生きた動物をヒトの医療/福祉/教育に活用する試みを動物介在療法/活動/教育と呼びます。イヌを介在させるケースが最も一般的ですが、当研究室では、大型家畜であるウマならではの効果をねらってウマ介在療法/活動/教育に関する一連の研究も行っています。
これまで成人を対象とした例では、ホーストレッキングによる騎乗者のリラックス効果や脳活動の変化などを報告してきましたが、若い世代(小学生~高校生)に対する効果については不明な部分が多くありました。学校生活において児童・生徒は日常的に様々なストレスに直面していると思われます。そこで、北海道静内農業高等学校の多大なるご協力を得て、「高校生を対象としたウマ介在療法の精神的効果に関する研究」を実施することとしました。
最初に、大学生が高校生にこれまでの研究報告や期待される効果などを紹介し、実験目的や方法を詳しく説明しました。そして、実際に高校で飼育管理されている乗用馬を供試動物として実験をしました。コロナ禍で大きな苦労もありますが、大学生と高校生がウマを介して学習している様子は、まさに動物介在教育と呼ぶにふさわしい光景です。どんな研究成果が得られるか、今後の実験結果が楽しみです。
ウマは1)ヒトを乗せることができる動物であり、2)ヒトの感情をある程度理解する能力をもっています。また、3)ヒトが飼育管理する場合には規則正しい生活リズムが生まれるとともに適度な運動を要し、4)家畜であるという長所を併せもちます。そのため、介在動物として他の動物には真似のできない貢献をします。
これまでの研究で、成人ではホーストレッキングをしたあとに副交感神経活動(安静や睡眠時に高まる自律神経系の活動)が高まることが分かっています。自律神経活動を解析するためには、心拍センサーを使ってヒトの心拍動の変動を測定する必要があります。その測定機器の使い方や注意点など、当研究室の学生が詳しく説明しました。高校生の皆さんはとても熱心に耳を傾けています。
友達関係、恋愛、保護者との関係、先生、自分の進路、勉強、部活… 高校時代はいろんな悩みに直面する頃でしょう。(もちろん、楽しさも喜びも同じくらい大きい時期だと信じますが。)この共同研究では、唾液中のストレス物質も測定します。成人では、ミニチュアホースを撫でるとストレス物質の濃度が低下する結果を得ています。高校生が乗用馬に乗った場合にはストレスはどんな動きを見せるのでしょうか?
静内農業高校は競走馬も生産するくらい、ウマにかんする教育に力を入れておられます。実際、介在活動用のウマもとてもよくトレーニングされていました。ウマが良い状態ということは、そのウマを飼育しているヒト=高校生が良いということです。静内農業高校の生徒さんも北里大学の大学生も、ともにウマからよく学び、ウマとよく遊びましょう。