研 究

Research

微生物学 薬剤耐性グループ

岡本了一講師
岡本 了一
Ryoichi
Okamoto
講師
担当科目医学部 微生物学総論・実習、感染症・免疫学I、大学院医療系研究科、環境感染学講義、大学院看護学研究科、感染看護学講義
専門分野薬剤耐性、抗菌薬化学療法

スタッフ
北里大学医学部 微生物学単位 薬剤耐性グループ
講師:岡本 了一

共同研究者
教授:宮崎 修一(東邦大学大学院先端医科学研究センター)
講師:高山 陽子(北里大学医学部総合診療医学・感染管理室)

教育について
医学部では、主に第3学年の「微生物学総論・実習」および系別総合講義「感染症・免疫学Ⅰ」を担当しています。医学教育モデル・コアカリキュラム(教育内容ガイドライン)にそって、微生物学で理解すべき項目について、その原理を理解するように視覚資料を豊富に取り入れて学生が理解しやすいように講義・実習を心がけています。また、大学院の医療研究科や看護学研究科において、臨床現場における薬剤耐性菌の問題を中心に環境感染学や感染看護学の講義を行っています。

研究について
細菌感染症を治療する上で問題となる薬剤耐性菌(主としてβ-ラクタム薬耐性菌やニューキノロン薬耐性菌)を研究対象として、その出現の仕組みや耐性発現機構について、遺伝学的あるいは生化学的手法を用いて解析を行ってきました。主なテーマは、①グラム陰性桿菌に広く分布する染色体性AmpCβ-ラクタマーゼの産生調節機構における細菌細胞壁断片の生物学的役割の解析、②グラム陰性桿菌に広く分布するプラスミド性の基質拡張型β-ラクタマーゼ、AmpCβ-ラクタマーゼおよびカルバペネマーゼ(カルバペネム分解性β-ラクタマーゼ)の種類と分布に関する分子疫学的研究、③ニューキノロン耐性大腸菌の出現機構および分布に関する研究などである。これらの研究を通して、多剤耐性菌の簡便かつ迅速検出法を確立するとともに、その臨床応用としての多剤耐性菌による院内感染に対する予防策の策定や新たな治療戦略の創製に繋げたいと考えています。

薬剤耐性菌感染症の撲滅を目指して

最近の研究紹介:カルバペネマーゼは、カルバペネム薬をはじめとするほとんどのβ-ラクタム系薬を加水分解することができる。最近では、カルバペネマーゼを産生する多剤耐性菌が世界的規模で増加傾向にある。大腸菌などの腸内細菌科の菌種では、カルバペネマーゼを産生しているにもかかわらず、カルバペネム系抗菌薬に感受性を示す場合が多く、「感受性有り」と判断されて、治療に用いられる危険性がある。腸内細菌科の菌種におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出法としてカルバペネム薬を用いたModified Hodge Test (MHT)がCLSIガイドラインなどにより推奨されており、世界的に汎用されている。私たちは、臨床分離細菌におけるカルバペネマーゼ産生菌検出法としてのMHTの問題点を明らかにするとともに、その改良を試みた。
MHTによるカルバペネマーゼ産生菌の検出
〈方法〉①ミューラーヒントン寒天培地の全面にE. coli ATCC25922(指示菌)を塗抹する。②カルバペネム系抗菌薬であるメロペネムを10μg含有するディスクを置く。③ディスクから放射状に被験菌を画線塗抹する。④35℃で20時間培養する。

微生物学単位 薬剤耐性グループ 01

〈判定〉MHT陽性の場合には、(C)のように被験菌によるメロペネムの分解の結果、発育阻止帯の中にE.coli ATCC25922の発育(くさび形に発育)が認められる。MHT陰性の場合には、このようなくさび形の発育は認められない。
[1 & 3, MHT陽性株;2, MHT 陰性株;a, E.coli ATCC25922;b, カルバペネム系抗菌薬による発育阻止帯]
MHTによりカルバペネマーゼ産生が疑われた腸内細菌科12株についてPCRによりカルバペネマーゼ産生遺伝子の検出を行った。対象としたカルバペネマーゼは、多剤耐性菌からよく検出されるIMP型、VIM型、KPC型、NDM-1型の4種とした。その結果、VIM型、KPC型、NDM-1型はいずれの菌株も産生していなかったが、12株中7株がIMP型を産生していた。残りの5株は、いずれもAmpC型β-ラクタマーゼを大量に産生していた。

微生物学単位 薬剤耐性グループ 02

カルバペネマーゼ産生遺伝子を保有していないにも関わらず、MHT陽性であった5株は、いずれもAmpC型β-ラクタマーゼを大量に産生していた。そこでAmpCの酵素活性を強力に阻害するCloxacillinを添加することにより、AmpCによる擬陽性を防ぐことができた。Cloxacillinの添加は、カルバペネマーゼ産生菌の検出には影響を与えないことも判明した。

