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2023.09.08生物科学科
分子生物学講座 五十嵐太一、国立研究開発法人国立がん研究センター研究所 塩谷文章ユニット長らの論文がNature Communications誌に掲載されました。
分子生物学講座 五十嵐太一(博士課程2年)、国立研究開発法人国立がん研究センター研究所塩谷文章ユニット長らの論文が2023年8月17日付で英国科学雑誌 Nature Communications(IF=17.7)に掲載されました。
研究チームは、正常細胞が発がんの初期にゲノム異常を獲得するメカニズムを解明しました。正常細胞が発がんする過程は未だ多くの部分が解明されていません。研究チームは、肺正常上皮細胞に、肺腺がんで高頻度に見られるKRAS変異体を発現させ、正常細胞がゲノム異常を獲得し、発がんする過程を解析しました。
その結果、発がんを促進するKRAS遺伝子変異体の発現によって、DNA複製の進行を妨害するクロマチンが強く凝縮したかたい領域(ヘテロクロマチン)が形成され、DNA複製が速やかに、適切に行えない状態であるDNA複製ストレスが誘発されることを明らかにしました。このDNA複製ストレスにより、ほとんどの細胞において細胞死が引き起こされるのに対して、一部の細胞ではDNA複製ストレスに応答するATRというリン酸化タンパク質の発現が亢進し、複製を危機回避的に再開するDNA複製ストレス耐性を獲得することを明らかにしました。しかしながら、DNA複製ストレス耐性機構はDNA損傷を残す性質があり、生き残った細胞はゲノム異常を獲得しながら増殖することを明らかにしました。これらの細胞はがんの起源となる可能性があります。またKRAS遺伝子に変異を持つ肺がん患者におけるATRの高発現は、予後不良と関連することを明らかにしました。本研究成果は、肺がんの中でも増加傾向にある肺腺がんの病態解明や、DNA複製ストレス耐性機構を治療標的とすることによる早期のがん予防や、新たな治療法の確立につながることが期待されます。
本研究は、日本学術振興会の助成を受けました(科学研究費補助金18KK0235 / 18H03378)。
論文情報
雑誌名: Nature Communications
タイトル: An ATR-PrimPol pathway confers tolerance to oncogenic KRAS-induced and heterochromatin-associated replication stress
著者: Taichi Igarashi, Marianne Mazevet, Takaaki Yasuhara, Kimiyoshi Yano, Akifumi Mochizuki, Makoto Nishino, Tatsuya Yoshida, Yukihiro Yoshida, Nobuhiko Takamatsu, Akihide Yoshimi, Kouya Shiraishi, Hidehito Horinouchi, Takashi Kohno, Ryuji Hamamoto, Jun Adachi, Lee Zou and Bunsyo Shiotani
DOI:10.1038/s41467-023-40578-2
掲載日:2023年8月17日
関連リンク
国立研究開発法人国立がん研究センター研究所プレスリリースURL
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2023/0907/index.html
論文URL
https://www.nature.com/articles/s41467-023-40578-2