北里大学東洋医学総合研究所

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研究部門

臨床研究部

臨床研究部

「東洋医学の叡智を現代医療の現場へ還元する」ことを最終的な目標に、漢方薬・漢方医学領域のトランスレーショナルリサーチ推進を掲げて研究を進めている。漢方薬は、臨床効果の客観的評価やその詳細な作用機序が十分明らかになっていないため、有効性を疑問視されることも少なくない。
また一方で、未だ見出されていない漢方薬の新たな臨床応用の可能性について、その探索は緒についたばかりである。これらの疑問点や問題点を解決すべく、以下に示すような研究を行っている。

研究室メンバー

部長 及川 哲郎
室長 日向 須美子
上級研究員 遠藤 真理
上級研究員 伊藤 直樹

消化管に及ぼす漢方薬の影響に関する研究

機能性消化管疾患に対する漢方処方の薬効評価

漢方薬は胃腸によいといわれるが、漢方処方が消化管機能にどのような影響を及ぼしているかという点については、これまで十分なデータが示されてこなかった。当研究部ではFunctional dyspepsiaや過敏性腸症候群といった機能性消化管疾患に焦点を当て、胃排出機能や腸管ガス量測定などを用いた漢方処方の薬効評価を試みている。

呼気試験を用いた消化機能研究

13C化合物による呼気試験を用いて、漢方処方の消化機能に及ぼす影響を研究している。

炎症性腸疾患に対する漢方薬の有効性の検討

年々増加しつつある、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患に対する漢方薬の効果や作用機序を、動物モデルを用いて検討している。

  • 炎症性腸疾患に対する漢方薬の有効性の検討1
  • 炎症性腸疾患に対する漢方薬の有効性の検討2

精神神経疾患を中心とした気剤の薬効評価

漢方薬および生薬の香りの中枢神経系に対する作用の解析

漢方薬および生薬の香りの抑うつ症状に対する効果を動物モデルを用いて評価し、その詳細な作用メカニズムを様々な実験手法を用いて多角的に解析している。また、本研究を通じて未だ明らかとなっていない抑うつ・うつ病の病態解明に向けての研究も併せて行っている。

漢方薬と西洋薬の作用の違いの検討

抑うつ症状に対する漢方薬と西洋薬の作用の違いを、様々な動物モデルおよび評価系を用いて解析している。

気剤の効果の客観的評価

気血水理論の中で、「気」の解明は最も遅れている。我々は、「気」と密接に関連していると考えられる自律神経機能が、「気」の異常とどのように関連しているか、半夏厚朴湯をはじめとする気剤投与でどのような影響を受けるかを、瞳孔反応や心拍変動などを指標にして評価、解析している。

香蘇散の抗うつ様効果におけるOX-A/NPY神経系
香蘇散の抗うつ様効果におけるOX-A/NPY神経系 図

漢方薬による新しいがん治療法の開発

漢方薬によるがんの再発転移防止療法の開発

現代のがん治療では、外科的治療、放射線療法や化学療法を終了すると経過観察となるが、がん患者さんは、経過観察期間においても、がんの再発転移防止のための治療法を求めていることが、調査研究から明らかになっている。現在、積極的な再発転移防止療法は存在しないため、一部のがん患者さんは、有効性や安全性が明らかでない高額なサプリメントや健康食品などを利用していることも報告されている。私たちは、漢方薬によるがんの再発転移防止治療の開発を目的として、抗転移効果や抗腫瘍効果を有する漢方薬を探索し、候補となる麻黄湯を見出した(特許第5786164号)。さらに麻黄の有効成分のひとつとしてHerbacetin配糖体を見出した(特願2013-240718)。

肝転移の数 グラフ

がんの再発転移防止療法では、麻黄湯や麻黄の長期間の服用が予想されることから、有効性だけなく、長期投与による安全性を確保するための方法を検討中である。将来的には、これらの研究成果を臨床へ還元し、漢方薬による再発転移防止療法を確立して、安全性及び有効性の高い漢方製剤をがん患者さんに提供できるようにしたいと考えている。

がんの多剤耐性に有効な漢方薬の研究

抗がん剤は、長期間の投与によって薬剤耐性を生じる。この原因のひとつとして、抗がん剤によるがん細胞の薬物トランスポーター発現誘導がある。がん細胞に発現した薬物トランスポーターは、抗がん剤をがん細胞の外へ排出するため、抗がん剤が効かなくなる。さらに、このトランスポーターは基質特異性が低いため、様々な種類の抗がん剤をがん細胞外へ排出し、抗癌剤に対する多剤耐性を発症する。このような薬物トランスポーターの機能を抑制する漢方薬を探索し、多剤耐性を克服するための漢方治療を目指して研究を行ってきた。その結果、多剤耐性に有効ないくつかの漢方薬を見出した。現在、in vitroの解析において、これらの漢方薬と抗がん剤を併用すると、多剤耐性がん細胞の増殖が有意に抑制されることを確認している。将来的には、これらの漢方薬と抗がん剤を併用することで、多剤耐性の発症を予防したり、すでに多剤耐性を発症したがん患者さんの化学療法の再開といった臨床応用の可能性が考えられる。

