ヒト受精卵の凍結保存用デバイスの製品化に成功!畜産分野への展開にも着手

動物(牛、マウスなど)やヒトの胚(受精卵)の凍結保存技術は、私たちの社会の中で今や欠かせない生殖補助技術の一つとなっています。胚の凍結保存方法には緩慢法とガラス化法があります。このうちガラス化法は、高濃度の凍結防止剤を含む凍結液に浸漬した胚を微細な道具(デバイス)を用いて、短時間に超低温(-196℃)まで超急速冷却する方法で、特にヒトの生殖補助医療分野では広く利用されています。ガラス化法の利点の一つは、凍結融解後の胚の生存性が緩慢法よりも優れていることです。

牛の受精卵

一方で、課題としては、その高い生存性を維持するためには、ガラス化操作における胚の取り扱いに高度な技術を必要とすることが挙げられます。

開発したデバイスに載せた牛受精卵

この課題を解決するために、動物資源科学科動物生殖学研究室では民間企業(三菱製紙株式会社)と共同で新規ガラス化保存デバイスの研究開発について取り組み、製品化することに成功しました。この新規デバイスは、当研究室で考案した胚の超急速ガラス化保存法「Kitasato Vitrification System (KVS)」を応用したもので、難しい技術が要求されるガラス化処理に対して、「1.作業者の技量差が生じにくい設計で成績の安定化に寄与、2.作業者の習熟期間の短縮」をコンセプトにしています。今後、この新規ガラス化保存デバイスは生殖補助医療分野での展開が期待されます。

開発したデバイスを用いた凍結操作

また、特筆すべき点としては、このデバイスの開発から製品化に至る過程において、生殖補助医療施設で胚培養士として働く本学卒業生のご協力により製品化が実現できたことです。農医連携を一つの柱とする北里大学ならでは研究成果といえます。

現在ではさらに、新規ガラス化保存デバイスを牛の凍結受精卵移植現場に適用するための研究に着手しています。牛の場合は緩慢法で作製した凍結受精卵を移植して産子を得る方法が一般的です。しかし、緩慢法より生存性が優れているガラス化法を牛の受精卵移植に広く適用できれば、移植後の産子率の向上が期待できます。

開発したデバイスを用いた顕微鏡操作

この研究は日本中央競馬会畜産振興事業の補助金を基に、動物生殖学研究室と三菱製紙(株)だけでなく、本学部の動物飼育管理学研究室や一般の農家の方々の協力を得て、大々的に展開しており、今後の研究成果が待たれるところです。

ガラス化保存デバイス製品については、三菱製紙株式会社 製品紹介サイトを是非ご覧ください。

Diamour: Vitrification Device
https://www.mpm.co.jp/diamour/index.html


関連する研究成果:

他の特集記事を見る