北里大学 獣医学部 獣医学科

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獣医学科 なるほどコラム

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伊藤 伸彦 教授
犬や猫への高度医療の法整備は
どの段階まで進んでいますか?
就職センター・農医連携教育研究センター
センター長 伊藤 伸彦
放射線による画像診断・腫瘍治療など、獣医核医学分野が専門。人の医療の核医学専門家にも「早く使えるといいですね」といわれます。普段から核医学の現場にいる人は、その有用性を知っているんですね。

犬や猫に高度医療が必要な理由

―動物の診断で難しいポイントを教えてください。

まず動物にとって苦痛の少ない診断を目指さなくてはいけません。当然のことですが、会話ができませんので、X線やCT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像)による診断が必須となっています。少なくともX線装置については人間のお医者さんよりも、動物病院の方が普及しています。昔に比べてペットの社会的地位が上昇し、高齢化も進んでいますから、高度医療はますます必要とされるでしょう。

―今後期待される高度医療はどのようなものでしょうか?

いま期待されているのはPET(陽電子放出断層撮影)ですね。これはアイソトープを利用して臓器の機能が正常かどうかを調べる核医学検査の画像診断の一種です。CTに比べて、初期段階でも結果が見えるのが核医学の特徴です。例えば、犬のガンは人間の4〜5倍の早さで進行しますから、初期の診断だと治療効果は大きくなります。さらには、転移したかどうかも早い段階でわかります。負担が少ないために抗ガン剤の効果測定にも便利ですね。

―核医学診断はガン以外にも役に立つのでしょうか?

核医学は人間の世界でも最先端の診断方法で、全ての臓器に役立ちますが、なかでも犬や猫に多い心筋症の診断に効果があります。心筋症は心臓の一部が肥大して機能を低下させてしまう病気で、新しいバチスタ手術が使えると言われています。この手術を成功させるには心筋のうち元気の良い部分とそうでないところを区別する必要があります。現在では超音波装置を使いますが、正確には分かりませんので,胸を開ける前に核医学診断で見分けられると成功率はぐんと上がるでしょう。また、救急医療でも活用が期待されます。例えば、肺動脈塞栓症にかかった動物の場合、部分的な肺の機能低下が見られますから、場所を特定してカテーテルで血栓を溶かす薬を入れてあげることができます。ペットとして馬を多く飼う欧米の場合、足の微小骨折を調べるのにも使われていますね。また、CTやMRIには完全麻酔のリスクがありますが、核医学では麻酔の場面を減らせます。

獣医核医学に関する法整備は詰めの段階

―日本では動物への核医学は認められているのですか?

日本では動物への核医学について法整備が遅れていて、まだ獣医療で使うことができません。現在は農林水産省と獣医師や医師、診療放射線技師などの専門家が協力して審議をしている段階です。私が20年ほど前に科学技術省庁へ核医学導入を打診したときはまだ反応が薄かったものの、7年前に文部科学省の職員に伺ったときは「やはりお考えでしたか」といわれました。意識は確実に変わってきています。

―法整備の上での問題点は?

アイソトープは、いずれ体外に排出されますから、ペットの周りの人間に微量ながら被ばくの恐れがあります。人間であれば検査の当日に帰宅できますが、動物は何日か入院する必要があり、その日数や基準を検討しているところです。ほぼ最後の段階ですから、2〜3年のうちには現場で使われるようになると思います。実は北里大学十和田キャンパスでは新しい動物病院の建設計画があり、そこに核医学を組み込めないかと考えています。将来的には専門医の育成も視野に入れて、取り組んでいきたいですね。
高井 伸二 教授
人類にとって脅威である感染症を防ぐのは
不可能なのでしょうか?
獣医学科 獣医衛生学研究室
高井 伸二 教授
子馬の肺炎である「ロドコッカス・エクイ感染症」の発病機構や診断・予防法を研究。「ほとんどの細菌は人間や動物にとって害がない。しかし、感染症は偶然が重なって引き起こされるが、微生物と共に生きている人間や動物にとっては必然である」

人間と動物は微生物に囲まれて生きている

―最近、人獣共通感染症※1が耳目を集めていますが
どのように捉えればいいのでしょうか?

