私は、1999年3月に獣医学科を卒業し、動物病院と動物衛生研究所に勤務した後、2000年12月から現在の会社に勤務しています。中外医科学研究所は、様々な実験技術を駆使して中外製薬の創薬研究を支援している会社で、動物飼育・繁殖・実験技術など多くの専門技術を有しています。
近年、特に動物の飼育や実験は、3Rs (Replacement, Reduction, Refinement)に配慮して行われるべきであることが日本でも浸透しつつあり、中外製薬は国際的な第三者評価機関であるAAALAC*の認証を2007年に取得しました。この認証プログラムでは、実験動物の健康と福祉や人の労働安全衛生に関して責任を負う獣医師を管理獣医師と位置づけ、動物施設全体の監督・指導を行うことが求められます。私は富士御殿場研究所の管理獣医師代理として、健康な動物が試験に供されるように定期健康診断を行ったり、異常動物の診断・治療を行ったり、動物福祉に配慮した試験が実施されるよう実験者にアドバイスしたりしています。
マウス・ラットなどのげっ歯類からウサギ、イヌ、サル類と多種にわたる動物を健康に維持するためには清潔な環境で飼育するだけでなく、動物本来の習性・行動を妨げないような工夫をすること、すなわち環境エンリッチメントが大切です。例えば、動物施設ではイヌやサル類は1匹ずつ飼育することが一般的です。しかし、社会性のあるこれらの動物は集団で飼育することで、生き生きと生活をすることができます。こういった環境エンリッチメントに配慮した飼育方法は動物福祉のみならず、実験データの精度向上などにも良い影響があると考え、日々、飼育方法の工夫に取り組んでいます。
一般的に、製薬メーカーの獣医師は薬理薬効や毒性試験などで獣医学の知識を生かした仕事をしているイメージがあると思います。しかし、私のように動物の福祉に主眼を置き、動物がより生き生きと健康に飼育されるように働いている獣医師もいます。動物がより健康な生活を送れるように自らが動くことのみならず、飼育管理を担当する人や研究者との折衝など多忙な毎日を送っています。動物福祉を通じた獣医師の活動が創薬研究の一翼を担い、病気で苦しんでいる患者さんに一日も早く薬を届けられればと思っています。
*:Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Careの略。AAALACは、自主的な審査と認証プログラムを通して、科学における動物の人道的な管理を促進するNPO団体で、世界で33カ国800以上の施設が認証を受けています。