物性物理学講座:生体分子物性ユニット

山 村 菅 原
                 中性子回折実験中(J-PARC/MLF iBIXにて)

 

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 生体分子物性ユニット[最近の研究から]

  [トピックス1:水和物の相転移の研究]
  [トピックス2:蛋白質結晶の結晶成長の研究]
  [トピックス3:μSRによる生命系における電子伝達機構の解析]


【トピックス1:水和物の相転移の研究】

平成23年度~25年度科学研究費基盤研究(C) 「X線および中性子結晶構造解析による生体分子の水和水の揺らぎの解析」

水と親和性のある物質の結晶の多くは、結晶内に水を含んでいます。この様な結晶は、水和物結晶と呼ばれます。水和物結晶では、水分子の運動性 や量の変化が、結晶構造やその性質(物性)の変化(相転移)を引きおこします。

X線結晶構造解析、中性子結晶構造解析、ラマン分光法、計算機シミュレーションなどを組み合わせて、結晶内の水の運動性、温度や含水量に依存 した相転移の機構解明をめざした研究を進めています。

 菅原、日本結晶学会誌、45、103-109(2003).

水分子の動きを知るには中性子を使った手法が有効で、東北大学、茨城大学などとの共同研究として解析を進めています。

ヌクレオチド水和物結晶内の結晶水.

左:X線結晶構造解析で決定した水分子の周りの電子の広がり 右:中性子構造解析で決定した水分子の酸素(黄色)と水素(水 色)の原子核の広がり

生体分子の水和水は、生体分子の構造や運動性と連携して、生体分子の機能発現に関わっています。 また、医薬品の多くは水和物で、その性質(物性)を明らかにすることは医薬品の開発とも関わっています。

グアノシンの水和物結晶では結晶の中に水のチャネル(通路)があり、その中を結晶水が一方向に移動する可能性がシミュレーションにより示され ました。この様な水の移動(輸送)は、水和物結晶の相転移や、生体膜の水チャネルの機構の理解の鍵になります。
(分子動力学講座 米田教授との共同研究)

グアノシン2水和物の結晶構造(左)と結晶水の移動の軌跡(右).

生体分子の周りの水の動きを運動方程式を使って、計算機上でシミュレーションした結果。時間がたつにつれ、赤紫色の位置から、赤(酸素)と白(水素)で表 した位置へ、さらに上方へと水が移動していきます。


Yoneda et al., J. Phys. Chem. B.190,1304(2005)

 

蛋白質も美しい結晶になります(【トピックス2】参照)。

蛋白質結晶の半分ぐらいは水が占めていて、多くの空気中に取り出すと水を失って結晶は壊れてしまいます。中に、結晶性を維持したまま蛋白質分 子が移動する結晶が有ります。この様な結晶は、蛋白質分子間、蛋白質と水和水間の相互作用の特性を知る上で、貴重な試料となります。平成23 年度においては、この様な性質を持つ斜方晶キシロースイソメラーゼや正方晶タウマチンなどの結晶について、どのような変化がおこり、どのよう な特性を持つのかを明らかにしました。

斜方晶キシロースイソメラーゼ結晶中で起こる含水量の低下に伴う蛋白質分子の移動.

第1ステップでは蛋白質(四量体)が近づき、第2ステップで互いに傾いた配置に変わる.含水量の低下に伴い疎水的相互作用の 増加が認められた

 Y. Sugawara et al., Acta Crystallogr. A67, C523(2011).

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【トピックス2:蛋白質結晶の結晶成長の研究】

機能性材料から生体分子まで、身の回りの物質の多くは固体では結晶と呼ばれる状態にあります。様々な美しい形をもつ結晶がどのようにして出来 上がるか(結晶成長)を知ることは、結晶を利用する材料科学から構造生物学まで多くの分野でよい結晶を得るために不可欠です。

温度や過飽和度など結晶化条件が結晶成長にどのような影響を与えるかを顕微鏡観察実験により調べると共に、結晶内の相互作用に基づいて、なぜ そのような現象がおこるのか解析を進めています。
(コンピュータシミュレーションユニット 猿渡准教授,聖マリアンナ医科大 大滝正訓氏との共同研究)


位相差顕微鏡でみたインスリン結晶表面における二次元島成長の様子.

時間とともに、結晶表面に発生した少し高くなった部分(島状)の面積が、タンパク質分子が水溶液中から結晶表面に取り込まれ ることにより広がっていきます.

 M. Ootaki et al., J. Crystal Growth, 311, 4226-4234 (2009).
 H. Takusagawa et al., J. Crystal Growth, 319, 49-56(2011).

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【トピックス3:μSRによる生命系における電子伝達機構の解析】

文科省科研費補助金新学術領域研究「超低速ミュオン顕微鏡」

文科省科研費補助金新学術領域研究「超低速ミュオン顕微鏡が拓く物質・生命・素粒子科学のフロンティア」では、「超低速ミュオン顕微法」を構 築し、スピン偏極した正ミュオンを用い、物質の表面近傍から内部にわたる現象の走査的な観測により、表面とバルクの関係性を明らかにし、また 界面という境界条件自体が作り出す諸現象の微視的機構の解明をめざしています(http://slowmuon.jp)。我々は、物質中で電 子の捕獲と放出を伴うミュオンの素過程を利用して、高分子や生体物質など、磁性を持たない物質の性質を超高感度で探るグループに参加し、蛋白 質や核酸における電子伝達機構の新しい視点からの解明に取り組んでいます。

ミュオン実験装置MUSE(J-PARC/MLF)


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