― 十和田市および十和田キャンパスの印象はいかがですか。
札幌から引っ越してまだ1ヵ月を経過しておらず十和田の四季を経験できていませんが、7月でも札幌のように涼しくて過ごしやすいと感じています。十和田キャンパスにはたくさんの動物がいますので、動物好きの私にとって非常に快適な空間です。
― 十和田キャンパスの学生の印象はいかがですか。
まだ研究室に所属している学生としか接点がありませんが、素直な学生が多いと感じています。
― ご自身の研究を開始するきっかけは?
生命現象の不思議、特に生命の誕生に興味を持っていました。卵子と精子という非常に小さな細胞2個から生命が生まれ、それが発育する様子を顕微鏡下で観察することは驚きに満ち溢れています。さらに獣医師や家畜人工授精師になれば受精卵(胚)を移植して子供を得ることもできます。実際に私が体外受精した胚が子供となり、牛乳を生産して農家の方々に喜んでいただけることはとても嬉しいことです。この技術を野生動物などいろいろな分野に応用し、様々な方々に喜んでいただけるよう頑張りたいと思っています。
― 先生が本学に着任するまで、どこで、どの様な研究をされていましたか?今、進められている研究の内容について教えてください。
今までは北海道大学獣医学部で牛の体外受精に関する研究を行ってきました。最近は、非常に小さな卵子を体外で発育させて子供になる能力を獲得できるような培養方法を開発しています。また、これらの技術を家畜だけでなく、ヒトの不妊治療や野生動物の生息域外での繁殖に応用するための研究を行っています。野生動物・動物園動物については主にネコ科、クマ科動物の人工授精技術を確立するための研究を様々な動物園と協力して行っています。
― その研究は、どのように私たちの生活に関わってきますか?
私が主に接している牛では、ほぼ100%の子牛が人工授精によって生まれています。また、最近では受精卵移植による子牛生産も広く行われるようになっており、世界的に見てもヒトより人工繁殖技術が普及している動物です。私の研究は、より効率的に優秀な牛(例えば牛乳生産能力が高い、あるいは肉質が良い)を生産することに寄与していますので、皆さんの食卓に上がる牛乳やお肉を高品質で安価に届けることを可能にすると思います。また、動物園においては、多くの動物種で自然交配による繁殖が難しいと言われています。自然交配が成功している動物園であっても、血統の維持や血縁関係の近い動物同士による繁殖を避ける必要があります。そのためには動物を遠くの動物園に移動させる必要がありますが、これは動物にとって非常に大きなストレスであり、命の危険を伴うこともあります。私の研究は自然交配の難しい動物についても繁殖を可能とするとともに、動物を移動させることなく日本国内、さらには世界中の動物園間での野生動物種の繁殖と系統維持に寄与できると考えています。
― 学生とどのように研究を進めていきたいと考えていますか。
楽しく研究するというのが私のモットーです。もちろん壁にぶつかることもありますが、それを乗り越えたときの喜び・楽しさは何とも言えないものです。北里大学に入学された学生さん達には、いまだに世の中は分からないことだらけで、それらを解明する研究の楽しさを知ってもらいたいと思っています。また、私自身も楽しみながら、その手助けができるように頑張りたいと思っています。
― これまで経験されてきたことから、これから本学を目指す高校生へメッセージをお願いします。
大学でも高校と同じように教科書から学ぶことがたくさんあります。ただ、教科書がすべてではないということを学べるのも大学と思います。北里大学には生きた教材(いろいろな動物たち)がたくさんいます。この動物たちと直接触れ合うことで今まで想像すらしなかった疑問がわいてくると思います。その時に自分の持っている教科書を開いてください。一部は既に教科書に書かれているかもしれません。でも、書かれていないことの方がもっと多いことに気づくと思います。本学に入学することで皆さんの本当の学びが始まることを期待していますし、そのために協力させていただきたいと考えています。
― ありがとうございました。