKT細胞の機能面については,特に脂質抗原認識能と動脈硬化症や内臓脂肪症候群の発症・進展との関連を研究しております。最近,NKT細胞は脂肪細胞上のCD1d分子(+リガンド)を認識し,相互作用を通じ肥満の進展に影響を及ぼしていることを明らかにしました
(図1)。また、他のCD1d発現細胞とNKT細胞との相互作用による肥満の進展メカニズムについても調べております。NKT細胞を中心とした細胞間相互作用を研究し、肥満などの生活習慣病の病態解明に取り組んでおります。
② 細胞死と炎症の制御体の中で細胞が死んだ時、その「死に方」は炎症局所の状況をもっともよく反映する情報であるといえます。近年、炎症の最前線で働く好中球が自分の核のDNAを投網のように細胞外に放出し細菌を捉えて殺傷するNETosisというユニークな細胞死が報告され、注目されています。私達は、NETosisと個体の炎症の関連を明らかにするため、ヒトの慢性肉芽腫症のモデルであるNOX2欠損マウスを使って、好中球の細胞死の形態を解析しました。慢性肉芽腫症は、好中球などの貪食細胞で活性酸素種(ROS)を産生する酵素“NADPH oxidase”の主要なコンポーネントを欠損しており、細菌や真菌が侵入しても好中球による排菌ができず、肉芽腫という巣状病変を作る疾患です。NOX2欠損マウスから好中球を分離して行ったin vitroの実験では、正常な好中球がApoptosisを起こす抗原刺激で、NOX2欠損好中球はNETosis様の細胞死を起こし、貪食した抗原を周囲に放出してしまうことがわかりました。このような好中球の死に方の違いが、個体の炎症の拡大収束に関わっていることを示すために、腎臓における虚血再灌流モデルによって炎症を起こさせ、NOX2欠損マウスとwild typeとの間でどのような違いがあるのか、浸潤した細胞やそれぞれの細胞死に特徴的なタンパク質などを比較し、炎症巣で起きていることを検討しています。また、長期的に炎症の遷延が自己免疫疾患を惹起するかなどについても興味を持って調べています。
③ 病原体・がんと免疫の攻防免疫細胞は病原体やがん細胞を排除しますが
(図2-ii)、自己の細胞は免疫細胞上に発現する抑制化受容体を刺激して、免疫細胞を不活性化し攻撃を免れます
(図2-i)。一方、一部の病原体やがん細胞は、この抑制化受容体に結合するリガンドを発現し、免疫から逃避します
(図2-iii)。また、一部のウイルスは、抑制化受容体を利用し宿主細胞に侵入した上、細胞機能をハイジャックします
(図2-iv)。これに対抗するために、宿主は抑制化受容体の分子構造を多様化したり、免疫細胞を活性化する受容体を分子進化させています。このような免疫vs病原体・がんの攻防を、それぞれ免疫側、ウイルス・がんの側からアプローチし、その全容を解析しています。
④ 異常なタンパク質によって誘発される自己免疫疾患本来、自己の細胞で発現する抗原に対して反応するT細胞やB細胞は、胸腺や骨髄で除かれ、生体は自己抗原に対して免疫寛容の状態になっています。しかし、感染個体の細胞や腫瘍細胞においては、寛容になっている正常タンパク質とは抗原性が異なる折り畳み(ミスフォールド)をしたタンパク質が、HLAクラスII分子によって提示され、自己抗体の標的となることがわかってきました(
文科省新学術領域研究「ネオ・セルフ」ホームページ)。さらに、関節リウマチ、バセドウ病(グレーブス病)、抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫疾患と関連性の強いHLAアレルほど、HLAクラスII分子/ミスフォールドタンパク質複合体と各疾患の自己抗体との結合性が強いことが明らかになりました。このように、感染や腫瘍によって自己免疫疾患が発症・再発するメカニズムを研究しています。
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北里大学医学部 免疫学単位
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