  • がんの多剤耐性に有効な漢方薬の研究1
  • がんの多剤耐性に有効な漢方薬の研究2

副作用成分を除去した生薬エキスの開発

エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)

麻黄は日本薬局方によって「Ephedra sinica Stapf,Ephedra intermedia Schrenk et C. A. Meyer 又はEphedra equisetina Bunge(Ephedraceae)の地上茎を乾燥したものを定量するとき、総アルカロイド(エフェドリンおよびプソイドエフェドリン)0.7%以上を含む」と規定されており、その薬理作用のほとんどはエフェドリンアルカロイドに由来すると考えられてきた。また、エフェドリンアルカロイドによる中枢神経及び交感神経の刺激作用を介した血圧上昇、動悸、不眠などの副作用を生じることが知られており、麻黄含有漢方薬は、循環器系に障害のある患者、高血圧症の患者、あるいは高齢者に対して使用上注意を要する。このように麻黄の主作用と副作用は、どちらもエフェドリンアルカロイドに由来すると考えられてきたため、麻黄から副作用成分を除去するという発想はこれまでほとんどなかった。
私達は、これまでに麻黄エキスの非アルカロイド画分に、c-MET阻害を介した抗がん・抗転移作用があることを見出し、活性成分のひとつとして、Herbacetin配糖体を見出した。これらの研究成果から、麻黄の薬理作用の一部はエフェドリンアルカロイドに依存せず、麻黄から副作用成分を除去することは可能であることが示唆された。そこで私達は麻黄エキスからマイルドな条件でエフェドリンアルカロイドを除去し、副作用のないエキス製剤の作製を行った。このエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)は、c-MET阻害作用の他に、鎮痛作用や抗インフルエンザ作用を有することが明らかになった。また、マウスの反復投与毒性試験の結果、EFEは毒性がないこともわかった。現在、EFEを医薬品化して臨床応用するために、ヒトに対する安全性評価と有効性評価を検討しているところである。

エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス

麻黄及びEFEの副作用の解析

麻黄に含まれるエフェドリンアルカロイドによる中枢神経及び交感神経の刺激作用を介した血圧上昇、動悸、不眠などの副作用から、麻黄含有漢方薬は、循環器系に障害のある患者、高血圧症の患者、あるいは高齢者に対して使用上注意を要する。
これらの副作用がEFEにはないのかどうか、マウスを用いた行動薬理学的解析により検討している。現在、オープンフィールド試験(OFT)、ペントバルビタール睡眠試験(PST)、強制水泳試験(FST)、及び心拍測定用テレメトリーシステムを用いた心拍変動解析を実施中である。

麻黄及びEFEの鎮痛作用の解析

これまで、麻黄エキスがTransient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)の脱感作を介して、カプサイシン誘発性疼痛を抑制することを明らかにした。また、麻黄エキス及びEFEは、ホルマリン誘発性疼痛を抑制することも見出した。現在、関節痛モデルマウスに対する麻黄エキス及びEFEの鎮痛作用を解析している。
麻黄含有漢方薬は関節痛やリウマチの治療に用いられており、その鎮痛作用は麻黄の成分・プソイドエフェドリンの抗炎症作用によると考えられて来た。しかしEFEに鎮痛作用があることから、エフェドリンアルカロイド以外の成分に鎮痛作用があることが示唆された。現在、活性成分の探索も行っている。

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共同研究先
薬学部生薬学研究室、北里生命科学研究所和漢薬物学研究室、北里大学病院臨床試験センター、国立医薬品食品衛生研究所、松山大学薬学部、国際医療福祉大学薬学部、(株)常磐植物化学研究所
所属学会等
和漢医薬学会、日本東洋医学会、日本薬学会、日本癌学会、日本がん転移学会、日本神経消化器病学会、安定同位体・生体ガス医学応用学会、日本神経科学会、北米神経科学会、日本神経精神薬理学会など
教育
  • 医学部、薬学部、大学院感染制御科学府における東洋医学の講義
  • 医学生・臨床医のための東洋医学セミナーでの講義
  • 大学院生の指導:薬学研究科及び感染制御科学府の大学院生の研究指導、学位審査の副査
  • 卒業研究指導:薬学部、北里生命科学研究所、及び他大学の学部生の卒業研究指導
  • インターンシップ:フランスの薬学部生のインターンシップ研究指導
  • 教育1
  • 教育2

過去10年間の業績

発表論文・総説