動物資源科学科・落合 優
世界人口は2050年には97億人に達する見込みです。この世界人口の増加に伴う食糧タンパク質需要の増加、地球の温暖化に伴う農地面積の縮小、欧州諸国からの食糧輸入の減少などが危惧される昨今、国内で生産や供給が持続可能な食糧資源の開発が求められます。このような食糧状況において、環境負荷が小さく、収率の高い食用昆虫は有力な食糧資源となり得ることが国連の農業機関によって2013年に発表され、国内においても食用昆虫を用いたスナック菓子など食品開発が近年進められています。
代替食糧資源として期待される食用昆虫は世界で約1900種類知られていますが、実際に世界でも安全性が学術的に証明・確立されて食糧として利用可能なものはトノサマバッタ、カイコ、コオロギなど約10種類であり、日本国内で「一般食品」として利用することは未だ認められていません。当研究室では、近い将来に国内でも食用昆虫が食品として利用可能となる日に備えて食用昆虫の栄養価・安全性、機能性に関する研究データを蓄積しています。
食糧資源としての食用昆虫のタンパク質の質について解決すべき課題は多々あります。当研究室では、どのようにすれば消化管での消化性が良く、アレルギー物質が少ない昆虫原料が生産できるのか?についての研究を実施し、将来的に機能性サプリメントや菓子類などの加工食品の開発を目指しています。また、食用昆虫にはタンパク質だけでなく、2型糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病を予防・改善することが知られる機能性脂質や過剰な栄養素の吸収を抑制する食物繊維も豊富に含まれます。これらは畜産物や大豆などの既存の食糧タンパク質資源にはない特徴です。これらの機能性成分やその生理作用を明らかにし、生活習慣病を改善するための保健機能食品の開発を実現したいと考えています。
当研究室では、栄養特性・安全性・機能性に関する研究を人の生体内における栄養代謝に近いマウスやラットを用いて行っています。また、食用昆虫に含まれる成分を水溶性や脂溶性の溶媒で抽出・濃縮し、その成分の機能性についても検討しています。
研究のアイデアの考案から実験動物の飼育、生体試料を用いた栄養学的分析まで研究室所属の学部生や大学院生が主体的に行います。公開した学術成果には学部生が在籍中に行った研究内容が多く含まれます。食用昆虫を用いて「食糧問題を解決する」研究方法は多様であり、学部生や大学院生が自らの問題として主体的に考えることで研究内容の幅が広がり、食糧・食品科学に関する知識や技術が向上します。主体的に研究に関与する姿勢を大学卒業後の社会に活かすことに期待して、研究指導に取り組んでいます。
上述した食用昆虫に関する一連の研究は持続可能な開発目標SDGsの17項目ある目標の中でも複数の項目の達成の可能性を秘めています。例えば、「1, 貧困をなくそう」、「2, 飢餓をゼロに」、「3, すべての人に健康と福祉を」、「12, つくる責任、つかう責任」に該当します。食用昆虫に関する研究を通して、SDGsへの貢献を目標としています。
参考記事
・食用昆虫の油脂に関する記事(日本語)https://doi.org/10.5650/oleoscience.22.155