RESEARCH
物理学科生物物理学講座の佐藤俊輔君(博士課程1年)、渡辺豪准教授らの研究に関する論文がNature Researchが出版しているNature Communications誌(IF=17.7)に掲載されました。
本論文は、九州大学大学院工学研究院の楊井伸浩准教授、同大学大学院理学研究院の宮田潔志准教授らとの共同研究による成果です。
一重項励起子分裂はシングレット・フィッションとも呼ばれ、光照射によって生成された一分子の励起一重項状態が密集した有機色素分子同士がエネルギーを共有することで、その二分子を励起三重項状態へと変換する技術です。従来の一重項励起子分裂の応用例としては光エネルギー収支に着目した太陽光発電の高効率化が主流でしたが、一重項励起子分裂によって生み出される五重項状態と呼ばれる特殊な量子状態に着目した応用研究は未開拓でした。
本研究では、一重項励起子分裂により生じる偏極した五重項状態を用い、水分子のNMR信号強度を向上させる新たな手法の開発に成功しました。
水分子のNMRシグナルの増大は、磁気共鳴イメージング(MRI)を始めとする生体分析の分野で特に重要です。従来、一重項励起子分裂は太陽電池などエネルギー分野への応用が想定されてきましたが、本研究成果では、その量子状態を用いたNMR感度の増感というバイオ分野への新たな応用を提案しています。
本研究は、基盤研究B(JP19H02537)と新学術領域研究(研究領域提案型)(JP19H05718)の助成を受けました。
論文タイトル:“Singlet fission as a polarized spin generator for dynamic nuclear polarization”
論文誌: Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-023-36698-4
プレスリリースのページ
https://www.kitasato.ac.jp/jp/news/20230301-02.html