獣医学科

フィリピンに渡航し狂犬病発症犬のサンプリングを行いました。

清水 大智さん
獣医学科5年
獣医病理学研究室
出身校:埼玉県立川口北高校(埼玉県)

志和 希さん
博士課程1年
獣医病理学研究室
出身校:滋賀県膳所高校(滋賀県)

フィリピンは大小7,000を超える島々から構成される熱帯地域に位置した国で、日本から約3,000km、飛行機で約5時間の距離にあります。時差は1時間でした。マニラの空港に降り立つと多くの車が行き交い、建設中の建物が多く目につきました。少し離れるとスラム街のような場所もあり、発展途上国の雰囲気を肌身で感じました。空港ではRITMのダリア先生とその息子さんたちが出迎えてくれました。RITMは車で南40分ほどのアラバン市にありました。

パラワン島での夕食の風景です。

RITMは感染症患者の診断治療および感染症や熱帯病の研究を主な目的とする国立保健機関で、この施設の人体病理解剖棟で狂犬病発病犬の頭部組織のサンプリングを行わせて頂きました。サンプリングの際には感染防止のために、ガウン、レザーエプロン、帽子、マスク、2重の手袋を着けて作業を行いました。物々しい格好と日本では接することのない狂犬病発病犬の組織を扱うということに自然と緊張感を覚えました。また、この施設では狂犬病に限らずHIVや結核、マラリア、デング熱などの患者もいて、サンプリングをしている横で人の遺体が運ばれていく光景があり、衝撃を受けました。サンプルの狂犬病発病犬はフィリピン各地から集められたもので、今回は約90検体の採材を行うことができました。検体を集めてくださったダリア先生と職員の方々に感謝します。検体の中には珍しく猫が1例混ざっており、貴重なサンプルを得ることができました。サンプルの中には腐敗がかなり進行しているものも多数ありましたが、何とかサンプリングを終えることができました。

狂犬病はヒトを含む全ての哺乳類に感染する重篤な神経症状を呈する人獣共通感染症で、いったん発症するとほぼ100%死に至ります。世界中で毎年約55,000人以上が狂犬病で亡くなっており、フィリピンでは毎年約300人が亡くなっています。狂犬病は主に狂犬病発症動物による咬傷で伝播し、患者の大部分は狂犬病を発症した犬による咬傷が原因となっています。フィリピンでは放浪犬や野良犬がとても多く、今回の渡航中も至る所で目にしました。そういった犬が気がつかないうちに足元にいて、驚いたこともありました。

海沿いの砂浜に放浪犬がたくさんいました。

サンプリングの合間に、狂犬病発病犬の脳のスタンプ標本の作製とそれに対する蛍光抗体法の手技を見学させていただきました。狂犬病発病犬の頭部はまだホルマリン固定をされる前の生材料で、それを狭い部屋で取り扱っており、この環境に立ち入って本当に大丈夫なのだろうかと心配になりました。渡航前に狂犬病ワクチンを接種して行きましたが、いざ目の前に危険性のあるものが存在すると恐怖感を覚えました。稀な例ではありますが、ヒトにおいてウイルスのエアロゾルの吸引による粘膜を介した感染が報告されており、そのことも心配になる要因でした。また、朴先生が洞毛の生採材を用いて狂犬病の診断法についてデモンストレーションを行ってくれましたので、RITMの職員の方々と見学させていただきました。

RITMの職員の方々にはサンプリングを手伝っていただき、作業以外でも大変良くしていただきました。休憩のたびに食べ物や飲み物を持ってきてくれて、食事となると食べきれない量の料理を並べてくれました。フィリピン滞在の数日間は地方ラボの実地調査のためパラワン島にも行きました。地方ラボの獣医師の先生がパラワン島の狂犬病事情やその他の感染症の状況についても説明してくれました。パラワン島の北に向かう道路はガタガタのところが多く、掘っ立て小屋がちらほらとあり、道路沿いや一歩入ったところには犬、鶏、豚、山羊、水牛などが歩いていました。道路上には放浪犬や野良犬が多かったです。パラワン島は自然豊かな綺麗な場所でしたが、車での長時間移動は結構ハードでした。でも、滞在中にフィリピンの文化に触れることは楽しいものでした。その中で、衝撃的だったのはパラワン島の夜市のような場所で食べたバロットという食べ物でした。バロットというのはアヒルの有精卵のゆで卵で、中には発育途中の雛がいて、殻を少し割って開き食べます。見た目は衝撃的ですが、食べてみると意外とおいしかったです。ゆで卵の黄身とナンコツのようなコリコリしたものを一緒に食べているような感じでした。他に印象的だったことは、プエルトプリンセサ地底河川国立公園を訪れたことです。そこはプエルトプリンセサから北に50kmほどにあり、ユネスコの自然遺産に登録されている国立公園で、鍾乳洞の中を流れる地下川をボートで見学しました。内部は光が一切無く、懐中電灯でよく見ると無数のコウモリたちが壁にぶら下がっているのが確認できました。ここには独自の生態系が築かれており自然の雄大さを感じました。

バロットに挑戦中の志和さんです。

今回の渡航を通して、どの点に関しても大変貴重な経験をすることができました。フィリピンでの一日一日が新鮮で刺激的なものであり、今回の経験が今後の自分の財産になることを確信しています。最後になりましたが、同行させていただきました朴先生には心より感謝しています。また、日本から行動を共にし、作業を手伝っていただきました国立感染症研究所の井上先生にも感謝致します。そしてなにより、ダリア先生をはじめとしてRITMの職員の方々、今回の活動に関わった全ての方々に深くお礼申し上げます。ありがとうございました。

帰国前日にRITMの病理学研究室の皆様と写真を撮りました。

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