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SCIENCE MAGAZINE
「なぜ」が、世界を変える。

光は体内でどう散乱するのか。
世界で唯一の研究で
隠れた病気の探知に挑む

物理学科
西沢 望 講師


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今回お話を伺ったのは、光で体内のがん細胞を探る研究に取り組む、物理学科の西沢講師。「研究には皆で競い合うものと、誰もしていないことを見つけて取り組むものがある。私は後者の面白さに惹かれた」という西沢講師は、このテーマにおける世界唯一の研究者だそうです。さらなる医療の発展や基礎研究の活性化につながる研究について、身近な疑問と関連付けながらお話しいただきました。
 

空が青い理由と体内のがん診断が、
光の「散乱」という現象で結びつく

なぜ、空は青いのか。それは、光が空気中の分子にぶつかって散らばり、私たちの目に届くことで、色がついて見えるからです。この、ぶつかって散らばる現象を「散乱」と言います。散乱は光の波長が短いほど強くなるため、波長の短い青い光が目に入り、青く見えるのです。私はこの光の散乱現象を体内の細胞核に応用して、光を使ってがんを探る研究に取り組んでいます。光は波であるため振動しているのですが、回転しながら振動が進んでいく特殊な「円偏光」というものがあります。体組織内で散乱する円偏光の様子を観察することで、見つけにくいがんを探し出したり、がんの進行度を予測したりできる技術を開発しています。
具体的には、体内で円偏光がどのように散乱するか、光の特性がどのように変わっていくかを理論的に解明し、実験によって、本当にがんを探ることができるかを確かめます。さらにはがんを診断するために内視鏡に搭載するデバイスの開発も。理論から実験、開発まで一貫して研究を進めています。

先人の研究と自身の研究を組み合わせ、
世界で無二の発展的な技術に

もともとの専門は半導体や磁性体でした。長年かけて、それらを組み合わせて円偏光を発するLED素子を実証。このLEDを何かに応用できないかと探して出会ったのが、がん診断の研究でした。円偏光を使ったがん検知が可能なのは先人の研究でわかっていましたが、体内での生成は非常に難しく、現実的ではないと考えられていました。しかし私が開発した円偏光のLEDを内視鏡の先端に搭載できれば、組織の切除や蛍光剤なしで、体内のがんを診断することが可能になります。現在このテーマを扱う研究者は世界で私だけです。先行研究を組み合わせて無二のアイデアが湧いたとき、そして実験で実証できたときの高揚感は何にも代えがたいです。
今後はこの研究を、がんだけでなく様々な散乱体の検査に応用できないかと考えています。たとえば血を抜かずに光だけで白血球の量を調べられるようになれば、新生児の検査の負担も減るでしょう。学術面でもあまり重要視されてこなかった円偏光ですが、私の研究によって応用の可能性を示すことで、基礎研究も含めて活性化していくと期待されます。

「理学」とは、根本的な「理」を解明し
広く深く発展させる営み

「理学」とは、ある現象や反応の根本的な原理を明らかにし、他のものに発展させていく学問です。私の研究は応用的に見えるため、理学からは遠いと感じるかもしれません。しかし掘り下げていくと、光の散乱という基本的な現象を用いた研究です。まずは光が物質に当たった際の根本的な原理の解明から始まり、円偏光だとどうなるか、物質の形状によってどう変わるか、と展開してきました。さらには、がん組織と健常な組織では散乱の様子に違いが出るのか、と追究していくのです。現象の根本を知ることで、さらなる応用、効率化ができないかと踏み込んで考える。それが理学です。
皆さんにも、身近な「なぜ」という疑問をなんとなく飲み込んでしまうのではなく、不思議に思い続けてほしいと思います。その場では解決しなくても「なぜだろう」と思い続けていると、理学部で学びを深めていく中で答えが得られます。もし答えが得られなければ、それは新たに自分が研究するべきテーマとなるかもしれません。理学部で身近な疑問を一緒に追究しましょう。

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