SDGs

Vol. 3 目に見えない敵 -環境汚染物質- から野生動物を守れ!

現在約2億種以上もの化学物質が私達の生活のあらゆる場面で活用されています。しかし、これら化学物質は排水や工場の排気ガス、ゴミなど様々な形で環境中へ放出されます。このような環境汚染物質は自然環境、野生動物そして我々人間の健康に悪影響を及ぼす事があります。

例えばマイクロプラスチックによる海洋汚染は国際的に深刻な問題の一つです。これらは物理的に腸管を閉塞する危険性があるだけではなく、体内で有害な化学物質が溶け出す事も知られています。このような環境問題の解決はEnvironmental SDGsとして、持続可能な成長目標【SDGs】に含まれるなど国際的に重要視されています。

そして、このような化学物質の悪影響(=毒性)を評価する研究分野を毒性学と言います。私達北里大学獣医学部毒性学研究室はその中でも特に、環境汚染物質が野生動物に与える影響を評価する環境毒性学を主な研究分野としています。

実際には、化学物質は開発段階で必ず毒性試験を受けその毒性メカニズム・致死量・環境残留性といった安全性を、マウスなど実験動物を用いて評価しています。しかしながら野生動物はライオン・カンガルー・トムソンガゼル・ポタモガーレ・ジェレヌクなどなど…といったように非常に多様性が富んでおり、化学物質に対する応答も実験動物とは大きく異なります(=動物種差)。この動物種差により実験動物へは毒性の低い物質でも野生動物へ深刻な影響を与える事があります。

例えば、ジクロフェナクという抗炎症薬があります。これは極めて一般的な非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)であり、全国の薬局で処方されているほか獣医療でも広く用いられています。しかし、ジクロフェナク中毒によりインドハゲワシの個体数が99%減少するという痛ましい事件が起きました(Susan McGrath, SMITHSONIAN MAGAZINE, 2007)。これはハゲワシがジクロフェナクを投与された家畜の死体を食べた事で生じ、ハゲワシ等の鳥類ではジクロフェナクの副作用である腎不全が特に起きやすい事が原因でした。

このように、環境汚染物質は時に野生動物の大量死すら引き起こす事があります。そして、上述のように実験動物の知見のみでは環境化学物質が野生動物へ与える影響を評価する事は困難です。また、当然の事ながら新しい化学物質が生産されるたびにライオンで毒性試験を行う、といった事は不可能です。このため野生動物に対する毒性評価法の確立は国際的な課題となっています。

そこで当研究室では野生動物に対する新たな毒性評価法の確立を目指して研究を行っています。動物実験ができない希少な野生動物に対する評価法として、コンピューターシミュレーションとAIによる毒性予測手法や、培養細胞を用いた毒性試験といった、動物実験を伴わない“非侵襲的”試験に着目しています。これらの研究は北海道大学獣医学部、帯広畜産大学獣医学部、国立環境研究所、東京工業大学情報理工学院といった多くの研究機関との共同研究として実施しています。
 このように環境問題の解決には人間を対象とした研究だけではなく、動物のプロフェッショナルである獣医師による野生動物を対象とした研究が不可欠です。
私達北里大学獣医学部毒性学研究室は野生動物の健康保全を通してSDGsの達成に貢献していきます。

北里大学獣医学部毒性学研究室ウェブサイト
https://kitasatoxlab.jp/