微生物学単位 薬剤耐性グループ 03

カルバペネム系抗菌薬に感受性を示す腸内細菌科の菌種にカルバペネマーゼ産生菌が確認された。また、AmpCβ-ラクタマーゼの多量産生株では、カルバペネマーゼを産生していないにもかかわらずMHTが陽性になる菌株が存在することが確認された。MHT試験に用いる寒天平板にCloxacillinを添加することにより、AmpCの多量産生による擬陽性を抑制することが可能になり、MHTによるカルバペネマーゼ産生菌検出の精度を上げることが可能となった。

現在進行中の研究テーマおよび共同研究者

1)特異抗体を利用した多剤耐性菌の迅速検出法の確立と臨床応用に関する研究
  共同研究者:北里大学医学部総合診療医学・感染管理室
        高山陽子講師
2)カルバペネム系薬剤に感受性を示すカルバペネマーゼ産生菌の疫学調査に関する研究
  共同研究者:北里大学医学部総合診療医学・感染管理室
        高山陽子講師
3)細胞内寄生微生物による髄膜炎発症機序の解明と新たな治療戦略
  東邦大学大学院先端医科学研究センター 宮崎修一教授
4)ブドウ球菌のβ-ラクタム耐性発現機構の解析

主な研究業績
  1. Okamoto, R., Okubo, T., Inoue, M.: Detection of genes regulating β-lactamase production in Enterococcus faecalis and Staphylococcus aureus. Antimicrob. Agents Chemother., 40: 2550-2554, 1996.
     
  2. Yano, H., Kuga, A., Okamoto, R., Kitasato, H., Kobayashi, T., Inoue, M.: Plasmid-encoded metallo-beta-lactamase (IMP-6) conferring resistance to carbapenems, especially meropenem. Antimicrob. Agents Chemother., 45: 1343-1348, 2001.
     
  3. Ida, T., Okamoto, R., Nonoyama, M., Irinoda, K., Kurazono, M., Inoue, M.: Antagonism between aminoglycosides and β-lactams in a methicillin-resistant Staphylococcus aureus isolates involved induction of an aminoglycoside-modifying enzyme. Antimicrob. Agents Chemother., 46: 1516-1521, 2002.
     
  4. Lee, K., Lee, WH., Yong, D., Yum, JH., Chong, Y., Okamoto, R., Inoue, M.: In vitro activity of panipenem against clinical isolates of aerobic and anaerobic bacteria. Infect. Chemother., 36: 423-433, 2003.
     
  5. Xiong, Z., Zhu, D., Wang, F., Zhang, Y., Okamoto, R., Inoue, M.: A Klebsiella pneummoniae producing theree kinda of class A beta-lactamases encoded by one single plasmid isolated from a patient in Huashan Hospital, Shanghai, China. Int. J. Antimicrob. Agents, 23: 262-267, 2004.
     
  6. Nakano, R., Okamoto, R., Nakano, Y., Kaneko ,K., Okitsu, N., Hosaka, Y., Inoue, M.: CFE-1, a novel plasmid-encoded AmpC β-lactamase with ampR gene originating from Citrobacter freundii. Antimicrob. Agents Chemother., 48: 1151-1158, 2004.
     
  7. Kaneko, K., Okamoto, R., Nakano, R., Kawakami, S., Inoue, M.: Gene mutations responsible for overexpression of AmpC beta-lactamase in some clinical isolates of Enterobacter cloacae. J. Clin. Microbiol., 43: 2955-2958, 2005.
     
  8. Nakano, R., Okamoto, R., Nagano, N., Inoue, M.: Resistance of gram-negative organisms due to heigh-level expression of plasmid-encoded ampC β-lactamse blaCMY-4 promoted by insertion sequence ISEcp1.J. Infect. Chemother., 13: 18-23, 2007.
     
  9. 岡本了一:細菌感染症における難治性要因としての薬剤耐性菌. Bacterial Adherence & Biofilm, 23: 9-12, 2009.
     
  10. 岡本了一:特集「今日的話題の多剤耐性菌動向と対策」多剤耐性菌出現の遺伝的背景とその問題点. 化学療法の領域, 27: 1656-1662, 2011.

多剤耐性菌研究へのお誘い
多剤耐性緑膿菌や多剤耐性アシネトバクターなど多剤耐性菌が世界的規模で増加傾向にあります。私たちは、これらの耐性菌を解析することにより、そこから得られる知見をもとに、多剤耐性菌の迅速検出法の確立とその臨床応用研究を発展させ、多剤耐性菌感染症の予防と撲滅に繋げたいと考えております。今回紹介した研究は、総合診療医学・病院感染管理室の高山講師のグループと行っている共同研究の一例です。基礎・臨床、教職員・大学院生を問わず、興味のある方はどなたでも遠慮なくお問い合わせ下さい。

お問い合わせ
北里大学医学部 微生物学単位 薬剤耐性グループ
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