第454回獣医学科セミナー<Faculty seminar>

2021-07-07
17:00
A棟3階 A31講義室

イベントの概要

人類と身近な細菌との静かな攻防 −ブドウ球菌感染とブドウ球菌食中毒


開催日時

2021年7月7日(水) 17時00分から

場 所

A棟3階 A31講義室

講演者

胡 東良先生 (人獣共通感染症学研究室)


ブドウ球菌は人と動物の常在菌であり,健常成人の約30%の鼻腔または皮膚に存在している。一方,本菌は人と動物の日和見感染症の原因菌でもある。ブドウ球菌は極端に高いビルレンスを発揮するわけではないが,人と動物に上手に適応することによって持続感染を引き起こし,宿主防御の綻びを縫って重篤な病態を形成するという賢くて厄介な病原体である.本菌は人の院内感染症や食中毒,動物の牛乳房炎,豚剥脱性皮膚炎,鶏浮腫性皮膚炎・関節炎および犬膿皮症などを引き起こし,医療および畜産業に甚大な社会・経済損失をもたらしている。特に近年,薬剤耐性ブドウ球菌(MRSA)やスーパー細菌が次々と報告され大きな問題となっている。しかし,本菌感染に対し,未だに有効な防御ワクチンがなく,本菌による食中毒メカニズムも十分に解明されていない。


近年,我々の研究グループを含め,ブドウ球菌が産生する新型スーパー抗原毒素・エンテロトキシン(SE)が次々と発見され,我々のグループは新型毒素SER,SES,SET, SEYおよびSE02を発見した。現在29種類の毒素が報告されている。ブドウ球菌はなぜこのような多彩な毒素を産生するかを考察すると,これらの毒素がブドウ球菌の感染成立とその生き残りに必須な分子であることが窺える。本研究室は,感染症患者や食中毒事例および牛乳房炎由来株の多くが産生するスーパー抗原毒素(SEA,SEC, TSST-1)に注目し,ブドウ球菌感染におけるスーパー抗原毒素の作用機序について解析を行なってきた。また,変異毒素をワクチン抗原として動物に免疫したところ,ブドウ球菌感染に対する防御効果を有することを見出し,その効果は毒素の中和のみならず,細菌本体の排除にも働き,スーパー抗原毒素の新たな病原機構の存在を明らかにした。さらに,新規小型嘔吐・食中毒動物モデル(スンクス,コモンマーモセット)を確立し,これらのモデルを用いエンテロトキシンが腸管の肥満細胞に直接作用しうることを見出し,ブドウ球菌による食中毒発症メカニズムを解明しつつある。本セミナーでは,これまでの研究概要とその成果および今後の展望を紹介したい。