病気を引き起こす細菌の仲間は、地球上で最も早くに登場した生物です。原始細菌に光合成をするラン藻が共生して植物となり、一方で呼吸能力のある細菌が共生して動物が生まれてきている。バクテリアから高等動物に進化するまで何十億年と経っているわけで、先に細菌ありきの世界に我々が踏み込んでいっていると言っていいでしょう。バイオマス※2でいうと、人間という存在はミミズやシロアリと同等で、微生物の150分の1ほどの存在です。人間は60兆個の細胞から成り立っているが体内に100兆個の常在細菌がいて、まさに微生物の中で生きているようなもの。
また、牛のような草食動物は第一胃(ルーメン)の中に微生物がいて、動物が分解できない植物繊維のセルロースを発酵分解し栄養分に変換してくれます。さらに、そのルーメン微生物を第四胃で蛋白源として取り入れる菌食獣とも言えます。それらの微生物の中にほんの僅かな数の悪さをする病原菌がいて、感受性のある動物に偶然出会うと病気になる、アクシデントのようなものです。

―動物を家畜化するのも問題を大きくする一因でしょうか?

野生動物なら病原体に出会って発病しても、そこで死んでしまうだけ。だが動物が家畜化されると同じ感受性動物を多く飼育することになり、病原体が入ってきた時に、集団発生することになる。人と伴に移動する家畜は、同時に病原体を新しい場所にも伝播させることになった訳です。私はこれまで子馬の細菌性肺炎についてJRA総研と一緒に研究していますが、その結果、病原性プラスミドという染色体外のDNA分子に多型性を見出し、アジアとヨーロッパの菌株で型が違うことが分かってきました。日本の型を朝鮮半島や中国、モンゴルへと遡って調査し、馬の移動と病原体の移動が重なることが分かってきました。一方、南北アメリカ・オーストラリアで見られる型は、ヨーロッパと同じ型であり、新大陸発見以降にヨーロッパからの探検隊や移民が持ち込んだ馬と伴に侵入したものと考えられます。

我々は細菌について何も知らないと言っていい

―馬の菌に関して新しい動きはあるのでしょうか。

タイのHIV患者から同じ菌が見つかっています。この菌は豚にも感染し、タイ北部では豚の生肉を食べる習慣があるそうです。そのため免疫力の落ちたHIV患者がこの菌に感染したようです。同じような動きとして昨年、中国の四川省では連鎖球菌に感染した豚の摂取が原因で多くの人が亡くなっています。これらを人獣共通感染症と呼びますが、私たち獣医師は特に注意を払う必要があります。

―感染症との闘いは終わりが無いように思えますね。

感染症はまさにエンドレスですね。世界的にみても鳥インフルエンザ、SARSといった新興感染症が増加する傾向にあります。身の回りを見渡しても、人の腸内には300種以上の菌がいるとされますが、培養が困難で全て同定されているわけではありません。人が足を踏み入れたことがない土壌や水圏には、我々の知らない細菌がまだまだいるはずです。そこで怖いのがわが国のエキゾチックアニマルブームです。わが国にはこれまでのペットとは異なる野生動物(愛玩用げっ歯類、鳥類、輸入爬虫類、昆虫類)が無検疫で輸入されている現状があります。未知の土壌で育った昆虫の腸内にはどんな細菌がいるのか、全く不明です。現代社会は飛行機でスピードアップを成し遂げたぶんだけ、感染症の広がりも爆発的に早くなってしましました。新興感染症の多くは動物由来感染症であり、私達、獣医師にはその危機管理対応が迫られています。
※1 ヒトとヒト以外の脊椎動物の間を自然に伝播する性質を持つ感染症
※2 特定の時点においてある空間に存在する生物の量