動物は言葉を話すことができません。また、心臓に異変が起こっても、体の中にある心臓の変化を容易に知ることはできません。そのため、飼い主さんがどんなに大切に世話をして、注意深く観察していても、伴侶たちの心臓病を早期発見することは困難です。気が付いた時には病気が進行し、心不全を起こしていることも決して少なくありません。心不全では夜中~明け方に咳が出たり、興奮時に突然倒れたり、お腹が膨れてくることがあります。これらは心臓病に特徴的な症状ですが、心臓病以外の疾患でも同様の症状がみられるため正確な診断には専門的な知識と技術が求められます。
X線検査
X線検査では心臓や大血管は白く映り、肺や気管は黒く映ります。
心臓病にかかった犬・猫では、X線検査で大きく拡大した心臓が映し出されます。心臓や大血管の大きさから心臓病を診断するだけではなく、呼吸器に異常がないか検査をすることができます。
一か月前からの発咳と失神を主訴に来院した犬の胸部X線検査です。
この症例の心臓は重度に拡大しています。
呼吸器の異常はみられず、心臓病が疑われました。
心電図検査
心電図検査では心臓の中を流れる微弱な電気を計測します。心臓の中には電気を通すための導線(神経線維)があり、電気が発生する場所も電気が流れる順序も決まっています。心電図検査では、心臓の中の電気の流れを検査して、不整脈の種類や程度を評価します。
数日前から食欲がなくなり、血液検査から膵炎と診断した犬の心電図検査所見です。心室の異常興奮波形(赤矢印)や興奮の伝導障害(青矢印)がみられます。
また、心房から心室への伝導遅延(両矢頭)も認められます。
血液検査
血液検査では心臓病に伴い心筋細胞から分泌されるホルモン濃度や心筋細胞が破壊されて逸脱した細胞内物質を測定します。血液検査を通して、心筋細胞にかかっている負担の度合いや心臓の病理学的変化を推測することができます。
超音波検査
上述の検査は、心疾患と他の疾患を鑑別するうえでとても重要な検査です。しかし、X線検査や心電図検査・血液検査では心臓の内側がどのようになっているか知ることができません。超音波検査を利用すると、短時間の内に痛みや苦痛を与えずに心臓の内部構造を把握することができ、心臓病のタイプや血行動態の変化を視覚的に評価することができます。また、超音波検査を通して心機能を評価することで、病気の進行度や予後を知る手掛かりにもなります。
咳を主訴に来院した犬の超音波検査所見です。
検査の結果、心臓の中にある僧帽弁という左心房と左心室の間にある弁が閉じなくなっていることがわかりました。
また、左心房が重度に拡大していることから心不全を起こす可能性が高いと推察されます。
心臓病は治せないことが多いため、心不全を発症すると予後はとても悪く、中央生存期間は1年もありません。我々は、そんな心臓病で苦しむ伴侶動物たちが一日でも早く苦しみから解放され、一日でも長くご家族と幸せな時間を過ごせるように、日夜、新しい診断・治療法の研究・開発に取り組んでいます。