ヒト食いバクテリアとして恐れられているVibrio vulnificus (ビブリオ バルニフィカス)は、傷口から生体へと侵入し、短時間内に増殖して組織を壊死に陥れ、感染者を死に至らしめます。
我々は、ビブリオ バルニフィカスが傷口から侵入後、生体内で増殖するために必要とする遺伝子を一網打尽にすることに成功しました。それら遺伝子の働きを系統立てて理解することにより、ビブリオ バルニフィカスの巧みな生存戦略の概要を暴くことが出来ました。ビブリオ バルニフィカスは、図AからDに示したような機構で栄養分を獲得しつつも競合を避け、素早く増殖することで、免疫反応が起こる以前に感染を成立させてしまうのです。今回、明らかとなった個々の生存戦略をより詳細に研究することで、現在有効な治療法の無い、ヒト食いバクテリア感染症の新規治療法が開発できるかもしれません。
A ; ビブリオ バルニフィカスは、傷口から体内へ侵入後、菌体周囲に糖でできたカプセル(莢膜)を纏い、白血球から身を守ります。
B ; 栄養分の取り合いを避けるため、べん毛運動により皮下で拡散しながら、増殖します。
C ; 毛細血管へと到達すると血流中へ侵入し、赤血球破壊毒素を放出して、増殖に必須の鉄を奪い更に増殖します。この段階までが、感染後数時間内に完了し、予想以上の速度で感染が進んでいました。
D ; このような短時間内における体内での拡散と増殖により、ビブリオ バルニフィカスを駆逐するために起こる免疫反応の多くが時間的遅れを取ることになります。免疫機構が働き出す頃には、ビブリオ バルニフィカスは感染者体内で増殖してしまっているのです。